最近、悉く経年劣化の影響でトラブルに見舞われている拙宅のオーディオ機器たちの無惨な姿を見るにつけ、何とはなしに今の内に自分の過去のオーディオ趣味の記憶を振り返るべきだとの想いが募ってきた。そこで我が拙いオーディオ遍歴を思い起こす記事の連載を、恥も外聞もなくスタートさせようと決めたのである…。
決してディープなオーディオ・ファンではなかった筆者が所持していた1970年代から40年以上にわたるオーディオ機器のラインナップと併せて、都度その当時、主として聴いていた音楽のジャンル等を紹介するもので、上級のファンからみればかなり物足りない内容であろうが、昨今の読者の皆さんにネット社会到来以前のハイファイ・ステレオ&オーディオ/LPレコード&CD趣味の一端を垣間見て頂ければ幸いである…。
それでは第1回は“第0世代/Season-0”と題して、筆者幼少の頃(~小学生)、オーディオ趣味開眼以前の音楽黎明期の状況から始めたい。
曖昧な幼少期(小学3~4年生頃、1968年~1969年)の記憶を辿ると、当時の自宅にはアンサンブル・ステレオと呼ばれる形式の「東芝ファミリーステレオシリーズ」の TAS-310という名のオーディオ機器があった(と思われる)。
一体型で4本の脚を持ち、左右にスピーカーがあり中央部にラジオ付きアンプ(レシーバー)と縦置きで収納されているものを手前に引き倒して使用するプレーヤー部分があったことは確かで、調べてみると他にもクラウン(CROWN)の SPH-100(1963年製)などが同じようなプレーヤー方式だが、奥行きが20cmくらいと薄かったことから、我が家のものはほぼ「東芝の310」に間違いないだろう。
当該の機器は、1961年から62年にかけて製造された東京芝浦電気(株)の製品で、当時の販売価格は¥25,000-とされている。東芝の“ファミリーステレオ 300”シリーズの一つであり、団地などの狭い住宅での使用を想定した、奥行が20cm以下、横幅も90cmと小型でコンパクトにまとめられたモデル。奥行きを切り詰める為に、3スピードプレーヤは未使用時には垂直に収納されていて、使用時には引き出して水平にした。
尚、詳しいスペックはほとんど不明であるが、短波・中波ラジオはモノラル仕様で回路に使われた真空管は30A5シングルの5球スーパー程度であると伝わる。木目パネルで覆われたキャビネットに金属製スピーカグリルの下、16cm径のパーマネント・ダイナミック型スピーカーが装着されており、細いパイプ脚を有したモダンで軽快なデザインが特徴だった。
一時期、2Fの父親の部屋(寝室兼書斎、後に私の勉強部屋)に鎮座していたこの装置は、ある時、随分とくたびれた姿で突然に現れ、またある時、忽然と何処かへと去っていったので、父が中古で手に入れたものを再び売却でもしたのだろうと思われる。
尚、この頃、近所の友人宅にステレオセットがあり、上記の「東芝の310」が見当たらなくなった? 後には、そこでよく(否、大変頻繁に)音楽を聞かせてもらった。
この友人は1歳年長の男の子であったが、幼馴染の中では最も仲が良かったと記憶している。また当時、彼の父親は米国の航空会社(たしかパンナム/PAN AM)に勤務していた方で、その立ち居振る舞いやライフスタイルは子供心にもちょっとばかりハイカラに感じられて、何事にも海外の息吹を感じさせたものがあった。あの頃(1960年代後半)に公園でキャチボールではなく、サッカーの基礎を教えてくれた大人はこの人だけである…。
そのお宅で筆者は、1969年7月20日のアポロ11号の月面着陸の実況テレビ放送を鑑賞したのだった。自宅にもテレビはあったが、このハイカラな家でお洒落な家族たちに囲まれて、色々と宇宙航空関係のレクチャーを受けながら、彼(か)の歴史的偉業に立ち会う(衛星中継を観てるだけだが)ことが嬉しかったとみえる。
そしてこのステレオが、ソニーのレシーバーSTR-6000シリーズ(6060あたりか? )とスピーカーが同社のSS1800の様なデザインのブックシェルフ型タイプでもう少し背が低いものであったが、レコードプレーヤーについては不明である。
尚、レシーバーがSTR-6060であれば1968年の1月に発売され、定価は79,800円だったが、もう一つ前の世代の機種の可能性も大である。プレーヤーもソニーのPS-1000(当時の価格は¥29,800-)に似た様な感じだったので、全てがソニー製品のセットだったのかも知れない。
しかし、どちらにしてもこのセットが、当時の筆者(小学4年生)には「東芝の310」に比べると、断然、新型で本格的なステレオ装置に思えたのは当然だろう。
さて筆者はこの頃、イージーリスニングのパーシーフェィス楽団(Percy Faith Orchestra)〈夏の日の恋 (A Summer Place)〉やカントリー&ウエスタンの大物歌手ハンク・ウィリアムズ(Hank Williams)の〈Jambalaya (On the Bayou)〉、米国の白人女性歌手ペギー・リー(Peggy Lee)やドリス・デイ(Doris Day)の歌とかイタリア人トランペッターのニニ・ロッソ(‘Nini’ Rosso)の楽曲などを聴いていた覚えがあり、今にして思うと小学校3・4年生にしては意外とお洒落な選曲である。
また当時我が家には、流石にSP盤は見当たらなかったが常時LPが十数枚以上、EPレコードが数枚はあったと記憶している。ラジオ放送局に勤めていた父親が定期的に勤め先のLPを持ち帰ってきては聴いていたとみえ、通常の試供盤の他に『7月分』とか『11月新譜』などといったスタンプが白紙のレーベル部分に押されたレコードがよく父親の部屋に転がっていた。たぶんレコード会社から放送局に提供されるサンプル盤か何かだったのだろう…。
また同じ頃、オープンリール・モノラル・テープレコーダーの「SONY TC-101」(←リンク先に画像あり)が自宅にあったことも覚えいる。トランジスタと真空管のハイブリット方式の7インチリールまで対応可能なテープレコーダーで価格は¥29,800-、発売開始は1959年であるから、筆者の誕生年と同じだ。
このレコーダーは当初、父親が自宅で仕事をする時の番組編集用に購入していたものと思われ、その後、1980年位までは使用可能だった。また意外に温か味のある音色で充分に音楽鑑賞にも耐えたと記憶している。
次回は、いよいよ我がオーディオ遍歴の始まりだったと言って良い“第1世代/Season-1”のオーディオ機器たちを紹介する予定である。趣味としての音楽に関しても、洋楽(ロック・ジャズ等)を中心としてようやく本格的に聴き出した時期であり、まさしく“過ぎ去りし青春の1ページ”を振り返ることになろう…。
-終-
我がオーディオ遍歴 “第1世代/Season-1”…はこちらから
我が音楽趣味とオーディオ遍歴 “第1.1世代/Season-1.2”…はこちらから
我が音楽趣味とオーディオ遍歴 “第1.1世代/Season-1.4”…はこちらから
我が音楽趣味とオーディオ遍歴 “第1.5世代/Season-1.5”…はこちらから
【参考】本稿に関連した動画を添付したので、参考として欲しい。
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