【懐かしの時代劇】 鬼平犯科帳 (中村吉右衛門版) 〈22JKI28〉

本作の魅力の数々

《うまい食べ物》
本作を支える大きなポイントに、うまい食べ物の存在がある。季節感あふれる料理・食べ物の数々は、原作・池波作品の大きな魅力となっているし、彼は時代小説の中に多くの食事場面を登場させて無理なくストーリーに溶け込ませることで、それらを彼の小説を読む読者にとっての新たな愉しみにまで昇華させた。その功績は大であるが、テレビ番組においてもその味覚を可能な限り再現しようとしていた。

作中には大根河岸「万七」の“兎汁”、本所二つ目にある「五鉄」の“軍鶏鍋”、目黒不動裏門前の「伊勢虎」の“鮎飯”、北野天満宮裏「紙庵」の“菜飯”と“田楽”、弁天社境内「平富」の“鯉料理”、芝明神門前の「弁多津」の“のっぺい汁”等々いくらでも出てくる。もちろん、名もない屋台の蕎麦が一番うまそうだったりもするが・・・。

また妻・久栄の手料理の場合、生鰹節の煮つけに蚕豆の塩茹でや筍とわかめの吸い物などが印象的だが、実は平蔵の好物は筍飯や削ぎ取った鯉の皮を細切りにして素麺と合わせた酢の物、もしくは白粥に葱入りの煎り卵だったりするのだ。

そしてテレビ番組シリーズ最後のうまい食べ物は、中村嘉葎雄演じる鍵師の助治郎が食する“一本饂飩”(鬼平犯科帳 THE FINAL「雲龍剣」)であったが、テレビ画面で見る限り筆者にはそれほどうまそうには思えなかった(笑)。

《独特でクールなナレーション》
独特のクールなトーンが特徴的なナレーションは番組の方向性を決定しており、殊に冒頭部分のナレーションは人気を支えるコンテンツとも云えた。

「何時の世にも、悪は絶えない。その頃、徳川幕府は火付盗賊改方と云う特別警察を設けていた。凶悪な賊の群れを容赦なく取り締まる為である。独自の機動性を与えられた、この火付盗賊改方の長官こそが、長谷川平蔵、人呼んで『鬼の平蔵』である。」というのが、毎回番組の冒頭に流れた御馴染みの台詞であった。

中村吉右衛門版では、下記の3人がこの人気のナレーションを担当している。

中西龍(第1〜第8シリーズ、終盤はオープニングと予告のみで、クレジットは他のナレーターと併記、1998年10月29日死去)

仁内建之(第7・第8シリーズ、2000年04月12日死去)

能村太郎(第8シリーズ〜スペシャル最終回)この人は、本シリーズでプロデューサーを務める能村庸一本人である。もともとアナウンサーの出身なので、ナレーターとして遜色はない。

《趣のあるエンディング》
エンディングがまた好い。四季折々に彩られた江戸の風景を描いていて印象深い。(実際の撮影は京都周辺が多い)

エンディングテーマ曲は、ジプシー・キングスの楽曲 『インスピレイション』が用いられ、春は桜、夏は花火、秋は紅葉、冬は雪景色といった日本の四季を代表する風景をバックに、菖蒲や紫陽花等といった季節相応の花々、梅雨の頃に見られる俄か雨や夏の風鈴売り、そして冬の蕎麦屋台等の市井の人々の日常生活を映像化することで、江戸時代の町人文化の香りを風情豊かに表現している。

また、エンドロール表示の位置が画面左右や下部にオフセットされていることも特徴的で、エンディングだけでも充分にひとつの物語感が得られる小作品に仕上げていた。

 

さて、中村吉右衛門はこのテレビ番組シリーズに関するインタビューの中で、その打ち切りについて自身の行動力(体力)の衰えもその一つの理由であることを示唆しているが、同じことは筆者も感じていた。原作の“鬼平”は常に自ら先陣をきって盗賊の捕縛に赴き、兇賊や悪に染まった剣客などの悪党と対峙してはこれを斃していく。その動きのダイナミズム、殊に殺陣のキレを失っては“鬼平”らしさは半減してしまうのだと・・・。

初代のテレビ番組シリーズで“鬼平”役を務めた吉右衛門の父親、先代(8代)の松本幸四郎も、年齢からくる体力の衰えを理由に主役を降板したというが、既に吉右衛門はその時の父の歳をいくつも超えてしまっているのだった・・・。

-終-

【余談】
史実では、平蔵の本家筋にあたる長谷川太郎兵衛正長(既述)は、宝暦13年(1763年)10月から明和3年(1766年)6月まで二回にわたり火付盗賊改方の長官を務めている。これに関して、家督を継ぐ前の「銕三郎」と呼ばれた平蔵はその頃ちょうど17歳~19歳くらいだから、太郎兵衛を助けて無頼の徒として市井に紛れ込み、火盗を手伝っていたのではないかとの珍説があるのだが、まさしく事実は小説より奇なりを地で行く話ではないか・・・。

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