しかしその後、前述のバーリッツと共著者のウィリアム・ムーアが、エルドリッジの戦闘航海日誌の中でフィラデルフィア計画の実験が実施された時期と同じ期間の記録が削除されていることを発見し、やはり海軍の謀略であるとする説が斯界の注目を集めました。
ところが、上記のジャック・ヴァレーが調査を続けた結果、実際にフィラデルフィア計画に参加したエドワード・ダンジョンという人物を突き止めます。ダンジョンは海軍で働いていた技術者で、彼によれば現実の実験は決して不可視（ステルス）化を目指したものではなく、艦体に付着した磁気を消磁する実験だったと云うのでした。そしてこれは、米海軍の正式な発表と一致していました。
つまり米海軍の公式見解としては、フィラデルフィア計画などは存在せず、またその実験などは一切実施されていない、とされているのです。そしてそもそも、当時既にレーダーの作動原理はよく理解されており、船体の磁気にレーダーが反応するなどとは考えられていなかったと云います。
米海軍歴史センター、並びに海軍調査研究所（ONR）によれば、実在の駆逐艦エルドリッジは、1943年8月27日にニューアークで就役して以来、1943年中には一度もフィラデルフィアに寄港していないとされています。この時期のエルドリッジの戦時航海日誌はマイクロフィルムに保存されており、誰でもそのコピーの閲覧が可能です。
また、ノーフォーク港で、瞬間移動（テレポート）して来たエルドリッジを目撃したとされる商船アンドリュー・フルセス号は、記録によると10月25日には既にノーフォーク港を出港しており、その後の1943年中は地中海で活動していました。更に、同船に乗り組んでいた米海軍予備士官ウィリアム・S・ドッジ少尉は、フルセス号の乗組員は誰もノーフォーク港では特に変わったものは見ていないと証言しているそうです。
米海軍の第5軍管区司令部では、ノーフォーク海軍工廠で行われていた様々な実験がこの都市伝説の元となったのではないかと考えています。エドワード・ダンジョンの話の通り、消磁に関する実験が誤解を招いたのではないか、という説が有力の様で、これが民間に大袈裟に伝わり、やがて一人歩きして都市伝説になったとしています。
他の推測としては、1950年代にギアリング級駆逐艦ティマーマン USS Timmerman（DD-816）で行われた、通常の400Hzの発電機ではなく、コイルを小型化できる高周波（1,000Hz）の発電機を搭載する実験が、この都市伝説の元となったというものもあります。この実験では高周波発電機から放電現象などが起こりましたが、特に乗組員に被害などはありませんでした。
ここまでの流れからは、フィラデルフィア計画やその実験は、カール・マイケル・アレンという人物の妄想による創り話である様に思えます。彼の創作が、ジェサップ博士をはじめとした多くの人々を通して世に広がり、やがて都市伝説として定着したと考えられるのです。
しかしフィラデルフィア計画やその実験結果については、その全てが米海軍や政府による隠蔽工作によって無きものとされた、とも考えられます。
ある説では、アレンによると1943年10月28日に行われたとされるフィラデルフィア実験は、実際には8月12日に行われていたというのです。
そしてその実験に関しては、この様な話も伝わっています。それは1943年6月10日、テスラ博士の後継者となったノイマン博士は、エルドリッジの3ヶ所に巨大な高電圧発電機を据え付け、乗組員を乗船させた上で不可視（ステルス）化する実験を行いました。
ところが、この発電機からは予想以上の凄まじい電磁波が発生して、精神異常を起こす者や自律神経が麻痺する乗組員が続出してしまいました。そこで実験の危険性を悟ったノイマンは、高電圧発電機の数を3ヶ所から2ヶ所に減らし、8月12日に再度実験を行ったというのです。しかし、それでも前述の様な大惨事が引き起こされてしまいました。また10月に行われたのは、前回の結果の再検証の為の陸上での無人実験ともされています。
その後、実験で使用されたエルドリッジは正規の就役前に極秘裏に解体され、さも何もなかったかのように替え玉のエルドリッジ（他のキャノン級護衛駆逐艦の一隻）が就役されました。
実験の顛末を知る乗組員や書類なども処分されます。こうすれば、後にフィラデルフィア計画や実験を調べる者が現れても、実験は全くの幻の噂話であったか、もしくはそれこそ都市伝説だったのでは、という結論に辿り着くだろうと考えたのでした。
当局の陰謀論は充分に実現可能であり、テスラ博士の死や研究資料などが接収された事やジェサップ博士の自殺も、陰謀論を補強する事実となるでしょう。
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