英国紅茶では、インド茶、セイロン茶、中国茶の三つを紅茶の代表的な銘柄としています。
当然ながらこれ以外にも、アフリカや他の東南アジアの国々などを産地とする美味しい紅茶もありますが、今回はインド茶とセイロン茶、そして中国茶の主な銘柄を紹介していきます。
紅茶の起源
紅茶はもともと中国で栽培されていたチャノキから収穫していましたが、1823年にインドのアッサム地方で、英国人によりチャノキの変種のアッサムチャが発見されて以降、インドやセイロン(現スリランカ)などでは後者の栽培が盛んになりました。ちなみに、ダージリン茶は中国から基本変種であるチャノキをインドに持ち込んで栽培したものだそうです。
一般に標高が高く、冷涼で一日の寒暖差の激しい環境で栽培されるものは、香気に優れたものが多く収穫され、日射の強い低地で栽培されたものは、味に優れ、色味(水色)の濃いものが多く採れるとされます。ダージリン茶、ウバ茶、キーマン茶などは前者に、アッサム茶は後者に分類されます。また、一般的に前者のものが高級品とされています。
さて、今回はインド三大産地の紅茶、ダージリン茶、アッサム茶、ニルギリ茶とセイロンのウバ茶や中国のキーマン茶などについて簡単な解説を試みます。また産地による銘柄とは異なる、「香料づけ」という飲み方としての特徴をもつアールグレイ茶にも触るとともに、誤解を生みやすい等級の説明も併せて致します。
ダージリン茶
ダージリン茶(Darjeeling tea)は、インド北東部の西ベンガル州のダージリン地方で産出されます。ヒマラヤの冷涼な高地で生産され、直射日光に霧、そして昼夜の寒暖の差が激しい環境が素晴らしい香りを生み、それは「マスカットの香り」といわれています。また4月から5月にかけて摘まれるダージリン茶は「ファーストフラッシュ(First Flush):日本風にいうと一番茶」といわれ、6月から7月に摘まれるのは「セカンドフラッシュ(Second Flush):二番茶」といわれ、特に後者は貴重品として珍重されています。
上質なダージリン茶は、明るく淡い燈色をしていて、フルーティーな香りが豊かで渋みもあり、しっかりした味わいとなっています。しかし、他の銘柄茶でもいえることですが、出荷元の茶園や収穫した時期によって味や香味は異なることを理解しておきましょう。
若葉を摘んだ「一番茶」を淹れると色合いが薄く、ミルクティには合いません。ストレートで高級な香りを楽しむ方が良いでしょう。どうしてもダージリン茶でミルクティを楽しみたい場合は、濃厚な味になる「オータムナル(Autumnal):秋摘み茶」の茶葉で淹れたものにミルクを少しだけ加えるようにしてみてください。
また、意外と思われるかも知れませんが、ダージリン茶の「ファーストフラッシュ」は(餡子などを使用した)和菓子との相性がイイようです。
紅茶は一般には茶葉を完全に酸化発酵させたものですが、ダージリン茶の中の「ファーストフラッシュ」には発酵度を抑えて製茶されているものがあり、このため紅茶といってもその味は日本の緑茶に近いものになり、和菓子がとてもよくマッチするのでしょう。
ダージリン茶は「紅茶のシャンパン」とも呼ばれ、セイロンのウバ茶、中国のキーマン茶と並び世界の三大紅茶と称されています。
アッサム茶
インド北東部のアッサム地方で栽培されていて、すべての紅茶の中で最も収穫量が多いのがアッサム茶(Assam tea)です。4~6月に摘まれる「セカンドフラッシュ」が最高とされていて、またタンニンが大量に含まれており、整腸作用があります。そのため、うがい用にも適しています。
味わいは、力強くパンチが効いていてコクがあるタイプで、上質なものは独特な甘みのある香りがあり、水色は濃紅です。
紅茶の中でも味が濃くてミルクと混ぜてもしっかりと紅茶の味が残るので、ミルクと紅茶のバランスが取り易いとされています。そのためミルクティとして飲むモーニングティなどに最適です。
尚、この茶樹がセイロン島(現スリランカ)に移植され、今日のセイロン茶となりました。
ニルギリ茶
ニルギリ茶(Nilgiri tea)とは、南インドにある西ガーツ山脈の南部ニルギリ地方で生産される紅茶のことです。
その風味は、コクがあってバランスが良く、セイロン茶のように優雅な香りを持ちながら柔らかく癖がないので、ブレンド茶のベースとしては最適ですが、逆に、ニルギリ茶単独の銘柄茶として販売されることは極めて少ないのが現状です。
年中収穫されていますが、 12月から1月の冬季に摘まれたものに良品が多いようです。
尚、現地でニルギリは”青い山”という意味を持つため、「紅茶のブルーマウンテン」とも呼ばれています。
セイロン茶
セイロン(現スリランカ)で産出される紅茶を、セイロン茶(Ceylon tea)といいます。ほのかな柑橘系の香りが特徴で、全般的にセイロン茶は紅味が澄んでいます。
高地で産出されるヌワラ・エリア茶(Nuwara Elliya tea)はセイロンの「シャンペン」といわれ、中央高原の西側で栽培されているディンブラ茶(Dimbula tea)は大変フルーティです。その東側で産出するウバ茶(Uva tea)は世界三大銘茶の一つで、バラやスズランに似た香りがあり、また渋みが特徴で、8月から9月に摘まれる「オータムナル」が最も高級とされています。
セイロン(現スリランカ)では、その紅茶の採れる茶園と製茶工場の所在地の標高により、ハイ・グロウン・ティー(High Grown Tea:高産地茶)、ミディアム・グロウン・ティー(Medium Grown Tea:中産地茶)、ロー・グロウン・ティー(Low Grown Tea:低産地茶)の3種に区分されています。ヌワラ・エリア茶、ディンブラ茶、ウバ茶はいずれも高産地茶で、チャイ用に多く飲まれるルフナ茶(Ruhuna Tea)などは低産地茶です。
中国茶
中国の紅茶は、主に中南部や台湾で生産されます。
中国茶の中で、完全な発酵茶の代表はキーマン茶(祁門)であり、世界三大銘茶のひとつです。発酵度が強く、キーマン香と呼ばれる甘い香りが特徴です。
上海の西部、安徽省がキーマン茶の中国最大の産地。千メートルもの高地で栽培されるキーマン茶は、蘭の花の香りがして色合いも大変美しいものです。
また南部の福建省で産出されるラプサン・スーチョン茶(正山小種)も人気の紅茶で、発酵茶をさらに燻製したものです。独特の松の香りがあり、後味がさっぱりしていて油っぽい食事の後には最適で、プレーンティで飮むと良いでしょう。
アールグレイ茶
アールグレイとは「ベルガモット」の香料を使った紅茶です。ベルガモットの香り付けが為されている紅茶は産地を問わず全てアールグレイとされます。また、ベルガモットは、主に地中海で栽培される香りの高い柑橘系の果実のことです。
アールグレイの名前の由来は、1830年代の英国首相で、第二代目のグレイ伯爵 チャールズ・グレイに由来しています。彼は、自身がとても気に入った中国から輸入された紅茶と、同じ味の紅茶がほしいと懇意にしている茶商に依頼をしましたが、結局、同等のものが入手出来ずに、その茶商はベルガモットで香り付けした代替品の紅茶を作って納品しました。それがアールグレイの起源だそうです。
アールグレイは、柑橘系のすっきりした味と香りのため、ストレートで、ホットティーかアイスティーにして飲むのがおすすめです。
また、このように香料やその他の方法で茶葉に着香したり、ハーブやドライフルーツなどを混合したものは、「フレーバーティー(flavored tea):着香茶」といいます。代表的なものにカモミールやローズヒップなどがあります。
ブレンド茶
ブレンド茶とは、単一の茶葉からは得られない香りや味を楽しむために、複数の茶葉を合わせて調製したものです。
ブレンド方法には大きく二つあり、異なる産地の茶葉を合わせる場合と、同じ産地のもので異なる茶園や別の期日に収穫した茶葉を合わせる場合です。
英国紅茶の代表的なブレンド茶の銘柄は、先ずは「ブレックファスト」でしょう。名前の通り、朝起きた直後、あるいは朝食時に飲むためのブレンド茶です。かなり色合いが濃く、比較的強い渋味を持ちます。「イングリッシュ」と「アイリッシュ」の二種類があり、特に後者は渋味が強い傾向があります。また「ブレックファスト」は余程の事がない限りは、ミルクティーにして飲むのが一般的です。
ブレンド茶には「アフタヌーン」と銘打ったものもあります。午後のひと時にゆったりと味わって飲むためのブレンド茶で、「ブレックファスト」と比較すると渋みは少なめで、香り高いものが多いようですが、ブレンド方法は製造元の紅茶会社により色々のようです。
トワイニングの「クィーン・マリー」「プリンス・オブ・ウェールズ」、フォートナム・メイソンの「ロイヤル・ブレンド」、リッジウェイの「HMB(Her Majesty’s Blend:女王陛下の銘柄)」などが有名です。
等級について
等級(leaf grading:リーフグレード)とは、茶葉を仕上げの形状や大きさで分類したものです。そのため、味や香りや品質などを評価するものではありません。
茶葉の形や大きさに差があると、抽出時間がばらついて味に影響が出るため、茶葉の形状を揃えているのです。国際的な標準規格ではないため、同じ等級でも産地によって形状に違いがあります。
・オレンジペコ (Orange Pekoe, OP)・・・茶葉の形状としては一番大きい茶葉を指します。「オレンジペコ」と名が付いた紅茶が販売されていますが、オレンジペコ という茶葉の紅茶がある訳ではありません。それらは大概、オレンジペコ等級の複数の茶葉をブレンドしたものです。
・フラワリー・オレンジペコ(Flowery Orange Pekoe. FOP)・・・OP等級並の大きさの茶葉で芯芽や若葉が多く含まれるものです。
・フラワリー・ブロークン・オレンジペコ(Flowery Broken Orange Pekoe, FBOP)・・・FOPがひとまわり小さくなった茶葉を指します。
・ブロークン・オレンジペコ(Broken Orange Pekoe, BOP)・・・オレンジペコと同じ茶葉を細かく砕いたものを指します。
・ブロークン・オレンジペコ・ファニングス(Broken Orange Pekoe Fannings, BOPF)・・・BOPより更に細い茶葉です。を指します。
・ペコ(Pekoe, P)・・・BOPよりやや大きく、OPより小さい茶葉を指します。
・ダスト(Dust, D)・・・一番細かく粉状になった茶葉のことです。ダストだからといって必ずしも低級品ということではなく、上質なものから低質なものまで様々です。上質なダストは英国の一流紅茶会社が買い上げて、主としてティーバッグに使われます。
・ファニングス(F)・・・BOPFをふるいにかけたもので、Dより大きいものです。
・スーチョン(S)・・・PSよりも丸みがあり、大きくて葉は堅いものとなります。
収穫期について
・アーリーファーストフラッシュ(Early First Flush):早摘み茶。一番茶の内、特に早い時期に摘んだもので、「初もの」として競って販売されます。
・ファーストフラッシュ(First Flush):一番茶・春摘み茶。初夏以降が主な収穫期である産地での新茶。香りが強く、発酵が浅いために比較的水色も明るく、中には緑色を帯びるものもあります。
・インビトウィーン(in-between):中間摘みといわれる紅茶で、通常はあまり流通しないものです。
・セカンドフラッシュ(Second Flush):二番茶・夏摘み茶。味、香気ともにバランスが良く、色味(水色)に優れた品質の高い紅茶が収穫される時期です。
・オータムナル(Autumnal):秋茶・秋摘み茶。一般的に品質はセカンドフラッシュに比べて大きく劣りますがが、ウバ茶のようにこの時期に採れたものが高級品とされる銘柄もあります。
-終-
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