《火付盗賊改方 密偵》
・伊三次:三浦浩一(劇場版には未出演)
2歳の時に伊勢関宿で捨て子にされたが、そこの宿場女郎達に育てられた。当初、四ツ屋の島五郎という盗賊の下にいたが、平蔵に捕まりその人柄に心服して密偵となる。その後、熱心に平蔵の為に働くが、強矢の伊佐蔵の報復を受けて命を落とした(『五月闇』)。生前は役宅内の長屋でひとり暮らし。その遺体は木村忠吾が引き取り自分の菩提寺(原作の『さむらい松五郎』では威得寺、同じく『ふたり五郎蔵』では目黒の感得寺)に葬った。テレビ番組では死亡時(吉右衛門版第6シリーズ)に多くの抗議が来るほどの人気キャラクターであった為、数年後の放送(吉右衛門版第9シリーズ)から生前の姿(「これは伊左次が生きていた頃の話である」とナレーションが入った)としてレギュラー出演復帰を果たす。
・相模の彦十:江戸家猫八(第1シリーズ第2話〜第9シリーズ、2001年12月10日死去)→長門裕之(スペシャル版 『一本眉』〜スペシャル版 『高萩の捨五郎』、以後代役なし、2011年5月21日死去)
容姿はみすぼらしく、痩せこけた躰で皺だらけ。もとは本所一帯を縄張りとしていた香具師あがりの無頼者。平蔵より10歳ほど年長の老人で、若かりし頃の取り巻き・腰巾着の一人だが、『本所・桜屋敷』の事件で20数年ぶりに平蔵と偶然再会して昔の誼みで火盗の密偵となった。平蔵のことをつい以前の喋り方に戻って、「銕つぁん」・「親分」と呼びかけることもある。盗賊仲間にも顔が広く聞き込みには欠かせない存在だが、シリーズ後半では老化が進んで平蔵に労(いた)わられている。普段の居場所は本所の軍鶏鍋屋「五鉄」の2階で居候。ちなみに、萬屋錦之介版では植木等(第1・第2シリーズ) と西村晃(第3シリーズ)が彦十を演じた。ちなみに、江戸家猫八の彦十に関しては、原作者の池波は「若すぎるなぁ」と言って、当初は反対したらしい。
・小房の粂八:蟹江敬三(第1シリーズ第4話〜スペシャル版『見張りの糸』、以後代役なし、2014年3月30日死去)
苦味のきいた顔貌のもと盗賊。最初は野槌の弥平の配下として捕縛されて入牢していたが、『血頭の丹兵衛』(昔の親分であった血頭の丹兵衛の名を汚す凶賊の探索を志願する)の事件を経て赦免されて密偵となる。当初は屋台を出し乍ら聞き込みをしていたが、『暗剣白梅香』の件以降は普段は船宿「鶴や」の亭主となっているが、日夜、“鬼平”の為に盗賊探索に余念がない。また子供の頃、軽業一座で芸を仕込まれた経験から身が軽く、尾行や捕物の際にはその機動力を如何なく発揮し、彦十などと共に古参の密偵として平蔵からの信頼も厚い。初代シリーズ(松本幸四郎版)の粂八(第1シリーズの牟田悌三)もよく役に馴染んでいて印象深いが、やはり「小房の粂八と云えば蟹江敬三」との刷り込みが著しく、粂八と蟹江はセットで筆者の脳裏に記憶されている。まさしく“鬼平”の粂八こそが、今は亡き蟹江敬三の(時代劇での)代表的な役柄のひとつではなかろうか・・・。
・おまさ:梶芽衣子(第1シリーズ第5話〜)
おまさは鶴(たずがね)の忠助という元盗賊の娘である。無頼時代の平蔵が一時期、忠助が営む居酒屋(「盗人酒屋」)をねぐらにするなどこの親子とは深い付き合いがあり、少女時代(10歳~11歳頃)の彼女はずっと平蔵に思慕の念を抱いていた。しかし父親の死後は悪の世界に入り盗賊一味の引き込み役などを勤めていたが、平蔵が火付盗賊改方の長官に就任したことを知り、彼を助けるべく悪事からは足を洗って平蔵の密偵となる道を選んだ。その後、一旦は平蔵に罪を赦された2代目狐火の勇五郎と京都で夫婦となったが、間もなく流行り病で勇五郎が死んだ為、再び平蔵のもとへ戻り密偵となる。普段は小間物の行商をしながら、江戸市中を巡り盗賊探索を行っている。後に大滝の五郎蔵と再婚、原作では初登場時(『血闘』)に7歳の娘を親戚に預けているという記述があるが、その後の娘の消息は不明だ。さて、世におまさファンは多いが、歴代シリーズでも梶のおまさは格別の出来。平蔵への思慕を胸に秘めて命がけで密偵として働く彼女を演ずる役者には、影の世界で生きる凄腕だが薄幸な女のイメージ、ダークなトーンをまとった女優・梶芽衣子はまさしく適役であった。ちなみに初代シリーズの松本幸四郎版では富士真奈美がおまさ役を務めているが、特に掘り下げた性格描写もなく、それ以前にシリーズ全体を通して彼女の出番自体が少なくてさほど重要な役割を与えられていない。更に参考までに触れると、丹波哲郎版では野際陽子、萬屋錦之介版は真木洋子がおまさを演じていた。
・大滝の五郎蔵:綿引勝彦(第1シリーズ第21話〜)
元々は大盗・蓑火の喜之助も配下で修行をつみ、やがて「盗みの三ヶ条」を頑なに守る本格派の盗賊の首領となった。『敵』事件で捕らわれたが平蔵に助けられ、舟形の宗平の勧めもあって火盗の手下になった。後に『鯉肝のお里』の件を切っ掛けにおまさと結婚した。また同心の沢田から捕縛術や棒術を仕込まれており、捕り物の時にも活躍する。元首領だけに密偵の中でもリーダー格であり、平蔵の信任も厚い。ちなみに彼の好物は、田螺の饅(ぬた)。そして綿引勝彦の五郎蔵は、梶のおまさと共に決定打的配役であり、いまや代替は効かない域に達していると云えよう。尚、「盗みの三ヶ条」とは伝統的な“本筋・本格の盗人”が守るべき掟のことで、「人を殺めぬこと、女を手込めにせぬこと、盗まれて難儀をする者へは手を出さぬこと」の三ヶ条である。
《平蔵の家族・親族》
・長谷川久栄(平蔵の妻):多岐川裕美
長谷川平蔵の妻。長谷川家と久栄の実家である大橋家は隣家同士であり、平蔵も昔から久栄のことを知っていたようである。18歳で平蔵の妻となり、二男二女をもうけた。原作では、顔だちも身体つきもふっくらとしているとされ、人柄もさばけていると描かれているが、それでいて平蔵の部下たちや奉公人に対してもよく気が回り、また威厳もあって皆から敬愛されている。彼女の好物のスイーツは、目黒不動門前の「桐屋」の黒飴や昌平橋・北詰の「近江屋」の羽衣煎餅である。尚、筆者の周辺でも多岐川の久栄の評判は良かったが、残念ながら初代シリーズの淡島千景(第1シリーズ)には女優としての貫録で遠く及ばない。
・長谷川辰蔵宣義(平蔵の嫡男):長尾豪二郎(第1シリーズ〜第5シリーズ)→東根作寿英(劇場版)
長谷川平蔵の長男で目白台の私邸を預かっている。根は真面目だが遊び好きのお調子者で、念流の坪井主水道場に長らく通っているが剣術の腕前はなかなか上達しない。その為、平蔵にはよく扱(しご)かれ、久栄にも叱られることが多かった。しかし後には坪井道場の四天王と呼ばれるまでに上達し、時には平蔵の仕事を助けて事件の端緒をつかんでくることもあり、手柄を立てるまでになった。餡蜜が大好物な甘党でもある。尚、この辰蔵の役を、中村吉右衛門は松本幸四郎版の第2シリーズで務めていた(つまり、実の父子で平蔵と辰蔵を演じたのである)。また、吉右衛門版の長尾豪二郎に関しては、2002年以降はまったく芸能活動をしておらず、現在ではプロフィール等の情報も得られない状況である。
・三沢仙右衛門(従兄):北村和夫(第1シリーズ〜第4シリーズ)2007年5月6日死去→橋爪功(スペシャル版『山吹屋お勝』)
巣鴨村の大百姓で資産家、そして平蔵の従兄である。仙右衛門の三沢家は平蔵の生母(お園)の実家であり、仙右衛門と平蔵は大変親しい仲である。しかし、その縁が災いして盗賊に命を狙われた事もあったり、隠居した彼が茶屋女に入れ揚げて事件(『山吹屋お勝』)に巻き込まれたりもする。
《他の知人など》
・京極備前守高久:仲谷昇(第1シリーズ〜第8シリーズ)2006年11月16日死去
丹後峰山藩の藩主、役職は若年寄で平蔵の直属の上司にあたる幕府の高官で、平蔵や火盗改方の良き理解者・庇護者である。平蔵に対して手許金を融通して度々財政的な援助をしたり、幕閣が関わる事件などでも便宜・調整を図ったりと非常に力強く支援の手を差し伸べてくれるのだ。原作では、平蔵より年下とされているが、テレビ番組では演者の容姿から同年輩かもしくは年長の設定と思われる。本来は温厚な人柄であるが、正義を貫く硬骨漢ぶりを持ち合わせており、また清濁併せ呑む度量を持った人物でもある。ところで丹波哲郎版、萬屋錦之介版ともに配役は平田昭彦(1984年7月25日没、松本幸四郎版では第1シリーズのみ天野甚蔵を演じた)だったが、最終回スペシャルでは、三沢仙右衛門を演じたことのある橋爪功が備前守役として出演していた。
・岸井左馬之助:江守徹(第1シリーズ第2話〜第2シリーズ)→竜雷太(第5シリーズ〜第6シリーズ)
平蔵とは青年時代に共に高杉銀平道場で剣術修行に励んだ親友(兄弟分)で、剣の腕前は平蔵と互角、歳も同じだ。『本所・桜屋敷』で平蔵と20余年ぶりに再会した後、火付盗賊改方の仕事を時々手伝うことになる。長らく独身で自由気儘な浪々の身だったが、小野田治平の娘であるお静を妻に迎えて落ち着いた(『あきらめきれずに』)。下総国(劇画版では下総国佐倉)の出身。初代シリーズの松本幸四郎版では加東大介が演じた。
・井関録之助:夏八木勲(第2シリーズ第4話〜第7シリーズ、2013年5月11日死去)
かつて高杉銀平道場で平蔵の後輩であり4歳ほど年下の弟分。父の不行跡により家名断絶となって諸国を放浪した後に江戸に戻る。『乞食坊主』(テレビ番組では『托鉢無宿』)で平蔵と再会した時はまさしく乞食坊主の姿で、以降、しばらくは托鉢坊主をしながら平蔵を助けていた(『本門寺暮雪』・『鬼火』など)。その後、小石川にある西光寺の僧に収まり、普段は気儘に暮らしつつ、時折平蔵を手伝う様になる。尚、この人、やたらと盗賊から命を狙われて平蔵に助けられるパターンが多い人物。尚、録之助には丹波哲郎版では中谷一郎(2004年4月1日没)、萬屋錦之介版第2シリーズは田村高廣(2006年5月16日没)が配役されている。
・五鉄の亭主・三次郎:藤巻潤(藤巻は、萬屋錦之介版では小房の粂八を演じている)
平蔵が贔屓にしている軍鶏鍋屋「五鉄」の亭主。無頼時代の平蔵は三次郎の父親の助次郎とも知り合いであり、勘定を踏み倒したこともある。また「五鉄」は相模の彦十の寄宿先でもあり、密偵たちとの連絡場所としてもよく利用される。更に三次郎は張込みをする同心のために弁当を作ったり、時には自身で密偵役を行うこともある。尚、松本幸四郎版では江戸家猫八が三次郎の役を担当していた。
・お熊:北林谷栄(第1シリーズ、2010年4月27日死去)→五月晴子(第4シリーズ〜第6シリーズ)
本所弥勒寺前の茶店「笹や」の主で70歳過ぎの老婆。その姿は全身が凧の骨の様に痩せており、塩辛声で男の様な言葉づかいである。平蔵が放蕩無頼の頃からの顔なじみであり、多少の色気づいた因縁もあった様子。平蔵が火盗改方長官に就任すると、「笹や」を密偵の隠れ家や連絡場所として提供するなどして協力している。
・およね:池波志乃(第2シリーズ第9話〜第7シリーズ)
密偵の伊三次が馴染みにしている岡場所の遊女。ある物を預かったことで事件に巻き込まれたが、伊三次の正体を知って、その後は彼を通して火盗を手助けするようになる(『猫じゃらしの女』)。また、原作では伊三次の死後もおよねの火盗への協力は続く(『鬼火』)。劇画版では、伊三次の死後、数年を経て身請けされたとの描写がある。