ペロリンガ星人と歩いた多摩川の土手 〈1549/3TFU29〉

ウルトラと団地の風景をゆく第2弾。今回は、ウルトラセブン第45話「円盤が来た」のロケ地を巡ってみた。多摩川の流れは変わっていたが、ドラマの記憶が鮮やかに蘇る特別な場所だった。(写真はすべて2015年の撮影)

この話は、調布市から狛江市にかけての多摩川の魅力満載だ。夕方の多摩川に沈む夕日を見ると、この話の光景が今でも目に浮かぶ。造成中の多摩川住宅の姿も、当時の子供たちの遊び場として効果的な印象を与える。ストーリーは、小さな町工場で働く天体観測が大好きなフクシン君と、野球帽に半ズボン、昭和そのままの「ペロリンガ」少年との不思議な交流が多摩川の河原を舞台に展開される。

今回の旅には、小田急線狛江駅から小田急バス「多摩川住宅中央」行きで、「多摩川住宅南口」バス停で下車すると良いだろう。料金は220円。狛江駅から、10分ほどで到着する。バス停表示

はじめに登場する風景は、小田急バス多摩川住宅南を下車し、土手を登って、川面を右に見ながら狛江方面に歩いて、3分ほどで右に見えてくる「五本松」と呼ばれる松の茂った一角を通り過ぎたあたりだ。この「五本松」はドラマや映画でよくつかわれる有名なロケ地だ。

それでは実際の映像の時間軸で追っていこう。

夜、星を見る事が大好きな、町工場の工員のフクシン君。静かに星を見ようとしても、隣の自動車整備工場のオヤジ(渡辺文雄)に邪魔をされて、夜遅くなってからやっと見ることに。そのせいで、昼間は工場で作業中に居眠り。社長にも怒られてしまった。

川の上流方面から自転車でノロノロと走ってきて、草むらに倒れ込むフクシン君。dote2

小田急線と思われる電車の走行音がするが、実際は5本松のあたりでは電車の音はここまで大きく聞こえない。

金色の、アルマイト製の(懐かしい)弁当箱が転がり落ちる。

それを無言で拾う、少年。

4:08

少年:おじさん、弁当箱!

フクシン:ありがとう。

4:16

少年:なんか悩んでんね、おじさん。

ヘリコプターの音。実際、多摩川周辺は今でもよくヘリの音が聞こえる。

4:20

河原で遊ぶ人々。川に入っている人もいる。この頃は、こんなに川遊びをする人がいたということだ。河原から水辺が近いが、今は川の流れが変わってしまい、この光景とは異なる。現在の水門近くにイメージに近い姿がわずかに見られる。

4:22

多摩川住宅の給水塔をバックに土手を歩くフクシン君と少年。

土手から見た給水塔多摩川の土手から、今はこんなに大きく給水塔が見える位置はない。多摩川住宅の植栽や植林が大きく育ち、給水塔をここまで大きく土手からの望むことはできなくなってしまった。場所は、今のト号棟にある給水塔であろうと思われる。

自転車を押しながら歩く、二人の会話。ピアノのBGMが入る。

フクシン:近頃じゃネオンとかいろんな明るいものが多いだろ、夜遅くならないと星を見ることが出来ないんだよ。だから、お兄さん、会社じゃ眠くてヘマばかり…。

少年:お兄さんは星を見るの? 毎日?

フクシン:うん、毎夜ね。

少年:どうして?

フクシン:宇宙にね、お兄さんの名前の付いた星を持ちたいのさ。フクシン彗星。

少年:ふ~ん。

フクシン:それに、星は汚れてなくてきれいだろ、地球なんか人間もウジャウジャいるし、うるさくて。君も一度、星を見てごらん、素晴らしいぞ。

少年:まぁ、今夜いいことがあるよ、きっと。じゃあね、バイバイ。

川を背景に構図が変わる。dote

五本松河原に沈む夕日。川の中流れも、今は変わってしまい、水面に立つ杭も、今はない。

その夜、星を見たフクシン君。円盤を見つけて、ウルトラ警備隊に通報。しかし、他の天文台では確認されず、ウルトラホークでダンとソガがパトロールしても、見つからず。結局、蜃気楼とされてしまった。

9:31

団地の見える盛り土の山で大の字になるフクシン君。この光景は、セブン撮影当時の1968年、多摩川住宅周辺がまだ造成中であることを示している。コンクリート製の土管も象徴的。画面後方に建物が映り込む。これが撮影ポイントの手掛かりだ。

その棟が全面にきて、奥に給水塔が見えるポイントは限られてくる。土の山があったあたりは、現在は駐車場になっている。syouko

 

9:34

フクシン君の頭にボールが転がってくる。

フクシン:あいて!

野球少年A:おじさん、ゴメン

野球少年B:球、投げて

(投げる、フクシン)

野球少年A、B:「サンキュー」

画面右にこのあいだの少年が立っている。

9:55

フクシン:何だ、君か。

少年:何ぼんやりしてるの、おじさん?

少年、土の山をすべりおりてくる。

画面後方に建物が映り込む。建物の右後方に給水塔。sunayamahaikei

少年:夕べおじさん、何か見つけなかった?

フクシン:な、なんで?

少年:やだなぁ、ヘンな顔して。なにか星でも見つけたんじゃないかと思って、聞いただけさ。

フクシン:星じゃなくて、円盤見たんだけど。錯覚だって、ウルトラ警備隊から言ってきた。

少年:ウルトラ警備隊?(何故か嬉しそうだ。)

フクシン:ああ、僕が一番に知らせたんだ。昨日は何人ものアマチュアが見間違えたらしい。気象の状態で、地上の何かの光が蜃気楼となって、円盤に見えたらしいんだな。

少年:おじさん、今日こそ円盤が見られるよ。星が見つかるかなぁ。じゃあね。

フクシン:バーイ。

少年:東の空だよ、きっと。

立ちあがった少年の背後に大きく多摩川住宅が映る。

その夜、また天体望遠鏡で円盤を見たフクシン君。渡辺文雄も証人になったものの、またまた誤認。渡辺文雄も酔って怒ってしまった。

kouka2その次に登場する河原のシーンは、小田急線 和泉多摩川駅付近にある多摩川の土手。画面の背後に小田急線の鉄橋が見える。2008年まで小田原線開業時(1927年)の橋梁が長年使われていたが、和泉多摩川~向ヶ丘遊園間の改良工事にあわせ架け替えが行われた。現在は複々線の立派な橋になっている。

ウルトラセブン撮影時と橋桁の高さや形も違うが、場所的にはほぼ同じ位置にあった。写真右手が新宿方向である。

15:24

多摩川下流、二子玉川方面からフクシン自転車で登場、分岐する道のあたり。右手に古いトヨタのトラック。画面の奥にかっぽう着姿のおばさん。トラックとすれ違いざま、土盛りに乗り上げ、ヨロヨロと派手に河原の草むらに突っこむ。wakaremiti

15:36

カメラの構図が下流方向から、上流方向に変わる。

少年:ぼんやりするなよ。

フクシン君、草むらから出てきて、少年に汚れをはたいてもらう。

15:40

画面右から、小田急線。青と黄色の旧塗装。4両編成。

この辺りの風景は、当時と大きく変わってしまった。

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1974(昭和49)年9月、台風16号の接近に伴って増水した多摩川の水は、このあたりの堤を260メートルにわたって決壊させたのだった。この災害は「多摩川水害」と呼ばれている。決壊した多摩川の水が、家屋を飲み込む光景は、1977年放映のTBSテレビドラマ「岸辺のアルバム」のオープニング・タイトル・バックにその映像が使用されたので、記憶に残っている人も多いだろう。

地図で比較してみよう。グランド

左が昭和42年、右が昭和51年。青い丸でかこった部分、土地が増えている点がおわかりだろう。現在、その増えた土地の部分がグラウンドになっている。フクシン君と少年が、腰を下ろした草むらのある砂利敷きの河原は、このグラウンドあたりと推察する。

15:50

河原に腰をおろし、川に石を投げる二人を、後ろからカメラが写す。この場所の風景は全く変わってしまった。当時と似たような光景が、先ほどの五本松のあたりで見られる。石を投げる河原

フクシン:お兄ちゃんな、あんまり気が強い方でもないし、星を見ることだけが、楽しみだったんだよ。

少年:ふ~ん。

フクシン:どこでもヘマばかりやって、怒られてばかりだろ。それに人間なんて嫌いなんだ。

少年:慰めてくれる恋人はいないのかい?

フクシン:ませてるなぁ、ボクは!

16:14

少年:あっ、一番星!

ここで、メトロン星人の時と同じBGMが入り、一気に雰囲気を盛り上げる。

チャー、チャーチャラララ、ラーララ♪チャー、チャーチャラララ、ラーララ♪

フクシン君も続けて空を見上げる。小田急線が背後に走る。odakyuukouka

フクシン:いいだろ星はきれいで、星の世界に行ってしまいたいよ。

少年:ボクがお兄ちゃんの望みをかなえてあげるよ、きれいな星の世界に連れてってあげる。

フクシン:(にっこり)いいだろうなぁ、星の世界で暮らすのは。のんびりと誰にも煩わされず。

黙って顔を見る少年。

フクシン:けど夢さ。僕の頭はどうかしてるんだ。ありもしない円盤のことなんかで、夢中になってウルトラ警備隊に報告したりしたんだ。うちのガラクタ望遠鏡で見えるんなら警備隊や天文台じゃ、もっと早く見えるはずだもんな…。(首をかしげるフクシン君)

このあと、少年の家にやってきたフクシン君。座敷に入って行った少年は、ふすまを開けて円盤のモニターを見せて一旦奥に引っ込むと、サイケデリックな姿の「ペロリンガ星人」となって登場。

そのあとは、フクシン君がウルトラ警備隊に通報をするも、信じてもらえない。しかし、フクシン君の天体望遠鏡の写真を分析したところ、星にカモフラージュした円盤であることが判明。ウルトラホークが宇宙に向かった。

シャボン玉と花火のイメージ映像。

円盤の残像、ウルトラホーク1号。ペロリンガ星人が笑い声と共に飛んできて、セブンも登場。いつもの声より、こもった声。まるでニセウルトラセブンのようだ。

(BGM)セブン、セブン、セブン…。壊れたレコードのよう。

爆発音と火花の映像。きっと、セブンが勝ったのだろう。

ポインターで寮まで送られたフクシン君。急にちやほやする人々。逃げるフクシン君。さみしそうだ。

最後のシーンは、フクシン君が自転車でBGMの中を走るシーン。

ガラクタだらけのゴミ捨て場は、狛江市猪方周辺のようだが、現在では住宅地になってしまい、痕跡もない。始業のサイレンが鳴る。

実相寺監督作品。30分の番組枠に、よくここまでの展開を詰め込んだものだと思う。子供心には、怪獣もウルトラセブンの必殺技も登場しない「?」という内容であったが、大人になって何度見返してもノスタルジーとメルヘンが混じった不思議な気分になる作品だ。夕方の多摩川が作品に広がりを持たせている。河原、土手、天体望遠鏡、町工場、自転車、草野球・・。この作品の世界を構成するひとつひとつが、十分な「カタチ」となって胸に残る。今も、夕方の多摩川の土手に立てば、ペロリンガ少年が現れて、星に連れて行ってもらえそうだ・・・。

ラスト2

 

いいだろうなぁ、星の世界で暮らすのは。

 

 

 

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