B-17が登場する映画特集の第3回目は、グレゴリー・ペック主演の名作『頭上の敵機』の登場です。筆者のこの映画との関わり合いについては、残念ながら実際の映画館(スクリーン)での鑑賞経験はありませんが、(多少記憶が曖昧な点もありますが)学生時代から社会人の初期にかけて民放テレビ局の映画番組で放映されたものを複数回観たことから始まり、後にVHSテープ版を入手、更にその後はDVDディスク版を購入して改めて自宅で何度も見直したフェイバリットな作品でした。
但し小学生の頃、テレビで放送されていた『爆撃命令』(テレビシリーズ『頭上の敵機』の続編)は毎週リアルタイムで楽しみにしていました(後述)。たしか、同じくテレビで放送されていた『コンバット』最終シーズンよりは少し後のことでしたが‥‥。
※連載第1回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第1回、『空の要塞』と『空軍/エア・フォース』 〈18JKI15〉
※連載第2回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第2回、『コンバット・アメリカ』と 『戦略爆撃指令』〈18JKI15〉
※連載第4回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第4回、『戦う翼』と 『空爆特攻隊』〈18JKI15〉
※連載第5回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第5回、『最後のミッション』と『メンフィス・ベル』〈18JKI15〉
※連載第6回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17の登場する映画 第6回、『フライング・フォートレス』と『マイティ・エイス/第8空軍』〈18JKI15〉
『頭上の敵機』(Twelve O’Clock High/1949)は、 ヘンリー・キング(Henry King)監督による、1949年のアメリカ・20世紀フォックスの戦争映画です。アメリカの第二次世界大戦への参戦初期にドイツ本国及びドイツ軍占領下の地域に昼間爆撃を敢行したアメリカ陸軍航空部隊の第8空軍の航空兵達を描いたこの映画は、主役のフランク・サベージ准将をグレゴリー・ペック(Eldred Gregory Peck)、ベン・ゲートリー中佐(後に大佐)をヒュー・マーロウ(Hugh Marlowe)、キース・ダヴェンポート大佐をゲイリー・メリル(Gary Merrill)が演じ、パット・プリチャード少将役にはミラード・ミッチェル(Millard Mitchell)、そしてハーヴィ・ストーヴァル少佐をディーン・ジャガー(Dean Jagger)が演じて映画化されました。尚、英語の原タイトル“Twelve O’Clock High”の意味は、『12時上方向(前方上空)に敵機あり!!』となりますが、映画の中でも「Here they come. Twelve o’clock high!」と搭乗員が報告する場面があります。
※初期型のB-17では(正面方向を射撃できる防御機銃が少ないことから)機首正面方向が弱点とされており、ドイツ空軍の戦闘機はこの位置からB-17を攻撃することが多かった様です。特に上方から急降下してくる敵戦闘機は相対速度の速さもあって難敵であったとされます。
この映画はディーン・ジャガーが第22回米国アカデミー助演男優賞を、また同アカデミー録音賞も受賞しており、更に第16回ニューヨーク映画批評家協会賞ではグレゴリー・ペックが主演男優賞を受賞しました。
前年の映画『戦略爆撃指令』と併せ、『頭上の敵機』は従前の勧善懲悪的で楽観的な戦争映画の枠を越えた、戦争によって失われる人命と向き合った軍人たちの迫真のリアリティを描いた作品として、ハリウッド映画界における戦争映画のターニングポイントとなったとされています。
但し、製作された年代からして当然ではありますが、 第二次世界大戦は全体主義の枢軸国家から民主主義社会を守った戦いとして、あくまで正義の戦いであったとの立場から、アメリカ人の責任感や仲間意識、そして勇敢さ等を強調、また誇りとした創りとなっており、特に在英の第8空軍の活躍は、ヒーロー好きで、且つ飛行機ファンが多いアメリカ人にとっては大いに好まれた題材でした。
また組織内における管理職のリーダーシップのあり方やその苦悩する姿を描いたものとして、この映画は軍関係者や民間企業における管理職研修の題材として用いられた作品としても知られています。
ストーリーの概略
物語は戦争終了後の1949年から始まります。この映画でアカデミー助演男優賞を獲得したディーン・ジャガー演じる第918爆撃航空群の元副官 ハーヴィ・ストーヴァルが、戦時中に同航空群の基地があったアーチベリー飛行場に赴くところが描かれていきます。そして途中の骨董品店でかつて基地の酒場(バー)にあったビアマグのトビー・ジョッキを手に入れた彼は、基地の跡地で過去への回想へと浸りはじめ、いよいよ時間は1942年へと遡って本編に入っていきます‥‥。
※劇中でのビアマグのトビー・ジョッキは、部隊が出撃・作戦決行の場合は向きを裏返しに置かれていました。
第二次世界大戦下、キース・ダヴェンポート大佐(ゲイリー・メリル)率いるアメリカ陸軍航空部隊の第918爆撃航空群は、イギリスのアーチベリー飛行場を拠点にドイツの軍需工場を壊滅させる為に危険な昼間爆撃を継続していましたが、温情主義のダヴェンポートの弱腰な統率が逆に部隊の士気を低くし、ひいては作戦の成果をも低下させていると考えた上級司令部の幕僚であるフランク・サベージ准将(グレゴリー・ペック)の提言で、司令官のプリチャード少将(ミラード・ミッチェル)によりダヴェンポート大佐は更迭され、その代わりにサベージが新たな第918爆撃航空群の司令の座に就きます。
着任早々、部隊の士気が思った以上に弛緩していることを知ったサベージ准将は、周囲から「不運な航空群」・「不幸がとりついた部隊」と揶揄されている第918爆撃航空群を再建する為に、怠惰な隊員達に対しては容赦なく処罰を課し、そして連日の猛訓練を実施しますが、前任の司令とは異なるサベージの厳しい言動に、航空群に所属する搭乗員達は激しい不満を持ち、転属を申し出る者が相継ぎます。しかし、サベージの考えを見抜いたストーヴァル副官(ディーン・ジャガー)の尽力によって、一時的に転属手続きを遅らせることに成功します。
その後、サベージは指揮官先頭での出撃を繰り返し、力の限りを尽くして戦います。ある時は航空軍司令部の指令に反してまで自隊独力での攻撃を続行し、第918爆撃航空群の戦果と表彰の獲得を図ります。そして紆余曲折を経てやがて多くの搭乗員達は戦果の上昇と共に准将への信頼感を厚くし、次々と転属希望の撤回を表明するのでした。
こうして隊員と共に作戦に参加する内にサベージの部下に対する態度も変化し、隊員達を思いやる心が芽生えていきます。しかし航空戦がドイツ深部へと及ぶにつれ飛行距離や時間が延び、ドイツ軍の迎撃もより激しくなり、益々、昼間爆撃のリスクが増していきました。
更にドイツ軍との激闘は続き、頼れる部下であった飛行隊長のジョー・コッブ少佐(ジョン・ケロッグ)や名誉勲章を受章した英雄 ビショップ中尉(ロバート・パットン)の死や、以前に自身が弱気な態度を強く叱責した部隊先任将校のベン・ゲートリー中佐(ゲイリー・メリル)が大きな怪我を隠して出撃を続ける姿に接したサベージは、以前のダヴェンポートと同様の立場に追いこまれ、その心は次第に蝕まれていくのでした‥‥。
そしてその後、上官のプリチャード少将から司令部幕僚への復帰を打診されたサベージはそれを断り、なお部下を死地に追いやる苦悩と戦いながも、引き続き自身も苛烈な戦闘に立ち向かい、プリチャードの意見に反して出撃を重ねていきます。
ところがこうした心身共の激務により、サベージ准将は重要な作戦の主撃時に乗機のB-17機上へと昇り得ないほどに疲労し、急遽、代理としてゲートリー大佐(改めて彼を評価したサベージが進級させていました)が部隊を率いて出撃した後にひとり基地へと残った彼は、航空群が帰投するのを待つ間に緊張病/カタトニア(Catatonia)とみられる戦闘ストレス反応状態に陥りますが、部下達が目標を見事破壊して比較的軽微な損害で帰還を果たした時、ようやくサヴェージは落ち着きを取り戻し、ダヴェンポート大佐が見守る中、静かに眠りに落ちていきました‥‥。
この時点で物語は、冒頭の1949年のストーヴァルの元へと戻ります。彼は買い求めたトビー・ジョッキをもとあった第918爆撃航空群の酒場(バー)の暖炉の上に置き、自転車に乗ってアーチベリーを去って行きました。