《和菓子探訪》 日本三大銘菓 〈2085JKI27〉

『鶏卵素麺』 (松屋利右衛門HPより)

4. 『鶏卵素麺』
【由来・逸話】 松屋利右衛門の『鶏卵素麺(けいらんそうめん)』は、初代利右衛門が貿易商だった大賀宗九と共に長崎の出島を訪れた際に、中国人の点心師・鄭某から伝授された南蛮菓子に工夫を凝らして誕生したものと伝わっています。

長崎から福岡に戻った利右衛門は、寛文13年/延宝元年(1673年)に、この『鶏卵素麺』の本格的な製造・販売を開始しました。延宝年間(1673年から1681年まで)には福岡(筑前)藩3代藩主黒田右京大夫光之に『鶏卵素麺』を献上して以降、松屋は黒田藩の御用菓子舗として約340年の歴史を守り続けてきました。

『鶏卵素麺』は「玉子素麺」とも呼ばれます。ポルトガル語では「フィオス・デ・オヴォス(fios de ovos、卵の糸)」と呼ばれる菓子であり、彼の地ではそのまま食するだけでなく、ケーキ等のデコレーションとして用いる事も多いとされます。

日本へは安土桃山時代に、南蛮貿易の為に長崎の平戸に出入りしていたポルトガル人商人から伝来したとされています。一般的にも歴史の古い菓子とされ、底本が江戸時代初期の寛永20年(1643年)に刊行された『料理物語』(江戸時代の料理書)の菓子の部にも「玉子素麺」として製法が記載されています。

1957年に11代目の利右衛門が松屋菓子舗の商号で法人化し、同社が製造する『鶏卵素麺』は日本三大銘菓の一つに挙げられることもありましたが、同社は売上の減少により2012年11月に自己破産してしまいます。その後、2013年に鹿児島の和菓子メーカーである薩摩蒸気屋が松屋菓子舗の工場を買収して生産を再開(「元祖鶏卵素麺 松屋」)した一方、現在では13代目の利右衛門が「松屋利右衛門」の屋号で別途に生産・販売を開始しています。

【材料・製法】 原材料は卵黄と砂糖、そして求肥(竜皮)昆布だけのシンプルなもの。余計なものを加えず、素材の良さと優れた職人技によって作られる玉子菓子で、沸騰させた糖蜜を入れた鍋の中に、底に穴のあいた器具から卵黄を糸のように細く流し注ぎ入れて菜箸としゃもじを使って形を整えながら素麺状にして固め、それを取り出して余分な蜜が落ちた後に冷ましてから切り揃えます。文字通り無添加、無着色、無香料で、余分なモノは一切含みません。

形を美しく作るにはある程度の技術を要しますが、見た目を問わなければ家庭でも作れます。但し、結構費用がかかるので、作る楽しみが優先でない方は菓子店で求めた方が絶対に無難ではあります。ところでこのタイプの菓子は、海外では切り揃えずに巻いてまとめる場合が多い様ですね。そうです、個人的にはどうしてもモンブランを思い浮かべてしまいますが・・・、材料や製法はまったく違うものですネ。

【評価・実食】 製造元によると『鶏卵素麺』はお箸で食べてくださいとされています。そこで箸で掴んで口に入れると甘い卵が口中でハラリハラリと溶けていく不思議な食感が味わえます。とても甘い味ですが、この菓子も後味が意外にスッキリしています。たぶん素麺状に細く作られているので食べ易く感じるからでしょうか。また南蛮由来とは云え、一般的な洋菓子の様なグラニュー糖を感じさせる甘さではなく、ずっと上品な味わいです。更に、その色合いは鮮やかな玉子の黄金色の中に砂糖粒のかすかな輝きが見える様な気がします。そして意外かも知れませんが、ブラックコーヒーとのマリアージュ(相性・組合せ)が存外にイケる、との話もよく聞きますネ。

この『鶏卵素麺』の別製品には『たばね』と呼ばれる一口サイズの菓子があり、これは茶席に供する為に11代目の利右衛門が生み出したものだそうです。予め、食べ易い様に一口大に切り分けて求肥(竜皮)昆布で巻いてあり、そのお手軽感から広く茶菓子や贈呈品として用いられています。ちなみにこの『たばね』は昆布の塩気が少しあって、これが良いアクセントになっているとの感想が多いですね。

尚、保存方法に関しては、直射日光を避け冷暗所に保存してくださいとのことです。また現在、この菓子も、全国どこからでも通販等で購入可能となっています。

松屋利右衛門HP・・・はこちらから

元祖鶏卵素麺 松屋・・・はこちらから

 

何かと“三大~”が好きな日本人、その選択基準はそれぞれのお国自慢であったりすることが多い様ですが、この三大銘菓に関して言えば、江戸時代初期~中期にかけて作られ始めたルーツがしっかりしていること、いずれも当時の藩主御用達であること、そこに何がしかのエピソードが存在することなどが三大銘菓と言われる様になった所以であるようですね。皆さんも、是非取り寄せるなり、百貨店で購入するなりして食べてみてください。

-終-

【追記】 この《和菓子探訪》シリーズに関しては、筆者は自ら実食済みの菓子を取り上げることを原則としていますが、『山川』に関しては2017年1月1日現在、未だ食したことがありません。そこで、その評価と実食の感想については義理の姉からの情報であることを、ここにカミングアウトしておきます。

【追記-2】 個人的な見解としては、『鶏卵素麺』を外して三大落雁とか三大乾(干)菓子とすれば良いと思います。銘菓の中には生菓子もたくさんある訳で、落雁中心で三大銘菓とはちょっと的外れな感じが強いし、三大は誰が決めたのか? どういう基準で決めたのか? という疑問が残ります。また日本三大銘菓は、定期的にネット投票で“総選挙”を実施して決めるのが、イマドキの決め方というものでしょう(笑)。尚、『越乃雪』が厳密には落雁か? という話はまたの機会に・・・(【追記-4】へ)。

【追記-3】 落雁は、茶の湯の定番の點心・添え菓子で、仏事や慶事の引き出物としても使われてきた昔からの正統派の菓子ですが、茶道と切り離すと、今どきの菓子としては単独で“おやつ”には辛いでしょうね(汗)。

【追記-4】 落雁の製法には二通りあります。蒸して乾燥させた米粉を用い、これに水飴や砂糖を加えて練り型にいれた後、ホイロ(焙炉)で乾燥させたものと、加熱していない米粉を用いてこれに水飴を加え成型し、セイロ(蒸篭)で蒸し上げた後、ホイロで乾燥させたものの二種類です。通常は、前者を落雁と言い、後者は白雪糕(白雪羹)「はくせつこう」と呼ばれます。ちなみに『越乃雪』は落雁に近い製法乍ら厳密には白雪羹だということになります。

【追記-5】 『鶏卵素麺』は福岡市の銘菓ですが、同様の物が大阪市の鶴屋八幡や高岡福信、京都市の鶴屋鶴寿庵などの老舗店でも製造・販売されています。同じく南蛮菓子であるカステラやカスドースを更に甘くしたような味です。また、福岡市の和菓子である石村萬盛堂の『鶴乃子』は、もともとは『鶏卵素麺』を作る際に余る卵白を無駄なく利用しようとして発案されたそうです。ちなみに同店は、現在も『鶏卵素麺』を製造・販売しています。

【追記-6】 『鶏卵素麺』は、「クックパッド」にレシピがありますが、決して自作をお勧めはしません(笑)。

 

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