『鬼平犯科帳』(中村吉右衛門版) テレビ番組シリーズ 全話キャスティング・リスト 《暫定版》

以下に『鬼平犯科帳』(中村吉右衛門版) テレビ番組シリーズ 全話キャスティング・リストを掲載するが、現状は《暫定版》であり、都度、加筆・修正の予定である。また各話のあらすじやその他の諸データは番組公式HPで確認願いたい。

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『鬼平犯科帳』フジテレビ公式HP・・・各話のあらすじはこちらから

各欄コメントには、物語の結末や、所謂(いわゆる)ネタバレ的な内容が含まれているので、視聴前や未読の場合は要注意。

 

第1シリーズ(1989年7月12日 – 1990年2月21日、1990年4月4日、フジテレビ系 水曜20時台時代劇枠)

●第1話「暗剣白梅香」(1989年7月12日)(視聴率16.1%)
・金子半四郎 – 近藤正臣   ・おえん – 西川峰子   ・三の松平十 – 中村又五郎
・利右衛門/森為之助 – 牟田悌三   ・丸太橋の与平次 – 中田浩二   ・甚兵衛 – 芝本正

※三の松平十に金子半四郎を紹介する口入屋・丸太橋の与平次は原作には登場しない。そして重要な役どころである女郎のおえんも、テレビ番組のオリジナルキャラクターである。更に原作では、人間味に欠けた半四郎の冷酷な面が際立って表現されている。

※ゲスト出演者では、近藤正臣演ずる金子半四郎に市川雷蔵・眠狂四郎に重なる姿をみた。冷静でニヒルな態度、そして妖艶さを持つ人物。また、おえんの西川峰子も年増女の色気が溢れていたし、女郎の境遇にある女の非情さをよく表現していた・・・。更に、三の松平十役の2代目中村又五郎(2009年2月21日没)も、吉右衛門シリーズには多数出演していて、本作に加えて第2シリーズ第17話「春の淡雪」(1991年3月13日放送)・第4シリーズ第1話「討ち入り市兵衛」(1992年12月2日放送)・第7シリーズ第9話「寒月六間堀」(1997年6月4日放送)の4作に参加していた。

※金子半四郎・・・雇われて殺しを行う刺客で、鬼平の暗殺を金300両で引き受けた浪人。体に染み付いた血の匂いを消すために「白梅香」という香油を使用していることから身元が割れる。元来は大洲藩士で父の仇討ちの旅に出ていたのだが、白子の菊右衛門の手によって仕掛人(暗殺者)に育てられた。ところが物語では、その仇である森為之介(利右衛門)に返討にあって、意外とあっけない最期を遂げる。原作では、色白の頬骨が張った細面、ふとやかな鼻、濃い眉をしていて眼球が見えないほどに細い目の持ち主。総髪。ひげは剃っていて、女のようにやさしい声音である、と描かれている。

※利右衛門/森為之助・・・横川の扇橋の南、石島町の船宿「鶴や」の主人だが、本当は金子半四郎の仇であった。この後、森為之介は妻の実家がある近江国へと隠遁したので、この船宿は小房の粂八が預かり、軍鶏鍋屋の「五鉄」と共に『鬼平犯科帳』シリーズの主要探索拠点の一つとなる。

※三の松平十・・・根津権現に住む、江戸暗黒街の顔役。また、彼に仕事(平蔵の暗殺)を依頼したのは蛇の平十郎である。池波の短編集『江戸の暗黒街』にも登場。

●第2話「本所・櫻屋敷」(1989年7月19日)(視聴率14.4%)
・おふさ – 萬田久子    ・小川や梅吉 – 遠藤征慈    ・服部角之助 – 水澤心吾
・丑五郎 – 木場勝己

※相模に彦十が服部角之助の屋敷に探りを入れて捕まり、拷問されるシーンは原作にはない。またおふさの過去を伊三次が調査しているが、原作では日本橋鉄砲町の御用聞き・文治郎がこの任に当たっており、また平蔵の親友、岸井左馬之助が初めて登場する。

※おふさ役の萬田久子が好演。後年の復讐に動き出した時期以降の開き直りやふて腐れ方には、おふさの心情がよく表されておりある意味では凄味も出ていた。

※おふさ・・・原作によると、若き日の平蔵と岸井左馬之助が心を寄せた女性。一度は日本橋・本町の呉服問屋「近江屋」へと嫁いだが夫の死後に虐げられて、本所に住まう無頼の御家人・服部角之助へ再嫁した不幸な女。しかし平蔵たちが再会した時には、復讐の為にかつての嫁ぎ先であった「近江屋」への襲撃計画を小川や梅吉に持ちかけるが、捕まり遠島にされた。

※小川や梅吉・・・表向きは神田・昌平橋北詰の茶漬屋「小川や」の亭主。野槌の弥平(小房の粂八の自白で盗人宿へ踏み込まれて捕縛されて磔刑となった凶悪な盗賊の首領。但し、昔は本格派盗人だった)の一味の幹部で、服部角之助をそそのかして「近江屋」への急ぎ働きを企んだが露見、逃亡するが捕えられて磔刑となる。

●第3話「蛇の眼」(原作:『座頭と猿』・『蛇の眼』)(1989年7月26日)(視聴率15.2%)
・白玉屋・紋蔵 – 誠直也    ・おその – 松居一代    ・鶉の徳太郎 – 重田尚彦
・彦の市 – 山田吾一   ・蛇の平十郎 – 石橋蓮司   ・同心・小野十蔵 – 柄本明

※原作では鶉の徳太郎が彦の市を殺そうとして、逆に返り討ちに遭う。更に蛇の平十郎は後で水之尾で捕まっている。このテレビ番組は原作の『座頭と猿』も併せて脚本に反映しているので、徳太郎は蛇一味の牝誑男・鶉の福太郎と合わせて徳太郎と名が変わって登場している。また彦の市は、『座頭と猿』において愛人おそのの情夫である福太郎を殺して逃亡するが、その後の『蛇の眼』では、おその恋しさに再び姿を現して捕まるのだ。更に原作では皆殺しにされる千賀屋敷の人々は、テレビ番組では全員が助かる形となっている。

※蛇の平十郎・・・表向きは印刷師の井口与兵衛だが、実際は名うての兇賊の頭。“鬼平”を恐れた他の盗賊達ちが次々と江戸から退散していく中で、あくまでも江戸での盗みにこだわり、邪魔者の平蔵の暗殺(金子半四郎や雷神党などへ依頼)を何度も企むが失敗する。その後、白玉屋・紋蔵や彦の市、志度呂の金助などを従えて10年ぶりの大仕事に挑むが、平蔵に捕縛されて火刑となる。

●第4話「血頭の丹兵衛」(1989年8月2日)(視聴率13.4%)
・血頭の丹兵衛 – 日下武史    ・長次 – 鹿出俊之輔    ・お六 – 村上理子
・蓑火の喜之助 – 島田正吾   ・同心・小野十蔵 – 柄本明

※原作で最後に茶屋で喜之助と会うのは、平蔵と粂八ではなく酒井と粂八。小房の粂八のテレビ番組初登場はこの「血頭の丹兵衛」だが、原作では野槌の弥平一味として捕らえられた『唖の十蔵』である。また、テレビ番組では、平蔵と粂八の初対面のシーンには小野十蔵が立ち会っているが、原作の『血頭の丹兵衛』では十蔵は既に自決している為に登場しない。

※血頭の丹兵衛・・・以前は本格派の盗賊であり小房の粂八の親分だったが、時流に流されて急ぎばたらきに走る凶賊と化した。捕縛後は磔・獄門に処される。また、彼の捕縛を手引きしたことで粂八は密偵となる。

※蓑火の喜之助・・・大滝の五郎蔵の師匠でもあり、「お盗め三ヵ条」を頑なに守る伝説の本格派大盗賊だったが、原作の『血頭の丹兵衛』での初登場時には既に引退して武州・蕨で宿屋を営んでいた。江戸で血頭の丹兵衛の凶行を知った喜之助は、それが偽物の仕業だと思い、いかにも本格派のお盗めとみえる(しゃれた)仕事をしてのけた後に京へと上るが、途中で粂八や護送中の血頭の丹兵衛本人と出会い、ことの事実を悟った。後に訳あって再び江戸に出て盗みの世界に戻るが、決行前夜、助っ人として雇った野槌の弥平一味の残党に裏切られて相打ちとなって悲壮な最後を遂げた(『老盗の夢』。ちなみに彼は、同じ池波作品が原作の映画『必殺仕掛人・春雪仕掛針』にも登場しており、その際は兇賊・猿塚のお千代への仕掛を音羽屋半右衛門に依頼する役だった。

●第5話「血闘」(1989年8月9日)(視聴率14.2%)
・三井伝七郎 – 岩尾正隆   ・堀場陣内 – 唐沢民賢   ・吉間の仁三郎 – 磯部勉

※原作には、おまさを救う為に渋江村・西光寺裏の荒れ屋敷に踏み込んだ平蔵が、盗賊どもにおまさに関しての啖呵をきるシーンはない。またおまさが自分の居場所を教える為に針を残していくが、原作では長屋に書きつけ(厳密には縫い針を刺した畳の下に紙片がある)を残して置く。更に原作では、おまさには七つになる女の子がいるらしいとなってるが、この吉右衛門版のテレビ番組ではそのことは触れられていないし、他の相違点としては、平蔵に頼まれて急を知らせる為に役宅へ駆け向かうのは「嶋や」の船頭・由松である。

※吉間の仁三郎・・・熊倉の惣十一味でおまさと一緒だった盗賊。誘拐されたおまさの見張り番だったが、救出に向かった平蔵に首を絞められ、意識を失う。また原作では、登場当初のおまさは引き込み役を務めていた乙畑の源八という盗賊の捕縛に協力したとされているが、この吉右衛門版ではその源八の立場が仁三郎に代わった形で描かれている。

●第6話「むっつり十蔵」(原作:『唖の十蔵』)(1989年8月16日)(視聴率15.1%)
・おふじ – 竹井みどり    ・夜鳥の仙吉 – 宮内洋    ・掛川の太平 – 浜田晃
・おいそ – 柳綾稀子   ・助次郎 – 河野実    ・同心・小野十蔵 – 柄本明

※原作のタイトルは『唖の十蔵』(唖という言葉を避けた為に変更)で、小野十蔵が追っている盗賊は掛川の太平ではなく、野槌の弥平だった。また捕えた盗賊は小房の粂八である。更に、小川や梅吉が夜鳥の仙吉に変更されている。また原作では、シリーズ初回ということもあってか、火付盗賊改方の歴史や組織の概要の他、前任の堀帯刀に代わって長谷川平蔵が長官に就任する場面なども描かれている。

※十蔵と云えば、淡々としたマイペースともいえる演技の柄本明も決して悪くはないのだが、松本幸四郎版の田中邦衛がより適役であり、その独特の印象がぬぐえない。

※小野十蔵・・・いたって寡黙なところから、同心仲間からは「啞の十蔵」と呼ばれているが、働きぶりは見事。同情から掛川の太平の一味である夫の助次郎を殺した身重のおふじを匿うが、太平の手下・仙吉におふじを誘拐されて強請られ、やがてことが露見する。幸い、掛川一味は一網打尽にされるが、平蔵に詫び状を残して自害する。

●第7話「明神の次郎吉」(1989年8月30日)(視聴率14.3%)
・明神の次郎吉 – ガッツ石松   ・宗円 – 徳田興人   ・春慶寺の住職 – 松田明
・櫛山の武兵衛 – 土屋嘉男

※ほぼ原作通りの内容。この回の明神の次郎吉のキャスティングに関しては、その容貌からガッツ石松はベストだったとの意見が多い(笑)。彼は、1993年2月10日放送の第4シリーズ第8話「鬼坊主の女」でも鬼坊主清吉を演じていることから、プロの役者には無い雰囲気が吉右衛門版では重宝されていたとみるべきか・・・。ちなみに原作では、平蔵が白玉を三杯も食して腹をこわしたり、蝉の鳴く描写を取り入れたりと、初夏の季節を強調する描写が複数みられる。

※明神の次郎吉・・・櫛山の武兵衛一味の盗人。お人良しで他人の難儀を見過ごせない男で、罪滅ぼしをしながら、結果として罪を重ねるというどこか憎めない人物。宗円との約束を果たすべく、遺品を岸井左馬之助の渡す為に春慶寺を訪れる。最後は、押し込みを事前に察知されて捕縛された。劇画版では一旦囲みを破って逃走したが、左馬之助のいる松浦道場に盗みに舞い戻った挙句に捕まる。しかし、凶悪な犯罪には手を染めていなかったことで平蔵に許されて、罪一等を減じられ遠島処分となった。

●第8話「さむらい松五郎」(1989年9月6日)(視聴率15.1%)
・須坂の峰蔵 – 赤塚真人    ・おちょう – 石倭裕子    ・お兼 – 速水典子
・阿久津 – 小池雄介   ・赤尾の清兵衛 – 平井靖   ・ろくろ首の藤七 – 深江章喜
・同心・山口平吉 / さむらい松五郎 – 坂東八十助

※原作では木村忠吾が主役の編で、おちょうも登場しない。また、本物の松五郎と偶然に出会って捕える同心は、酒井祐助ではなく小柳安五郎。このテレビ番組では坂東八十助を起用する為に、原作の木村忠吾の役割を別人の山口平吉に変更したのだろうとされている。また原作での木村忠吾は、この時、自身の菩提寺である威徳寺を訪ねているが、原作前話の『五月闇』で殺された密偵・伊三次もこの寺に埋葬されたとされている。

※さむらい松五郎・・・別名は網掛の松五郎と言い、役者あがりで無口な性格。以前は盗賊・湯屋谷の富右衛門の右腕だったが、富右衛門の死後は一人働きをしていた。上記の様に、原作では木村忠吾と瓜二つで、間違われるのは山口平吉ではなく忠吾である。劇画版では平蔵と剣を交えて打倒された。

●第9話「兇賊」(1989年9月13日)(視聴率17.8%)
・網切の甚五郎 – 青木義朗   ・文挟の友吉 – 江幡高志   ・おしづ – 風間舞子
・鷺原の九平 – 米倉斉加年

※鷺原の九平が身を隠す場所は、原作では青山・久保町にあるいせや(大黒/板尻の)吉右衛門が営む居酒屋だが、テレビ番組ではおしづの店となっている(屋号は同じ「いせや」)。考え過ぎかも知れないが、やはり「吉右衛門」という名前の使用を避けたのだろうか・・・。また原作では、軍鶏鍋屋「五鉄」で食事をしていた九平を密偵の伊三次が人相書を頼りに捕らえるが、テレビでは、おまさが癪(しゃく、胸や腹のあたりに起こる、激痛の総称)を装って九平を捕らえる。更に原作では網切の甚五郎の父親は昔、平蔵に殺害されたという設定で、『あばたの新助』においては甚五郎による平蔵への復讐劇のはじまりを描いていて、その後、『兇賊』では益々大規模な平蔵暗殺を試みるのだった。但し、テレビ番組では甚五郎の父親は甚五郎の子分となっていて趣が微妙に異なる。

※鷺原の九平役の米倉斉加年(2014年8月26日没)の演技が秀逸。いずれの場面でも老盗賊の心情が巧みに表現されていた。

※文挟の友吉は、第4シリーズ第18話「おとし穴」(原作は『あばたの新助』)でも登場(演者は小野武彦)するが、原作での時系列では『あばたの新助』が先である。

※網切の甚五郎・・・全国を股にかける、まさしく兇賊。父親・土壇場の勘兵衛の仇であり、またお盗めの邪魔となる平蔵を憎み、幾度にわたり暗殺を試みるが失敗する。極悪非道の盗みを多く行い平蔵を追い詰めたが、最後は逃亡先の倶梨伽羅峠で待ち伏せていた平蔵に(原作では)両腕を切り落とされて惨殺される。

●第10話「一本眉」(原作:『墨つぼの孫八』・『一本眉』)(1989年9月20日)(視聴率14.7%)
・馬返しの与吉 – 尾藤イサオ   ・倉渕の佐喜蔵 – 藤岡重慶   ・清洲の甚五郎 – 芦田伸介

※この回の脚本のベースは原作の『墨つぼの孫八』のウエイトが高く、清洲の甚五郎のキャラクター創りとストーリーの展開はそこから形作られている。一方、『一本眉』からは、甚五郎と左喜蔵の確執に関する因縁の関係性が筋書きに取り込まれた形だ。ちなみに、原作の『一本眉』で清洲の甚五郎と酒を酌み交わすのは、平蔵ではなく木村忠吾である。

※清洲の甚五郎・・・誰も素顔を知らない伝説級の本格派盗賊である。両の眉毛が繋がっている為、煮売り酒屋「治郎八」で奢られた木村同心から「一本眉の客」の綽名を付けられている。盗みを邪魔されたことに憤慨して、悪逆な倉淵の左喜蔵一味を探し出して壊滅させた。原作では平蔵に行動を探知されることは無く、墨斗の孫八(大工あがりの盗賊。押し込み当夜に卒中で亡くなる)と掛け合わせた人物として設定されている。

●第11話「狐火」(1989年9月27日)(視聴率13.3%)
・狐火勇五郎 – 速水亮    ・文吉 – 伊藤高    ・お久 – 池田純子
・瀬戸川の源七 – 垂水悟郎

※原作では、おまさと勇五郎が夫婦として暮らしたのは1年だが、この番組では京都への旅の途中で勇五郎は病死してしまう。またやはりこの回に関しても、原作の平蔵の方が勇五郎兄弟に対する裁断は格別に厳しい。

※瀬戸川の源七役の垂水悟郎(1999年1月21日没)は、この吉右衛門版ではこの「狐火」の他に第3シリーズ第1話「鯉肝のお里」(1991年11月20日放送)の長虫の松五郎、第4シリーズ第3話「盗賊婚礼」(1992年12月16日放送)での瓢箪屋勘助役、第6シリーズ第6話「はさみ撃ち」(1995年8月23日放送)での弥治郎、第8シリーズ第3話「穴」(1998年4月29日放送)の壷屋菊右衛門など、多数の配役を務めている。また松本幸四郎版の第1シリーズ第37話「おみね徳次郎」(1970年6月16日、NET / 東宝)では徳次郎を、第1シリーズ第63話「女賊の恋」(1970年12月15日、NET / 東宝)では源造、第2シリーズ第1話「剣客」(1971年10月7日、NET / 東宝)で松尾を、萬屋錦之介版の第3シリーズ第1話「さざ波伝兵衛」(1982年、ANB / 中村プロ)では砂堀の蟹蔵を演じた大ベテラン俳優である。

※狐火勇五郎・・・初代勇五郎は本格派の盗賊で、鶴の忠助(おまさの父親)を介して無頼時代の平蔵と面識があったが既に病没している。その息子の2代目は、先代の妾・お吉の子で名を又太郎と言う。本妻の子で自分の弟の文吉を探す為に江戸に出て来た。平蔵の温情により盗賊家業から足を洗い(原作では二度と盗みが出来ない様にと、左腕の肘から下を切り落とされて)おまさと夫婦になったが、間も無く流行り病で病死。

※瀬戸川の源七・・・狐火勇五郎の右腕だったもと盗賊。引退して葛飾・新宿の渡し場にある茶店の主となっている。

●第12話「兇剣」(スペシャル)(原作:『兇剣』・『艶婦の毒』)(1989年10月11日)(視聴率18.7%)
・浦部彦太郎 – 井川比佐志   ・高津の玄丹 – 藤岡琢也   ・およね – 長谷川真弓
・大河内一平 – 大前均   ・白狐の谷松 – 松崎真   ・猫鳥の伝五郎 – 粟津號

※テレビ番組では、高津の玄丹は追い詰められて自決するが、原作では牢内で断食して自死。

※大坂の盗賊である高津の玄丹を、自身も関西出身の藤岡琢也(2006年10月20日没)がさもそれらしく演じていて印象深い。浦部与力役の井川比佐志も、実直で生真面目、そして理屈っぽい奉行所役人の役どころを巧みに演じた。更に、玄丹一味の大河内一平に配された大前均(2011年3月1日没)が、身長190cmの巨体とその怪異な風貌で抜きん出て目立つ存在であったが、あまりにも簡単に殺されてしまう。

※浦部彦太郎・・・父・浦部源六郎から京都西町奉行所の与力職を継いだ者で、以前から平蔵とは親子共々顔見知りの間柄である。何故ならば平蔵は、かつて父の宣雄が奉行を務めていた関係から京都西町奉行所に知人が多いのだった。ちなみに彦太郎の娘・妙は、木村忠吾の許嫁であったが数年の闘病の後に亡くなったとされていて、現在も浦部と忠吾の交誼は続いているという設定だ。

※高津の玄丹・・・表向きは出雲屋丹兵衛という便船宿の亭主。だが実際は、白子の菊右衛門と双璧をなす大坂の暗黒街を牛耳る香具師の元締であり、更には盗賊稼業や密貿易まで手掛けていた大悪党。平蔵に刺客を差し向けたが、上記の通り原作では捕縛されて獄死する。

※大河内一平・・・大和郡山の浪人で、高津の玄丹の援助で大坂の王仁塚に小さな道場をかまえている。玄丹の命で平蔵暗殺を目論むが、助太刀に現れた左馬之助が投げた脇差に貫かれ死亡。だが平蔵に重傷を負わせて窮地に追い込むなど、なかなかの剣の遣い手であることには違いない。尚、この回で大河内一平を演じた大前均(2011年3月1日没)は、第4シリーズ第12話「埋蔵金千両」(1993年3月17日放送)では中村宗仙にキャスティングされている。

※原作では高津の玄丹のライバルとして、白子の菊右衛門という人物が登場する。この菊右衛門は原作では『暗剣白梅香』や『麻布ねずみ坂』などで平蔵暗殺を陰で仕掛ける上方の香具師の元締めだが、その後は“鬼平”の人柄に触れて、同じく原作の『兇剣』では、半滝の紋次からの平蔵殺しの依頼を無視するなど平蔵に好意的な態度をとる。また他の小説では藤枝梅安を仕掛人として育てた人物としても、池波ファンには御馴染みの存在。

●第13話「笹やのお熊」(1989年10月18日)(視聴率16.4%)
・荒尾の庄八 – 早川純一   ・庄八の女房 – 田畑ゆり   ・今市の十右衛門 – 五味龍太郎
・入升屋市五郎 – 下元年世

※吉右衛門版でのお熊(本所・弥勒寺前の茶店「笹や」の主人)は今回が初登場であるが、堂々と探索の手助け役を担っている。原作では既に『寒月六間堀』や『用心棒』、『蛙の長助』などに登場しては、自身の店「笹や」を火盗の探索の拠点や連絡(つなぎ)所として提供している。また原作に当たる『お熊と茂平』では、茂平は庄八の伯父という設定になっている。尚、お熊役の北林谷栄(2010年4月27日没)が、小柄ながらも矍鑠(かくしゃく)とした老婆を好演している。尚、このテレビ番組での北林・お熊と猫八・彦十の掛け合いが楽しく面白い。

※荒尾の庄八・・・今市の十右衛門の配下で、千住の小塚原で畳屋を営む。弥勒寺への押し込みを図るが捕縛される。

●第14話「あきれた奴」(1989年10月25日)(視聴率20.3%)
・おたか – 長谷直美   ・鹿留の又八 – 平泉成   ・八丁山の清五郎 – 守田比呂也
・雨畑の紋三郎 – 三浪郁二   ・岡村啓次郎 – 中村橋之助

※原作では本作は岡村啓次郎(この番組オリジナルの役柄)ではなく、同心・小柳安五郎のエピソード。また鹿留の又八の過去は、葦火の喜之助の配下で八丁山の清五郎は夜兎の角右衛門一味だった。またこの番組では岡村の人物描写のウエイトが大きいが、原作では又八の精神的な葛藤や女房・おたかとの馴れ初め話などにより多くの比重が置かれている。

※岡村啓次郎役の中村橋之助が、清々しく凛とした人物を演じて良い。また平泉成の又八の演技も光る。

※鹿留の又八・・・原作では、一度は小柳安五郎に捕まるが、小柳のはからいで逃亡する。その後にかつての仲間で殺人犯の雨畑の紋三郎を捕えた上で改めて小柳の前に現れ、遠島に処された(『流星』)。ちなみに、劇画版では蓑火の喜之助の配下で五郎蔵とは同輩だったが、喜之助が盗賊一味を解散した後は足を洗って数珠職人になったという設定である。

●第15話「泥鰌の和助始末」(1989年11月1日)(視聴率19.9%)
・大工・孫吉 – 小鹿番    ・磯太郎 – 山崎有右    ・金谷の久七 – 高峰圭二
・棟梁・喜兵衛 – 森幹太   ・泥鰌の和助 – 財津一郎

※原作の『泥鰌の和助始末』と『下段の剣』の内容が合わさって一話となっていて、このドラマでは和助の復讐譚や和助と磯太郎の話に焦点が絞られている感じがして、松岡重兵衛が登場しない。だが原作では、平蔵と松岡重兵衛との関係性や辰藏が松岡の探索でしくじるエピソード、不破の惣七が和助の押し込みを横取りするという逸話も描かれている。また番組では、和助は駿府の大盗・地蔵の八兵衛の配下だったが、八兵衛が亡くなった後に足を洗って江戸に来たという設定になっている。松岡重兵衛と惣七の物語は、第2シリーズの第18話「下段の剣」で描かれる。

※泥鰌の和助・・・浅草で櫛屋を営む。大工小僧とも呼ばれた、親子二代にわたる大工兼盗賊で、その大工の腕を生かした「盗み細工」を得意とする。息子・磯太郎の仇である紙問屋の「小津屋」に対して、以前仕掛けた「盗み細工」を活かして地蔵の八兵衛一味の残党・金谷の久七らを誘って復讐を果たすが、不和の惣八に裏切られて浪人に殺された。

●第16話「盗法秘伝」(1989年11月29日)(視聴率17.1%)
・鬼頭監物 – 津村鷹志    ・弥吉 – 古田将士    ・米倉半四郎 – 加島潤
・升屋市五郎 – 田中弘史   ・おかね – 川村一代   ・女郎 – 大島瑤子   ・おもよ – 園英子
・伊砂の善八 – フランキー堺

※この回は、平蔵が浜松の叔母の法要に向かう途中での事件となっているが、原作では駿州(静岡)での『盗法秘伝』の後に京都へ向かう途中に遭遇した事件である。以降、『艶婦の毒』の事件で京都に至り、『兇剣』を経て奈良から折り返して、江戸へ戻る帰り道の『駿州・宇津谷峠』の件で再び静岡が舞台となる。また番組では、升屋市五郎に加えて金谷宿の役人・鬼頭監物と云う名の悪人が登場する。更に升屋から奪った金については、善八が風呂に入った隙に御守り袋に書かれた秘密を平蔵が盗み見て隠し場所に先回りする形となっているが、原作では全国七つの盗人宿の一つに隠すことになっていて、御守り袋に隠し場所を書いている訳ではない。

※何と言っても、フランキー堺(1996年6月10日没)の伊砂の善八が絶品、ほのぼのとした人間味のある盗人を熱演している。

※伊砂の善八・・・盗みの極意を極めた独りばたらき専門で本格派の老盗賊であるが、少々間が抜けたところもある。旅の途中で平蔵を単なる浪人と勘違いして、自分の跡継ぎにしようと思い立った。結果、盗みの秘伝書「盗法秘伝」と各地の資産家で盗みの標的を記した嘗帳「お目当て細見」を平蔵に取り上げられたが、最後は赦免された。だがその性格は弱い者や虐げられた者に対する思いやりに溢れ、実際に盗みの技も巧みで、細工した火箸と元結を使いどんな鍵も簡単に解錠してしまうのだった。

●第17話「女掏摸お富」(1989年12月6日)(視聴率18.9%)
・霰の定五郎 – 睦五朗    ・卯吉 – 中西良太    ・岸根の七五三造 – 片桐竜次
・狐火の虎七 – 根岸一正   ・お富 – 坂口良子

※番組の最後に平蔵がお富の指の筋を切り、二度と悪事を働けない様にするところは原作にはない脚色。原作の鉄砲町の御用聞である文治郎は、このテレビ番組では登場せず、代わりの役柄を(江戸屋猫八が演じる)相模の彦十が務める。また掏摸修行時代の七五三造は、お富に親しい人物として描かれている。

※霰の定五郎・・・数多くの配下を抱える掏摸の元締めで、女掏摸のお富の養父。捕縛されることなく病没した。

●第18話「浅草・御厩河岸」(1989年12月13日)(視聴率16.6%)
・お梶 – 浅利香津代   ・卯三郎 – 田武謙三   ・彦造 – 石山雄大   ・喜左衛門 – 高並功
・善太 – 遠山二郎   ・海老坂の与兵衛 – 岩井半四郎   ・松吉 – 本田博太郎

※原作では本篇が”鬼平”シリーズの実質的な第1作で、主人公は飾り職人の松吉ではなく「豆岩」の店主・岩五郎だった。松吉の女房のお梶にあたる岩五郎の嫁はお勝といい、卯三郎が同居しているという設定もない。また岩五郎とのつなぎ役は同心・酒井祐助ではなく与力・佐嶋忠介(の配下の密偵)である。そして原作での海老坂の与兵衛は、岩五郎の密告で捕らえられるが、このテレビ番組ではお梶が火盗改に訴え出た為となっている。

※海老坂の与兵衛・・・原作では、大勢の配下を従えた親子3代にわたる本格派の大盗賊。隠居金を得る為の最後の盗みとして本郷一丁目の醤油問屋・柳家吉右衛門に目を付けるが、密偵と知らずに岩五郎を雇ったことで計画が露見して捕まる。

●第19話「むかしの男」(1989年12月20日)(視聴率13.2%)
・近藤唯四郎 – 鹿内孝   ・勘造 – 亀石征一郎   ・美雪 – 小林かおり   ・辰蔵 – 長尾豪二郎
・砂吉 – きくち英一   ・三次 – 下元年世   ・用人・松浦与助 – 阿木五郎

※この番組では久栄の妹である美雪の娘・たえが誘拐されるが、原作で誘拐されるのは同心・小野十蔵が面倒をみていたおふじという女の娘・お順で、後にこの子は平蔵夫婦に養女として引き取られる。また更に原作では、平蔵が火盗改の長官を一旦解任されて京都に赴き、江戸を留守にしていた時期に発生した事件である。そしてこの誘拐事件の発生には『唖の十蔵』に登場した兇賊・小川や梅吉の弟である霧の七郎が裏で絡んでおり、テレビ番組の勘造はこの七郎の代役となっている。彼は逃げ延びて原作の『霧の七郎』で再び登場して平蔵に挑戦するのだった。尚、原作では近藤唯四朗の名も勘四朗であり、砂吉も登場しない。

●第20話「山吹屋お勝」(1990年1月10日)(視聴率19.1%)
・お勝 – 風祭ゆき   ・関宿の利八 – 森次晃嗣   ・霧の七郎 – 菅貫太郎   ・政 – 森田順平
・弥吉 – 岡部征純   ・お才 – 西岡慶子   ・夜兎の角右衛門 – 五味龍太郎

※原作では、政は登場しない。また、最後に関宿の利八とおしの(お勝)はふたり手を携えて姿をくらますというのが結末で、その後に関宿の利八から平蔵へ届いた詫びの手紙によって捕縛に繋がる。更に関宿の利八のかつての頭である夜兎の角右衛門は、話の冒頭から既に平蔵の密偵となっているという設定だ。また、原作での忠吾の出番はごくわずかである。

※時代劇にも多数出演している風祭ゆきは、第3シリーズの第10話「網虫のお吉」(1992年2月26日)でも網虫のお吉を演じているが、池波の描く悪女に適任の女優なのだろうか・・・。

※夜兎の角右衛門・・・自ら一味を解散して、ひとり火盗改へ自首した盗賊の首領。その時、関宿の利八のみが従った。その後、人足寄場から戻った二人を平蔵は密偵とし、角右衛門は本所・回向院裏に小間物屋を営んで平蔵の為に働いた。ちなみにこの夜兎の角右衛門に関しては、池波は彼の作品『看板』(短編集『谷中・首ふり坂』所蔵)で、初めて真の盗賊の三か条を披露させている。またこの短編が、後の“鬼平”シリーズの原型ともなったとされている。

●第21話「敵」(1990年1月17日)(視聴率15.0%)
・舟形の宗平 – 浜田寅彦    ・お浪 – 浅見美那    ・小妻の伝八 – 井上博一
・富治 – 椎谷建治   ・文助 – 草薙良一   ・花屋利兵衛 – 相馬剛三

※原作では、五郎蔵が初めて登場する。また五郎蔵の配下である文助が死病を病んでいるとの設定はなく、お浪も登場しない。

※舟形の宗平・・・大滝の五郎蔵と同様に元々は蓑火の喜之助配下の老盗賊であり、初鹿野の音松の盗人宿の番人をしていたところを捕まり、平蔵の人柄に心服して密偵となった。その後、本所の相生町で煙草屋を構えながら平蔵の探索に協力していたが、後に五郎蔵と義理の親子の盃を交しておまさと共に3人で暮らしている。

●第22話「金太郎そば」(原作:『にっぽん怪盗伝』)(1990年1月24日)(視聴率19.4%)
・お竹 – 池波志乃   ・藁馬の重兵衛 – 織本順吉   ・由松 – 潮哲也   ・伊太郎 – 山内としお
・ちゃり文 – うえだ峻   ・善助 – 灰地順   ・金屋伊右衛門 – 堺左千夫

※原作は『鬼平犯科帳』ではなく『にっぽん怪盗伝』から。当然だが本来は平蔵他の火付盗賊改方の面々は一切登場しない。このテレビ番組での“木更津の旦那”こと藁馬の重兵衛が、原作では鬼坊主清吉であり、彼はお竹に“川越の旦那”と名乗っている。また後に鬼坊主清吉は捕縛されて市中引き回しの上、品川の刑場で磔となるが、その際に辞世の歌を詠んで見物の町人達ちの喝采を浴びた(吉右衛門版ドラマでは、第4シリーズの第8話「海坊主の女」)。

※金屋伊右衛門役の堺左千夫(1998年3月11日没)は、初代シリーズの松本幸四郎版や萬屋錦之介版で密偵の伊左次を演じていた。

●第23話「用心棒」(1990年1月31日)(視聴率17.3%)
・高木軍兵衛 – ジョニー大倉    ・おたみ – 森口瑤子    ・文六 – 佐藤仁哉
・馬越の仁兵衛 – 江角英明   ・内儀・おわか – 松村康世   ・番頭・長吉 – 石浜祐次郎
・浪人・宮内 – 吉中六

※原作では、おたみや文六は登場しない。その為に、軍兵衛が州崎弁天社で浪人に絡まれたのは集金途中の文六の護衛をしているところではなく、暇な軍兵衛が散策に出掛けた折のこととなっている。また高木軍兵衛とお熊は知り合いであり、更に軍兵衛を脅迫するのは文六ではなく馬越の仁兵衛自身である。

※高木軍兵衛を演じていたロックロール・ミュージシャン(矢沢永吉らとキャロルを結成)のジョニー大倉は、2014年11月19日に亡くなった。

※高木軍兵衛・・・原作では、肥前・唐津藩の江戸藩邸詰めの藩士の息子として生まれた彼は、弱虫が故に幼い頃にはお熊によく助けられた。父の役目で唐津に戻った後に家督を継いだが、役目上の失敗で浪人となり諸方を放浪した結果、やがて江戸へ舞い戻る。鍾馗様の様な外見とは程遠く、見掛け倒しで弱虫な浪人の軍兵衛は、剣術の方もからっきしダメであった。その彼が盗賊の片棒を担がされそうになったところを平蔵に助けられる。以降は気分一新、坪井主水の道場に通って腕を磨いているという設定。劇画版では用心棒で入った商家の娘と恋仲になり、結婚後は武士を捨てて商人となった。

●第24話「引き込み女」(1990年2月7日)(視聴率15.6%)
・お元 – 高沢順子    ・佐兵衛 – 下塚諒    ・磯部の万吉 – 金子研三
・駒止の喜太郎 – 林彰太郎   ・長右衛門 – 有川正治

※原作では、お元は磯部の万吉に殺されるという悲惨な最後を迎えるが、このテレビ番組での結末は、ひとり旅立つお元を見送るおまさ、その二人の前に磯部の万吉が現われて危機一髪のところを同心・沢田小平次が救う。不承不承ながら結局、沢田もお元を見逃すというもの。また原作での大滝の五郎蔵とおまさは、既に夫婦となっている。

●第25話「雨の湯豆腐」(原作:『梅雨の湯豆腐』、短編集『殺しの掟』(『仕掛人・藤枝梅安』の原点))に収録(1990年2月14日)(視聴率16.4%)
・時次郎 – 清水健太郎    ・お照 – 黒田福美    ・上松の清五郎 – 辻萬長
・赤大黒の市兵衛 – 須永克彦   ・大工・為吉 – 新海丈夫   ・卯の木屋・藤右衛門 – 高桐真
・市助 – 日高久   ・宮沢要 – 大出俊

※原作は『鬼平犯科帳』ではなく『仕掛人・藤枝梅安』シリーズの原型となった『梅雨の湯豆腐』をもとにしており、従って鬼平犯科帳のレギュラー陣は登場しないので、この回のストーリーは大きく変更されている。梅安の相棒の彦次郎の湯豆腐好き、そして楊枝職人といった設定が受け継がれているが、名前は彦次郎ではなく時次郎に変更された。また彼はお吉とは恋仲ではなく、宮沢要も4年も前に斬り殺されている。

●第26話「流星」(スペシャル)(原作:『大川の隠居』・『流星』)(1990年2月21日)(視聴率18.6%)
・浜崎の友五郎 – 犬塚弘   ・沖源蔵 – 河原崎次郎   ・杉浦要次郎 – 伊東達広
・鹿山の市之助 – 南原宏治   ・籔原の伊助 – 花上晃   ・井上立泉 – 牧冬吉
・木下与平治 – 出水憲司   ・お仲 – 宮田圭子   ・生駒の仙右衛門 – 金田龍之介

※原作での同心・原田一之助の役が、このテレビ番組では小柳安五郎に代わっており、物語の最後で見事に妻の仇を討つ設定。また小房の粂八と一緒に盗人宿を発見するのは、原作では小柳安五郎ではなく「鶴や」の船頭・弁吉である。更に、浜崎の友蔵が登場する『大川の隠居』も併せてこの回の台本の下敷きとなっている。

※浜崎の友五郎・・・かつては盗賊・飯留の勘八の右腕であったが、若かりし頃の腕を活かして川越船頭となり別名を友蔵と言う。また粂八の師匠筋にも当たる人物。平蔵の評判に影響されて火盗改の役宅に侵入して平蔵の煙管を盗むが、赦されてその後は密偵として働いていた。だが、鹿山の市之助に勘八の遺児であり自分が面倒を見ていた庄太郎を人質にされ、心ならずも盗人の片棒を担がされてしまうが・・・。

※この回の友五郎(友蔵)役の犬塚弘(「ハナ肇とクレージーキャッツ」のメンバー)が好評だった。他作品ではとぼけた味のある役柄が多いが、この時は一本筋の通ったを盗賊/船頭の意地を好演している。

※井上立泉・・・平蔵とは父・宣雄の代から付き合いがある、芝・新銭座に住まう御典医(表御番医師)。かつて養母の波津と衝突して家を飛び出した若き日の平蔵を助けたこともあり、肝胆相照らす仲の人物。平蔵ら長谷川家の家族の健康管理はもとより、配下の者たちの病の治療や毒物の鑑定等と、火盗改の仕事をも手伝う。

※生駒の仙右衛門・・・大坂の大盗賊で別回で登場する掻掘のおけいの後ろ楯でもある。江戸への進出を図るが平蔵に尽く阻まれたあげくに、関東を縄張りとする鹿山の市之助と手を組んで再び配下の賊を江戸に送り込むが、ここでも平蔵に次々と捕縛される。そこで何としても平蔵に復讐をと考えるが、市之助が捕らえられたことをいち早く察知して逃亡を目指すが、大坂町奉行所の捕り手に捕縛された。

 

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第2シリーズ(1990年4月4日 – 1991年3月27日、フジテレビ系 水曜20時台時代劇枠)

●スペシャル「殿さま栄五郎」(1990年4月4日)(視聴率16.0%)
・火間虫の虎次郎 – 中谷一郎   ・長沼の房吉 – 高橋長英   ・五条の増蔵 – 和崎俊哉
・牛堀の参次 – 橋本功    ・勢多の幸松 – 原田清人    ・おりき – 鳳八千代
・鷹田の平十 – 長門裕之

※原作では、鷹田の平十に栄五郎を紹介するのは馬蕗の利平冶だが、このドラマには利平治は登場せず小房の粂八がその代役を務める。また栄五郎に扮した平蔵が牛堀の参次の牢抜けに手を貸すシーンもない。

※鷹田の平十役の長門裕之(2011年5月21日没)が、時代の変化を嘆く老盗賊の寂しさをよく表現。また、平十の女房・おりきを演じた鳳八千代も好演である。

●スペシャル「雲竜剣」(1990年10月3日)(視聴率14.9%)
・お妙 – 南條玲子   ・助次郎 – 藤木悠   ・堀本伯道 – 露口茂   ・堀本虎太郎 – 中康治

※この吉右衛門版テレビ番組で、平野屋源助(引退した盗賊の首領。芝・久保の扇屋の主人で密偵)が登場せずに代わりを大滝の五郎蔵が務め、岸井左馬之助も登場しない。また原作では、常陸の藤代に探索に向かうのは左馬之助と沢田同心、そして五郎蔵の三人組だが、このドラマでは沢田と粂八が行っている

※更に原作で活躍する同心・吉田藤七(最年長の同心で、後に木村忠吾の岳父となる)は番組オリジナルのキャラクターと言ってもよい「猫どの」こと村松忠之進に入れ替わっているので、木村忠吾が言い寄るのも村松の娘・おとくに変更されている。そして原作とこのテレビ番組での最大の変更点は、橘屋の女中・お妙が堀本虎太郎の情婦である点だ。

※堀本伯道・・・かつて平蔵の剣術の師匠であった高杉銀平と、真剣にて立ち合いをして引き分ける程の剣の達人で、自ら考案した「雲竜剣」(剣を体のうしろ下段に置く独特の構えが特徴的で、対戦相手には剣筋が見え難い)の遣い手である。その後、医術を学び医師となるも病人や貧しき者の為には多くの金が必要と感じ、盗人となって裕福な商家や寺社から盗んだ金銭を病者と貧者を救うことに費やす異色の盗賊となった。やがて実子の虎太郎の非道な行いを知り、自ら成敗しようとするも返り討ちに遭い亡くなる。ちなみに、池波の別途の長編小説『旅路』(若い女性が夫の仇討ちをする物語)にも彼は登場する。

※堀本虎太郎・・・堀本伯道の子で、父親譲りの必殺の剣技「雲竜剣」を遣う盗賊剣客。しかし、父の教え(本格派の盗みの道)に反して悪逆非道な急ぎ働きに走り、また平蔵ら火盗改を欺くために連続暗殺事件を起こす。だが父子相伝の雲龍剣の闘いの結末は、父の伯道を返り討ちにした子の虎太郎に上がるが、その後、捕えに来た平蔵に討たれた。

●第1話「おみね徳次郎」(1990年10月17日)(視聴率17.1%)
・徳次郎 – 峰竜太    ・おみね – 宮下順子    ・法楽寺の直右衛門 – 小松方正
・名草の嘉平 – 今福将雄   ・佐倉の吉兵衛 – 中井啓輔

※原作では徳次郎は網切りの甚五郎の手下だが、このテレビ番組での頭は西浜の甚衛門となっている。また原作では、徳次郎とおみねは物語の最後で結ばれない。その為、平蔵に捕らえられたふたりのその後に関しては、原作では特に触れていない。

※法楽時の直右衛門を演じた小松方正(2003年7月11日没)が、やはりハマリ役。薄笑いを浮かべながら、弱い者いじめをする悪徳商人などの演技は得意中の得意なのだろう。

●第2話「むかしの女」(1990年10月24日)(視聴率15.5%)
・おろく – 山田五十鈴    ・おもん – 浅利香津代    ・大丸屋万吉 – 近藤洋介
・井原惣市 – 田中浩

※原作にはおろくが密偵となる場面はない。また番組のラストにおろくは姿を消した形だが、原作では雷神党の手で殺されている。尚、松本幸四郎版でも無惨にも殺害された。更に原作では、岸井左馬之助が事件の解決に絡む。またテレビで浅利香津代が演じたおもんは、原作よりだいぶ若い設定の様だ。

※お六役の山田五十鈴は、1993年1月13日放映の第4シリーズの第4話「正月四日の客」にも出演して得意の三味線を披露している。

●第3話「白い粉」(1990年10月31日)(視聴率16.9%)
・勘助 – 左とん平   ・おたみ – 甲斐智枝美   ・霞の小助 – 勝部演之   ・六蔵 – 三上真一郎
・駒羽の七之助 – 北村英三

※原作の冒頭では平蔵が仲人となり、岸井左馬之助とお靜、五郎蔵とおまさの2組の祝言が行われるが、テレビ番組の方ではこの場面を一切をカットして、代わりに平蔵が襲撃される場面を追加している。その他の筋立てはほぼ原作通りだが、料理の献立が原作とは異なる様だ。

●第4話「托鉢無宿」(1990年11月7日)(視聴率17.3%)
・菅野伊介 – 深水三章   ・羽沢の嘉兵衛 – 睦五朗   ・古河の富五郎 – 五味龍太郎
・寝牛の鍋蔵 – 江藤漢   ・鹿川の惣助 – うえだ峻   ・井関録之助 – 夏八木勲

※一説には放送禁止用語を避ける為にか、題名を「托鉢無宿」(原作は『乞食坊主』)に替えている。また録之助が小猫を可愛がるシーンはテレビ番組のオリジナル

●第5話「五年目の客」(1990年11月14日)(視聴率16.0%)
・お吉(喜蝶) – 波乃久里子   ・江口の音吉 – 中山仁   ・忠兵衛(丹波屋の主人) – 奥村公延
・お菊(八重菊) – 大橋芳枝   ・巽の源兵衛 – 中村孝雄

※この回のテレビ番組は原作とは異なり、お吉の喜蝶時代から始まり、また夫の丹波屋源兵衛の名が忠兵衛に変更されている。原作で聞き込みを行ったのは岸井左馬之助であるが、テレビ番組では小房の粂八になっている。更に、お吉が五十両をなんとか工面して音吉に過去のことを清算して欲しいと懇願するシーンは原作にはない。また、お吉が最後に行方知れずになるのもテレビ番組独自の展開だ。

●第6話「雨引の文五郎」(1990年11月21日)(視聴率19.6%)
・雨引の文五郎 – 目黒祐樹    ・五丁の勘兵衛 – 浜村純    ・落針の彦蔵 – 樋浦勉
・伊助 – 関根大学

※原作では落針の彦蔵を牢抜けさせる五丁の勘兵衛の役どころは、舟形の宗平である。その為に物語の最後で死亡することはない。また原作での平蔵はこの時点では未だ文五郎を敵視しており、平蔵が文五郎を信頼するのは『犬神の権三』以降となる。

※雨引の文五郎・・・かつては西尾の長兵衛の右腕だったが、長兵衛の死後は後を継がず一人働きで「隙間風」の異名をとった神出鬼没の盗賊。火盗改方の探索をかわしながら江戸を離れる際は自らの人相書きを平蔵に送りつけ挑発するほどの人物。一味のライバルであった落針の彦蔵との抗争の末に密偵となるが、恩のあった犬神の権三郎を脱獄させた責任を取って自害する。

●第7話「猫じゃらしの女」(1990年11月28日)(視聴率16.8%)
・およね – 池波志乃    ・卯之吉 – 三ツ木清隆    ・彦蔵 – 津村鷹志
・伊勢野の甚右衛門 – 玉川伊佐男

※原作では後日談として、およねがお市の娘であることや伊三次との関係が描かれている。また鍵師の卯之吉は原作では脇役で、更に卯之吉が伊勢野の甚右衛門を裏切った理由もテレビ番組のオリジナルである。

●第8話「盗賊二筋道」(1990年12月5日)(視聴率17.6%)
・高萩の捨五郎 – 菅原謙次   ・寺尾の治兵衛 – 西山嘉孝   ・蛇の仁吉 – 片桐竜次
・篭滝の太次郎 – 石橋雅史

※このテレビ番組の脚本には、原作の『高萩の捨五郎』と『寺尾の治兵衛』の内容が併せて盛り込まれている。番組では寺尾の治兵衛は高萩の捨五郎を籠滝の太次郎に周旋した口合人だが、原作では捨五郎を篭滝の太次郎に紹介したのはある口合人としか示されていない。また原作の『寺尾の治兵衛』では、大滝の五郎蔵に助っ人を依頼するところから物語が始まる。更に原作では、最後に寺尾の治兵衛を殺すのは蛇の仁吉(原作では登場しない)ではなく(発狂して軟禁されていた)御家人・小坂金次郎である。

※高萩の捨五郎役の菅原謙次の評判が高かかった。ひとつ筋の通った、本格の盗賊らしい風格があった。原作には登場しない蛇の仁吉は片桐竜次が演じたが、こちらは逆に、悪党らしい冷ややかな態度がうっすらと漂っていて、良い。

※高萩の捨五郎・・・盗人の掟を頑なに守る本格派の盗賊で、密偵・相模の彦十とも旧知の仲である。義侠心に富み、無礼討ちにされそうになった子供を庇って足を斬られ、その後、後遺症が残ったが、手作りの杖を賜った平蔵に心服し、密偵となる。

※寺尾の治兵衛・・・もと蓑火の喜之助の配下の盗賊で、後に口合人となった。ひとり娘の嫁入り支度の為に生涯最後の頭としての本格働きを目論んで、大滝の五朗蔵とその配下に化けた平蔵の助けを受けて準備を進めるが、決行直前に狂人により殺害される。

※原作『高萩の捨五郎』では、相模の彦十は捨五郎に平蔵のことを長谷川伝九郎と紹介する。

●第9話「本門寺暮雪」(1990年12月19日)(視聴率16.4%)
・井関録之助 – 夏八木勲   ・名幡の利兵衛 – 草薙幸二郎   ・凄い奴 – 菅田俊
・白縫の伝八 – 多々良純

※このテレビ番組では、名幡の利兵衛が“凄い奴”を伴って江戸へやって来る。そして利兵衛が訪ねた白縫の伝八や大滝の五郎蔵は原作には登場しないし、当然ながら五郎蔵の立ち回りシーンも見られない。

※対決の場となる池上本門寺の場面だが、実際のロケ現場は光明寺(京都府長岡京市粟生にある寺院で西山浄土宗の総本山)にある石段で行われた。ちなみに実際の池上本門寺には、あの様な立派な石段は存在しない。

●第10話「女賊」(1991年1月23日)(視聴率16.3%)
・瀬音の小兵衛 – 花沢徳衛   ・おすみ – 野平ゆき   ・幸太郎 – 黒田隆哉
・勝四郎 – 伊藤高   ・猿塚のお千代 – 沢たまき

※原作では、幸太郎は自分の親が盗人だとは知らない。また平蔵が幸太郎の無責任さを叱責するのはテレビ番組オリジナルの演出であり、原作のラストでは小兵衛親子のその後が描かれている。

※原作の末尾では、京都に上る途中の平蔵が東海道・岡部の宿で小間物屋を営んでいる小兵衛と幸太郎の父子、川口屋のおすみ・お米の母子と邂逅するシーンが描かれている。

●第11話「四度目の女房」(原作:『にっぽん怪盗伝』)(1991年1月30日)(視聴率16.9%)
・伊之松 – 西岡徳馬   ・おふさ – 森口瑶子   ・利三郎 – 中田浩二   ・仁吉 – 花上晃
・おせい – 入江若葉

※原作は『鬼平犯科帳』シリーズではない。『にっぽん怪盗伝』の中の短編であり、伊之松の四度目の女房の名はおまさだが、密偵のおまさとの混同をさける為におふさに変更となっている。また利三郎は原作では単なる薬種問屋の主人であり、テレビ番組の様に伊之松の頭という設定ではない。

※更に原作の伊之松の最期・ラストもテレビ番組とは異なり、おふさも無惨に殺されているが、テレビ版では彼女は死んでおらず、なおも亭主の帰りを待つ形で終わる。

●第12話「雨乞い庄右衛門」(1991年2月6日)(視聴率16.6%)
・雨乞い庄右衛門 – 田村高廣   ・神楽の市之助 – 小野進也   ・勘行の定七 – 石山雄大
・破目の伊太郎 – 富川澈夫   ・お照 – 朝比奈順子

※原作での雨乞い庄右衛門は、旅先で岸井左馬之助に看取られて客死する。破目の伊太郎もそれほど重要な役柄ではなく、冒頭でお熊と共に仲間の盗賊に殺されてしまう。

※田村高廣演じる雨乞い庄右衛門が、番組ラストの方で裏切った手下の元へ一人で斬り込む場面は、原作には無いが、鬼気迫る見所との評が多い。

※雨乞い庄右衛門・・・もともと夜兎の角右衛門の配下であった大盗。原作では最後の盗みを前に湯治をしていたが、子分から裏切りを受けて襲撃される。一旦は岸井左馬之助により助けられたが、心臓の具合が悪化して病死してしまう。死の間際に自身の素性と裏切った子分の居所を左馬之助に伝えた。

●第13話「密告」(1991年2月13日)(視聴率17.1%)
・伏屋の紋蔵〈横山小平太〉 – 沖田浩之   ・久兵衛 – 村田正雄   ・三右衛門 – 北村光生
・お百 – 光本幸子

※原作では、平蔵がお百と再開して食事をする場面はない。

※お百役の光本幸子(2013年2月22日没)は、第4シリーズ第8話「鬼坊主の女」でお栄を演じている。

※伏屋の紋蔵・・・木更津を本拠として安房や上総、下総、そして常陸国を縄張りにした笹子の長兵衛の義理の息子である。原作では長身で浅黒い肌、きりっとした顔つきとされている。

●第14話「夜狐」(原作:『殺しの掟』)(1991年2月20日)(視聴率16.4%)
・夜狐の弥吉 – 江藤潤   ・おやす – 芦川よしみ   ・井坂孫兵衛 – 沢竜二
・近藤監物 – 根上淳   ・満寿子 – 佐野アツ子

※原作は鬼平シリーズではなく、短編集『殺しの掟』に収録された『夜狐』をもとにしたテレビ番組のオリジナル。その為、平蔵が用心棒として弥吉を助ける場面はない。また強請(ゆすり)を企てるのは弥吉本人となっており、腕に自信のない彼が居酒屋「三河や」亭主の伝蔵に紹介された助っ人が井坂孫兵衛で、それまで両者には面識はなかったという設定。

※夜狐の弥吉・・・彼は阿呆烏(アホウドリ、ポン引き・無店舗の女郎屋!?)だったが、大名家の跡目争いに関わる謀殺事件を目撃したことから強請りをもくろみ、浪人に変装した平蔵に用心棒を依頼する。このテレビ番組では謀殺事件解明のきっかけとなったことで極刑は免れたが、百叩きの刑に処された。

●第15話「霧の朝」(1991年2月27日)(視聴率17.6%)
・桶屋の富蔵 – 平田満   ・おろく – 二木てるみ   ・吉造 – 石丸謙二郎   ・おきね – 小鹿みき

※原作の冒頭で平蔵と共に事件にかかわるのは細川峯太郎である。また、雨の中、桶屋の女房・おろくが幸太郎の無事を祈ってお百度参りするシーンも原作にはない。またこの回では平蔵自らは刀を抜かないが、井関録之助(夏八木勲)が犯人捕縛に活躍するのは原作と同じだが、同心・沢田小平次の出番はテレビ番組のみのオリジナル。

※吉造役の石丸謙二郎は、結構色々な役でこの吉右衛門版に登場するスーパーサブ的な役者。

●第16話「白と黒」(1991年3月6日)(視聴率15.6%)
・もんどりの亀太郎 – ベンガル   ・お紋 – 浜田朱里   ・お今 – あべ静江

※原作には、亀太郎の隠し金を姉妹が狙うというエピソードはない。また彼が左腕が不自由なのもテレビ番組オリジナルの設定。また原作では彼女たちは姉妹ではなく泥棒仲間であり、タイトルの『白と黒』は、お紋(原作ではお仙)の色白い肌と、お今の浅黒いの肌の対比から。

※『広辞苑』によると「もんどり」とは、「もんどり【翻筋斗】(モドリの撥音化)身を倒(さかさ)にかえして立つこと。とんぼがえり。もうどり。」とある。

●第17話「春の淡雪」(1991年3月13日)(視聴率17.7%)
・大島勇五郎 – 中村浩太郎   ・雪崩の清松 – 平泉成   ・平瀬の又吉 – 森下哲夫
・日野の銀太郎 – 椎谷建治   ・池田屋五平 – 中村又五郎

※原作での同心・大島勇五郎は、女のように色白で大人しくて、気も弱く剣術も出来ない男として描かれているまた原作で雪崩の清松と日野の銀太郎に関する情報を平蔵にもたらすのは、『穴』の事件以降、火盗に協力している扇屋の番頭の茂兵衛であったが、このテレビ番組では登場しない。茂兵衛の役どころはおまさと大滝の五郎蔵が務めている。

※大島勇五郎・・・火盗改の同心。気が弱く剣術もダメだが、尾行や聞き込みには優れている。博打の借金のかたに、自分の配下の密偵・雪崩の清松から盗賊へと引き込まれてしまうが、最後にはことが露見して自害して果てた。

●第18話「下段の剣」(1991年3月20日)(視聴率16.1%)
・松岡重兵衛 – 江原真二郎   ・長谷川辰蔵 – 長尾豪二郎   ・牛久の小助 – 井上昭文
・不破の惣七 – 宮内洋   ・お歌 – 斉藤絵理

※原作は『泥鰌の和助始末』である。第1シリーズ第15話の「泥鰌の和助始末」は、池波の原作から和助のエピソードだけを抜き出した話だが、本作は松岡重兵衛のエピソードが中心だる。その為、泥鰌の和助は登場せず、代わりに松岡重兵衛の相棒には牛久の小助があたる。また原作にはないが、このテレビ番組では辰蔵と松岡重兵衛の立ち会いのシーンがあるが、原作では辰蔵が松岡の剣に憧れることもなく、剣を合わせることもない。

※松岡重兵衛役の江原真二郎の演技が、実直な雰囲気が伝わって好演。

※松岡重兵衛・・・かつて高杉銀平道場の食客をしていた剣客。若かりし頃の平蔵や岸井左馬之助の兄貴分で、二人の面倒をよくみた。平蔵と再会した時には泥鰌の和助一味に加わっており、一味の仲間割れに巻き込まれて殺害された。

●スペシャル「熱海みやげの宝物」(1991年3月27日)(視聴率15.3%)
・高橋九十郎 – 伊藤敏八   ・横川の庄八 – 鶴田忍   ・長助 – 小島三児
・板垣軍次郎 – 堀田真三   ・赤井助右衛門 – 早崎文司   ・小沼の富造 – 高峰圭二
・与惣松 – 広瀬義宣   ・念仏 – 伴勇太郎   ・次郎吉 – 日高久
・馬蕗の利平次 – いかりや長介

※テレビ版と原作では細かなストーリーに幾つか差がある。例えば原作では、江戸に向けて下る時、相模の彦十は一旦は横川の庄八の跡をつけて平蔵や馬蕗の利平次と別行動となり、小八幡の茶店で飯を食う場面にはいない(駕籠を使い藤沢の宿手前で追いつく)。江戸の火盗改方に火急の知らせをするのも、先行して戻っていたおまさが藤沢の宿から飛脚で手紙を送っている。平蔵たちが横川の庄八らに襲われるのも、程ヶ谷宿の手前の権太坂近辺である。

※原作では、平蔵を手助けに来た佐嶋与力の一行と小田原藩の役人たちとのコミカルなエピソードはなく、最終的に馬蕗の利平次は自首して盗賊を廃業する。また二代目高窓の久太郎は扇屋の女あるじ・お峰の娘であるお幸と夫婦同然の暮らしをしており、盗賊から足を洗っていて最後まで死ぬことはない。更に、お峰と馬蕗の利平治が好い仲であったという話も、テレビ番組では描かれていない。

※テレビ番組では、平蔵が利平治の嘗帳のありかをずばり言い当てるが、原作ではラスト近くで利平治が自ら平蔵に差し出した。また嘗帳も実の姉ではなく、赤の他人である小八幡の茶店の夫婦に預けてあった。

※平蔵の旅先での偽名は、同心・木村忠吾をもじった儒者・木村忠右衛門である。

※馬蕗の利平次役のいかりや長介と、相模の彦十役の の掛け合いが抜群で、老優の老盗が老友として“のほほん”と絡む姿は観ていて心が和む。

※馬蕗の利平次・・・馬蕗とは牛蒡の異称であり、その名の通りに手足が細く長く色黒の容姿である。元は上方の高窓の久五郎一味の嘗役で、相模の彦十とは旧知の間柄である。しかし後に妙義の團右衛門に密偵であることを見破られて、殺害されてしまう。だが、テレビ番組では殺されるのは高萩の捨五郎に変更となっていた。

※『広辞苑』によれば、馬蕗(うまぶき)とは牛蒡(ごぼう)の古名である。

 

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第3シリーズ(1991年11月20日 – 1992年5月13日、フジテレビ系 水曜20時台時代劇枠)

●第1話「鯉肝のお里」(1991年11月20日)(視聴率23.2%)
・長虫の松五郎 – 垂水悟郎   ・岩吉 – 安藤一夫   ・大根屋 女房 – 石井富子
・新助 – 山内としお   ・徳次郎 – 島英臣   ・鯉肝のお里 – 野川由美子

※原作では鯉肝のお里の張り込みをするのは五郎蔵とおまさのコンビだが、テレビ番組ではおまさの相手役は相模の彦十であったので、特に色っぽいことは何も起こらない(笑)。

※鯉肝のお里・・・流れ盗めのしたたかな女賊。お盗めの分け前で江戸で遊んでいた際に火盗の監視に引っ掛かり、その後、水戸にある白根の三右衛門のもとに向かったところを三右衛門一味とと共に捕縛され、遠島となる。

●第2話「剣客」(1991年12月4日)(視聴率18.8%)
・石坂太四郎 – 中尾彬   ・留吉 – 江幡高志   ・定八 – 石橋正次 ※劇中では定七  
市兵衛 – 大橋壮多   ・松尾喜兵衛 – 丘路千

※原作では、同心・酒井祐助ではなく、沢田小平次の仇討ち物語。軍鶏鍋にまつわるやりとりは原作では平蔵と「五鉄」の亭主・三次郎の間でなされる。またテレビでは原作には登場しない久栄も姿を見せている。

※石坂太四郎役は中尾彬が好演。ふてぶてしい面構えが、捻くれた浪人の性格にマッチしている。

※石坂太四郎・・・無頼者で、沢田小平次の師・松尾喜兵衛との試合で敗北し、仕官の道を絶たれたことを恨んでいた。江戸で松尾を見かけて殺害したが、沢田に仇を討たれる。

●第3話「馴馬の三蔵」(1991年12月11日)(視聴率19.7%)
・馴馬の三蔵 – 金内喜久夫  ・お紋 – 伊藤美由紀  ・瀬田の万右衛門 – 高野真二

※原作には、小房の粂八と鮫洲の市兵衛との出会いや因縁話を描いたシーンはない。また、最後に粂八が瀬田の万右衛門を捕縛するところはテレビ独自のストーリー。

※馴馬の三蔵・・・小房の粂八の知人の一人働きの盗賊。自分の女房を殺した瀬田の万右衛門を討ち取ろうとするが失敗し、粂八に真相を打ち明けた後に死亡してしまう。

●第4話「火付け船頭」(1991年12月18日)(視聴率18.9%)
・常吉 – 下條アトム  ・おさき – 竹井みどり  ・西村虎次郎 – 伊藤敏八  ・久助 – 北見治一

※原作では、常吉は『大川の隠居』に出ていた浜崎の友五郎の船頭仲間という設定である。また常吉は原作に比べるとおとなしい男として描かれており、彼に対する処罰も原作とドラマでは異なる。更に口合人の塚原の元右衛門がこのテレビ番組には登場しない上、ドラマでのおさきの名前も原作ではおときである。

※優柔不断で善悪の区別がつかない男(常吉)を下條アトムが好演。

●第5話「熊五郎の顔」(原作:『にっぽん怪盗伝』)(1992年1月22日)(視聴率17.0%)
・信太郎 / 洲走の熊五郎 – 高橋長英  ・和泉屋治右衛門 – 高城淳一  ・由松 – 岡田一恭
・お延 – 音無美紀子

※原作は『鬼平犯科帳』シリーズではない。原作は短篇集『にっぽん怪盗伝』に収録された同名小説で、『鬼平犯科帳』の時代より半世紀ほど前の享保16年(1731年)という設定。その為、平蔵ほかの火盗の面々は登場しない。原作の和泉屋治右衛門は何かとお延母子の世話を焼くいい人だが、このテレビドラマでは財力と地位にものをいわせてお延を囲い者にしようとする卑劣な人物として描かれている。また洲走の熊五郎は原作では山猫三次と共に雲霧仁左衛門の手下で、羽黒の丁右衛門一味ではなく、火付盗賊改方の長官も向井兵庫である。

●第6話「いろおとこ」(1992年1月29日)(視聴率17.8%)
・寺田又太郎 / 源三郎 – 鷲生功    ・鹿熊の音蔵 – 浜田晃    ・おせつ – 山下智子
・市兵衛 – 中井啓輔   ・お篠 – 山本郁子   ・矢島孫九郎 – 堀田真三
・松倉の清吉 – 伊藤高

※寺田原三郎は、原作での名前は金三郎といい沢田小平次と肩を並べるほどの腕前でる。また原作では、源三郎とおせつの男女の関係についての描写はない。このテレビ番組では相模の彦十とおまさの二人が原三郎の足取りを追うが、原作では彦十ひとりが「五鉄」から居酒屋「山市」迄追いかける更にテレビで亡兄の妻であるお篠の懐妊(原三郎の子)を看破したのは同心・木村忠吾だが、原作では寺田と同じ組屋敷に住む与力・佐嶋忠介となっている。

※山下智子演じるおせつは、ただただひたすら薄幸で要領が悪い、男運のない女である。

※ 居酒屋「山市」での張り込みの時(原作では、同心の酒井と五郎蔵、彦十の三人組)、「五鉄」の三次郎が差し入れる重箱弁当が美味そうである。

※寺田原三郎・・・火盗の同心で、同じく同心で盗賊(鹿熊の音蔵)に殺害された兄の又太郎の件を探索している。沢田小平次と同等の剣の腕前を持つ念流の遣い手だが、鹿熊の音蔵が放った刺客に奇襲を受けて重傷を負う。音蔵の事件の後、御役御免を申し出て平蔵のはからいで義姉と結婚することとなる。

●第7話「谷中いろは茶屋」(1992年2月5日)(視聴率14.4%)
・お松 – 杉田かおる    ・乙吉 – 松山照夫    ・お徳 – 正司花江
・墓火の秀五郎 – 長門裕之

※ドラマでは墓火の秀五郎と同心・木村忠吾が「いろは茶屋」で酒を酌み交わす場面があり、お互いを「川越の古狸」、「兎忠」と呼び合う。しかし原作では、この二人が語り合うことはなく、当然、ラストのシーンもない。すなわち墓火の秀五郎と忠吾が対面することはなく、忠吾にとって「川越の旦那」の正体は最後まで謎のままである。

※墓火の秀五郎役の長門裕之がいい。「川越の旦那」の時は大店の主(あるじ)風の鷹揚なお大尽様だが、盗賊の頭となる場面では貫禄充分の強面親分となる演技で魅せた。

※原作は、同心・木村忠吾の初登場作である。書類作成の仕事から小柳安五郎のピンチヒッターで市中(上野・谷中)見廻りとなるが、また役所詰の内勤となったことが切っ掛けで(黒装束姿の)墓火の秀五郎一味に遭遇、後の手柄に繋がる。またシリーズ中で屈指の“鬼平”の名言「人間というやつ、・・・」がこの編の後半で聞ける。

●第8話「妙義の團右衛門」(1992年2月12日)(視聴率16.9%)
・妙義の團右衛門 – 財津一郎   ・鳥居松の伝七 – 江藤漢   ・竹造 – うえだ峻
・沼田大七 – 千波丈太郎   ・高萩の捨五郎 – 菅原謙次

※原作の馬蕗の利平治がテレビ番組では高萩の捨五郎に代わっているが、平蔵から手作りの枇杷(びわ)の木の杖を贈られた捨五郎と“鬼平”の絆が活きている。だが本来、捨五郎は嘗役ではなく一人ばたらきの盗賊なので、名うての嘗役であった馬蕗の利平治が適役であることは間違いない。また利平治の場合は弁多津から火盗改の役宅へ戻るところを尾行されて密偵であることがばれるが、テレビドラマでの捨五郎は「五鉄」に戻っていく。また原作では、利平治を惨殺した妙義の團右衛門に対して平蔵は、ラストでその鼻を切り落とす程の憤りを見せる。

※妙義の團右衛門役の財津一郎は、この人が本来の持っている雰囲気を活かして女好きの盗賊を巧みに演じている。

※妙義の團右衛門・・・北信越を股にかける巨盗の首魁。還暦の肥って血色の良い、6尺近い大男である。馬蕗の利平冶が密偵であることを見破り殺害した上で江戸から逃亡した。しかし常に好色であり、昔馴染みの女郎・お八重がいる水茶屋(愛宕権現、女坂上の水茶屋)に再び現れたところを、かねてよりお八重を見張らせていた利平治の復讐に燃える平蔵の斬撃(鼻を切り落とされる)を受けた上で捕縛される。

●第9話「雨隠れの鶴吉」(1992年2月19日)(視聴率18.4%)
・鶴吉 – 石原良純   ・万屋源右衛門 – 織本順吉   ・お民 – 早野ゆかり

※原作では、鶴吉夫妻と万屋源右衛門(鶴吉の実父)を引き合わせるのはお元(鶴吉の乳母)だが、テレビドラマでは井関緑之助に変更されている。

※残念ながら鶴吉役の石原良純については、その演技について大方からの評はいまいちであったが、演技力があれば今でも俳優業を続けていただろうし、本人は気象予報士でタレント、並びに石原慎太郎の倅で裕次郎の甥、ということで充分満足しているのだろう(笑)。

※雨隠れの鶴吉・・・中国筋から上方へかけて盗みを働く釜抜きの清兵衛の子飼いの手下。女房のお民も女盗賊である。稲荷の百蔵一味に繋がる情報を井関緑之助に伝えた後、この夫婦は江戸を去る。ちなみに、この「雨隠れ」のネーミングについては原作者の池波先生も、引き込み上手の盗人にふさわしい名前としてお気に入りだったそうだ。

●第10話「網虫のお吉」(1992年2月26日)(視聴率15.4%)
・黒沢勝之助 – 磯部勉    ・網虫のお吉 – 風祭ゆき    ・歌川清三郎 – 佐原健二
・志村軍造 – 山本昌平

※黒沢勝之助と網虫のお吉の関係を見つけたのは原作では小柳安五郎だが、このテレビ番組では木村忠吾になっている。また吉右衛門版では黒沢同心に対して平蔵が温情をかけてやるが、原作では敢えて厳しく接する(切腹となる)。

※網虫のお吉・・・名うてのお頭も鼻毛を抜かれるという毒婦であるが、男の運命を狂わせた女の業はいかばかりか。ちなみに、網虫とは蜘蛛の異称である。

●第11話「夜鷹殺し」(1992年3月4日)(視聴率17.1%)
・川田長兵衛 – 中野誠也

※テレビ番組では、囮として夜鷹に扮したおまさに木村忠吾が声を掛ける。また原作では、平蔵が自ら夜鷹殺しの犯人探しに乗り出すが、吉右衛門版では殺された夜鷹の知人であった相模の彦十に依頼されてという設定に変わっている。またテレビ番組では夜鷹の殺し方が幾分ソフトな描写に変更されている。

※川田長兵衛・・・ 家禄2百俵の旗本で書物奉行。息子の宗太郎が岡場所の女郎と心中したことで 、夜鷹を恨んでいた。

●第12話「隠居金七百両」(1992年3月11日)(視聴率19.3%)
・お順 – 浅野愛子    ・阿部弥太郎 – 坂詰貴之    ・奈良山の与市 – 小野武彦
・松浦与助 – 小島三児   ・薬師の半平 – 中田浩二   ・孫吉 – 多賀勝
・堀切の次郎助 – 芦屋雁之助

※原作では次郎助は与市に殺されるのではなく、腸捻転で死亡する。また奈良山の与市に襲撃されるのは辰蔵ではなく阿部弥太郎であり、これを助けるのも酒井同心ではなく平蔵本人。更に隠居金のありかはお順の口から語られるのではなく、後に平蔵が次郎助の立場になって考えて突き止めた。

※堀切の次郎助・・・引退して鬼子母神境内の茶屋「笹や」の主になっているもと盗賊。白峰の太四郎の右腕だったがその太四郎の隠居金を預かったところ、その金を奈良山の与市に狙われる。次郎助の娘であるお順に平蔵の息子・辰蔵が熱をあげたことから、辰蔵と彼の悪友の阿部弥太郎が事件に巻き込まれていく。

●第13話「尻毛の長右衛門」(1992年3月18日)(視聴率17.2%)
・布目の半太郎 – 堤大二郎   ・おすみ – 水野真紀   ・尻毛の長右衛門 – 小林昭二
・塚原の元右衛門 – 穂高稔

※この吉右衛門版のドラマでは、おまさに諭されたおすみは改心して、平蔵のはからいでそのまま商家で働くことになる。また原作では口合人は鷹田の平十であるが、この番組では塚原の元右衛門となっている。更に、テレビ番組のラストで久栄が口にする「若い女には、誰にでもおすみのような激しさがある。ただ、それを表に出すかどうかは人それぞれ」は、原作ではおまさの台詞だ。

※布目の半太郎・・・もとは蓑火の喜之助に仕込まれたが、その後は本格派の盗賊・尻毛の長右衛門の配下のつなぎ役。原作では引き込み役のおすみと深い仲であったが、親分の長右衛門におすみを後添にしたいと打ち明けられた後に、一味から抜けて上州へ向かう途上の両国橋の上で薩摩藩士と揉め事を起こして惨殺された。

●第14話「二つの顔」(1992年3月25日)(視聴率17.0%)
・与平 – 花沢徳衛    ・おはる – 宮沢美保    ・おろく – 工藤明子
・神崎の倉治郎 – 田中浩   ・夜ぎつねの富造 – 坂本長利

※原作では平蔵が腹痛の岸井左馬之助を見舞うが、ドラマでは風邪をひいた相模の彦十を見舞い、女難の相が顔に出ていると言われてしまう。また、このドラマでのおはるは、原作ではおみよという名前で、妹の他に弟もいる。両親の病は労咳、母は既に死亡していた。彦十から指摘された平蔵の女難の相の件、またおはるを長屋から連れ出すのに忠吾が癪(腹痛)を装うのもドラマのオリジナルである。更に、神崎の倉治郎と夜ぎつねの富造の顔の特徴も、テレビ番組ではもみあげのところの刀傷とされているが、原作では先天的な「兎唇(みつくち)」という唇の裂け目のことである。

※テレビドラマのラストで、鬼子母神界隈で夫婦でみやげ物屋を営んでいる富造と、来店した平蔵とが声を交す。昔の喧嘩相手だった平蔵ではないかと尋ねられるが、違うと答えた平蔵はススキで作ったミミズクを一つを買い求めると釣りは取っておけと言って嬉しそうにその場を立ち去るのだった。これに対して原作では、鬼子母神の参道でたまたま前を通り過ぎていく、年老いて丸くなった富造とその妻を見かけた平蔵の感慨が語られている。

※早々と殺されてしまう与平を演じた、花沢徳衛(2001年3月7日没)の存在感が抜群である。

●第15話「炎の色」(スペシャル)(原作:『炎の色』・『誘拐』)(1992年4月1日)(視聴率15.4%)
・峰山の初蔵 – 新田昌玄   ・袖巻の半七 – 花上晃   ・神谷勝平 – 立花一男
・平山清三郎 – 草見潤平   ・牛子の久八 – 出水憲司   ・荒神のお夏 – 池内淳子

※原作とテレビ番組との決定的な差は、原作では荒神のお夏の年齢が25歳と若い設定で、荒神の助太郎の女房ではなく隠し子であること。そしてこのことは、仲間に誘われる以前に乙畑の源八からおまさは聞いていた。また荒神のお夏は、テレビ番組では畜生働きを嫌い本格を守ろうと思っているが、原作での彼女は仕方がないと納得していて、盗賊宿に火を放つこともない。更にテレビでは、平蔵の妹・お園と夜鴉の仙之助が登場しない。更に荒神のお夏には、密偵・おまさと同年代の自殺した妹がいたことで、この番組では彼女のおまさへの姉妹愛が描かれている。尚、番組後半は特別長篇『誘拐』の内容を下敷きに展開するが、原作が未完の為に結末はテレビ番組のオリジナルである。

※原作では流石に長編の為か、“鬼平”一家総動員の様相で、密偵や平蔵に協力する剣客たちも過去作から多くの者が登場している

※この回は、原作の流れからおまさと荒神のお夏の“女の絆”の物語であるが、ある人曰く、池波“鬼平”シリーズのもう一人の主人公はまさに「おまさ」であり、そこには彼女の成長ストーリーがあるそうだ・・・。

※おまさは、お夏の父(テレビでは亡き夫)・荒神の助太郎の配下にいたことがある。また峰山の初蔵の下でも二度ほど助働きしたことがあるので、彼とは顔見知りであった。

※荒神のお夏・・・父は本格の盗賊・荒神の助太郎であり、彼女は荒神一味の2代目親分。放火癖のあるレズビアンとの設定だ。峰山の初蔵と組んで江戸で盗みを企むが、その時、仲間に入ったおまさを気に入ってしまう。『炎の色』の事件では捕り手を掻い潜り逃亡、その後、おまさへの復讐を狙っていた。

●第16話「おしま金三郎」(1992年4月15日)(視聴率19.9%)
・松浪金三郎 – 峰岸徹   ・おしま – 蜷川有紀   ・ませの七兵衛 – 不破万作
・高山の治兵衛 – 広瀬義宣

※原作では、金三郎の密偵は与吉(女賊おしまとは旧知の間柄)だが、ドラマではませの七兵衛に変わっている。原作では松波とともに牛尾の又平一味を捕らえた同心・小柳安五郎に危険が及ぶと、おしまが松波に告げるところから物語は始まる。テレビ番組では、松波とおしまのその後について、大坂に去ったとされるだけで、明確には語られない。

※蜷川有紀演じるおしまの“女”の執念が、結局は盗賊なんかよりはよっぽど凄いのだった(笑)。平蔵曰く「女という生き物に、理は通らぬ」そうだ。与力・佐嶋に言わせると「女とは、まことにもって恐ろしいものでございますな」・・・。

※松浪金三郎役の峰岸徹は、第5シリーズ第8話「犬神の権三郎」でも犬神の権三郎を演じているが、2008年10月11日に亡くなった。

※松浪金三郎・・・女賊のおしまと情を通じた不祥事により御役御免となった元同心で、なかなかの男前である。麻布・田島町の鷺森明神宮の傍らで居酒屋「豆腐酒屋」の亭主をしていたが、かつての親友である同心・小柳安五郎襲撃計画に巻き込まれることに・・・。物語の最後では結局、避け続けていたおしまと結ばれた(ところを「玉章堂」の番頭に目撃される)。

●第17話「忠吾なみだ雨」(原作:『お雪の乳房』)(1992年4月29日)(視聴率16.9%)
・お雪 – 喜多嶋舞   ・つちや善四郎 – 山田吾一   ・梅原の伝七 – 三上真一郎
・鈴鹿の又兵衛 – 高松英郎

※平蔵から「お雪をあきらめろ」と諭された後に、忠吾が男泣きするシーンはテレビドラマならではのシーン。原作では、自宅で熱燗を一杯やりながら、呆れ顔の同僚・山田市太郎を尻目にお雪の乳房を懐かしむ場面などから、悲恋・純愛一路に見えるテレビ番組とは忠吾のお雪に対する想いが随分に異なっている。このドライで打たれ強い、且つ、妙なしたたかさが忠吾の本来の持ち味なのだが・・・。

※鈴鹿の又兵衛役の高松英郎(2007年2月26日没)は、萬屋錦之介版第1・第2シリーズで与力・佐嶋忠介を演じている。

●第18話「おみよは見た」(原作:『江戸の暗黒街』から)(1992年5月6日)(視聴率17.9%)
・大島の治兵衛 – 草薙幸二郎   ・おみよ – 吉沢梨絵   ・宇吉 – 西沢利明
・金谷の又市 – 片桐竜次   ・青堀の小平次 – 近藤正臣

※原作は、『江戸の暗黒街』に収められた一編『おみよは見た』である。当然乍ら“鬼平”シリーズのメンバーは登場せず、大島の治兵衛(原作では香具師の元締・羽沢の喜兵衛)以下、殺し屋や依頼人たちが捕まることはない。テレビでは、おみよの雷様嫌いという設定等も含めて、細かいところが幾つか変更になっている。

※おみよを演じた吉沢梨絵だが、儚げな表情で小平次に秘密は喋らないと伝える姿が印象に残る・・・。

●第19話「密偵たちの宴」(1992年5月13日)(視聴率23.6%)
・豆岩 – 青木卓司    ・鏡の仙十郎 – 五味龍太郎    ・大崎重五郎 – 岩尾正隆
・竹村玄洞 – 戸浦六宏

※全体的な話の流れは原作と変わらないが、細部では多くの違いがある。先ずは、盗みに参加する密偵たちの内、舟形の宗平がこのテレビ番組では浅草御厩河岸の豆岩の岩五郎に変更されている上に、「五鉄」の三次郎や女中のおとき(江戸家まねき猫)も仲間入りしている。正直なところ、この豆岩や三次郎、おときの参加は少々不自然だ。またこのテレビ版では、未だにおまさと五郎蔵が結婚しておらず、その為に彼らの盗みの打ち合わせ場所も五郎蔵の家から「五鉄」に変更されている。原作では相模の彦十は最初から密偵たちの企みに参加しており、盗んだ金も、竹村玄洞の用心棒・大崎重五郎を通して返す。また五郎蔵たちが盗みを決行したのも鏡の仙十郎一味が捕縛された日の明け方とかではなく、しばらく後のこととなっている。更に、最後の終わり方も原作は随分と違う。密偵たちが酒盛りをしている五郎蔵の家におまさが帰って来て、平蔵から言われた言葉(配下の不始末は自分が切腹して責任を負う、といった意味合い)を披露する形となっているのだ。

※つまり番組のラストで密偵たちの宴にふらりと立ち寄った平蔵が語る言葉の「俺もこれまで数知れない盗人と渡り合ってきたが、今度の奴ほど腕の良いのは見たことが無い。強いてあげれば蓑火の喜之助、夜兎の角右衛門、先代狐火の勇五郎、この辺にも勝るとも劣らない奴だ。どんな奴か一度でいいから面を見てみたいものだ・・・。」や、五郎蔵にひと言釘を差す場面(「そうだ五郎蔵。盗んだ金蔵の鍵な。早く返しておけよ」)、そして最後の最後にぺろりと舌を出すコミカルな演出はテレビ番組の完全なるオリジナルである。

※原作で五郎蔵が草間の貫蔵を見かけたのを褒めると同時に、担当外の場所にいたことを疑問視(テレビでは同心・酒井が詮索)する場面では少々疲労の色が濃い平蔵であるが、テレビ番組では全編を通して茶目っ気たっぷりで、まだまだ元気だ。

※竹村家の用心棒・大崎重五郎役の岩尾正隆が、短い出番の中で妙に味のある演技を見せている。原作での用心棒は二人組で、妻子持ちが大崎重五郎で独り者が猪坂七兵衛だが、猪坂は盗賊の襲撃時に金蔵を守って斬死にする。またテレビ版では既に述べた様に、事件直後に竹村玄洞宅から密偵たちにより金が盗まれるが、その時の大崎重五郎は祝い酒で酔っていたことになっているが、原作での盗みはしばらくたってからのことで、その時は猪坂の後釜の浪人、谷八介が首筋の急所を強打されて昏倒している隙に、まんまと大金を盗まれた。

※原作では悪徳金貸しの町医者・竹村玄洞の番頭は吉右衛門という名前だが、テレビ番組では「やへい(弥平?)」という名称に変更されている。主役の中村吉右衛門への配慮は明白だが、五郎蔵が「やへい」という一言を発する場面が一か所あるきりで、他では「番頭」としか表現されていない。

※ラストでおまさが、「だから私は最初から嫌だって言ったんだよ! 明日からどの面下げて長谷川様と顔を合わせりゃ良いんだよ! なんとかお言いよ!!」という台詞は原作に準じているが、既述の通り話す場面が異なっている。だが、梶芽衣子のこのシーンでの演技は巧いの一言、(自分自身も含めて)怒り心頭なんだけど妙に可愛げのある姿を見事に演じて、おまさファン倍増であった。更に、去り際の平蔵の一言に、ばつの悪さや恥ずかしさやら複雑な気持ちで何も言えない密偵の面々の演技も秀逸である。

※この番組は原作と異なる部分も多いが結果オーライとなっており、筆者も大のお気に入りの作品であり、世評でもシリーズ中で人気が高い一作である。

 

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第4シリーズ(1992年12月2日 – 1993年5月12日、フジテレビ系 水曜20時台時代劇枠)

●第1話「討ち入り市兵衛」(1992年12月2日)(視聴率20.9%)
・蓮沼の市兵衛 – 中村又五郎   ・松戸の繁蔵 – 下川辰平   ・鞘師長三郎 – 早川保
・壁川の源内 – 内田勝正

※このテレビ番組では、重傷を負った松戸の繁蔵が「五鉄」の店先で倒れる形だが、原作では最初に繁蔵を見つけるのは本所・弥勒寺門前の茶店「笹や」の主・お熊である。

※意外にも、渋い盗人が似合いそうな下川辰平(2004年3月25日没)が吉右衛門版に出演しているのは、この回のみである。

※蓮沼の市兵衛を演じた2代目中村又五郎(2009年2月21日没)は、“剣客商売”のテレビシリーズで主役の秋山小兵衛を演じた(中村又五郎版)。ちなみに、本稿読者は既にご存知の方ばかりだろうが、池波原作の小兵衛のモデルはこの中村又五郎である。

●第2話「うんぷてんぷ」(原作:『霜夜』)(1992年12月9日)(視聴率19.8%)
・池田又四郎 – 神田正輝   ・お吉 – 大塚良重   ・須の浦の徳松 – 北村英三
・栗原の重吉 – 益富信孝   ・常念寺の久兵衛 – 六平直政

※原作では、お吉は須の浦の徳松の女ではなく、又四郎の死んだ女房の妹である。またテレビでは彼が20数年前に江戸を出奔した理由は明らかにならない。

※常念寺の久兵衛役の六平直政はイイ味を出している。その岩石の様な顔と表情が、まさしく悪役風味? に出来上がっている。

※広辞苑によると、「うんぷてんぷ(運否天賦)」は人の運不運は天のなすところであるの意。

●第3話「盗賊婚礼」(1992年12月16日)(視聴率23.3%)
・長島の久五郎 – 中村橋之助    ・一文字の弥太郎 – 三ツ木清隆
・お梅 – 田中由美子   ・瓢箪屋勘助 – 垂水悟郎   ・鳴海の繁蔵 – 寺田農

※原作の傘山一味が、テレビ番組では一文字一味となっている。また久五郎が先代から受けた恩義については、原作では触れられることはない。更に最後の婚礼での騒動も、平蔵と岸井左馬之助が偶然にも巣鴨の三沢仙右衛門宅を訪ねる道すがら瓢箪屋の裏手にさし掛かった時に、屋敷内の騒ぎに気付いて乗り込むという設定である。この話は、2011年9月30日放送のスペシャル『盗賊婚礼』でも取り上げられているが、其々が原作とは異なる点がある。例えばこの回で長島の久五郎を見掛けて跡をつけるのはおまさで、箱根まで追う形となるが、スペシャル『盗賊婚礼』では伊左次が名古屋まで尾行した。何れも原作にはない場面である。また久五郎が鳴海の繁蔵に恩義を感じる理由はスペシャル版と同様だが、本作にはお津世は登場しない。

※原作の鳴海の繁蔵は、ゆったりと大きく肥えている、と描写されているので、いま一つ寺田農のイメージには合わない。また、この人も他の回には登場しておらず、一癖ある役柄が巧い役者だけに不思議である。

●第4話「正月四日の客」(原作:『にっぽん怪盗伝』)(1993年1月13日)(視聴率17.8%)
・亀の小五郎 – 河原崎長一郎   ・庄兵衛 – 坂本長利   ・吉住の紋蔵 – 西園寺章雄
・おこう – 山田五十鈴

※原作は『鬼平犯科帳』シリーズではない。ドラマでは、女将・おこうが、亡くなった亭主・庄兵衛にかわり蕎麦屋を切り盛りしているが、原作ではおこうの方が亡くなっている。そして庄兵衛が亀の小五郎の非道さに我慢ならず密告するのだが、ドラマではおこうが平蔵へ密告する。

※足掛け3年以上の長期間にわたるお話で、真田そば(信州の田舎蕎麦)が物語を紡ぐ一篇。ちなみに、「蕎麦の事典」(新島繁 著、講談社学術文庫)によると「ねずみダイコンとも呼ばれる辛味ダイコンの絞り汁に、くるみ醤油を合わせたものを真田汁と呼び」、池波曰く、「ネズミ大根をすりおろし、このしぼり汁をそばつゆにたっぷりあわせる」としている。作中では激辛とされているが、現実の真田そばはそんなに辛いことはないそうだ。

※亀の小五郎役の河原崎長一郎(2003年9月19日没)が、落ち着いた初老の盗賊を抑えめの演技で演じていたが、蕎麦を食べるシーンでは、コシのある短めの麺を次から次へとまとめて口には運び、さも旨そうに食べていた。

※山田五十鈴(2012年7月9日没)が演じるおこうが、三味線を爪弾きながら親を偲んで信濃追分(追分節)を唄う様(さま)は、流石に艶と深みがあって素晴らしい。

※亀の小五郎・・・信州生まれの盗賊の首領。長年にわたり本格派だったが、直近の盗みで助っ人に雇った者が殺生を犯し、そのことがおこうの反感を買う。

●第5話「深川・千鳥橋」(1993年1月20日)(視聴率17.0%)
・万三 – 高橋長英    ・お元 – 一色彩子    ・大和屋金兵衛 – 根上淳
・乙斐の文助 – 三上真一郎   ・鈴鹿の弥平次 – 山本昌平

※この回で間取りの万三のことを監視していたのはおまさと相模の彦十のコンビだが、原作ではそれは大滝の五郎蔵の役目であり、しかも五郎蔵もかつて万三から間取図を買ったことがあるのだった。即ちテレビでは、五郎蔵の役割がそっくりおまさと彦十に変更されており、本来、万三と大和屋金兵衛の赦免を平蔵に約束させたのも、二人を密告した五郎蔵である。またこの『深川・千鳥橋』の事件が、五郎蔵の密偵初仕事でもあった。また、お元が万三のことを平蔵に訴え出るのはテレビ版のオリジナルであり、原作でのお元は、万三がどのように金策をしているかを知らなかった。

※万三役の高橋長英も、数多くの役でこの吉右衛門版“鬼平”シリ-ズに登場している。詳しくは第7シリーズ第4話「木の実鳥の宗八」(1997年4月16日放送)を参照のこと。

●第6話「俄か雨」(原作:『俄か雨』・『草雲雀』)(1993年1月27日)(視聴率15.3%)
・細川峯太郎 – 中村歌昇    ・お長 – 長谷直美    ・岩口千五郎 – 田中浩
・鳥羽の彦蔵 – 柴田侊彦   ・おきぬ – 志水季里子   ・お幸 – 若林志穂

※このテレビ番組は、細川峯太郎が初登場する『俄か雨』とその後日談である『草雲雀』を合わせたストーリーとなっている。原作の盗賊に女房を寝取られる亭主も実は盗賊だったという設定を割愛し、お長の人物像に関しては原作より深く描いている。

※中村歌昇が同心の細川峯太郎を演じている頃の作品。後には与力の小林金弥役を務める。

●第7話「むかしなじみ」(1993年2月3日)(視聴率17.9%)
・網虫の久六 – 草薙幸二郎    ・水越の又平 – 石山雄大

※ドラマは原作をほぼ忠実に再現している。

※今回は、相模の彦十役の江戸家猫八が頑張った。彦十は、むかしなじみへの同情から盗めに手を貸そうと決心したが・・・。

●第8話「鬼坊主の女」(原作:『にっぽん怪盗伝』)(1993年2月10日)(視聴率15.3%)
・お栄 – 光本幸子    ・鬼坊主清吉 – ガッツ石松    ・六太郎 – 森川正太
・棚倉市兵衛 – 高津住男   ・左官の政次郎 – 丹古母鬼馬二

※原作は『鬼平犯科帳』シリーズではなく、『にっぽん怪盗伝』に収められた一編である。原作では棚倉市兵衛の孝行娘おふゆ(真の詠み手ある浪人には娘が3人いる設定だが)や清吉配下の浪人・高坂左門は登場せず、辞世の歌を詠んだ浪人が殺されることもない。

※何故だろう、この回でもガッツ石松の評価が高い。本来、役者でないだけに、へたな演技ではなく本人がそのまま鬼坊主の清吉になりきっているとでも言おうか。どの場面でも、妙に役にハマっていた。ちなみに、松本幸四郎版第1シリーズ『鬼坊主の花』では、鬼坊主清吉を三波伸介(1982年12月8日没)が演じているが、ガッツの清吉の印象の方が勝る。

※今回は左官の政次郎を丹古母鬼馬二が演じ、入墨の吉五郎は根岸一正が演じたが、上記の本幸四郎版第1シリーズ『鬼坊主の花』では、三波と同じてんぷくトリオのメンバーである戸塚睦夫が粂次郎(左官の政次郎に当たる)役、そして伊東四朗が入墨吉五郎の役でそれぞれ出演している。

※おふゆ役の三宅香菜(子役)が、律義で健気な娘を好演。

※棚倉市兵衛を演じた高津住男(2010/7/31没、真屋順子の夫)も既に故人である。

※この鬼坊主清吉は、江戸時代に実在した盗賊である。生まれは安永5年(1776年)で、処刑されたのが文化2年(1805年)とされている。貧しい生い立ちから商家での奉公を経て盗み等で何度か捕まった後、強盗団の首魁とになり江戸市中で大暴れ、その後、上方に逃亡するが、伊勢で捕縛されて江戸に戻された。そして市中引き回しの上、仲間の左官粂こと粂次郎と入墨吉五郎こと三吉と共に打首・獄門となる。享年30歳。体が大きく異様な風体をしていたと伝わる。尚、実際の辞世は、「武蔵野に名も蔓(はび)こりし鬼薊(おにあざみ) 今日の暑さに乃(かく)て萎(しお)るる」であり、この歌を市中引き廻しの際に何度となく馬を止めては、ふてぶてしく大声で吟じたとされる。但し、現実の火付盗賊改方長官の長谷川平蔵は、この鬼坊主が捕縛・処刑される約10年程前(寛政7年5月19日/1795年6月26日死去)にこの世を去っているので、直接の関わり無い。

●第9話「霧の七郎」(1993年2月17日)(視聴率18.1%)
・上杉周太郎 – 原田大二郎    ・霧の七郎 – 片桐竜次
・鉄頴(馬堀の捨吉) – 大島宇三郎

※原作での上杉周太郎の剣の腕前は、辰蔵からの問いに答えた平蔵に「真剣で斬り合ったら五分と五分」と言わしめるほどだが、このテレビドラマではそこまでの力量はない。

※上杉周太郎・・・辰蔵の剣の師匠である坪井主水の更に師匠であった上杉馬四郎の息子で兄弟子にあたる男。剣術に優れるが何れにも仕官しておらず浪々の暮らしをしていた。霧の七郎に辰蔵の殺害を持ちかけられるが、どこか人の好い変人の周太郎は辰蔵と親しくなり、また彼が主水の門人であることを知って暗殺依頼を断るのだった・・・。

※霧の七郎・・・「小川や」梅吉の弟で本名は由太郎と言い、野槌の弥平の従兄である先代・霧の七郎の養子で霧の七郎の名跡を継いだ盗賊で、本来は中国筋が縄張り。兄や義母のおすえ(『むかしの男』事件で捕まり島送りとなった老婆)の仇を討つべく平蔵をつけ狙って様々な復讐計画を練るが、結局はそれらの行動から足がつき捕縛されてしまう。最後は打首・獄門に処された。劇画版では、五郎蔵の昔の女を殺害したことから平蔵公認の敵討ちに逢う。

※長谷川家の用人である松浦与助を演じる小島三児も、2001年4月16日亡くなっている。ちなみに、第3シリーズ第12話「隠居金七百両」にも登場。

●第10話「密偵」(1993年2月24日)(視聴率21.1%)
・弥市 – 本田博太郎    ・おふく – 友里千賀子    ・乙坂の庄五郎 – 横光克彦

※原作での青坊主の弥市は、平蔵の前任の火盗改方の長官・堀帯刀の頃に与力・佐嶋忠介の密偵となっており、直接、平蔵と顔を合わせたことはない。また、弥市の女房・おふくは弥市の浮気を疑って彼を尾行するなど、意外に勝気な性格の持ち主である。更に弥市は乙坂の庄五郎の盗賊宿であっけなく縄ぬけ源七に殺されてしまうが、テレビ番組では瀕死の重傷を負いながら、妻子の元へ這い戻ろうとして力尽きた。

※この話の原作では、あくまでも事を秘密に運ばなくてはならない密偵は直接には役宅へは出向かない、と記されている。

●第11話「掻掘のおけい」(1993年3月10日)(視聴率21.3%)
・掻掘のおけい – 三ツ矢歌子   ・砂井の鶴吉 – 沖田浩之   ・玉屋 – 佐竹明夫
・伊勢屋仁左衛門 – 北見唯一   ・和尚の半平 – 阿波地大輔

※テレビでの掻掘のおけいは、亡くした息子を忘れられない愛情深い面が見られるが、原作では砂井の鶴吉の弱みを握り、いいように弄ぶ非常な女として描かれている。そして彼女は、この番組の様に捕縛前に自害することもなく、市中引き廻しの上、極刑となった強情な女であった。

※捕えられた和尚の半兵一味の中で、砂井の鶴吉だけが処刑を免れた。その時、おけいは鶴吉を連れ逃げようとしたが、鶴吉はおけいから離れて自らお縄についた。

●第12話「埋蔵金千両」(1993年3月17日)(視聴率17.6%)
・おてい – 中島唱子    ・中村宗仙 – 大前均    ・辻桃庵 – 寺下貞信
・太田万右衛門 – 中丸忠雄

※原作でのおけいが、テレビではおていに変更となっている。ラスト付近で平蔵が久栄に卵酒を頼む台詞は原作にはない。また原作での中村宗仙は、この事件で平蔵に気に入られて引き続き『麻布ねずみ坂』にも登場する。

※中島唱子がおてい役を好演。最近では、橋田壽賀子脚本のTBSドラマ『渡る世間は鬼ばかり』の田島聖子役での活躍が記憶に新しい。

●第13話「老盗の夢」(1993年3月24日)(視聴率16.2%)
・蓑火の喜之助 – 丹波哲郎   ・前砂の捨蔵 – 中井啓輔   ・印代の庄助 – 伊藤高
・岩坂の茂太郎 – 木村栄

※このテレビ番組では、簑火の喜之助は粂八に助けられた形だが、原作ではむしろ逆の立場。また、喜之助の運命を狂わせたおちよは、原作ではおとよという名前で、豊満な体の大女という設定である。

※今回は蓑火の喜之助を丹波哲郎(2006年9月24日没)が演じている。彼は丹波哲郎版では長谷川平蔵役をやっていて、それが今度は大盗とは云え盗賊の役となり、一部には番組イメージの混乱が起きるとの指摘もあった。また蓑火の喜之助は他の編で島田正吾(2004年11月26日没)がやり、重厚な人柄を演じて高い評価を受けていた。しかし、全シリーズを通してこの様な配役の重複や入れ違いは他にもあり、また時間経過により止むを得ない交代(俳優の老齢化や死去など)もあった。

●第14話「ふたり五郎蔵」(スペシャル)(1993年3月31日)(視聴率14.4%)
・暮坪の新五郎 / 弥矢の伊佐蔵 – 菅貫太郎   ・伴助 ‐ 嵯峨周平
・長尻のお兼 ‐ 宮田圭子   ・戸祭りの九助 ‐ 高峰圭二   ・おみよ ‐ 野平ゆき
・髪結いの五郎蔵 – 岸部一徳

※平蔵が彦十に「お前は、この平蔵の宝物だよ」と言う名シーンだが、原作では密偵・お糸が突き止めた千寿院裏手の盗賊の隠れ家の傍らでの話だが、テレビでは、犬をおびき出した彦十の背中に向かって呟くという演出になっている。

※原作での長谷川辰蔵は、この回では充分一人前となって平蔵を助けている。またシリーズ末期に相継いで登場した平蔵の妹・お園、おまさの妹分・お糸と並んで、当初の遊び人から脱皮した辰蔵も、池波先生が存命ならば、この後はもっともっと活躍してくれたと思うと、誠に残念至極・・・。

※髪結いの五郎蔵役の岸部一徳が好演。その根性は甚だ弱虫であり自分より強者の前では泣き出すが、何故か庇ってやりたくなる男である。ところで、この人も今や大名(迷)優となり、いたるところで活躍している。だが最近の若者は、彼がGS(この言葉も死後)のバンド“ザ・タイガーズ”のメンバーで元ミュージシャンであったことなど知らない様だ。

●第15話「女密偵・女賊」(1993年4月14日)(視聴率12.6%)
・お糸 – 岡まゆみ   ・押切の駒太郎 – 朝日完記   ・佐沼の久七 – 小林昭二
・鳥浜の岩吉 – 浜田晃   ・森七兵衛 – 遠藤征慈

※原作では、既に同心・小柳安五郎の妻となっていた平蔵の腹違いの妹・お園が“鎌鼬(かまいたち)”こと森七兵衛の居場所を告げる(森七兵衛は、かつてお園が営んでいた居酒屋の客という設定)が、この番組では取り調べを受けた鳥浜の岩吉が告げる形となっている。その他は概ね原作通りのストーリーである。

※原作の発表順では、『二人五郎蔵』より先になっていて、お糸は『二人五郎蔵』でも、おまさと組んで盗賊の探索にあたる。彼女などは原作シリーズが続けば、もっと活躍の機会も増えただろうが・・・。

●第16話「麻布一本松」(1993年4月21日)(視聴率14.3%)
・市口又十郎 – 村田雄浩   ・お弓 – 水島かおり   ・田丸屋瀬兵衛 – 今福将雄

※原作では、平蔵と又十郎は『助太刀』の件で既に顔見知りの間柄。また忠吾には、既におたかという女房がいる。

忠吾が狂言回しのコメディー編だが、彼が主役で登場すると、まずはほっこりとした話になる。またこの回で忠吾が名乗る偽名が木村平蔵。この名は平蔵も使う偽名(「用心棒」)なのだから笑える。平蔵の場合、他には長谷川忠吾というのもあるし(「寒月六間堀」)、「土蜘蛛の金五郎」では木村五郎蔵と名乗る。こうして互いの名前を捩るところから、この二人、よほど仲良しの主従なんだろうと感心してしまう。

※しかし、健闘久しい尾美としのりの“兎(うさぎ)”には悪いが、どうしても古今亭志ん朝が演じた木村忠吾(松本幸四郎版、丹波哲郎版)には負けるなぁ。誠に申し分けないがこれには同意見多しで、やはり志ん朝の科白回しの方が断然歯切れがよくて、見てて聞いてて気持ちが良いのだ。だが志ん朝には落語家として培った話術と、忠吾独特の不思議なキャラ(巻き込まれ型だが強運、適当なのに怪我の功名盛りだくさん、軽妙洒脱だが変なところで純情、美男じゃないのに妙な男の色気を持ち合わせている等々)を演じる技があったのだろうから、其処ら辺を差っ引くと尾美は随分と頑張っていると云えよう。

※何故か鬼平が恋の指南をする剣客浪人・市口又十郎に、これまた素朴で純な感じの村田雄浩がぴったりである。

●第17話「さざ浪伝兵衛」(原作:『にっぽん怪盗伝』)(1993年4月28日)(視聴率19.5%)
・さざ浪伝兵衛 – 又野誠治   ・砂堀の蟹蔵 – 織本順吉   ・政吉 – 高良隆志
・役者小僧市之助 – 趙方豪   ・おだい – 清水ひとみ

※この回の原作は『鬼平犯科帳』シリーズではなく、短編集『にっぽん怪盗伝』に収められた一編である。その為に、幾つかの設定を変更している。伝兵衛は茶問屋「尾張屋」のもと番頭であり、愛用の刀は彼が遊び仲間の別の番頭・伊之助を殺して手に入れたものだった。また役者小僧市之助は登場しない。おだいも名前は妾のひとりとして出てくるが、直接は関係していない。更に、伊之助が川に引きずり込まれそうになる亡霊も伊之助であり、その川も黄瀬川ではなく吉原宿と蒲原宿の間を流れる富士川である。浪伝兵衛はその富士川で蒲原宿の人足・平吉に捕えられる。

※原作では、江戸から追いかけて来た火盗の役人は長官・山川安左衛門の命を受けた清水平内ほか5人の同心と8人の手先、となっている。

※砂堀の蟹蔵役の織本順吉の演技が光った。初めて殺した婆の亡霊にうなされ、その亡霊に向かって刀を振り回す老盗を好演している。

●第18話「おとし穴」(原作:『あばたの新助』)(1993年5月5日)(視聴率15.4%)
・佐々木新助 – 中村梅雀    ・お才 – 山本みどり    ・文挾の友吉 – 小野武彦
・お米 – 丸山秀美   ・夜鴉の勘兵衛 – 岩尾正隆

※原作では、お才の亭主は夜鴉の勘兵衛ではなく網切の甚五郎である。また結末も、火盗改方の正規の出役は無く、同心・木村忠吾と密偵の伊三次・小房の粂八が佐々木新助の最後を看取る形となる。

※佐々木新助は、平蔵の仲人で火盗改方の筆頭与力・佐嶋忠介の姪であるお米と結婚して3歳になる娘・お芳もいる同心で、御先手・長谷川組に代々属する家系。

※中村梅雀のハマリ役。真面目だが初心(うぶ)で世間知らずだった役人が賊の罠に引っ掛かり、悩みながらも開き直る。しかし平蔵に見抜かれていると思い込み逃げ出し、やがて腹を据えたがその時は既に遅かった。刻々と移り変わる新助の感情の変化を巧みに演じて見事だった。

※最近では善いお父さん役が多い小野武彦だが、文挾の友吉の様な狡賢い悪党を演じるのも巧い。第3シリーズ第12話「隠居金七百両」の奈良山の与市などもその好例。ちなみに文挟の友吉は逃げ延びて、『兇賊』(第1シリーズ第9話「兇賊」)で再び登場する。

※お才を演じた山本みどりの演技も、どこまで新助に肩入れしているかを微妙に演じ、またその独特の色気も好評であった。

●第19話「おしゃべり源八」(1993年5月12日)(視聴率16.9%)
・久保田源八 – 佐藤B作    ・日妻の文造 – 椎谷建治    ・仁助 – 花上晃
・およし – 永光基乃

※最初に源八を発見するのが木村忠吾の叔父・中山茂兵衛である点を除き、このテレビ版はほぼ原作通りとなっている。

※久保田源八については、お役目の上で記憶喪失になってしまったにも関わらず妻・およしに離縁されてしまうのは不幸だが、復職してからは新たに妻・おきのも娶り、記憶喪失以前の無口で陰気な性格が忠吾から「おしゃべり源八」のあだ名を付けられるほどに饒舌で明るい人間に生まれ変わったのは、これ幸いかも。

※番組の最後の方になって喋り出した佐藤B作だが、それでようやく本来のこの人らしくなった(笑)。但し、原作の源八は、背丈ががっしりと高く腕力も強かったとされ、B作氏のイメージとはちょっと違うが・・・。

※ちなみにこの原作では、忠吾の菩提寺が目黒村の(「感得寺」ではなく)「威得寺」となっている。

 

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『鬼平犯科帳』フジテレビ公式HP・・・各話のあらすじはこちらから

 

第5シリーズ(1994年3月9日 – 1994年7月13日、フジテレビ系 水曜20時台時代劇枠)

●第1話「土蜘蛛の金五郎」(1994年3月9日)(視聴率20.2%)
・土蜘蛛の金五郎 – 遠藤太津朗   ・山本元次郎 – 西園寺章雄   ・子之次 – 赤塚真人

※この回のドラマはほぼ原作と同じであるが、違いと云えば、原作では岸井左馬之助が妻(老剣客・小野田治平の娘・お静)を娶ったことが記されていることくらいか。

※原作では、暗剣白梅香事件の時に浪人・金子半四郎に襲われたのと同じ場所で、偽物の平蔵は無頼浪人に化けた本物に討たれる。

※土蜘蛛の金五郎・・・越後・越中・信州を股にかける凶賊。三ノ輪に定食屋「どんぶり屋」を構え、弱者・貧者に安価で食物を振舞っていた。そのことを不審に思った平蔵が浪人・木村五郎蔵に変装して潜入捜査を敢行、それとは知らずに金五郎はこの五郎蔵の腕を見込んで平蔵暗殺を依頼するが、最終的には捕縛されてしまう。

※金五郎役の遠藤太津朗は、捕縛された際の怯えた仕草が印象的。その手下で平蔵の見張りをつとめる子之次を演じた赤塚真人もイイ味を出していた。

※この回には、筆者贔屓の御木本伸介(2002年8月5日没)演じる与力・天野甚造と平蔵の旧友・岸井左馬之助(竜雷太)が共に登場している。だが、この二人とも吉右衛門版テレビでの登場が原作よりも少ないと感じるのは筆者だけであろうか。特に左馬之助が・・・。

●第2話「怨恨」(1994年3月16日)(視聴率16.9%)
・今里の源蔵 – 長門裕之   ・杉井鎌之助 – 清水紘治   ・磯部の万吉 – 速水亮
・おさき – 清水ひとみ   ・桑原の喜十 – 金内喜久夫   ・駒止の喜太郎 – 汐路章
・桐生の友七 – 谷口高史

※今回のドラマでは、木村忠吾を狂言回しとして話が進むが、原作では忠吾はほとんど登場せず、大滝の五郎蔵とその漏らし屋の桑原の喜十を中心とした物語。そして、桑原の喜十に対して疑念を抱くが口にできない五郎蔵と、かたや今里の源蔵のことを口に出せない喜十の姿が描かれていく。テレビ番組では、平蔵に全てを任されたと上機嫌で傲慢な態度をひけらかす忠吾をもてあまし気味の五郎蔵が、珍しくおまさに愚痴をこぼすシーンなどがある。

※今里の源蔵役の長門裕之だが、意外と出番が少ない中で印象に残る好演だった。

●第3話「蛙の長助」(1994年4月13日)(視聴率12.9%)
・蛙の長助 – 米倉斉加年   ・今井勘十郎 – 長谷川明男   ・三浦屋彦兵衛 – 玉川伊佐男
・夜嵐の定五郎 – 五味龍太郎   ・浅間の捨蔵 – 高並功

※原作とテレビ番組とでは大幅に内容が異なり、原作では盗みの話は出てこない。この吉右衛門版ドラマでは、平蔵が猫田なる浪人に化けて蛙の長助の借金取りの仕事を手伝うことに端を発して、三浦屋彦兵衛の店に押し入った夜嵐の定五郎一味を捕えることに繋がるが、原作のストーリーは全く別もので定五郎たちは登場しない。長助と実の娘・おきよとの因縁話は同じだが、平蔵からの指示ではなくて舟形の宗平の一言でおまさと五郎蔵が長助の尾行を開始する。更に原作では今井勘十郎は名を斧五郎と言い、長助に雇われた浪人者に襲撃されるだけである。また長助は片足を失っており、時々、掏摸を行い生計の足しにしていた。

※米倉斉加年演じる蛙の長助の演技が光る。したたかな借金取りの親爺でありながら、平蔵との交流の場面にはそこはかとない温かみが感じられる。ちなみに米倉は、第1シリーズ第9話「兇賊」(1989年9月13日)にも鷺原の九平役で出演している。

※この回のテレビ番組で平蔵が使う偽名は猫田孫兵衛だが、原作では特に名乗らない。

事件後、長助の遺志を継いで3両残った娘・おきよの借金を肩代わりしてやる平蔵だが、妻・久栄には“内職の3両”の使い道について問い質されるというオチはテレビ番組のオリジナル。

●第4話「市松小僧始末」(原作:『にっぽん怪盗伝』)(1994年4月20日)(視聴率15.0%)
・又吉=市松小僧 – 春風亭小朝    ・おまゆ – 長与千種    ・金次 – 穂積隆信
・仙之助 – 河原崎建三

※原作は『鬼平犯科帳』シリーズではなく、池波の他の時代小説短編集『にっぽん怪盗伝』に収められた『市松小僧始末』であり、当然ながら平蔵と酒井同心などの火盗改のメンバーは登場せず、その役割はおまゆの剣術仲間である八丁堀の同心が担っている。またこの短編集には、又吉とおまゆ夫婦の後日談が2編ほど収録されている。ひとつは『喧嘩あんま』で、又吉が生き別れた兄と再会する話であり、いま一つの『ねずみの糞』では、又吉がおまゆの幼なじみと浮気する話であり、その後の二人の人生が綴られている。

※春風亭小朝は当然プロの役者でない。それだけに素の表情・姿で又吉を演じていたことに好感が持てた。また演技はからっきしダメだが、もと女子プロレスラーの長与千種の佇まい・容姿が意外に役柄にあっていたとの評もあり、ぽっちゃりとしたこの二人がなかなか佳さげなコンビとなっていた。

●第5話「消えた男」(1994年4月27日)(視聴率15.4%)
・高松繁太郎 – 渡辺裕之    ・六兵衛 – 多々良純    ・笹熊の勘蔵 – 佐藤仁哉
・お杉 – 斉藤林子   ・お百 – 大橋芳枝

※この回の終盤、高松繁太郎は密偵になった直後に、笹熊の勘蔵の仇を討とうとした六兵衛の放った仕掛人に殺されたが、原作では1年弱は密偵として活躍している。また、高松繁太郎がお百を介さずに直接に六兵衛のもとへ笹熊の勘蔵への伝言を伝えに行く。

※高松繁太郎・・・かつて堀帯刀(平蔵の前の火盗改の長官)の配下で佐嶋の部下だったが、堀の方針に反発して出奔したもと同心。有能な男であったが、火盗の務めに関してやる気のない堀を嫌って、盗賊・笹熊の勘蔵の情婦であり自らも女賊であるお杉と共に佐嶋に置手紙を残して逐電、行方不明となる。原作ではその後、お杉と盗みばたらきをしながら諸国を放浪していたが、お杉を旅先の信州で亡くして江戸に戻る。テレビ番組では、お杉は小田原の宿で病死した。江戸に戻って勘蔵を返り討ちにした後、平蔵に赦されて密偵となるが、刺客に襲撃されて死亡。

●第6話「白根の万左衛門」(1994年5月4日)(視聴率14.1%)
・白根の万左衛門 – 岡田英次   ・沼田の鶴吉 – 石丸謙二郎   ・雨彦の長兵衛 – 西田健
・おせき – 岡本麗   ・梅之助 – 芝本正   ・おさん – 川崎あかね   ・松 – 螢雪次朗

※冒頭、相模の彦十が掏摸を見つける場面は原作にはない。原作では密偵・馬蕗の利平治が沼田の鶴吉・おせき夫婦を偶然見かけたことが事件の発端となっている。また、吉右衛門版テレビ番組では岡田英次演ずる白根の万左衛門は只々真面目な老盗賊であるが、原作では隠し金の入った壺に「お気の毒さま」と書いた紙片(ドラマでは三カ条の掟書)を入れて置いて欲張り者をからかうなど、遊び心を持った人物に描かれている。

※白根の万左衛門・・・本格派の老盗。麹町の絵師・梅之助宅で病死する。 今回は名優・岡田英次(1995年9月14日没)がこの役を務めたが、少々素直に演じ過ぎた様にも見えた。もう少し茶目っ気が欲しかったかも知れない。

※沼田の鶴吉・・・白根の万左衛門の義理の娘・おせきの夫で狡賢いが、どこか抜けていて石丸謙二郎にはぴったりの役どころ。

※万左衛門の養女おせき、この並の盗賊に負けない悪女を岡本麗が好演。

●第7話「お菊と幸助」(脚本:下飯坂菊馬、オリジナル作品)(1994年5月18日)(視聴率13.0%)
・お菊 – 増田恵子   ・幸助 – 田中隆三   ・伝吉 – 水上功治

※脚本を下飯坂菊馬が担当した、テレビ吉右衛門版のオリジナル作品である。残念ながらオリジナル故にか、池波文学独特の癖がなく、サラリとした筋立てである。

※お菊を元ピンクレディの増田恵子が演じて話題となったが、意外にも頑張って薄幸の良妻を演じた。

●第8話「犬神の権三郎」(原作:『犬神の権三』)(1994年5月25日)(視聴率13.6%)
・犬神の権三郎 – 峰岸徹   ・おしげ – 土田早苗   ・桶屋の安兵衛 – 村田正雄
・筆師の新右衛門 – 牧冬吉   ・雨引の文五郎 – 目黒祐樹

※原作の題名は『犬神の権三』で「郎」は付かない。また原作での文五郎は最後まで、権三に上方での盗み(大坂・心斎橋筋の唐物屋「加賀屋」へ押し込んだ件)の分け前を誤魔化された事を知らずに死ぬ。更に、権三郎が過去の押し込みで小僧を殺したという設定もテレビドラマのみである。

※テレビの中で、かつて平蔵は密偵・五丁の勘兵衛に指示をして盗賊・落針の彦蔵を脱獄させた、となっているが、これは原作では舟形の宗平の役回りである。

※雨引の文五郎・・・原作では『雨引の文五郎』と『犬神の権三』に登場。西尾の長兵衛一味にいた時は、その右腕と云われた盗人で「隙間風」と異名をとった男。小柄で矮躯で、その躰の半分はあろうかというほどに長い馬面の顔がのっている。笑うと左の頬に笑くぼがうかび、なんともいえぬ愛嬌があった。落針の彦蔵との果し合いに勝利した後に、密偵となる。その後、恩ある犬神の権三郎を一旦は破牢させて改めて決着を付けようとしたところに、火盗の探索が及んで結局は自害した。

※犬神の権三郎は、文五郎が女房・おしずが受けた恩を返そうとして権三郎の脱獄に力を貸したことには、まったく思い至らなかった。てっきり分け前を騙したことを追求されると考えていたのだ。

※文五郎役の目黒祐樹は、筆者のお気に入りの俳優。また、そもそも原作の文五郎も好きだし、池波先生にはもう少し彼の密偵としての活躍を描いて欲しかった。さすれば目黒もレギュラー出演者だったのに、と残念がる誰かさんが、あちらこちらにいる。ちなみに原作中では、「五鉄」の亭主・三次郎が「(文五郎は)まず、小房の粂八さん、大滝の五郎蔵さんにも引けはとりますまい」と述べている程なのだから・・・。

※おしげ役の土田早苗が、可愛らしくも婀娜っぽい盗人の情婦を熱演。また、彼女も意外なことに“鬼平”シリーズへの出演はこの回のみである。

●第9話「盗賊人相書」(1994年6月15日)(視聴率14.0%)
・石田竹仙 – 柄本明    ・およし – 高橋貴代子    ・熊次郎 – 六平直政
・おうの – ひろみどり   ・良碩 – 幸田宗丸

原作の石田竹仙は、最初から瓜二つの人相書を仕上げる。またおよしが狙われる場面や平蔵が竹仙に肖像画を頼んだり、竹仙が投獄されるという事はない。この回では、第1シリーズで同心・小野十蔵役を務めた柄本明が石田竹仙役を演じている。

※石田竹仙・・・かつては盗賊一味(旅絵師をしながら諸国を巡る嘗役)だったが、いまは深川・北森下町に住む売れっ子の絵師。ひょんなことからかつての仲間の人相書きを作ることになって、殺害されそうになる。この事件の後は、平蔵に協力、火盗改方の人相書き作成を一手に任されることになり、その後は『五月雨坊主』・『消えた男』・『鬼火』などに登場。

※竹仙に人相書作成の白羽の矢が立ったのは、本来の火盗改方の御用絵師・竹垣正信(幕府御抱え御絵師・墨川宗信の内弟子)が帰郷中だったからであり、具体的には事件現場の近くの絵師として、御用聞き・仙台堀の政七が推薦したことによる。

※尚、原作者の池波正太郎は,子どもの頃から絵を描くことが大好きで,挿絵画家になる夢を持っていたと云う。常に忙しく作家として働いていた池波の気分転換は、音楽を聴くことと絵を描くことであった。その絵はほとんどが水彩画で、晩年には自作の挿絵や装幀も手掛けている。彼の描いた鬼平の市中見回りの図などは、大変に有名。

●第10話「浅草・鳥越橋」(1994年6月22日)(視聴率14.8%)
・おひろ – 小林かおり   ・風穴の仁助 – 井上純一   ・傘山の瀬兵衛 – 中田浩二
・白駒の幸吉 – 中井啓輔   ・押切の定七 – 平泉成

※このテレビ番組では、おひろに関して特にやましいところのない瀬兵衛だが、原作では過去に一度関係を持っていて、ふとその事を思い出したことが自身の死に繋がる。つまり仁助夫婦の隠れ家へ行くのは押切の定七の態度を怪しんでのことではなく、定七や仁助を信頼し切っていた。また珍しく原作では、押切の定七と白駒の幸吉を捕えるシーンがなく物語は終わる。更に、(テレビ・原作ともに)定七が仁助に抱く親愛の情は男色家故であった。

※白駒の幸吉・・・小間物屋「三好屋」の主に化けている盗賊の頭。風穴の仁助と組んで傘山の瀬兵衛の盗みを横取りしようとする。

※押切の定七役の平泉成も吉右衛門版の常連で、他の回でも色々な役を演じている。

※原作では、例の柴犬“クマ”(「本門寺暮雪」で平蔵を助けた犬)が登場。平蔵が木村忠吾に「お前より、よほど役にたちそうだ」と言い、忠吾をくさらせたりもしている。

●第11話「隠し子」(1994年6月29日)(視聴率14.0%)
・お園 – 美保純    ・久助 – 奥村公延    ・荒井屋松五郎 – 田口計
・藤岡の勘四郎 – 浜田晃

※原作では、お園によこしまな思いを抱く口入れ屋・荒井屋松五郎は街の顔役ではあっても、盗賊一味との関わりはない。また劇中での、煙草の好きなお園に辟易の久栄、珍しく陰で二人の様子を見ては冷や汗をかく平蔵、更にそれを面白がる辰蔵など、お園と久栄の間のぎこちない空気感と家族? の関係はテレビ番組ならではであり、原作での久栄はひたすらお園の身を案じている。

※原作では流石の平蔵も、最初は実父の隠し子登場には驚くことになるが、そこは酸いも甘いも何とやらの“鬼平”のこと、瞬く間にお園の窮状を解決するのだった・・・。また、男まさりの頑固者であるお園も、何故か平蔵には素直であり、そこには本人も知らない(自然と湧き出る)実の兄に対する従順さが見え隠れする。ちなみに、大柄で勝気のお園には、美保純はよく似合うと思う。

※原作では、『隠し子』以降の作品でお園は大活躍する。

●第12話「艶婦の毒」(1994年7月6日)(視聴率15.1%)
・お豊 – 山口果林    ・虫栗権十郎 – 遠藤征慈    ・氷室の庄七 – 江幡高志
・浦部源六郎 – 塚本信夫   ・浦部彦太郎 – 柴田侊彦   ・お玉 – 春やすこ
・松屋宗兵衛 – 西山辰夫

※原作の『盗法秘伝』から『むかしの男』まで5話にわたり続く京都墓詣旅行編の第2話目だが、テレビドラマでは第1シリーズ第12話スペシャル「兇剣」、第5シリーズ第13話「駿州・宇津谷峠」と合わせて三部作となっていて、平蔵がしばしの間、火盗改方を解任されていた時期の話である。原作での若き日の平蔵とお豊の関係は、テレビ番組での描き方に比べてサラリとしている。また最後まで平蔵がお豊と直接会うこともない。

※虫栗権十郎を演じた遠藤征慈も、 2002年6月17日に亡くなっている。この吉右衛門版では第1シリーズ第2話「本所・櫻屋敷」の小川や梅吉、第4シリーズ第15話「女密偵・女賊」での森七兵衛、第7シリーズ第10話「見張りの糸」の戸田銀次郎役と何度か出演していた。70年代から90年代にかけて、刑事ドラマやテレビ時代劇で多く活躍した俳優さんだ。

※虫栗の権十郎・・・上方から近江へかけてならした盗賊・虫栗の権十郎の2代目、元は岩滑の浜造と名乗っていたが、初代の権十郎の死後、2代目を継いだ。手下のお豊が平蔵に発見されたことから足がつき死罪となる。

※お豊・・・虫栗の権十郎の配下の女賊で、昔、京都時代の平蔵と関わりを持つ。とんでもない美魔女であり、『艶婦の毒』の事件では40歳代の半ばと思われる年齢だが、忠吾には30歳そこそこに見えたのだから、驚くべき若作りの美貌でまさしく“艶婦”。現代の様な化粧品も美容法も無かった江戸時代だから、尚更である。

●第13話「駿州・宇津谷峠」(1994年7月13日)(視聴率17.1%)
・お茂 – 二宮さよ子    ・臼井の鎌太郎 – 誠直也    ・藤枝の久蔵 – 立川三貴
・音五郎 – 金子研三   ・徳治 – 高峰圭二   ・伊助 – 加島潤   ・お徳 – 北川めぐみ
・お浜 – 谷口友香

※原作では、前回の第12話「艶婦の毒」(1994年7月6日放送)のエピソードの後に『兇剣』の事件があって、いよいよ平蔵が江戸へ戻る途中の出来事として述べられる。物語の初めに“猫どの”こと同心・村松忠之進が登場することもなく、六兵衛殺害の手がかりを追って来たおまさの代わりに岸井左馬之助が臼井の鎌太郎と出会うところから始まる。但し、この回の左馬之助は、事件がすべて終わったところで再び登場するが、鎌太郎の正体やその死に様を知らずに終わる。またテレビ番組では、お茂が隠し金のひとり占めを狙って仲間を次々に裏切る原作の臼井の鎌太郎の役回りとなっており、更に、かつておまさは昔馴染みのお茂に命を救ってもらったという設定だが、原作では鎌太郎が溺れ掛けた左馬之助を助けたことになっている。

※お茂役の二宮さよ子が、おまさと旧知の間柄で、お調子が良くて何故か憎めない女盗人のお茂を熱演。

 

第6シリーズ(1995年7月19日 – 1995年11月1日、フジテレビ系 水曜20時台時代劇枠)

●第1話「蛇苺の女」(スペシャル)(原作:『蛇苺』)(1995年7月19日)(視聴率12.6%)
・沼目の太四郎 – 中尾彬   ・張替屋(針ヶ谷)の宗助 – ベンガル   ・おさわ – 余貴美子
・おきさ – 藤吉久美子   ・彦次郎 – 潮哲也

※原作でおきさを陵辱したのは、葵小僧(第7シリーズ第3話「妖盗葵小僧」)である。またテレビ番組と原作との相違点としては、テレビで平蔵におきさの様子を見に行く様に促すのは久栄であるが、原作では平蔵自身が思いついて赴く。更に、おさわが女中として入り込むのは「玉屋」だが原作では料理屋「川半」であり、自分を襲った田島を逆に仲間に誘い込む沼目の太四郎の行動は原作にはなく、この田島仙五郎という浪人は無関係な辻斬りであった。尚、ラストで捕縛されたおさわだが、原作では伝馬町の牢内で狂死している。

※原作では、相模の彦十とコンビを組んで張り込みに活躍するのは密偵の仁三郎であるが、珍しく尾行を何度としくじる。

※原作によると、張替屋(張り替え屋)とは紙や道具を持ち歩いて諸方を廻り、提灯や障子、傘の張替えを行う商売で、中には看板の字を書く者もいると記されている。

※原作でも、平蔵が「五鉄」で朝寝坊をしている相模の彦十を叩き起こす場面はあるが、テレビでは「おい、いつまで寝てんだ。起きてツラ洗え。猫でもツラ洗うぞ」と怒鳴る平蔵を見て、(江戸屋猫八演ずる)彦十が目を丸くして、キョトンするところがカワイイ。

●第2話「お峰・辰の市」(原作:『泣き男』)(1995年7月26日)(視聴率12.1%)
・辰の市 – 市川左團次   ・お峰 – 田島令子   ・青木源兵衛 – 堀田真三

※原作では、木村忠吾ではなく勘定方へ戻されて塞込(ふさぎこ)んでいた細川峯太郎が事件の発端を手繰り寄せる(というよりは巻き込まれるといった方が正しいか)。また辰の市が助けを求めたのは相模の彦十ではなく、(火盗の密偵とは知らない)小房の粂八であった。更に辰の市 の妻・お峰とおまさも特に繋がりは無く、過去に知り合いであったこともない。それどころか、おまさはこの事件には登場しない。辰の市とお峰の夫婦はその後、赦されて密偵となる。そして(忠吾ではなく)峯太郎は坪井道場で剣術の稽古を始め、平蔵の長男・辰蔵に扱かれることとなるが、探索方への復帰がかなった。

おまさと彦十が盗賊発見を祈願する芝・三田寺町の魚籃観音堂の場面はない。

※原作で平蔵が辰の市に名乗る偽名は、細川峰右衛門。いつもの通り、当該の事件に関連したお調子者の名前を捩っている・・・。

●第3話「泥亀」(1995年8月2日)(視聴率13.7%)
・泥亀の七蔵 – 名古屋章   ・関沢の乙吉 – 森次晃嗣

※原作では、関沢の乙吉と出会うのは相模の彦十ではなく伊左次。テレビ番組の方では、感動的なシーンとして、七蔵と乙吉が火盗の牢内で再会する場面があるが、原作では二人が会うことはない。

※伊左次が関沢の乙吉と出会ったのは、舟形の宗平の薬を受け取る為に芝・新銭座の表御番医師・井上立泉の屋敷に行った帰り道で、これは鯉肝のお里の見張りで大滝の五郎蔵とおまさが忙しかったからであるが、この辺のちょっとした背景は“鬼平”シリーズのファンには堪らない流れだ。ちなみに彼はこの後、泥亀の七蔵に50両の金を渡す時、朝熊の伊左次と名乗っている。

※泥亀の七蔵役の名古屋章(2003年6月24日没)が、ひどい痔病で歩くのもひと苦労だが、その体で三河・御油まで亡きお頭の女房と娘の為に旅をする、コミカルでユーモラスな元盗人を演じていて好ましい。

※座業(執筆業)の池波先生も、ひどい痔疾に悩まされたそうである。もしかすると、泥亀の七蔵はご本人の体験から生まれたキャラクターかも知れない・・・。

●第4話「浮世の顔」(1995年8月9日)(視聴率13.6%)
・巣鴨の伊三郎 – 高原駿雄   ・神取の為右衛門 – 五味龍太郎

※原作では、相模の彦十ではなく密偵・大滝の五郎蔵と巣鴨の御用聞き・伊三郎の活躍で凶賊・神取の為右衛門一味を召し捕ることが出来た。つまり彦十執念の探索行はなく木村忠吾も特に出番はないが、逆に平蔵の剣友・岸井左馬之助が登場する。また、物語の当初においても口合人・鷹田の平十は既に故人となっており、彼の女房・おりき(小房の粂八が亭主を務める船宿「鶴や」に預けられている)の証言から事件解決の道が開ける。

※番組最後の方で、平蔵が娘を襲う不埒者を懲らしめるエピソードは、その場所についてはテレビの中では何処とも語られていないが、原作では御家人・八木勘左衛門(“鴉の勘左”)見舞った帰り道、中村宗仙の『麻布ねずみ坂』事件でも所縁の麻布鼠坂の近辺での出来事である。

※この回のテレビ番組では、役宅で“猫どの”こと村松忠之進が朝餉&バカ貝について強弁を振る場面があるが、当然ながら原作にはそんなところはない。筆者は何故か、頑なにこの“猫どの”が嫌いだ。彼のファンがいることも知っているが、いつもその薀蓄が鼻につく。原作の様に、さらりと美味そうなものを紹介して欲しいのだが・・・。

※「五鉄」で働く下女役の江戸家まねき猫(江戸家猫八の娘)だが、今回は多少台詞が多かった。しかし相変わらず棒読みで感情が入っていない。親爺さんの御蔭で登場しているのは分かり切っているが、こうした配役はどうも気に入らない。また誰とは言わないが、中村一門もバーターはいけない。

●第5話「墨斗の孫八」(1995年8月16日)(視聴率11.0%)
・墨斗の孫八 – 内藤武敏    ・助川 – 宮口二郎    ・法月 – 崎津隆介
・おきよ – 上野めぐみ

※原作には伊左次は登場しない。おきよも登場せず、平蔵が孫八の息子のために金を渡す場面もない。平蔵が盗みに使う鋸に油を塗っておくエピソードもなく、孫八も押し込む前に卒中で倒れて息を引き取る。

※原作の途中で、平蔵が召し捕った後に孫八を赦して密偵として使うのではないか、と五郎蔵とおまさが語り合う場面があり、読者もそうなんだと思ってしまうが、結果はそうはならない。池波の描く物語に予定調和は通用しないのだった。

※原作での今回の平蔵の偽名は、木村忠右衛門。

※墨斗の孫八を演じた内藤武敏も幅広い役柄をこなす名脇役であったが、2012年8月21日に亡くなった。

※平蔵が孫八の使用する鋸について大工の棟梁・長五郎から聞き及んだ話では、鋸は会津の中島鍛冶が一番だと云う。蒲生氏郷が会津地方の推奨産業として刀剣等と共に多くの鋸鍛冶職人を育てて、その技術は越後から東北地方全般、更には江戸方面へと拡散した。この鋸は全て鋼で造られており、硬くて真っ直ぐでしかも弾力性があって丈夫だった。それを鍛えるには熟練の高度な技が必要で、非常に手間がかかる作業であったとされる。

※鬼平犯科帳スペシャル『一本眉』(2007年4月6日放送)にて、墨斗の孫八のキャラが清洲の甚五郎に流用されている。

●第6話「はさみ撃ち」(1995年8月23日)(視聴率14.7%)
・おもん – 松田美由紀   ・弥治郎 – 垂水悟郎   ・針ヶ谷の友蔵 – 内田直哉
・大亀の七之助 – 三上真一郎   ・猿皮の小兵衝 – 中村嘉葎雄

※テレビ番組では大亀の七之助が助っ人集めを頼むのは相模の彦十だが、原作では舟形の宗平である。そして平蔵以下、火盗の同心に大滝の五郎蔵が盗人に化けて一味に加わったが、テレビでは五郎蔵に代えて伊三次が参加する。また、平蔵の偽名も原作の浦山平太郎からより勇ましい虎蔵に変わっている。

※針ヶ谷の友蔵は、『谷中いろは茶屋』事件の際に墓火の秀五郎一味にいて運よく捕縛をまぬがれた2人の内の1人で、もう1人が相棒の大亀の七之助である。

※歯がほとんんど抜け落ちている小兵衛の食生活は、1日2回、卵の黄身をまぶした飯と酒1合の他、何も口にしないというもの。

※中村嘉葎雄演じる猿皮の小兵衝と垂水悟郎演じる弥治郎の関係は、第8シリーズ第3話「穴」(1998年4月29日放送)での平野屋源助(坂上二郎)と茂兵衛(木村元)や、第7シリーズ第10話「見張りの糸」(1997年6月11日放送)和泉屋東兵衛(奥村公延)と奉公人並びにスペシャル「見張りの糸」(2013年5月31日)の堂ヶ原の忠兵衛(中村嘉葎雄)と太助(本田博太郎)にそっくりである。要するに、盗人の家に盗賊が入るストーリーや引退した老盗賊の遊び心を描くのは、池波先生好みのシュチエーションだったのである・・・。

●第7話「のっそり医者」(1995年9月6日)(視聴率13.2%)
・およし – 高橋貴代子    ・土田万蔵 – 遠藤憲一    ・今井宗兵衛 – 樋浦勉
・荻原宗順 – 宍戸錠

※火盗改方と医師・荻原宗順を結びつける役回りは、「盗賊人相書」事件以降、役宅で預かっていた身寄りのない娘・およし(前回と同じ高橋貴代子)がつとめ、また彼女の身の上を案じる火盗の面々の心情が描かれる回。

※荻原宗順役は宍戸錠だが、テレビドラマでの宗順の名字は荻原だが原作では萩原であり、身長は六尺とあって大柄の宍戸錠にはよく似合う。また現在は人々に慕われる町医者だが、その心中は仇と狙われる逃亡者(早川民之助)の不安で苛まれていることを、宍戸は巧みに演じていた。

※宗順が医術を学んだ地とされる大和国の芝村だが、“剣客商売”では嶋岡礼蔵の故郷という設定だし、この付近は“鬼平”シリーズの『凶剣』(テレビでも同じ「兇剣」)でも登場する。はたして、池波先生所縁の地でもあろうか・・・。

●第8話「男の毒」(1995年9月13日)(視聴率14.9%)
・おきよ – 川上麻衣子   ・伊助 – 中井啓輔   ・直吉 – 坂本あきら
・簣の子の宗七 / 黒股の弥市 – 本田博太郎

※原作は『江戸の暗黒街』の一篇『男の毒』で、本来は平蔵たち火盗の面々は登場しない。原作での黒股の弥市は盗賊ではなく、香具師の元締の腕利きの子分だがおきよに殺害されてしまう。だがテレビ番組では、火盗の捕り方の前で労咳により喀血して死亡する盗賊となっている。伊助が煮売り屋なのは同じだが、おきよの祖父ではなく亡父の知人で阿呆烏まがいの様なことをしている。テレビでは“本所の銕”の古馴染みとされていて、昔の場面には幼い頃のおきよも登場する。また原作では、宗七はおきよと駆け落ちする黒股の弥市の弟の堅気の経師屋で、簀の子の宗七などという名前の盗賊ではない。だがこの番組では、 黒股の弥市とは兄弟でも何でもない(瓜二つの)他人の設定である。

※おきよ役の川上麻衣子が、男に翻弄されて狂わされた人生をおくる女を好演。

※おきよに毒を仕込んだ弥市と最後の男となった宗七を、本田博太郎が2役で演じている。獣の様な弥市の凶暴さと盗賊だが優しくて気のいい宗七とを見事に演じ分けている。また本田博太郎は、第1シリーズ第18話「浅草・御厩河岸」(1989年12月13日放送)では松吉役、第4シリーズ第10話「密偵」(1993年2月24日放送)では青坊主の弥市を、第7シリーズ第15話「見張りの見張り」(1997年7月16日放送)の長久保の佐助、第9シリーズ第1話「大川の隠居」(2001年4月17日放送)では津村の嘉平役、鬼平犯科帳スペシャル「兇賊」(2006年2月17日放送)では馬返しの与吉、鬼平犯科帳スペシャル「見張りの糸」(2013年5月31日放送)では太助と数多くの配役をこなしている、シリーズ常連のゲスト俳優である。

●第9話「迷路」(スペシャル)(1995年9月20日)(視聴率13.8%)
・玉村の弥吉 – 阿藤海   ・竹尾の半平 ‐ 中丸新将   ・法妙寺九十郎 ‐ 早川保
・秋本源蔵 ‐ 山内としお   ・安藤玄舟 ‐ 大林丈史   ・岸井左馬之助 ‐ 竜雷太
・京極備前守高久 ‐ 仲谷昇   ・池尻の辰五郎 – 有川正治   ・矢野口の甚七 – 井上昭文
・猫間の重兵衛 – 石橋蓮司

※原作・前半における同心・細川峯太郎の役割は、このテレビ番組では木村忠吾に代わっている。また原作とテレビ番組では居酒屋「豆甚」の扱い方も多少異なっている様だ。尚、原作は長編の為、テレビ版でも出演者が多い。

※原作では、「豆甚」の甚七とお松の人相書を描く絵師が、飯田町の絵師・菊池夏信になっている。この人相書を観たおまさの口から矢野口の甚七の身元が割れ、平蔵も昔の甚七のことを想い出す。テレビでは人相書きを見た密偵・相模の彦十が、それが盗賊・矢野口の甚七であることに気づく形に変更されている。

※物語の中盤で、平蔵の息子・長谷川辰蔵も闇討ちに合うが、この頃になるとなかなかどうして腕を上げている彼は、逆に浅手を負わせ暗殺者を退け、しかも峰打ちにして捕えようとするが逃げられてしまう。

※玉村の弥吉・・・法妙寺九十郎が、密偵になっているとは知らずに玉村の弥吉(阿藤海)に接触を図ってきたことが、事件解決の糸口となるのだが、原作のラストで、火盗の長官に復帰して役宅に戻った平蔵が珍しく、「もしも、この玉村の弥吉を密偵にしておかなかったら、どうなっていたろう・・・中略・・・あの異常事態の中にあって、玉村の弥吉は落ち着きはらい、あわてず騒がず、しかも、いささかの手ぬかりもなくはたらいた」と思う場面がある。また重要な報告の為に、深夜、役宅の平蔵の寝所の脇まで誰にも見咎められずに進入するくらいの凄腕な弥吉だが、テレビ番組での、ぼーっとした阿藤海の仕草ではどう見てもミスマッチなのだった。『男の隠れ家』事件(テレビでは2001年5月1日放送の第9シリーズ第3話「男の隠れ家」)の後に密偵となった彼だが、さすがに只者ではなかったという訳であるが、原作の容貌(人並み以上の馬面、目・鼻・口の間隔が離れすぎている)のイメージだと阿藤海だが、やはりその仕事ぶりは「男の隠れ家」で弥吉を演じた地井武男(2012年6月29日没)の方がよく似合う。

※猫間の重兵衛・・・本名を木村源太郎といい、昔、御家人の父親であった惣助を平蔵に殺害され、自分も右腕を斬り落された。後に池尻の辰五郎の娘と結婚するが、義理の弟・2代目池尻の辰五郎が火盗に捕まり自害したことを恨み、平蔵への復讐心は否が応にも燃え上がった。こうして“鬼平”周辺の人々を次々に暗殺していったが・・・、最後には捕縛されて処刑された。

※岸井左馬之助宅で虚無僧に変装する平蔵、原作では虚無僧ではなく頭を丸めて托鉢僧に。

●第10話「おかね新五郎」(1995年10月18日)(視聴率14.0%)
・おかね – 南田洋子    ・原口新五郎 – 滝田裕介    ・弥助 – 山田吾一
・為吉 – 森下哲夫

※このテレビ番組ではおかねとおまさの交流が描かれるが、原作にはおまさは登場せず、平蔵と原口新五郎の間柄がより詳細に触れられている。またある意味、新五郎とおかねの子供の敵討ちを兼ねた純愛物語である。

※南田洋子(2009年10月21日没)の演じたおかねが好評であり、人生経験豊かな女の姿がよく描かれていた。また原口新五郎役の滝田裕介も、2015年5月3日に亡くなった。

※弥助を演じた山田吾一も、2012年10月13日に死去。彼は、初代の木村忠吾役の古今亭志ん朝とは大親友であったことが知られている。また萬屋錦之介版の第3シリーズ第3話「霧の朝」(1982年5月4日放送、テレビ朝日)では井関録之助、吉右衛門版・第1シリーズ第3話「蛇の眼」(1989年7月26日放送)では彦の市の役、第3シリーズ第17話「忠吾なみだ雨」(1992年4月29日放送)のつちや善四郎、などを演じている。

●第11話「五月闇」(1995年11月1日)(視聴率15.9%)
・強矢の伊佐蔵 – 速水亮   ・おとら – 正司照枝   ・市野の馬七 – 中嶋しゅう
・医師・飯島順道 – 牧冬吉   ・およね – 池波志乃

※テレビ番組も原作もストーリーはほぼ同じだ。テレビの終盤、「平蔵の手控えには密偵・伊三次の名も、その生死も記されていない。火付け盗賊改め方の密偵とはそういう仕事だった」といったナレーションが流れるが、当然、これはテレビドラマのみの演出である。また伊左次が刺された場所もテレビとは異なるが、原作での瀕死の伊左次は、襲撃現場近くの伊勢亀山の大名・石川日向守の屋敷に担ぎ込まれた後に数日持ち応えたが、やがて息を引き取った。

※原作の終盤で「みよしや」へ張り込むのは大滝の五郎蔵だが、テレビでは相模の彦十。伊左次が死に際に平蔵からもらった小判2両を、およねに渡してほしいと頼むのもテレビ番組独自の演出。伊佐蔵や伊佐蔵の女房・おうのとの因縁話を告白するのも、川日向守の屋敷へ見舞いに来た平蔵にである。そして伊三次が、もはや命もわずかで尽きるという場面で枕頭に寄り添うレギュラーの面々、死に際が描かれずに終わるのは原作と同様である。

※伊左次役の三浦浩一はインタビューに答えて、「『五月闇』をやるときは、鬼平シリーズの本当に最後のときにやらせてください」とプロデューサーに頼んでいたという。その為、この「五月闇」を撮り終えたところで吉右衛門版は終了だと勘違いしていたら、自分抜きで続いたので寂しい想いをしていた。暫くして伊左次復活の話があったが、一旦、死んだ伊左次が再び登場するのは変だと思い、涙をのんで出演を断ったと云う。すると番組の市川プロデューサーが「じゃあ、ナレーションで“これは伊左次が生きていた頃の話である”と一行足すが、それでどうでしょうか」と述べたので、待ってましたとばかりに引き受けたとの逸話が有名だ。

※三浦浩一は、テレビ“剣客商売”シリーズの藤田まこと版でも秋山小兵衛馴染みの四谷の御用聞き・弥七役を演じているが、筆者の周りにも伊左次と弥七の区別が付かなくなっている友人が多い(笑)。それほど池波ワールドにうまいこと染まっている役者さんである。

 

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『鬼平犯科帳』フジテレビ公式HP・・・各話のあらすじはこちらから

 

劇場版(1995年11月15日公開)

●「鬼平犯科帳 劇場版」(中村吉右衛門主演のテレビ時代劇の映画化作品で松竹創業100周年記念作品)
・秋山源蔵(与力) – 神山繁   ・荒神のお豊 – 岩下志麻   ・白子の菊右衛門 – 藤田まこと
・沖源蔵 – 石橋蓮司    ・狐火の勇五郎 – 世良公則    ・吉五郎 – 本田博太郎
・百蔵 – 平泉成   ・文吉 – 遠藤憲一   ・蛇の平十 – 峰岸徹
・天ぷら屋の主人 – 道場六三郎   ・佐代 – 江口由起   ・清(平蔵の娘) – 久我陽子

※吉右衛門版の第1シリーズ第11話「狐火」のリメイクにあたる。その他に原作の『蛇の目』や『流星』、そして『迷路』などの内容が再構成されて組み込まれていて、さすがにその盛り沢山のストーリーには賛否両論。また本作の荒神のお豊のモデルは、原作の『艶婦の毒』の中の登場人物であるお豊であろう。そして、映画の最後の方で、平蔵がお豊から斬り付けられた後に囁く場面の都都逸の台詞だが、この劇場版で秘されている形だが、第5シリーズ第12話「艶婦の毒」(1994年7月6日放送)で既に忠吾の口から明らかになっている(「親もいらねば、主ももいらぬ・・・」)。「主(あるじ)もいらぬ、親もいらぬ…」と冒頭が逆のバージョンもあるが、この台詞も原作にはない映画・テレビドラマのオリジナルである。

※“料理の鉄人”に出演していた道場六三郎が登場するのは、いささかお茶目な感じである。

※初めは敵対者の側にあったが、平蔵と関わる内にその人柄に魅かれていくという設定の香具師の元締め・白子の菊右衛門を演じた藤田まこと(2010年2月17日没)だが、池波作品と云えば『仕掛人・藤枝梅安』がテレビ・映画の“必殺仕事人”シリーズの翻案元であることは有名。そして同シリーズでの同心・中村主水役は生涯を通じての藤田の当たり役となった。

※上記掲載した俳優以外はテレビ番組のレギュラーメンバーがほぼ揃って出演している。翌年に亡くなる筆頭与力・佐嶋忠介役の高橋悦史(1996年5月19日没)も登場している・・・。

※秋元源蔵役の神山繁が、この原稿の執筆中の2017年1月3日に亡くなった。

 

第7シリーズ(1996年8月21日 – 1996年9月4日、1997年4月16日 – 1997年7月16日、フジテレビ系 水曜20時台時代劇枠)

●第1話「麻布ねずみ坂」(1996年8月21日)(視聴率12.2%)
・中村宗仙 – 芦屋雁之助   ・石島精之進 – 中原丈雄   ・お八重 – 速水典子
・川谷の庄吉 – 螢雪次朗   ・お絹 – 仰樹枝里

※原作では(嫁や娘の病気で生活苦に喘いでいる)同心・山田市太郎が活躍するが、このテレビドラマではその役は沢田小平次に変更されている。中村宗仙役は前回の第4シリーズ第12話「埋蔵金千両」(1993年3月17日放送)の大前均ではなく、芦屋雁之助が演じている。また原作とは異なり、石島精之進を誘き寄せて平蔵が斬り捨てる形となっている。

※中村宗仙・・・指圧に長けている医師。荒稼ぎで金を貯めこんでいると噂だが、京都で上方の香具師の元締め・白子の菊右衛門の妾・お八重 に手をつけてしまい、脅されて多額の金を送っていた。しかし集金係として江戸に派遣されていた石島精之進がその金を着服しており、菊右衛門から命を狙われることになる。ちなみに「埋蔵金千両」の時は、瀕死の盗賊・小金井の万五郎を恢復させるほどの腕前を見せたが、当の万五郎は隠し金を奪われたことによりショックで死亡した。

※尚、本作では田中弘史が演じている白子の菊右衛門に関しては、第1シリーズ第12話「兇剣」(スペシャル)(1989年10月11日放送)の項を参照のこと。

●第2話「男のまごころ」(原作:『鈍牛』)(1996年8月28日)(視聴率14.4%)
・亀吉 – 小倉久寛   ・田中貞四郎 – 片岡弘貴   ・源助 – 大杉漣
・無宿者・安兵衛 – 小鹿番   ・沢田筑後守 – 西山辰夫

※今回は平蔵が部下(田中貞四郎)が起こした誤認逮捕を改め、職を賭して冤罪を晴らす物語。原作の亀吉は、体つきは小太りで中年男の様だが、顔は25歳の男とは思えぬ童顔という設定である。また、亀吉の生まれや彼が柏屋に奉公することになった経緯も描かれている。そして、小房の粂八からの(亀吉は冤罪かも知れないという)情報を平蔵に伝えるのも、原作では木村忠吾ではなく酒井祐助である。

※亀吉役は小倉久寛、まさしく彼にはハマリ役だろう。鈍重だが純真・無垢で真面目な、人のいい人物を好演。

※この様な題材を扱うのは、現在では余程慎重でないと難しいだろうが、池波の筆致は亀吉や柏屋の人々等には優しく、冤罪を創り出した源助と田中貞四郎には大層厳しいのだ・・・。

●第3話「妖盗葵小僧」(1996年9月4日)(視聴率14.3%)
・葵小僧芳之助 – 島木譲二   ・京屋善太郎 – 山本宣   ・お千代 – 岩本千春
・小四郎 – 市山登

※原作では、葵小僧芳之助の過去が詳しく述べられている。彼は役者(桐野谷紋十郎)の子として尾張で生まれて初めは人気者の子役だったが、成長するにつれてその低い鼻が災いして良い役もつかず人気も落ち目となる。そして21歳の初夏、自分を騙しただました茶汲女を殺害して逃亡、以後は盗賊に成り下がった。また女性への過度の不信感から、押し込み先で女性への暴行を重ねる様になる。更に原作では、押し込みの際に声色を使って戸を開けさせる役割は芳之助の配下の小四郎(貸本屋の亀吉)の仕事である。

※テレビでは、葵小僧に辱められた京屋善太郎の妻・お千代は自殺を図ろうとし、火付盗賊改方同心・木村忠吾と密偵のおまさ(梶芽衣子)がそれを助けるが、原作では平蔵がひとりで彼女を思い止めさせる。がしかし、後にお千代は亭主の善太郎により無理心中してしまう。

※原作では、なかなか捕まらない葵小僧に業を煮やした幕閣が、以前に2度も火盗の経験のある先手組・桑原主膳を加役として火盗改方に任命する。

※葵小僧一味は、神田筋違御門外の料亭「高砂屋」へも押し入る。陵辱されたのは、主・利兵衛の女房のおきさだったが、彼女の実家は亀戸天神前の料理屋「玉屋」であった。そしてこの時、「玉屋」の料理人・吉太郎の声色を騙って侵入している。更に、この話が第6シリーズ第1話「蛇苺の女」(スペシャル)(1995年7月19日放送)へと続くが、原作『蛇苺』でもその関係性は同じである。

※葵小僧芳之助・・・盗みよりも女を犯すことに熱心な盗賊。モデルは実際に平蔵が捕らえ、処刑した葵小僧である。

※史実の葵小僧は、生年不詳で寛政3年5月3日(1791年6月4日)に処刑された江戸時代の盗賊である。別名、大松五郎(だいまつごろう)。

Wikipedia日本語版によると「寛政3年(1791年)の頃、徳川家の家紋である葵の御紋をつけた提灯を掲げて商家に押込強盗を行い、押込先の婦女を必ず強姦するという凶悪な手口をもって江戸中を荒らしまわったが、火付盗賊改方の長谷川宣以(平蔵)により板橋で捕らえられた。普通の取調べなら被害者からも供述を取って処断するところであるが、強姦された被害者の苦痛を慮り、平蔵と老中の専断により捕縛後10日ほどで獄門にかけられた。」とある。

※この回で葵小僧芳之助を演じた島木譲二(お笑い芸人で元プロボクサー)は、昨年(2016年)12月16日に亡くなった。

※ちなみに池波正太郎は、1964年1月6日号の『週刊新潮』に『江戸怪盗記』のタイトルで、“鬼平”シリーズに先駆けて葵小僧の事件を題材にした短編小説を発表している。これは長谷川平蔵が池波作品に初めて登場した作品でもあり、短編集『にっぽん怪盗伝』に収められている。

●第4話「木の実鳥の宗八」(原作:『春雪』)(1997年4月16日)(視聴率16.0%)
・宗八 – 大木実   ・おきね – 山口美也子   ・大塚清兵衛 – 本城丸裕
・川辺軍兵衛 – 谷口高史   ・霞の定五郎 – 渡辺哲   ・宮口伊織 – 高橋長英

※原作は、『春雪』という題名である。原作で冒頭に宮口伊織が掏摸の被害に遭うのを目撃するのは、平蔵と小房の粂八であり、木村忠吾はこの場にはいない。

※原作には、掏摸の掟・三ヵ条(貧乏人からは掏らない、刃物などを使う汚い業は仕掛けない、どんなに金が入っても地道に暮らさねばならない)も登場する。また木の実鳥の宗八の掏摸の師匠・霞の定五郎は第1シリーズ第17話「女掏摸お富」(1989年12月6日放送)での、お富の養父であり、原作の『春雪』では既に死んでいる設定となっている。

※テレビ番組では、珍しくおまさが黒装束に身を包み、盗賊が目をつけている「伊勢屋」に忍び込みその家の間取りを確認するという姿が披露されている。

※宗八役の大木実も、2009年3月30日に亡くなった。

※宮口伊織を演じた高橋長英は、第2シリーズのスペシャル「殿さま栄五郎」(1990年4月4日放送)では長沼の房吉、第3シリーズ第5話「熊五郎の顔」(1992年1月22日放送)では信太郎・洲走の熊五郎、第4シリーズ第5話「深川・千鳥橋」(1993年1月20日放送)においては万三役、第9シリーズ第2話「一寸の虫」(2001年4月24日放送)では鹿谷の伴助を演じている。

※木の実鳥とは、猿の異称である。猿は枝から枝へと木の実を啄んで、まるで鳥の様に身軽な姿から猿を木の実鳥と言うらしい。

●第5話「礼金二百両」(1997年4月23日)(視聴率13.6%)
・横田大学 – 磯部勉   ・横田芳乃 – 小畠絹子   ・山中伊助 – 河原崎建三
・谷善左衛門 – 多々良純   ・千代太郎 – 藤山扇治郎   ・又太郎 – 小林宏史

※原作には、平蔵が悪夢にうなされたり、久栄が大切な櫛と笄を質入れする逸話はない。また、テレビドラマの与力・小林金弥の役どころは、原作では筆頭与力の佐嶋忠介である。

※非公式とは云え、本来は役目柄、謝礼金など受け取れない。だが敢えて与力・小林金弥の目の前で平蔵は頭を下げて二百両を受け取った・・・。テレビでは久栄の大切な嫁入り道具の櫛と笄も戻って、目出度し目出度しなのだった。更に平蔵が小林と食事をする際に、「これは女房自慢の煮物だ。女房選ぶなら煮物のうまい女を選べと言うが、こりゃ本当だな」と語るところが好い。

●第6話「殺しの波紋」(1997年4月30日)(視聴率13.8%)
・富田達五郎 – 萩原流行   ・犬神の竹松 – 河原さぶ   ・お吉 – 大藤三莱
・多加 – 志乃原良子   ・幸 – 藤井真理

ドラマと原作にそれ程大きな違いは無いが、原作では、富田の悩みと苛立ちは娘・幸(さち)の大病に加え、同心・木村忠吾との不仲が原因。また富田達五郎の尾行には、『穴』事件の後に平蔵に協力することになった扇屋・平野屋源助の番頭の茂兵衛が活躍する。番組の最後で、呼び止められた富田達五郎が切りかかってきたので、仕方なく彼を斬った後に平蔵は、「富田は与力として抜群の働きをしてくれた。富田は養子だ。娘の婿養子の話を壊さないようにな」と配下の者には語るところはテレビの独自のシーンである。

●第7話「五月雨坊主」(1997年5月14日)(視聴率14.5%)
・およね – 池波志乃   ・石田竹仙、天徳寺・善達、羽黒の久兵衝 – 上田耕一 ※一人三役
・長五郎 – 和崎俊哉   ・お栄 – 奈良富士子

※原作は、平蔵へ会いに大滝の五郎蔵に伴われて役宅へ石田竹仙が現れるところから始まる。つまりテレビ番組の冒頭の様な、伊左次が登場する場面はない。ましてや原作ではお栄はまったく登場しないので、お栄が捕縛されて、長五郎、荷頃の半七との関係などを語る場面はテレビだけのオリジナル脚本である。但し、伊佐次の馴染みの提灯店「みよしや」の女郎・およねとお今(田辺ひとみ)が、竹仙が描いた人相書きを見て、髭をつけると、谷中の寺の坊主・善達にそっくりだと証言するところは原作に同じ。

※平蔵に丸坊主にされて泣きべそを噛む忠吾だが、天徳寺へ送り込まれて九死に一生を得る。

※石田竹仙を上田耕一がひとり三役として演じているが、第5シリーズ第9話の「盗賊人相書」(1994年6月15日放送)に登場した本物の石田竹仙役の柄本明と、どことなくこの人は似ていて適役だったとの評が多い。

※伊左次の馴染みの女郎・およね役の池波志乃が、生き生きとした可愛い女を好演。ちなみに彼女は第1シリーズ第22話「金太郎そば」(原作:『にっぽん怪盗伝』)(1990年1月24日放送)でお竹を演じている。ちなみにテレビドラマでは描かれていないが、原作にはおよねが伊三次に『私は勢州・関の生まれで・・・』と語る場面があり、関は捨て子だった伊三次が宿場女郎衆に10歳まで育てられた土地で、実はおよねは伊三次がいちばん世話になった女郎の娘だったという秘話が綴られている。

●第8話「泣き味噌屋」(1997年5月28日)(視聴率14.4%)
・川村弥助 – 平田満    ・さと – 北原佐和子    ・秋元左近 – 亀石征一郎
・和田木曽太郎 – 伊藤高

※和田木曽太郎と芝崎忠助(和田の門人)の足取りを掴んでくるのは、原作では御用聞き・鮫ケ橋の富七の配下の下っ引きの庄太だが、ドラマでは小房の粂八となっている。また出役時には、川村弥助と同じように妻を亡くした過去を持つ小柳安五郎が加わるが、原作では川村の妻・さとの捜索時から、進んで携わっている。

※川村弥助を演じた平田満の容姿とは異なり、原作の川村弥助は27歳で6尺近い堂々たる背丈、大きな太鼓腹で後姿はどう見ても相撲取りである。だが彼は極端に臆病な性格で、それ故に“泣き味噌屋”という綽名を木村忠吾に付けられてしまう。

※原作での、平蔵の剣捌きがカッコいい。「・・・柴崎の刃風を下にながしつつ、飛び下りた平蔵が腰をひねりざま、亡き父ゆずりの粟田口国綱二尺九寸の愛刀、ぬく手も見せぬ電光の一撃・・・」吉右衛門も、こうしたキレのある殺陣が出来なくなって“鬼平”シリーズに幕を閉じたのに相違ない。

●第9話「寒月六間堀」(1997年6月4日)(視聴率15.3%)
・市口瀬兵衛 – 中村又五郎   ・おとせ – 中村久美   ・山下藤四郎 – 潮哲也

※原作には、おとせ(中村久美)は登場しない。その為、市口瀬兵衛の息子・伊織の嫁となる予定だった彼女と山下藤四郎の、その後の複雑な因縁話は全く出てこないのだ。伊織が討たれた理由も、婚礼の前におとせに言い寄った山下藤四郎と果し合いをして破れたことになっているが、原作では藤四郎は男色家であり、妻子ある身でありながら伊織に言い寄り、伊織の結婚が決まると嫉妬のあまり命を奪ったのだった。また原作には相模の彦十は出てこないが、代わりに「笹や」のお熊が登場、そして瀬兵衛の仇討ちを助ける平蔵の手下となって“逆でこ”の仙次郎と弟分の板前・弥吉が活躍する。

※当然ながら、番組の終盤で巴屋の女将・おとせと平蔵と短く交わす会話も、原作にはない。

●第10話「見張りの糸」(1997年6月11日)(視聴率15.2%)
・和泉屋東兵衛 – 奥村公延   ・おきく – 一色彩子   ・戸田銀次郎 – 遠藤征慈
・稲荷の金太郎 – 片桐竜次

※原作では、和泉屋東兵衛の名前は忠兵衛である。そして和泉屋の正体に最初に気づくのは、井関録之助(録之助は登場しない)ではなく祝言直後の木村忠吾の亡き許嫁の父親である(出張でたまたま江戸に来ていた)京都西町奉行所与力・浦部彦太郎であり、また今回の事件で中心的な役割を果たす悪女・おきくも原作には登場しない。そして稲荷の金太郎と戸田銀次郎は別個の盗みを企図しており、堂ヶ原の忠兵衛は、おきくではなく戸田銀次郎の兄の仇との設定。

※和泉屋忠兵衛(東兵衛)・・・引退した盗賊の頭で、堂ヶ原の忠兵衛というのが本名で70歳近い老人。また和泉屋の者は忠兵衛を始めとして全て元盗賊である。

※この回は、スペシャル『見張りの糸』(2013年5月31日放送)でリメイクされた。

●第11話「毒」(1997年6月18日)(視聴率14.6%)
・山口天竜 – 佐川満男   ・伊太郎 – 有薗芳記   ・万右衛門 – 津村鷹志

※ドラマでは、山口天竜は町医者になれずに陰陽師になったという設定だが、原作では陰陽師になる前は一人前の町医者であった。

※掏摸の伊太郎役の有薗芳記の演技が好ましい。始めは威勢がいいが、平蔵に捕まるや恐れおののく小心者だ。平蔵の命で連れ出されても、ひたすらびくびくとしている。まさしく、原作の伊太郎通りである。

※山口天竜・・・もと町医者の陰陽師。肥前・長崎の生まれで、京都で蝋燭問屋「能登屋」の内儀と密通し、その際に手代を殺害して京都から逃れて諸方を流浪した後に江戸に流れ着いた。江戸に来る前は山口伯堂と名乗っていたが、本名は山口由之助である。

※原作の最後には、事件の後、赦されて役宅の小者となった掏摸の伊太郎が、平蔵の死に際して世をはかなんで自殺を図るが死に切れず、以降、平蔵夫妻の墓守りをして一生を終えた、と書かれている。

※ちなみに、ドラマのラストで登場する卵酒の作り方は、原作で詳しく解説されている。「小鍋に卵を割りこみ、酒と少量の砂糖を加え、ゆるゆるとかきまぜ、熱くなったところで椀へもり、これに生姜の搾り汁を落す」これが平蔵好みの卵酒であった・・・。

●第12話「あいびき」(原作は『あいびき』で短編集『おせん』所蔵)(1997年6月25日)(視聴率12.3%)
・お徳 – 左時枝  ・仁兵衝 – 三遊亭金馬  ・朋斉 – 竹本孝之  ・文吉 – 櫻木健一

※短編集『おせん』に収録されている『あいびき』が原作だが、そこでは裕福な菓子舗の女房・お徳と浮気相手の僧・覚順(ドラマでは朋斉)の力関係は逆であり、お徳の方が逢引きの日時を指定するなど積極的。やがて、お徳と覚順の不倫を知ることになった井筒屋の文吉に彼女は脅されるのだった。この作品は“鬼平”シリーズではないので、本来は平蔵も盗人なども登場しない。また各種設定も、“鬼平”シリーズに合わせて変更となっている。

●第13話「二人女房」(1997年7月2日)(視聴率12.6%)
・高木軍兵衛 – ジョニー大倉   ・お増 – 伊佐山ひろ子   ・彦島の仙右衛門 – 中野誠也
・佐吉 – 石田登星

※味噌問屋「佐野倉」の用心棒・高木軍兵衛の後日談だが、原作とは細かな点が幾つか異なる。加賀屋の佐吉との再会場面や軍兵衛が殺しの依頼を受ける流れ、平蔵ら火盗の面々との連携の取り方など。また原作では、軍兵衛と弥勒寺門前の茶店「笹や」のお熊は昔なじみという設定だった。

※加賀屋佐吉・・・彦島の仙右衛門の嘗役。仙右衛門の女房・お増の悋気に乗じて仙右衛門を殺害して一味を乗っ取ろうと画策するが平蔵に阻まれ、最後は火盗の役宅で仙右衛門に懲らしめられる。

※彦島の仙右衛門・・・上方を根城とする盗賊の頭。どこかその性格はのんびりとしているが、女房のお増の眼を盗んで江戸に妾のおときを囲っていた。佐吉に暗殺を依頼された軍兵衛に殺されたと見えたが、実は火盗に捕えられたのだった。但し、その末路は佐吉共々処刑となる。

※第1シリーズの第23話「用心棒」の時よりも高杉道場での稽古のおかげで幾分かは剣術の腕も上達したようだが、相変わらず気が弱く人の好い高木軍兵衛である。しかし相変わらず彼の存在そのものが、周囲に暖かい雰囲気を振りまいている。

●第14話「逃げた妻」(1997年7月9日)(視聴率16.4%)
・藤田彦七 – うじきつよし    ・おみね – 佐藤恵利    ・おりつ – 江口由起
・お千代 – 石井トミコ   ・宗六 – 園田裕久   ・燕小僧 – 赤星昇一郎

※原作では、浪人・藤田彦七と忠吾の行きつけは居酒屋「治郎八」で、この店は『一本眉』にも本格派の盗賊・清洲の甚五郎の盗人宿として登場する。また、平蔵に目をかけられ忠吾の嫉妬を買うのは(テレビでは中村吉之助が演じる三井忠次郎だが)原作では細川峯太郎である

※燕小僧こと入間の又吉・・・軽業師出身の盗賊。以前にも平蔵に追い詰められたが、持ち前の身軽さで逃げおおせたが、今回は捕まり処刑された。

●第15話「見張りの見張り」(1997年7月16日)(視聴率16.2%)
・長久保の佐助 – 本田博太郎   ・お六 – 清水ひとみ   ・杉谷の虎吉 – 金子研三

※原作では、長久保の佐助が最初に出会うのはおまさではなく舟形の宗平である。またテレビでの小房の粂八の役回りは、本来は大滝の五郎蔵のポジションで佐助の子の仇である杉谷の虎吉は、かつて五郎蔵の配下であった。またこのテレビ番組では、南品川で佐助を見かけるのは相模の彦十だが、原作では伊左次の役。その後、伊左次が佐助をつけるが、テレビでは木村同心がこの役を引き受けている。更に原作では、杉谷の虎吉の捕縛は五郎蔵がひとりで行い、ラスト近くの白州の場面で虎吉は佐助に向かって、佐助の息子・佐太郎を殺したのは自分ではなく、橋本の万造であると告げる。

※長久保の佐助役の本田博太郎は、この吉右衛門版“鬼平”シリーズの常連役者で色々な配役に就いている。

 

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第8シリーズ(1998年4月15日 – 1998年6月10日、フジテレビ系 水曜20時台時代劇枠)

●第1話「鬼火」(スペシャル)(1998年4月15日)(視聴率13.1%)
・お浜 – 山口果林   ・高橋勇次郎 – 小西博之   ・吉野道伯 – 三谷昇
・渡辺丹波守直義 – 西田健   ・滝口金五郎 – 浜田晃   ・大野弁蔵 – 遠藤憲一
・中村春庵 – 花上晃   ・永井伊織 – 平田一樹   ・永井弥一郎 – 荻島真一

※原作は特別長編であり、登場人物や犯人達の関係も複雑で多岐にわたる。また、平蔵の従兄・三沢仙右衛門や旧友・井関録之助、伊三次贔屓の娼妓・およねなど、“鬼平”シリーズ御馴染みのメンバーも登場して其々に活躍する。尚、お浜が息子・永井伊織の姿を眺めるシーンはドラマのみのオリジナル場面で、また原作でのお浜は居酒屋襲撃の際に重傷を負い、火盗改方の役宅内の牢屋で手当を受けたが何も語らないまま自死してしまう。

※大野弁蔵を演じた遠藤憲一も、この吉右衛門版“鬼平”シリーズでは多くの悪党をこなしているが、以前ではその爬虫類的な顔貌から悪役オンリーな感が強かったが、最近ではコミカルで善良な主役級を演じることも多い。

●第2話「瓶割り小僧」(1998年4月22日)(視聴率18.7%)
・石川の五兵衛 – 上杉祥三   ・口合人・千蔵 – 梅津栄   ・富 – 大澤佑介
・牛松 – 佐藤蛾次郎   ・お浜 – 沢村亜津佐   ・赤松弥太郎 – 辻萬長
・赤松小弥太 – 辻輝猛

※この番組では、めしやの主人・赤松弥太郎とその息子の力を借りて五兵衛は平蔵のことを思い出すが、原作ではその顔を眺める内にかつて瓶割りをした時に叱られた侍だと気づき、恐れ入るという寸法。また五兵衛逮捕の端緒となる牛松の件や、猫どのこと村松忠之進と「五鉄」の三次郎による軍鶏鍋対決はテレビ番組のみの演出だ。やはりテレビの村松は“ウザイ”。

※もう少し、佐藤蛾次郎の牛松に活躍の余地を与えても良かったかも知れない。

※悪餓鬼を演じた富役の大澤佑介の台詞回しと演技が新鮮味があって光る。

●第3話「穴」(1998年4月29日)(視聴率15.5%)
・平野屋源助 – 坂上二郎   ・茂兵衛 – 木村元   ・壷屋菊右衛門 – 垂水悟郎
・近江の助治郎 – うえだ峻   ・お半 – 松木路子   ・おみわ – 沢木蘭野

※テレビドラマでは、何故か壷屋菊右衛門の嫁に対する虐めが強調されているが、それとは対照的に源助と茂兵衛一家(茂兵衛の妻と娘)との交流が温かく描かれている。尚、平蔵に赦された源助と茂兵衛は、原作『殺しの波紋』・『雲竜剣』では密偵として活躍する。

※坂上二郎(2011年3月10日没)演じる平野屋源助がカワイイ。既に引退しているのに時々「盗みの血」が騒ぐ。つい出来心で犯行に及んでも洒落っ気たっぷりで、被害者に迷惑をかけない結末を用意。但し原作での容姿は、鶴のように痩せ、白髪とあるので、ふくよかな二郎さんとはいささか異なる感じだが・・・。

※平野屋源助(帯川の源助)・・・随分と前に盗賊を引退して、扇屋の主人となっていた。しかし盗人の血が再び騒ぎ出して配下の茂兵衛と共に隣家へとトンネルを掘っては見事な盗みを働く。しかしその仕掛けを平蔵に突き止められて、2回目の犯行後に現場を押さえられた。後に茂兵衛と共に密偵となる。梅干が大好物で、盗めの最中も口に含んでいる。

※近江の助治郎・・・錠前破り用の鍵作りの名人。蝋型から完璧な鍵を作る為、わざわざ彼の住居がある近江まで訪れる盗賊もいるとされる。

●第4話「眼鏡師市兵衛」(原作:『二度ある事は』)(1998年5月6日)(視聴率13.9%)
・市兵衛 – 加藤武    ・三雲の利八 – 加納竜    ・蕎麦屋の親爺 – 工藤栄一
・おふじ – 菅原あき

※原作で市兵衛を小間物屋「かぎや」の前で見かけるのは、同心・細川峯太郎である。他にも細かい部分で異なる設定がある。峯太郎は、もと浮気相手(お長)の店(茶店「越後屋」)を覗く途中で市兵衛を発見するが、平蔵に浮気心がばれ、以前の勘定方に戻されてしまう。このテレビ版では、峯太郎の代わりに木村忠吾、まさしく解かり易い同類が市兵衛を追う。ちなみに、この二人の菩提寺は同じ目黒の感得寺。行動パターンが非常に似ている二人だが、忠吾の方がお調子者でポジティブである。

※市兵衛・・・原作の『草雲雀』『二度あることは』に登場する、蓑火の喜之助の配下で錠前の合鍵づくりの名人、引退後に眼鏡師として余生を送っている。既に死亡している盗賊、瀬川の友次郎の友人。事件後、半年を経て(友次郎の店跡に張り込んでいた、おまさ・五郎蔵と高橋勇次郎によって)捕縛されるが、赦されて密偵となる。

※原作では、平蔵は三雲の利八のことは馬蕗の利平治から聞き知ったとされている。また市兵衛の弟子の五助は事件後に火盗の役宅で働くことになる。

●第5話「はぐれ鳥」(原作:『白蝮』)(1998年5月13日)(視聴率15.4%)
・津山薫 – 毬谷友子    ・吉見丈一郎 – 羽場裕一    ・お照 – 竹内都子
・お吉 – 原田千枝子

※同心・吉見丈一郎は原作にはない登場人物である。また津山(森初子)の剣友は沢田同心の役で、このふたりの間に特に恋愛感情はなく、初子の境遇も微妙にドラマとは異なる。更に原作の津山は娼婦・お照への愛情など持たない冷血漢として描かれている。尚、冒頭の「いろは茶屋」での木村忠吾の役回りは原作では長谷川辰蔵(但し、この場所を辰蔵に教えたのは忠吾)である。また津山の隠れ家は印判師香玉堂であり、お照も死なずに助けられる。

※お照役の竹内都子は、お笑いコンビ“ピンクの電話”のひとり(ミワちゃん)である。一時期はダイエットの結果、相当に痩身となっていたが、最近では太めの体形に復調!?している。

●第6話「おれの弟」(1998年5月20日)(視聴率14.3%)
・滝口丈助 – 渡辺裕之    ・お市 – 真行寺君枝    ・宗仙 – 織本順吉
・石川源三郎 – 友居達彦   ・高杉庄平 – 大木晤郎

※原作では、丈助とお市は兄妹の設定。また平蔵が丈助の見張りを私的に依頼する火盗の者は、このテレビ番組では沢田小平次だが、原作では与力の佐嶋忠介と同心・小柳安五郎である。

※ラスト近くで、沢田小平次が騎馬で走る石川源三郎の供の者を打ち倒す手練が凄い。

※滝口丈助役の渡辺裕之は、第5シリーズの第5話「消えた男」でも元同心の高松繁太郎を演じている。

●第7話「同門対決」(原作:『高杉道場・三羽烏』)(1998年5月27日)(視聴率14.0%)
・長沼又兵衛 – 森次晃嗣   ・砂蟹のおけい – 根岸季衣   ・笠倉の太平 – 石丸謙二郎

※原作では、平蔵と又兵衛の他に岸井左馬之助を加えた三人を「高杉道場の三羽烏」としている。テレビ番組では、何かにつけて左馬之助のウエイトは低い様だ。

※森次晃嗣演じる長沼又兵衛に捕縛の際に多くの火盗の役人が斬られたが、流石に平蔵は格の違う処を見せる。

●第8話「影法師」(1998年6月3日)(視聴率15.3%)
・塩井戸の捨八 – 新克利   ・長坂万次郎 – 長谷川明男   ・井草の為吉 – 赤塚真人
・中山茂兵衛 – 石濱朗   ・渋谷道仙 – 山内としお

※原作では、塩井戸の捨八が同心・木村忠吾を見間違えたのは、りゃんこの源三郎ではなくさむらい松五郎である。原作の『さむらい松五郎』で本物の松五郎は捕らえられており、捨八は火盗の牢内でこの松五郎と対面しているが、テレビ番組ではラストの方で同心の忠吾が牢屋に現れて捨八を驚かせている。

※原作、テレビ共に同心・木村忠吾のラッキー手柄話であるが、いつもの様に平蔵からその女好きに関してお灸を据えられて終わる。

※井草の為吉役の赤塚真人だが、この役者も吉右衛門版に数多く参加。第1シリーズ第8話「さむらい松五郎」の須坂の峰蔵役、第5シリーズ第1話「土蜘蛛の金五郎」の子之次役、また萬屋錦之介版の第3シリーズ最終回の「春の淡雪」にも登場している。

●第9話「さらば鬼平犯科帳」(スペシャル)(1998年6月10日)(視聴率15.1%)
・白子屋菊右衛門 – 金田龍之介   ・谷村彦九郎 – 西園寺章雄
・磯辺十郎左衛門 – 南条好輝   ・松平定信 – 十七代目市村羽左衛門
・浪人 – 前田忠明

※賛否両論ありの、過去の回想シーンを繋いだ作品。

※白子屋菊右衛門・・・『仕掛人・藤枝梅安』に登場する香具師の元締。中村宗仙の件以降は、平蔵の人柄を知り、出来るだけ強引な対決を避けている。

 

第9シリーズ(2001年4月17日 – 2001年5月22日、フジテレビ系 火曜20時台時代劇枠)

●第1話「大川の隠居」(スペシャル)(原作:『大川の隠居』・『流星』・『掻掘のおけい』)(2001年4月17日)(視聴率15.5%)
・生駒の仙右衛門 – 財津一郎   ・掻掘のおけい – 平淑恵   ・薮原の伊助 – 深水三章
・津村の嘉平 – 本田博太郎   ・浜崎の友蔵 – 大滝秀治

※原作の『大川の隠居』と『流星』や『掻掘のおけい』を組み合わせたテレビ番組オリジナルの脚本。

※今回は生駒の仙右衛門を財津一郎が、掻掘のおけいを平淑恵が演じている。また大滝秀治の演じた浜崎の友蔵の存在感が行き渡っていた。

●第2話「一寸の虫」(2001年4月24日)(視聴率12.4%)
・仁三郎 – 火野正平   ・鹿谷の伴助 – 高橋長英    ・船影の忠兵衛 – 高橋昌也

※原作との相違点が多い。仁三郎の娘のおみのは、原作では船影の忠兵衛の娘である。既に成人して菓子店に嫁いでいるが、鹿谷の伴助はこの店に押し込んで一家を殺害することで忠兵衛を苦しめようとする。仁三郎の葛藤の原因も、伴助との再会を同心・山崎庄五郎に目撃されたことである。更に、仁三郎は盗賊と相討ちで殺されるのではなく、伴助を殺した後に自害している。

※今回、仁三郎を演じた火野正平は、なかなかの好演。抑えめの演技で鬼平と忠兵衛への義理の両立を果たす一本筋の通った元盗賊の姿を描いた。

※船影の忠兵衛役の高橋昌也だが、台詞は少ないがラスト付近での大盗の様子は貫録もの。

●第3話「男の隠れ家」(2001年5月1日)(視聴率13.9%)
・清兵衛 – 小野武彦   ・玉村の弥吉 – 地井武男   ・お里 – 紅萬子

※テレビ番組の前半では、玉村の弥吉が錠を外して牢を抜ける様子が描かれているが、原作にはそういった場面はない。また吉野家に忍び込む際も、清兵衛が潜り戸を開けている。

※清兵衛役の小野武彦、玉村の弥吉役の地井武男(2012年6月29日没)ともに芝居巧者であり、大掛かりなおつとめ等のないストーリーでも飽きさせない。

●第4話「一本饂飩」(原作:『男色一本饂飩』)(2001年5月15日)(視聴率11.0%)
・寺内武兵衛 – 石橋蓮司    ・与市 – 山西惇    ・お静 – 酒井雅代
・鳥平 – 丸岡奨詞

※このテレビ番組では、寺内武兵衛が忠吾を監禁させた理由を配下が誤解した形としているが、実は忠吾に要らぬ詮索をされた為と本人が後に説明をしている。だが原作の武兵衛は、当初より男色の相手として忠吾を誘拐している。また、忠吾が川に褌を流すシーンはテレビドラマのオリジナルである。更に原作では、この回には相模の彦十は登場しない。

※最近では刑事ドラマ『相棒』で活躍の山西惇が、寺内武兵衛お気に入りの男娼・与市を演じている。

●第5話「闇の果て」(原作:『雪の果て』)(2001年5月22日)(視聴率13.5%)
・おりつ – 野村真美    ・渡辺八郎 – 岡崎二朗    ・吉兵衛 – 樋浦勉
・おみね – 井上ユカリ   ・お弓 – 池本愛彩   ・藤田彦七 – 船越英一郎

※第7シリーズ第14話の「逃げた妻」の続編にあたり、原題は『雪の果て』である。細かいところでは原作と多くの差異がある。原作での木村忠吾の役回りが粂八に置き換えられており、また時系列では既に死亡している密偵・伊三次が登場している。

※この後、二時間ドラマの帝王となる船越英一郎が、裏切られていたとも知らずに無念にも切り倒される浪人・藤田彦七を演じているが、「逃げた妻」ではうじきつよしが藤田を演じた。また、おりつやおみねを演じた女優の配役も変更となっている。

 

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スペシャルフジテレビ系『金曜プレステージ』→『赤と黒のゲキジョー』→『金曜プレミアム』枠での放送)

鬼平犯科帳スペシャル「山吹屋お勝」(2005年2月8日)(視聴率15.1%) ⇒ あらすじ
・お勝 – 床嶋佳子    ・三沢仙右衛門 – 橋爪功    ・相川彦蔵 – 嶋田久作
・初蔵 – 金田明夫   ・荒川の久松 – 田中要次   ・芳斉 – 曽我廼家文童
・霧の七郎 – 平泉成   ・関宿の利八 – 吉田栄作

※このスペシャルドラマは第1シリーズ第20話のリメイクである。今回は利八の死という結末となるが、原作では利八とお勝は山吹屋で再会するとすぐに出奔してしまい、その後、霧の七郎に捕まるところの描写はない。また第1シリーズ第20話では、お勝には新しい恋人がいるという設定であった。

※原作や第1シリーズ第20話では、関宿の利八は大滝の五郎蔵の配下ではなく夜兎の角右衛門の子分である。

※関宿の利八を演じた吉田栄作の演技については、賛否両論があった。筆者としては、まぁ頑張ったと思っているが・・・。

※今回はお勝を床嶋佳子、三沢仙右衛門を橋爪功が演じているが、物語前半の床嶋に関しては好評であったが、後半では少し空回りしていた様である。

鬼平犯科帳スペシャル「兇賊」(2006年2月17日)(視聴率18.5%) ⇒ あらすじ
・鷺原の九平 – 小林稔侍    ・網切の甚五郎 – 大杉漣    ・お葉 – 中原果南   
・文挟の友吉 – 伊藤洋三郎   ・馬返しの与吉 – 本田博太郎  ・野尻の虎三 – 徳井優
・天野彦八郎 – 神山繁   ・おもん – 若村麻由美

※吉右衛門版の第1シリーズ第9話「兇賊」のリメイク作品。序盤で殺される密偵・馬返しの与吉は、原作でも第1シリーズ第9話にも登場しないキャラクターで、この役の登場は、特に意味が内容に思われる。また原作では五郎蔵が鷺原の九平に声を掛ける場面などもなく、九平が恐れて隠れた場所等も異なる。更に本作では、粂八が役宅に走って平蔵の危機に気づくが、原作や第1シリーズ第9話では九平が役宅に連行されてから白状した形である。

※今回は、鷺原の九平を小林稔侍、網切の甚五郎を大杉漣が演じた。最近では、小林稔侍も大活躍の役者だが、原作のイメージを前提にすると鷺原の九平には似つかわしくないと思うが、如何だろうか・・・。

鬼平犯科帳スペシャル「一本眉」(2007年4月6日)(視聴率15.7%) ⇒ あらすじ
・与吉 – 山田純大    ・おみち – 大路恵美    ・倉淵の佐喜蔵 – 遠藤憲一
・弥太郎 – 山崎銀之丞   ・柳田 – 谷口高史    ・伊助 – 上杉祥三
・茂の市 – 火野正平   ・清洲の甚五郎 – 宇津井健

※このテレビ番組は、第1シリーズ第10話「一本眉」(1989年9月20日放送)、第6シリーズ第5話「墨斗の孫八」(1995年8月16日放送)を組み合わせたものであり、原作も同じく一本眉『一本眉』と『墨斗の孫八』となる。また原作の『一本眉』は、清洲の甚五郎が盗み先を横取りされた元手下の倉淵の佐喜蔵一味を成敗するという話で、平蔵の出番はほとんど無い。だが今回はその甚五郎を、墨斗の孫八のキャラクター(大工上がりの盗賊で錠前切りの達人なれど、生への執着がない)を借りて別人格の盗賊に変えている。

※原作では、煮売り酒屋「治郎八」に木村忠吾と共に、”猫どの”こと村松忠之進(沼田爆)が同道する描写などはない。

※今回は清洲の甚五郎を宇津井健(2014年3月14日没)が演じているが、意外にもシリーズ初出演。尚、第1シリーズ第10話での甚五郎の配役は、これまた名優の芦田伸介(1999年1月9日没)であった。

鬼平犯科帳スペシャル「引き込み女」(2008年10月17日)(視聴率16.4%) ⇒ あらすじ
・お元 – 余貴美子    ・伊兵衛 – 羽場裕一     ・おろく – 佐々木すみ江
・お民 – 松金よね子   ・磯部の万吉 – 井手らっきょ   ・駒止の喜太郎 – 石倉三郎
・井上玄庵 – 市川染五郎

※原作とテレビではお元に死因が異なっており、原作では火盗の捕縛を逃れた磯辺の万吉によって殺されてしまう。また、第1シリーズの第24話「引き込み女」では、高沢順子が演じるお元には希望のあるエンディングとなっていた。

※お元を演じた余貴美子は、1990年代以降、多くの映画やテレビ作品で活躍。演技派でもあり、最近ではなかなか貫禄がある女優さんだ。ちなみに、范文雀は彼女の従姉にあたる。

※井上玄庵を、吉右衛門の甥である市川染五郎(7代目)が演じている。また彼は、2011年9月30日放送のスペシャル『盗賊婚礼』では、主役の傘山の弥太郎役に配された。

鬼平犯科帳スペシャル「雨引の文五郎」(2009年7月17日)(視聴率13.7%) ⇒ あらすじ
・雨引の文五郎 – 國村隼    ・おしげ – 賀来千香子    ・落針の彦蔵 – 菅田俊
・おきぬ – 長谷川真弓   ・小鼠の安兵衛 – 上田耕一   ・犬神の権三郎 – 田中健
・舟形の宗平 – 伊東四朗

※原作での舟形の宗平は、齢70歳を超えて寝込みがちだが、何とかもちこたえている。自身、後1年もつかどうか解からないとしているが、実際には多くの作品に登場して活躍、本所相生町の煙草屋の主として店番をしている。今回は原作通り、落針の彦蔵を逃がすのは舟形の役割。また小さな変更点はあるが、本筋はほぼ原作通りである。

※今回は、雨引の文五郎を國村隼が演じ、舟形の宗平は伊東四朗。國村は筆者好みの佳い俳優であるが、雨引の文五郎の設定には老齢すぎるか・・・。伊東四朗もまた同様で、宗平のイメージと比べてまだまだ充分に元気で、しかもがっしりし過ぎている様に見える。

鬼平犯科帳スペシャル「高萩の捨五郎」(2010年6月18日)(視聴率13.9%) ⇒ あらすじ
・高萩の捨五郎 – 塩見三省   ・八重 – 遠野なぎこ   ・お兼 – 北原佐和子
・籠滝の太次郎 – 若松武史   ・鳥居松の伝吉 – 春田純一   ・竹造 – 火野正平
・妙義の團右衛門 – 津川雅彦

※第2シリーズの第10話「盗賊二筋道」と第3シリーズの第8話「妙義の團右衛門」の合体リメイクで、ここでも馬蕗の利平治の代わりに捨五郎が登場。確かに二人とも相模の彦十の知り合いであり、平蔵に赦されて密偵になったという共通点があるが、既述の通り利平治の方が適役。但し、寺尾の治兵衛に関するストーリーは割愛された上で再構成されている。

※今回は、妙義の團右衛門を津川雅彦が演じた。意外にも、テレビ“鬼平”シリーズ初登場である。また相模の彦十役を演じる兄の長門裕之とも共演となった。

鬼平犯科帳スペシャル「一寸の虫」(2011年4月15日)(視聴率14.3%) ⇒ あらすじ
・仁三郎 – 寺脇康文   ・船影の忠兵衛 – 三國連太郎   ・同心・富田庄五郎 – 原田龍二
・富田幸 – 若村麻由美   ・鹿谷の伴助 – 北見敏之   ・袋井の富造 – 上杉祥三

※第9シリーズの第2話で「一寸の虫」は放映されているが、配役等を変えて再び取り上げられた。原作の『一寸の虫』に加えて『殺しの波紋』のエピソードが合わさっている。但し、与力の富田達五郎は同心の富田庄五郎に変わっており、その強請られている理由や背景(原作では富田幸は達五郎の妻ではなく娘)も大きく変更されている。また、このテレビドラマでは鹿谷の伴助が仁三郎だけでなく富田同心をも脅迫する形となっているが、原作では犬神の竹松による強請りであった。

※御大・三國連太郎( 2013年4月14日没)が船影の忠兵衛を演じているが、流石の貫録で吉右衛門との共演が見物であった。

※仁三郎・・・盗賊として捕縛された際に平蔵に見込まれて密偵となった。原作では、鬼平への恩義、またかつての親分・船影の忠兵衛への義理と鹿谷の伴助からの脅迫の板挟みとなり、鹿谷の伴助を殺害後、自害する。

※船影の忠兵衛・・・仁三郎や鹿谷の伴助の親分で、押し込み先には宝船の模型を必ず置いて立ち去るのが特徴の本格大盗。養女に出した娘の様子を見に来たところを偶然に平蔵に見つかり、その後、仁三郎と伴助の相討ちの後、押し込み先で捕縛されて平蔵に二人との関係を語った。

※鹿谷の伴助・・・もとは仁三郎と同じく船影の忠兵衛の配下であったが、盗賊三カ条に反して放逐された盗人。忠兵衛への報復として忠兵衛の娘が嫁入りしていた商家(本銀町の菓子舗「橘屋」)を襲うことを仁三郎に持ちかけるが押し込みの直後に仁三郎に刺殺された。

※余談だが、筆者の身の回りの口さがない雀たちによると、この回は『相棒』特命係の薫ちゃんvs.陣川くんの対決!? というのだが、何のこっちゃ(笑)。熱烈な原田龍二ファンを除いては、寺脇康文に軍配が上がった様ではあるが・・・。ちなみに筆者は若村麻由美のファンで、薫ちゃんも陣川くんもさして気にならない。

鬼平犯科帳スペシャル「盗賊婚礼」(2011年9月30日)(視聴率12.2%) ⇒ あらすじ
・傘山の弥太郎 – 市川染五郎    ・鳴海の繁蔵 – 布施博    ・お糸 – 黒川智花
・根津の丑松 – 鷲生功   ・お津世 – 白石美帆   ・勘助 – 中村歌六
・長嶋の久五郎 – 松平健

※第4シリーズ第3話「盗賊婚礼」(1992年12月16日放送)のリメイクであるが、原作とは多くの部分で異なっている。このドラマでは久五郎の女房・お津世の存在によって久五郎の過去が明らかとなり、久五郎とお津世を助けたいと願う密偵・伊三次の苦悩と活躍が光るが、原作では久五郎は鳴海の繁蔵を討ち果たした直後に死亡、先代の傘山の弥太郎から受けた恩義の詳細は不明のままであった。お津世は存在自体がなく、従って伊三次が悩むこともない。また原作で料理屋「瓢箪屋」を平蔵が訪れるのは、従兄の三沢仙右衛門に連れられてで、当然ながら“猫どの”こと村松忠之進などは登場しない。逆に原作で平蔵と共に「瓢箪屋」に乗り込む岸井左馬之助は、この番組では出番がない。しかも婚礼の場所が別の処(橋場の船宿「ふじや」)に変わっていた。

※第4シリーズ第3話では、長嶋の久五郎は中村橋之助、2代目傘山の弥太郎(一文字一家)が三ツ木清隆、鳴海の繁蔵役は寺田農、お糸(お梅)が田中由美子である。

※スペシャルならではの豪華キャスト、大物・松平健が長嶋の久五郎を好演、存在感を示している。また鳴海の繁蔵を演じた布施博の悪党ぶりが際立っていた。傘山の弥太郎役の市川染五郎は、スペシャル『引き込み女』(2008年10月17日放送)にも井上玄庵役で出演しているが、2018年1月には10代目の松本幸四郎を襲名することが決まっている。

鬼平犯科帳スペシャル「泥鰌の和助始末」(2013年1月4日)(視聴率11.3%) ⇒ あらすじ
・泥鰌の和助 – 石橋蓮司    ・おみね – 酒井美紀    ・徳次郎 – 福士誠治
・喜兵衛の倅 – 梨本謙次郎   ・不破の惣七 – 寺島進   ・喜兵衛 – 中村敦夫

※第1シリーズ第15話「泥鰌の和助始末」のリメイクだが、今回は『おみね徳次郎』をカップリング。その為に原作とは大幅に設定・構成が変更されていて、和助が恩人の息子である徳次郎を引き取り育てていたとして二人がリンクする形になっている。また和助と平蔵にも過去に因縁を持たせている。

※今回の泥鰌の和助は石橋蓮司が演じたが、第1シリーズ第15話の配役では財津一郎。前回の喜兵衛は森幹太(2000年11月15日没)だが今回は中村敦夫が演じた。

※泥鰌の和助・・・浅草で櫛屋を営む。大工小僧とも呼ばれた、親子二代にわたる大工兼盗賊で、その大工の腕を生かした「盗み細工」を得意とする。息子・磯太郎の仇である紙問屋の「小津屋」に対して、以前仕掛けた「盗み細工」を活かして地蔵の八兵衛一味の残党・金谷の久七らを誘って復讐を果たすが、不和の惣八に裏切られて浪人に殺された。

鬼平犯科帳スペシャル「見張りの糸」(2013年5月31日)(視聴率12.4%) ⇒ あらすじ
・稲荷の金太郎 – 渡辺いっけい   ・狢の豊蔵 – 木下ほうか   ・戸田銀次郎 – 隆大介
・お弓 – 柊瑠美   ・太助 – 本田博太郎   ・堂ヶ原の忠兵衛 – 中村嘉葎雄

※本作は、第7シリーズの第10話「見張りの糸」(1997年6月11日放送)のリメイク作品にあたる。テレビ版が原作とは異なる部分は多いが、原作との違いを挙げれば、物語の冒頭で稲荷の金太郎を見つけるのは相模の彦十であり小房の粂八は出てこない。また大きな違いとしては、太助は戸田銀次郎一味に殺害されてしまい、このドラマの様に活躍することはない。また忠兵衛の孫娘・お弓(柊瑠美)も原作には登場しない。すなわち、第7シリーズの第10話と原作、そして本作とが異なる部分があって相違点は複雑である。

※このテレビ番組では、和泉屋に見張り所を設ける為に訪問するのは与力・小林金弥(中村又五郎)と同心・酒井祐助(勝野洋)だが、原作では与力・佐嶋忠介に同心・沢田、木村と相模の彦十である。

※第7シリーズの第10話では、稲荷の金太郎は片桐竜次が、戸田銀次郎は遠藤征慈が演じている。また和泉屋/堂ヶ原の忠兵衛役は奥村公延であった。

※今回、吉右衛門版の常連、本田博太郎と中村嘉葎雄が好演、二人の演技が光る作品となった。この隠退盗賊の主従の間柄が観ていて微笑ましい上に、本田博太郎演じる太助は凶賊に捕らえられた粂八を救出して大活躍するが、その腕と機転は流石に一流の元盗賊!?だ。この太助の活躍は、後味の良い結末を迎える為に制作者が意図したシナリオなのかも知れない。

※最近では、嫌みな役で人気者の木下ほうかが狢の豊蔵を演じている。

●鬼平犯科帳スペシャル「密告」(2015年1月9日)(視聴率10.1%) ⇒ あらすじ
・珊瑚玉のお百 – 高島礼子   ・久兵衛 – 柳家小さん   ・伏屋の紋蔵 – 高橋光臣
・青田の文太郎 – 春田純一   ・与茂吉 – 蟹江一平   ・横山小平次 – 西尾塁

※第2シリーズ第13話「密告」(1991年2月13日放送)のリメイク版。原作はある意味、平蔵へのお百の恩返しの物語だが、そこには平蔵との認識のギャップが見え隠れする。池波先生の言葉、「恩は着せるものではなく、着るものだ」を引き合いに出すまでもなく、恩を着た側のお百の最後はしおらしい。

※珊瑚玉のお百を演じる高島礼子だが、この後に旦那が大変なことをしでかした。逆境にめげずに頑張って欲しい女優である。尚、第2シリーズ第13話では光本幸子(2013年2月22日没)がお百を演じた。

※伏屋の紋蔵役の高橋光臣は、NHK朝の連続テレビ小説『梅ちゃん先生』でブレイク。最近では同じNHKのBSプレミアム時代劇『神谷玄次郎捕物控』 で、主演の神谷玄次郎を演じて時代劇でも人気上昇中の若手俳優。但し、第2シリーズ第13話での沖田浩之(1999年3月27日没)の方が、原作の紋蔵のイメージには近いかも知れない。

※与茂吉は原作にはない役だが、 蟹江一平が父親の故蟹江敬三(小房の粂八)の代わりに登場。

●鬼平犯科帳スペシャル「浅草・御厩河岸」(2015年12月18日)(視聴率7.7%) ⇒ あらすじ
・海老坂の与兵衛 – 田村亮   ・岩五郎 – 田辺誠一   ・伏木の卯三郎 – 左とん平
・お勝 – 小林綾子   ・柳屋甚右衛門 – 鶴田忍   ・常盤津文字春 – 東風万智子
・権助 – 仁科貴

※第1シリーズ第18話「浅草・御厩河岸」のリメイク作品だが、今回は原作通りに岩五郎が主人公である。但し、原作とは異なる設定も多く、岩五郎は大滝の五郎蔵の世話を受けていた訳ではなく、与力・佐嶋忠介の配下の密偵で錠前外しの元盗人である。また、冒頭の五郎蔵と伊三次が伏木の卯三郎を見かける場面などはない。更に岩五郎の父である伏木の卯三郎が海老坂の与兵衛の一味だったこともない。

※小林綾子が演じる岩五郎の女房のお勝は、原作では岩五郎よりも6・7歳は年上である。御厩河岸で居酒屋を営んでいるが、盲目のお八百はお勝の母親で岩五郎には義理の母である。

※海老坂の与兵衛役の田村亮は、流石に円熟の境地で大盗賊を渋く演じた。

●鬼平犯科帳 THE FINAL 前編「五年目の客」(2016年12月2日) ⇒ あらすじ
・丹波屋源兵衛 – 平泉成  ・庄次 – 渡辺大  ・お吉 – 若村麻由美  ・音吉 – 谷原章介

※コメント準備中

●鬼平犯科帳 THE FINAL 後編「雲竜剣」(2016年12月3日) ⇒ あらすじ
・石動虎太郎 – 尾上菊之助   ・堀本伯道 – 田中泯   ・京極備前守 – 橋爪功    

※コメント準備中

 

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以上

 

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投稿者: いずみ将哉

性別は男。年齢は不詳。職業も秘匿だ。 時々、気儘な散文を書いているが、昔から推理小説や警察小説といったミステリ、冒険小説とか戦記モノの愛好家であり、また大の歴史ファンなので、Kijidasu!ではそういったジャンルと関連する記事を紹介するつもりだ。 では諸君、記事で会おう。