「空母」を考える(4) 正規空母とは? 〈3JKI07〉

空母1521579本格的新鋭「空母」といえば、米国海軍の『ジェラルド R.フォード』級だ。またその前クラスが有名な『ニミッツ』級航空母艦で現在の米国海軍の主力空母ということになる。いずれも世界を代表する正規(原子力)空母」である。

 

 

【米国海軍の「正規空母」】

『ジェラルド・R・フォード』級航空母艦(Gerald R. Ford class aircraft carrier)は、米国海軍の最新の「原子力空母」のクラス名称。

本級は、『ニミッツ』級(ネームシップのCVN-68『ニミッツ』以下合計10隻)以来ほぼ半世紀振りに計画された新型「原子力空母」だ。船体はニミッツ級(満載排水量92,955t、全長332.9m、全幅40.8m、速力30ノット、乗員5,820名(航空要員2,480名含む)搭載機67機)とほぼ同じサイズだが、舷側エレベーターを1基減らして3基とした他、カタパルトを電磁式とするなど艦内の動力を全て電動とした。ステルス技術を導入した船体のデザインや素材の使用、また新型のアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー(位相配列レーダー)をアイランドに装備しており、艦載対レーザ防御システム、ラスタースキャン方式などの最新技術が多数採用されている。搭載原子炉A1Bは『ニミッツ』級のA4Wの3倍の発電量(推進用出力は同等)となり増大する電力消費量を充分賄うことが可能だ。主力搭載機としてはステルス戦闘機『F-35』を予定。

 

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↑2013年11月9日にニューポート・ニューズ造船所で進水した『ジェラルド・R・フォード』

米国海軍は『ジェラルド・R・フォード』級の大きな特色を、各種省力化や操作性の向上による関連人員の低減などにより、乗員や空母運用コストの削減が大幅に図れることとしている。尚、2番艦は『ジョン・F・ケネディ』、3番艦は『エンタープライズ』となっている。

『ジェラルド・R・フォード』級の性能諸元

満載排水量:101,600 t

全長:333 m

全幅:41 m

速力:30ノット+

乗員:4,560名 – (航空要員2,480名含む)

搭載機:75機

米国海軍は、2012年に先代の世界初の「原子力空母」である『エンタープライズ』を退役させたが、現役の『ニミッツ』級10隻に加えて『ジェラルド・R・フォード』級3隻を艤装・訓練もしくは建造中であり、この強力な陣容で世界の海上航空戦力を支配し、かつ紛争地への強大な緊急打撃力を保持している。既に述べたように「空母」の運用・維持には破格のコストが掛かる為、その保有・戦力化は極めて難しいのだが、軍事費削減が進む中での米国の圧倒的な「空母」群の存在が改めて認識されよう。

 

【「空母」の現状】

主要国においては、2000年代後半以降、一時期多数を占めた「多目的軽空母」とは別に、4万~6万t級の固定翼(CTOL)機の運用も可能な「中型正規空母」の計画・建造が積極的に進められている。また旧来のハリアー型「軽空母」は、ハリアー自体の運用中止とともに実質的に「ヘリ空母」として運用されている例が多い。しかし逆に、垂直・短距離離着陸(STOVL)機の運用が可能な、「空母」以外に分類されている艦艇も増加している。

それでは米国以外の各国の状況を簡単に紹介しよう。

 

英国

かつて大海軍国であった英国でも、軍事予算の削減により「正規空母」についてはWWⅡ以後に就役した4万tクラスの『イーグル』や『アークロイヤル』等を最後に後継艦の建造を中止し、1970年代にはその全てが退役している。

「軽空母」には『セントー』級などがあったが、その最終4番艦の『ハーミーズ』は1959年11月18日に就役した。1971年にはジェット艦載機の運用が困難であったことから強襲揚陸艦として改装され、1981年には再び12°のスキージャンプ台型甲板の設置などの改造が行われ、『 シーハリアー』を運用するSTOBAR型「軽空母」となった。フォークランド紛争ではイギリス艦隊の旗艦として、直前に就役したばかりの『インヴィンシブル』らと共にアルゼンチン軍を相手に活躍したが、1986年にはインドへ売却された。

1980年にはSTOVL機『シー・ハリアー』の運用を可能とした上述の『インヴィンシブル』級ネームシップの『インヴィンシブル』が就役し、同級は合計3隻を数えた。

その後、2007年には『インヴィンシブル』級の代艦計画として、当初は3隻の『インヴィンシブル』級を2隻の『クイーン・エリザベス』級(満載排水量67,669t、全長284m、全幅39m、速力26ノット、乗員1,572名(航空要員610名含む)搭載機48機)で代替する予定が、搭載機の選定(F-35BもしくはC)問題、運用方針の変更、そして予算不足などで二転三転し、一旦は『クイーン・エリザベス』は「ヘリ空母」に、また2番艦『プリンス・オブ・ウェールズ』は調達中止となったが、結局2012年の段階では両艦とも建造し、2020年頃以降には2隻ともに垂直・短距離離着陸(STOVL)機の運用能力を備える予定である。しかし、1番艦の建造も遅延しており、就役は2017年になる見込み。

 

フランス

1961年以降『クレマンソー』級2隻を建造したが、同級退役の後は『シャルル・ド・ゴール』1隻のみを保持している。尚、フランス海軍は2隻目の「空母」の建造を計画しており、一旦は英国の『クイーン・エリザベス』級の共同開発を申し入れたが現在は白紙撤回となっている。また、『ミストラル』級強襲揚陸艦の追加建造も決定している。

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↑米国海軍『エイブラハム・リンカーン』と手前『シャルル・ド・ゴール』

『シャルル・ド・ゴール』 (Porte-avions Charles de Gaulle, R 91) は、フランス海軍初の原子力艦艇。満載排水量40,600t、全長261.5m、全幅64.36m、速力27ノット以上、乗員1,950名(航空要員550名含む)、搭載機約40機である。

米国海軍以外の唯一の「原子力空母」であり、且つまた欧州の海軍では唯一の「正規空母」と言えよう。デザインはステルス性を考慮したとされ、また蒸気カタパルトを備えアングルド・デッキを持つ。

 

インド

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↑『ヴィラート』

現在は、英国から購入した『ハーミーズ』をSTOBAR型「空母」の『ヴィラート』(艦名はサンスクリット語で「巨人」を意味する)として運用している。インドは3隻以上の「空母」の保有を目指しており、旧ソ連のキエフ級4番艦を購入・改装して『ヴィクラマーディティヤ』として就役させる予定だ。また国産の『ヴィクラント』(4万tクラス、2018年配備を目標)を建造中であり、更に1隻の建造を計画している模様。

 

中国

『遼寧』に関しては既述の通りだが、本格的な「空母」中心の艦隊編成を決定しており、国産「空母」の1番艦の建造は既に開始されたらしい。2020年頃までには「在来型空母」2隻と、「原子力空母」2隻の合わせて4隻を建造・整備する構想のようだ。しかし、当面は技術的な問題でカタパルトの実用化が困難な為、スキージャンプ台タイプの甲板仕様となる見込みだ。

但し、今後の経済成長の鈍化により、この建艦計画が予定通りに進行するかは未知数である。

《追加情報》 中国海軍は2016年現在、001A型空母を2隻建造中である。

 

ロシア

現在はSTOBAR型『アドミラル・クズネツォフ』1隻を維持・運用している。ソ連崩壊後は主だった活動が認められなかったが、2007年以降活発に外洋巡航を始めた。近代化改装も予定されているようだ。

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↑強襲揚陸艦『ウラジオストク』

2008年、メドヴェージェフ大統領(当時)は2015年までに2隻以上の「原子力空母」建造に着手すると表明。更にロシア海軍は今後5~6隻以上の「空母」を運用・展開させる計画も発表している。また、フランスより『ミストラル』級強襲揚陸艦を2隻以上調達(1番艦『ウラジオストク』は2013年10月に進水)することも決まっている。

 

【「空母」の種類】

「空母」の分類方法は、規模や目的別に「正規空母」と「軽空母」にその他の「ヘリ空母」「強襲揚陸艦」などの艦種を加える方法と、搭載機の種類や発着方式で分類するやり方の二種類がある。

空母3800px-Principe-de-Asturias_Wasp_Forrestal_Invincible_1991_DN-ST-92-01129s手前から、小型の船体でSTOVL機を運用するスペインの軽空母『R11 プリンシペ・デ・アストゥリアス』(Portaaviones Príncipe de Asturias,R11) 、ヘリコプターと垂直離着陸機を運用する米国の『ワスプ』級強襲揚陸艦(Wasp-class amphibious assault ship)、CTOL機(固定翼機)の運用を重視の米国正規空母『CV-59 フォレスタル 』(USS Forrestal, CVA/CV-59, AVT-9)、一番奥はスキージャンプ台を持つSTOVL機を運用可能な英国のハリヤー型軽空母『インヴィンシブル』級航空母艦(Invincible-class aircraft carrier)が併走する写真。

 

「正規空母」とは

複数の解釈がありかなり曖昧だが、現代(2000年以降)の定義では垂直・短距離離着陸(STOVL)機及び特に固定翼(CTOL)機の運用を目的として建造された攻撃型「空母」のことだ。

また、その規模にかかわらず最初から「空母」として設計・建造された艦船を「空母」とする説が解り易い。当然ながら商戦等の改造は含まない。但し、WWⅡ以前の戦艦や巡洋戦艦などから改装されたタイプ(帝国海軍『赤城』など)は「正規空母」とされよう。

 

「軽空母」とは

一般に「正規空母」より相対的に小型とされる「空母」であるが、速力や凌波性、燃料積載量などで長期間・遠距離の艦隊作戦行動が可能とされるタイプ。現代(2000年以降)では、垂直・短距離離着陸(STOVL)機の運用を中心として固定翼(CTOL)機の運用能力を持たないものが大半である。但し、各国海軍においても「正規空母」と「軽空母」を公式に区別してきた国はアメリカ・ブラジル・カナダの3国のみであり、それ以外の国では「空母」としての分類しか存在しない。

 

「強襲揚陸艦とは」

既に“「空母」を考える(3)”で述べた通りである。

 

この10年間は「空母」の建艦競争が熾烈のようだ。かつての「戦艦」に代わって「空母」が海洋の覇者だからか?

それとも国力の象徴のような兵器が「空母」だからか?

先進国ばかりでなく新興国も総力をあげて「空母」造りに励んでいるみたいだ!!   チョット、いや随分とムダ使いな感じもするが・・・。

-終-

他の連載記事は こちらから ⇒ “「空母」を考える ”シリーズ

 

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