フライトジャケットの基本を解説する連載記事の第一弾。先ずはこのジャケットが生まれた背景に簡単に触れた後、初期の代表的なモデルであるA-2やB-3(いずれも米国陸軍)、そしてG-1(米国海軍)、MA-1(米国空軍)などを紹介する。
いよいよ冬本番、こんな時期には防寒機能に優れた装いが必要だ。となると真っ先に思いつくものの一つがフライトジャケット。
もともと軍用であるがレプリカや民生品も数多く販売されており、耐久性や防寒能力、また軍用品ならではの機能美などが評価されて一般でも幅広く愛用されている。
【フライトジャケットとは‥‥】
フライトジャケット(flight jacket)は航空機の搭乗員が着用する上衣(ジャケット)である。主として軍用品として開発されたものであり、当初は高々度飛行のための防寒性能が求められた。
軍用に耐える高性能・高機能を備え、詳細な要求仕様(Mill-Spec)に基づいて軍と契約した特定の被服製造会社により製作されている。
しかし、これらの正規軍用品の他に、それらを模して作られたミリタリーファッション製品が多く流通しており、性能的には実物には及ばないものの、これらの民生品を愛用している一般人は多い。
また、ワッペン(パッチ)やペイントなどを施されたものも多い。所属部隊や階級/コールサイン、戦闘結果などを表示(誇示?)するため、更には隊員の士気高揚や団結心の向上のためにも必要とされる。
その外見の、いわゆる「カッコよさ」故に、ジャケットだけでなくワッペンやペイントも含めた装飾全体に惹かれる愛好者が多数いる。
第二次世界大戦(WWⅡ)の後、復員した米軍の元航空兵達ちが愛着を込めて着用していたことや、映画やドラマの主人公が着ていたフライトジャケットに影響されて、一般にもファッションアイテムの一つとして広く普及していった。
参考:米軍が制式採用したフライトジャケットは、その性能(特に防寒性能)、機能、任務の目的毎に5つの「ゾーン」タイプに分類されている。尚、下記下線部に機外適応温度(摂氏)の目安を表記した。
①VERY LIGHT ZONE 30℃〜50℃(M421・J7758など)
②LIGHT ZONE 10℃〜30℃(L-2系・A-1・A-2など)
③INTERMEDIATE ZONE △10℃〜10℃(B-10・B-15系・MA-1・B-6など)
④HEAVY ZONE △30℃〜△10℃(B-3・B-9・N-3Bなど)
⑤VERY HEAVY ZONE △50℃〜△30℃(B-7・B-9・AL-1など)
【初期の代表的なタイプ】
Type A-2
A-1の後継モデルとして1931年に夏季用(ゾーンはライト)のフライトジャケットとして制式採用され1945年まで使用された。フライトジャケットのなかでも特に人気の高いモデルで、その後、1980年代に復活採用されている。素材は、馬革(ホースハイド)だが、復活後は山羊革(ゴートスキン)。
デザイン上の特徴は、シャツ風の襟、ジッパーフロント、フラップポケット、袖と裾のニットリブ、といったところだろうか。WWⅡ参戦後の需要急増で数多くの製造会社により生産された為、ディテールの異なるモデルも多数存在する。
皮製フライトジャケットの完成形とも言え、現在でも多くのファンから支持されている傑作だ!!
A-2と言えば、映画『大脱走』の中で「バージル・ヒルツ大尉」役のスティーブ・マックィーンが着ていた。チノパンに合わせる王道の着こなしだったが、まぁ、もともとチノパンも軍用品だしネ。それにしても、ヒルツ大尉が脱走の途中でバイクに乗りながら鉄条網をジャンプして飛び越えていくシーンはカッコ良かった!!
⇒ TOYS McCOY製のレプリカで、劇中で着用されたA-2を徹底検証して製作された『V.HILTS』&『V.HILTS COOLER KING』モデルがある。皮質から細部の状態まで忠実に再現されている。
Type B-3
1934年に制式採用され、とにかく温かさを優先させたフライトジャケット。WWⅡにおいて欧州/ドイツ深奥部への戦略爆撃を任務としていた米国陸軍航空隊の第8空軍などの爆撃機搭乗員達ちは、過酷な戦闘とともに高々度での極寒な状況と戦っていたが、Bから始まるタイプ名と爆撃機(Bomber)の搭乗員の多くがB-3を着用していたことから“ボマージャック”と呼ばれる様になったとも。
ちなみにB-3の機外適応温度はマイナス(△)30℃から△10℃までのヘビーゾーンであり、その寒さを防ぐために採用された素材は羊皮革で、表面の毛皮を内側に向けることで保温性のみならず心地よい着心地も実現したムートンジャケットである。その後進化したB-3が「N3-B」で、素材はレザーからナイロンになってる。
外観も豪華であり、内面をコーティングしたことで高い保温性が得られ、耐久性や防水性も有する名作モデルである。
B-3は戦争映画によく登場していて、WWⅡ欧州戦線における米軍B-17重爆撃機とその搭乗員たちの活躍を描く『メンフィス・ベル』などが有名。但し搭乗の将校たち(機長、副操縦士、航空士、爆撃手)4名はA-2を着用、残りの6名の下士官たち(航空機関士と各銃手)がB-3を着ている。尚、ページtopの写真は映画のモデルとなったベルの本当の搭乗員達ちである。
⇒ ミリタリーものと言えば有名な中田商店から、ベルの機長ロバート・K・モーガン着用の復刻モデル『MORGAN MEMPHIS BELLE』が出ている。オリジナルと同様にシープスキンを使用。
Type G-1
米国海軍のパイロット用のフライトジャケット。1986年公開の映画『トップガン』で、主演のトム・クルーズ演じる空母艦載機F-14「トムキャット」のパイロット、「ピート・“マーヴェリック”・ミッチェル大尉」が着用していたのがG-1で一躍注目を浴びた。
制式採用は1947年頃であり、以降80年代の終わりに至る迄、マイナーチェンジされながら継続使用された。A-2にボア襟を取り付けた様なフォルムで、脇部分のアクションプリーツなどが特徴。また当初採用のこのモデルの襟裏に付けられたストラップの形状は、その後の物と比べ直線的な形の物が付けられていた。
G-1の歴史は古く、1920年代に開発されたM422が御先祖様だ。ゴートスキンで作られムートン襟というスタイルも受け継がれてきた。その後、AN-J-3Aなどを経て55J14(G-1)となる。因みにAN品番のAとNは「ARMY」「NAVY」を意味し、両軍の共用品であるが、ライバルの両軍には相容れず50年代には廃止された。
⇒ ミリタリーブランドの雄、AVIREX社からマーヴェリック着用の『TOPGUN』モデルがリリースされている。実際のG-1よりやや細身に作られ、日本人にもフィットするサイズ。映画での主人公の着衣と同様のパッチが雰囲気満点だ!!
因みに「トップガン(TOP GUN)」とは、戦闘機パイロットのトップエリートを養成する為の合衆国海軍戦闘機戦術教育(United States Navy Strike Fighter Tactics Instructor:SFTI)プログラムを行うアグレッサー部隊(軍の演習・訓練において敵部隊をシュミレートする役割を持った専門の飛行隊)の通称である。
尚、“マーベリック”が着ているフライトジャケットは民生品のG-1タイプで、映画では実物の軍支給品ではなく父親の遺品という設定だが、縫い付けてあるワッペンなどが非現実的な組合せで実際の海軍エヴィエイター(海軍パイロット)たちの失笑を買った、というエピソードがある。
Type MA-1
WWⅡ以降、多くの軍用機の飛行高度がより高くなり、フライトジャケットに付着した水分が氷結して搭乗員の活動の妨げになることが分かってきた為、それまでの革製ではなくナイロン製のフライトジャケットの製造が検討された。そこで1950年代初頭にB-15シリーズの後継モデルとして米国空軍が開発したのが、このMA-1である。
特徴としては、ヘルメットのハードシェル化に対応して襟のムートンを省略し、軍用機内での活動がし易い様に凹凸の無い極めてシンプルなデザインとなっていることだ。また内側はインディアン・オレンジで、外側はセージ・グリーンというくすんだ緑色になっている。MA-1のゾーンはインターミディエイト、すなわち△10℃から10℃の機外適応温度地域で着用される。
このフライトジャケットは米国海軍や米国陸軍にも採用され、合衆国全軍の定番フライトジャケットとなった。更に改良が加えられながら派生モデルまで含めると80年代まで生産が続けられた。フードが付けられたN-2Bタイプや、更に丈が長いコートタイプのN-3Bなどがある。
非常に長きにわたり生産され続けたミリタリージャケットの歴史に名を残す大傑作で、通常のファッションアイテムとしても世界中で定番と化したモデル!!
さて、男の子ならば一着は欲しいフライトジャケット。君ならばどのモデルを選ぶかな?
-終-
【本稿は2013年11月27日初出の記事ですが、その後、何度か加筆・修正等が行われています。】
ミリタリーファッションに興味のある方は、是非、下記の記事もご覧ください!!
↓A-2、B-3、G-1、MA-1以外の主要フライトジャケットの解説
【超入門】 -続- フライトジャケットについて・・・はこちらから
↓主なフィールドジャケットやパーカに関する解説
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