英海軍の退役空母『イラストリアス(Illustrious)』が、保存プログラムの適用を断念して、廃品としてトルコの船舶解体業者に売却され、今月(2016年12月)6日、英国南部の母港から最後の航海に出港した。
この艦は2014年に退役して以来、英国ハンプシャー州のポーツマス軍港に係留されていたが、緊縮財政を強いられていてその経費負担に耐えかねた英国海軍は、遂にスクラップとしての売却を決めた。実は英国防省は一旦は、 艦体の全部もしくは一部を歴史遺産として英国内に残すことを条件とした売却方針を固めていたが、結局、いずれの交渉も不調に終わった様である。
報道によると、少なくとも三つの都市や企業・団体が『イラストリアス』の保全に関する事業を企画提案したが、そのどれもが事業規模やコストの点で折り合いがつかず、全ての案が否決された。即ち、ハル市議会は英国文化都市計画の一環として、この艦を浮遊式海洋博物館にすることを望んでいた。またポーツマスのある企業は、彼女をカンファレンスセンターとして利用することに関心を示し、更にジブラルタルの行政当局は、彼女を博物館とすることを検討していたとされている。
ちなみに、姉妹艦の『インヴィンシブル(HMS Invincible, R05)』は2011年に200万ポンド前後で廃却され、同じく『アーク・ロイヤル(HMS Ark Royal, R07)』は2013年に290万ポンドでトルコの解体業者に売却された。
こうして英国海軍は現在、2017年の就役を目指してクイーン・エリザベス級新型航空母艦2隻を新たに建造中ではあるが、ここ数年間にわたり空母が全く不在の状態が続いているのだ・・・。
『イラストリアス(HMS Illustrious, R06)』 (ニックネームは“Lusty”)は、英海軍のインヴィンシブル級航空母艦の2番艦である軽空母。ハリアー運用終了後はヘリコプター揚陸艦の任務を支援するヘリ空母として運用されていた。ソ連海軍のキエフ級航空母艦と共に、現代的な軽空母の先駆けとして高く評価されている。
1976年10月7日にスワン・ハンター社で起工し1978年12月14日に進水したが、建造中にフォークランド紛争が勃発した為、急ピッチで建造が進められて1983年3月20日には正式に就役(満載排水量20,600トン、全長209m、全幅36m、最大速力30ノット、搭載機22機)した。
1991年の湾岸戦争で輸送任務に当たった他、1990年代のボスニア紛争では、インヴィンシブル級の他の2艦とローテーションを組んで飛行禁止空域の監視活動を担い、2000年にはシエラレオネに派遣されて在留英国人の脱出支援で活躍、また治安の回復にも当たった。2001年、オマーン沖にて演習中にアメリカ同時多発テロ事件が発生、僚艦がイギリスへ帰還する間もイギリス海兵隊の部隊を擁してアフガニスタンへの侵攻に備え続けた。更に2006年のレバノン戦争(イスラエルによるレバノン侵攻)中にも、英国人の避難作戦を実行している。
装備に関しては、2003年中頃からシーハリアーを効率的に運用する為のスキージャンプ台の勾配変更(7度から12度へ)やシーダート艦対空ミサイルを撤去して飛行甲板を拡大(ハリアーGR.7の運用及び搭載機数の増加)、更にCIWSをファランクスからゴールキーパーへと換装するなどの近代化改装が行われている。
2005年8月4日には姉妹艦『インヴィンシブル』の退役に伴い英海軍の旗艦となった。その後、2010年の英軍におけるハリアーGR7/GR9の運用終了に伴い、2014年の退役まではヘリ空母として活用されていた。尚、彼女は退役前年の2013年には、フィリピンでの台風19号被害の救援活動にも参加している。
現在、この艦の任務は、オーシャン級ヘリコプター揚陸艦とクイーン・エリザベス級新型航空母艦に引き継がれることになっている。
尚、初代の『イラストリアス(HMS Illustrious, R87)』は、バロー・イン・ファーネスのヴィッカース・アームストロング社で1937年4月27日に起工され、第二次世界大戦開戦直前の1939年4月5日に進水、1940年5月25日に竣工したイラストリアス級航空母艦の1番艦(基準排水量23,000 トン、全長225.6 m、全幅29.2 m、最大速力30ノット)であり、世界で最初の装甲空母として強靭な防御力で数々の攻撃を跳ね除けたが、しかしその代償として搭載機数が軽空母並の少数(33機)となった。
第二次世界大戦の前半から中盤にかけて、彼女は地中海や大西洋でイタリア海軍やフランスのヴィシー政権軍、そしてドイツの空軍やU-ボート(潜水艦)と戦った。1944年以降はインド洋に回航されて東洋艦隊に編入され、1944年11月に太平洋艦隊が新設されると彼女もそれに加わった。1945年3月には沖縄上陸作戦の支援にも出動して、その後、修理の為に英本国に帰還して終戦を迎えた。
戦後は訓練及び試験用に使われたが、1954年に除籍されて1956年には解体された。
ちなみに“イラストリアス(Illustrious)”は、英海軍の軍艦に代々引き継がれて来た伝統的な艦名の一つであり、また「イラストリアス(Illustrious)」とは、「傑出した」・「高名な」の意味である。
英国海軍の歴史上、アロガント級の戦列艦(戦列艦・初代)、フェイム級の戦列艦(戦列艦・2代)、マジェスティック級の戦艦、イラストリアス級の航空母艦(空母・初代)、インヴィンシブル級の航空母艦(空母・2代)などが存在した。
上記の通りの、栄光ある名前を冠した名艦の最後にしては哀れな感じもするが、次世代空母のクイーン・エリザベス級新型航空母艦の登場に是非とも期待したいところだ!!
-終-
他の連載記事は こちらから ⇒ “「空母」を考える ”シリーズ
《スポンサードリンク》