我が音楽趣味とオーディオ遍歴 “第1世代/Season-1.0” 〈759JKI07〉

●スピーカーは白木の2ウェイ、ビクター SX-3
実は初めは、SX-3の布製ネットのない白木のキャビネットにスピーカー保護の為のパンチングメタル(鉄網)というデザインには多少抵抗があった。当時の筆者は、より旧来デザインの保守的なタイプを望んでいたらしく、実際にもギリギリまでダイヤトーン(DIATONE)の DS-251MKⅡとの間で迷っていた記憶がある。

この DS-251は、穏やかさの中にも中高音がクリアで価格(1973年発売時の頃、¥28,500-)の割に解像度もしっかりとしたバランス重視型。ややクラシックやボーカルに向いた傾向ながら、広く全般的な音楽ジャンルをカバーした汎用タイプのスピーカーであった。外観は天然ウォルナット仕上げとなっており、前面には二重サランネットが使用されていた。見た目は異なっていたが、もしかすると大枠の音の方向性は SX-3とそれ程の違いは無かったかも知れない…。

しかし暫く迷っている間に、やはり我がオーディオ生活の第一歩に関しては、ここは SX-3の斬新なデザインに賭け様と決めたのだった。今にして思えば何を賭けたのか良く分からないが、とにかくそう決断したのである(笑)。つまり本当のところは、音色の違い等はさほど分かっていなかった中坊の筆者は、結局は見た目の違いに拘って選択したというか、より正確には選んだ理由を斬新なデザイン故である、と自分に言い聞かせたというのが正しい。

この後、長きにわたって名機と呼ばれ大ヒット商品となった SX-3(1972年の発売開始以来シリーズ合計、約8年間で20万台以上の生産)は、ネットのない白木のキャビネットで、それは従来の国産スピーカーの常識をくつがえす大胆なデザインだった。

外観の仕上げにはハイソリッド・フラット・クリアー塗装を施した北米産の針葉樹ダグラスファー(スプルース)合板を使用し、またピアノの響板の技術に通じる響棒がキャビネット内リアバッフルに設けられていた。更に内部の吸音材には1kHz以下の吸音率が従来のグラスウールの2~3倍もあるエステルウールを採用して低音のダンピングを高め、美しく響きの良いキャビネットを実現したのだった。ちなみにこれ以降、ヤマハなどの他社からも白木のスピーカーが発売される切っ掛けにもなった製品である。

ウーファーに25cmコーン型を搭載していて、このユニットのコーン紙はドイツ・クルトミューラー社製KDUコーン紙を採用しており、口径の割に豊かな低音を再生するとの評価が高かった。中高域は5cmソフトドーム型トゥイーターでカバー、硬質振動板では達成できなかった球面波形を実現しており、従来のトゥイーターに比べ 指向性が広く、歪み感の少ない聴きやすい中高音を実現したとされていた。またトゥイーターの前面にはワンタッチで取り外しが可能なディフューザーを装備していた。

ネットワークには、ウーファーのハイカットフィルターに -6dB/oct、トゥイーターのローカットフィルターに -12dB/oct のものが採用されており、コイルには当時のビクターが新たに開発した硅素鋼板コアを使い、大入力時の非直線歪を低減している。また直流抵抗値はスピーカー抵抗値の1/20以下に設計されており、アンプのダンピングを損なうのを防いでいた。

このスピーカーは、稠密で剛性の高いエンクロージャーとしなやかさと解像度が両立した優れたユニット構成から、そのサイズから想像するよりも豊かな中低音を聴かせてくれたが、全体的な音質の傾向はピラミッド型の安定したバランスにのっとったまろやかで上品な再生音がオールラウンドSPとして人気を呼んでいたのだった。

だが、フロントグリルが容易に外れない点などのメンテの難しさや、指向性は素晴らしいが駆動させるアンプのパワーが不足しているとパンチに欠けた音色となって中低音域でモヤモヤ感が感じられるといったマイナスの評価もあったと記憶している。

ところで、このスピーカーの場合、古くなったスピーカーがダメになる元凶の一つであるウレタンエッジの使用はなく、布と含浸ゴムの組み合わせエッジをウーファーに使っていた。後に筆者が経験した様な、80年代~90年代製のJBLスピーカーのウレタンエッジように、瞬く間にボロボロになるということもなくて安心なのだった。そしてこの SX-3のペアも、手放した1998年までサブ・スピーカーの一組として鳴り続けて何の問題もなく活躍していた。

尚、業界の裏話としては、SX-3のソフトドーム型トゥイーターは当初はビクターの自社製品向けに開発されたものではなく、ソニーからビクターのスピーカー事業部にOEM依頼があって開発がスタートしたとされる。つまり名機 SX-3の生みの親はソニーだったのだそうな…。

【 SX-3:製品仕様】
方式:2ウェイ・2スピーカーで密閉方式はブックシェルフ型、 ユニット:低域用 25cmコーン型、高域用 5cmソフトドーム型、 インピーダンス:8Ω、 最大入力:50W、 出力音圧レベル:88dB/W/m、 周波数特性:35Hz~20kHz、 最低共振周波数:60Hz、  クロスオーバー周波数:2kHz、 レベルコントロール:定抵抗連続可変型、 外形寸法:幅315×高さ520×奥行290mm、  重量:13.3kg

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