【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第3回、 『頭上の敵機』(Twelve O’Clock High/1949)〈18JKI15〉

テレビシリーズについて

グレゴリー・ペックは、映画公開の翌年1950年9月7日に放送されたラジオ番組でサヴェージ准将役を再演しているそうです。そしてこの『頭上の敵機』は、同名のテレビ番組としてABC系列で1964年に全米で放送され、続編も含めて合計3シリーズが作られました。

番組キャストについては、第1シリーズの『頭上の敵機』では映画に登場するキャラクターとほぼ同様ですが、俳優陣は映画とは異なっていました。

フランク・サベージ准将にはロバート・ランシング(Robert Lansing、日本語吹き替えは宮部昭夫)、ジョセフ・コッブ少佐がルー・ギャロ(Lou Gallo)、ウィリー・クロウ少佐はジョン・ラーキン(John Larkin)、ハーベイ・ストーバル少佐にはフランク・オバートン(Frank Overton)、ブリット少将をアンドリュー・ダガン(Andrew Duggan)が演じていますが、第2・3シリーズの『爆撃命令』では、ジョー・ギャラガー大佐をポール・バーク(Paul Burke、日本語吹き替えは御木本伸介が演じ、ハーベイ・ストーバル少佐やブリット少将役は前シリーズと同じフランク・オバートン(日本語声優は吉沢久嘉)とアンドリュー・ダガン(日本語声優は塩見竜介)コマンスキー軍曹にクリス・ロビンソン(Chris Robinson、日本語声優は野沢那智)といった配役になっています。

シーズン1『頭上の敵機』の主人公を演じたロバート・ランシングは、テレビシリーズ『87分署』や同じく『過去のない男』等に主演しており、シーズン2・3の『爆撃命令』主人公役のポール・バークは、スティーヴ・マックィーン主演の映画『華麗なる賭け』に登場する刑事役で御馴染みの役者です。

またこのテレビシリーズの毎回のゲストには、ロバート・コルバート、ロイド・ボックナー、バート・レイノルズ、ブルース・ダーン、ロバート・ブレイク、リチャード・アンダーソン他、歌手でも活躍したクロディーヌ・ロンジェ、シーモア・カッセルなどの有名スターが多数出演していました。

1964年にABC系列でスタートしたシーズン1では自ら爆撃機に乗り込むサベージ准将が主役でしたが、シーズン2の第1話で戦死し、ポール・バーク演じる原作中のベン・ゲートリーをモデルとしたジョー・ギャラガー中佐(以後、大佐に昇進)が新たな指揮官へと昇任して主人公の役を引き継ぎます。これはABCがロバート・ランシングが女性受けしないという理由でキャストを入れ替えた結果とされており、番組は1967年のシーズン3(カラー版)まで続きました。

※日本での放送期間と放送時間は、資料等によると第1シリーズの『頭上の敵機』がテレビ朝日系列(当時はNETテレビ)にて1965年1月22日~同年8月27日の金曜日 21時~21時56分に、改題された第2・3シリーズの『爆撃命令』がフジテレビ系列にて1967年5月14日~同年11月26日の日曜日 22時30分~23時26分の放送となっていますが、筆者の記憶では、当時、神奈川県在住であった1968年もしくは1969年の土日のいずれか夕方の時間帯に(たぶん)再放送を視聴していた模様です。毎週この時間帯は稽古事で外出しており、『爆撃命令』の放送開始時間に間に合う様に帰宅出来るかが心配だったことをよく覚えていますが、この再放送に関する実際の状況・有無等については確証が得られていません。

※テレビシリーズの戦闘シーンの大半は、映画版で使用された映像の再利用でした。

 

登場人物のモデルについて

映画・テレビシリーズ共に、第二次世界大戦の欧州戦線において活躍したアメリカ陸軍航空部隊の第8空軍が舞台であり、主人公サベージ准将(&ジョー・ギャラガー大佐)が率いる第918爆撃航空群(918th Bombardment Group)は、欧州戦線で長く第8空軍の主力部隊を務めた第306爆撃航空群をモデルにしていると伝えられています。

またフランク・サヴェージ准将の行動・性格は、実在の第306爆撃航空群の司令だったフランク・A・アームストロング大佐(後に空軍中将)をモデルとしながら、実際には複数の航空群司令や航空団司令官の言動を参考として創造されたと云います。

※フランク・A・アームストロング(Frank A. Armstrong)将軍は、第二次世界大戦の中盤にて第97爆撃航空群と共に戦い、次いで第306爆撃航空群を率いた後に准将へと昇進、1943年6月以降は第1爆撃航空団の司令官となります。戦後はアメリカ空軍の幹部として、1950年に少将に昇進、1956年には中将となり、1962年に退役しましたが、1969年8月20日に67歳で逝去しています。

更にその上官のプリチャード少将については、第8空軍の初代司令官であるアイラ・エーカー将軍をモデルとしたと伝わり、更にサベージの前任者のキース・ダヴェンポート大佐 は、“チップ”という綽名で知られた第306爆撃航空群の初代司令、チャールズ・B・オーバーラッカー大佐の姿を模したとされます。

※「昼間精密爆撃」の代表的信奉者であったアイラ・クラレンス・エーカー (Ira Clarence Eaker)将軍は、1942年8月17日にB-17の編隊を率いてドイツ軍占領下のフランスルーアンに対してアメリカ軍として最初の爆撃を敢行しました。そして同年12月以降、第8空軍の指揮を執り、1943年9月に中将に昇進して駐英アメリカ陸軍航空隊の司令官に任命されました。1945年4月30日にはアメリカ陸軍航空隊の副総司令官となり、1947年8月31日に退役します。最終階級は空軍中将(後年、空軍大将に名誉昇進)で、1987年8月6日に死去しました。

そして劇中でサベージの善き理解者となる副官 ストーヴァル少佐は、第一次世界大戦でカール・スパーツ(Carl  “Tooey” Spaatz、後に空軍大将、アメリカ空軍初代参謀総長)やフランク・オドリスコル・ハンター (Frank O’Driscoll “Monk” Hunter、後に少将、第1空軍司令官)などと共に戦って撃墜王となり、真珠湾攻撃の翌週に陸軍航空隊に中佐として再入隊し、イギリス駐留の第8空軍で人事部の次長となったウィリアム・ハワード・ストーヴァル大佐をモデルにしているとされます。

胴体着陸したB-17

映画の冒頭でB-17を胴体着陸させて名誉勲章を受けたロバート・パットン(Robert Patton)演じるジェシー・ビショップ中尉(一部の映画資料では少尉とされています)は、ジョン・C・モーガン(John Cary “Red” Morgan、最終階級は中佐ですが名誉勲章受章時は下士官パイロットだった模様)がモデルとされたいます。劇中でビショップ中尉が頭部に重傷を負った機長の代わりに爆撃機を操縦して帰投したエピソードは、実際にモーガン軍曹が副操縦士として第92爆撃航空群の第326爆撃飛行隊に所属して作戦中に行った行為により名誉勲章を受章した実話を参考としたとされており、またビショップを演じたロバート・パットンは、現実の第二次世界大戦にアメリカ陸軍航空隊の航法士として従軍しており、映画『頭上の敵機』の出演者の中で唯一実際にB-17搭乗員としての経験を有していました。ちなみに、この胴体着陸のシーンは後年の映画『戦う翼』でも観ることが出来ます。

次いでロバート・アーサー(Robert Arthur)が演じたマクレニー軍曹ですが、彼は第306爆撃航空群に所属していた射撃手で、司令の運転手を務めることもあったドナルド・ビーヴァン(Donald Bevan)軍曹がモデルの様です。ビーヴァンは戦後に劇作家・脚本家となりますが、劇中のマクレニー軍曹同様に作戦行動中の爆撃機に無許可で忍び込んで戦闘に従事したことが有名で、実際の彼もマクレニーと同じく射撃の名手だったと云われます。

最後に、劇中では戦死するジョン・ケロッグ(John Kellogg)が演じるジョー・コッブ少佐は、一時期、アームストロング将軍らと共にB-17爆撃隊で戦ったポール・ティベッツ(Paul Warfield Tibbets, Jr.)将軍がモデルの様です。またティベッツは当初、映画『頭上の敵機』に関する技術アドバイザーとなりますが、間もなくこの役目は第305爆撃航空群の司令であったジョン・H・デラッシー大佐と交代しています。

※1945年8月6日、大佐であったポール・ティベッツ(Paul Warfield Tibbets, Jr.)空軍准将は第509混成部隊の部隊長として広島に原子爆弾「リトルボーイ」を投下した B-29 “エノラ・ゲイ”の機長でした。彼は戦後、アメリカでは戦争を終わらせた英雄として評価されていましたが、一方で(日本を含む各国から)原爆投下の実行者として追求を受けていました。本人は生涯、自身の原爆投下の同義的責任問題には触れませんでしたが、やはりその事実を重く受け止めていたのかも知れません‥‥。

 

撮影場所や使用機材について

劇中に登場する航法図によると、舞台となるアーチベリー航空基地は実際の第306爆撃航空群が駐留していたスーライフ基地ではなく、アリスバーリーの近郊に存在した形となっています。

そして映画シーンの多くが、フロリダ州のエグリン空軍基地やフォート・ワートン・ビーチで撮影されました。また既述のストーヴァル少佐の回想シーンやビショップ中尉の胴体着陸の場面などは、アラバマ州デールヴィル近郊のオザーク飛行場で撮影されたと云います。

また撮影用の航空機には、エグリン基地にあったQB-17を改造したものや、アラバマやニューメキシコで保管されていたものから12機のB-17が使用されました。

QB-17は、第二次世界大戦中にアメリカ軍が大型の標的機としてB-17を改造した機種とされています。標的機の為、暖色系の非常にカラフルな塗装が機体全体に施されていました。

※撮影に使用されたB-17の中には、1946年のビキニ環礁の核実験に供されて高レベルの放射線を浴びた機体があったので、これらの機体での撮影は極力制限されました。

また映画『頭上の敵機』は、1949年4月から7月にかけて撮影されましたが、当初はカラー映像で撮影することが計画されていましたが、劇中に連合軍とドイツ空軍が実戦中に撮影した記録フィルムを違和感なく取り込む為に、全編にわたり白黒撮影とする形に変更されました。

 

※連載第4回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第4回、『戦う翼』と 『空爆特攻隊』〈18JKI15〉

※連載第5回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17が登場する映画 第5回、『最後のミッション』と『メンフィス・ベル』〈18JKI15〉

※連載第6回はこちらから ⇒ 【ミリタリー映画館】B-17の登場する映画 第6回、『フライング・フォートレス』と『マイティ・エイス/第8空軍』〈18JKI15〉

 

 

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