日本の鉄道博物館訪問シリーズ 第3回 鉄道博物館(てっぱく) 〈17/38TFU03〉

鉄道博物館は、かつて、お茶の水と神田の間の万世橋にあった交通博物館を移転したものです。東日本旅客鉄道の創立20周年記念事業のメインプロジェクトとして、また、閉館した交通博物館に替わる施設として、2007年10月14日の鉄道の日に開館しました。開館後から人気を博し、いまや鉄道に興味のない人にも「てっぱく」の愛称で通じるようになりました。今回は鉄道博物館の総本山ともいえる、「てっぱく」を長編でレポートします。(写真はすべて筆者撮影 2018年8月訪問)

鉄道博物館の場所は大宮駅より埼玉新都市交通ニューシャトルで一駅の「鉄道博物館前」駅下車で、徒歩1分です。
大宮からニューシャトルに沢山の子供たちと乗ると、まるでこの乗り物自体が、アミューズメント施設のひとつのような錯覚を覚えます。

高架下の入口では、Ⅾ51 426号機の前頭部分や赤と黄色の167系が出迎えてくれます。Ⅾ51 426号機の略歴は、1940年製造、1948年に尻内、1968年に厚狭に移動、1972年廃車となりました。車体は切断され前頭部分は入口に、そして運転台はシミュレータとしてここ、てっぱくで使われています。
167系は、急行列車をベースに修学旅行用車両として整備されたものです。この車両(というか、厳密にはモックアップ)は、交通博物館からの移設で、北側の入口脇のギャラリーに置かれ、入場料なしで見学できます。

鉄道博物館は実物の車両を展示の中心として、鉄道の技術史をわかりやすく解説しています。また、実物の部品(パンタグラフ、台車、モータなど)や模型などを使用して、鉄道の原理やしくみなどを学習することもできます。その他ミニ運転列車・キッズプラザ・鉄道ジオラマなどの体験施設や、パノラマデッキをはじめとした、子供も楽しめるものが充実しています。
中でも運転シミュレータが充実しているうえ大人気で、特に本物のⅮ51 426号機の運転台を運転シミュレータにしてしまったものは、音や揺れも実にリアルです。10時00分から先着順に1日分の整理券を配布されます。中学生以上が対象で、500円の別料金がかかります。指導してくれる係員がついてくれ、所要時間は15分ほどです。筆者も体験したことがありますが、ブラスト音や、シリンダのドレインを切る「シュー!」という音、硬い振動とミシミシと窓枠の鳴る音など、実にリアルでした。無かったものは煙の臭いと熱さ、くらいでしょうか(笑)
他にも205系山手線シミュレータや新幹線シミュレータがあります。こちらは予約は不要で、料金は無料です。とても混雑するので、早い時間に並んだほうが良いようです。

そして2018年7月に新たにオープンした南館には、仕事ステーション、歴史ステーション、未来ステーションの三つの展示室を設け、展示車両も3両追加されて展示内容が充実しました。敷地が広大で、展示物も豊富なため、見学は1日がかりです。

さて、入場してみましょう。入って右手に広がるヒストリーゾーンでは、明治時代初期から現代までの鉄道技術や鉄道の歴史にふれ、車内に入れる事もできます。
それでは展示車両の略歴を含めて、レポートしてみます。全車両を解説すると大変(展示車両は41両)ですので、ここだけでしか見られない車両を中心にとりあげます。

1号機関車
1号機関車は新橋-横浜の日本初の鉄道開業時に使用された最初の蒸気機関車。後に島原鉄道に譲渡されましたが貴重な車両として博物館に戻されました。
製造は1871年、使用開始は1872年、 新橋-横浜間、1880年大阪に移動、1911年 に島原鉄道に譲渡され、1930年島原鉄道から鉄道省に返還されました。
保存開始は1936年交通博物館で、そして鉄道記念物に指定されたのが1958年10月14日です。大切に保存されています。

弁慶号
弁慶号は、札幌-手宮(小樽市内)に北海道最初の鉄道が開業した時に活躍した蒸気機関車です。以前は屋外に展示されていましたが、館内に戻されました。
同時期に活躍した「義経号」は大阪の交通科学館、「静号」は小樽の総合博物館にあります。

C51 5
C51形蒸気機関車は、旅客用の蒸気機関車として、技術的な発展を担った車両です。特急「燕」の牽引や、お召列車の先頭に立つ当時の花形機関車でした。
このC51は青梅鉄道公園に保存されていたものを、今回移設展示隅の方に追いやられ、右側は全く見られなくなっています。展示物の模様替えの機会など、中央のターンテーブルに移動し展示してもらいたいものです。
製造は浜松工場で、1920年から神戸に配置されました。その後、姫路・梅小路・奈良・伊勢と移動し、1962年廃車されました。その後は青梅の鉄道公園で展示されていましたが、災害で崖下に落下したりと散々な経験をしたあと、てっぱくに移動してきました。残念なのは、置かれている場所が悪すぎます。写真も撮り難く、薄暗いので、ひっそりと置いてある感じです。たまには屋外展示か、ターンテーブルに載せてほしいです。

キハ41307
キハ41000形は、戦前に作られたディーゼルカーです。後に筑波鉄道に譲渡され、引退後はつくば市の公園に保存されていました。製造は1934年川崎車輌、1958年に廃車となり、1958年 遠州鉄道に譲渡、1967年には北陸鉄道に譲渡、1972年には筑波鉄道に譲渡、1984年頃には休車となりました。1987年廃止とともに保存、1982年7月には筑波交通公園に搬入、保存整備されました。紆余曲折、ドラマチックな経歴ですね。

マイテ39 11
1930年に、特急「富士」用の一等展望車として製造された車両です。桃山風という凝った内装が豪華ですが、「仏壇」とか「霊柩車」というありがたくない愛称で呼ばれたこともあるそうです。大井工場で保存されていたものを、移設展示されました。

クモハ40074
クモハ40は、20m級の全鋼製の電車です。東京・大阪近郊の通勤輸送に活躍しました。首都圏では山手線や中央線にも投入されていて、昔のモノクロのニュースフィルムなどにも登場します。車両は、大宮工場で保存されていたものを移設展示しました。横付けされたホームは御茶ノ水駅を再現しています。

ナハネフ22 1
元祖「ブルートレイン」20系の緩急車。この車両はいまはなき、大船工場で保存されていたものです。筆者もこの車両を見に、工場の公開日に足を運びました。今のようにSNSで情報が気軽にとれる時代ではなく、大切に保管されているという噂だった時代です。美しい姿で保存されています。ただ、写真がとりにくいです。

クモハ101 901
101系は、国鉄の新性能通勤電車の幕開けと言える車両です。首都圏で当たり前のように走っていた101系も、貴重な保存車両です。この車両は大井工場で保存されていたものを移設展示しました。

クハ181 45
181系は新性能特急電車の草分けです。181系に会えるのは、ここだけ。この車両は新津工場で保存されていたものを移設展示しました。現役時代よりも?綺麗です。

クハ481 26 + モハ484 61
485系は直流1500ボルト、交流20000ボルトの50ヘルツ/60ヘルツ区間をすべて走破できるように設計された車両です。それゆえ、マニアとしてはモーター車でなければ意味がないではないか!と思うところです。その声が届いたか、モーター車と一緒に保存されているのは嬉しいことです。屋根上もじっくり見られるのが、さらにありがたいです。この車両は現役引退後に、勝田電車区で訓練車であったものを郡山工場で整備して移設展示しました。

クモハ455 1
455系電車は交直両用の急行電車として、東北・北陸・九州で活躍しました。後に急行の特急格上げが進むと、普通・快速列車としての活躍が増えました。この車両は晩年は通勤用にも仙台地区で活躍していた車両のため、一部ロングシートになっています。また181系・481系と合わせて、上野駅のホームが再現されています。上野駅が新幹線開通前に、特急・急行でにぎわった頃を知る人からすると、懐かしい光景です。

DSC_0153

 

EF55 

「ムーミン」の愛称で呼ばれるこの電気機関車は、日本でたった3両しか作られませんでした。1936年に日立製作所、日本車輌製造・東洋電機、川崎車輛で1両ずつ、製造されました。製造当初は沼津機関区に配置され、東海道本線の特急用として「つばめ」「富士」の牽引に使用されました。2015年4月から、ここで保存展示されています。

C57 135
日本で最後の旅客列車を牽いた記念の機関車。国鉄を代表する旅客用の蒸気機関車です。ヒストリーゾーン中心の転車台の上に置かれ、一日二回(11:30、15:00)車両を回転するイベントが行われています。汽笛の吹鳴もあります。製造は1940年、新製配備は高崎。その後1952年小樽築港、1968年室蘭、1969年岩見沢と道内を転々とし、1976年3月31日 最後の蒸気定期列車を牽引しました。日本で最後の時々野外で展示してもらいたいですし、黒ナンバープレート、回転火粉止めを取り付け、往時の姿をぜひ再現してもらいたいものです。

続いて、南館へ。このエリアにも展示車両がいます。

411-3
400系新幹線は、ミニ新幹線ともいわれた山形新幹線「つばさ」用として開発・製造され、1992年から2010年まで営業運転を行いました。ライトのない先頭部、銀色の車体はデビュー当時、斬新でした。その後、2014年JR東日本は鉄道博物館のリニューアル・新館増築を発表し、これまで福島駅構内の福島総合運輸区に保管されていた400系の先頭車である、411-3が鉄道博物館の新館に展示されることになりました。

E153-104
E1系新幹線は、1994年か2012年まで営業運転を行いました。
新幹線では初めて編成中の全車両が2階建車両とされた形式です。このE153-104 新潟新幹線車両センターに留置され、2017年まで線路上で保管されていました。

183系ランチトレイン
「好きな駅弁を買って、特急の車内で食べられます」というのがセールスポイントですが、マニア的にはじっくりと国鉄特急色の183系がじっくりとみられることが嬉しいです。保存してあるのはクハ183-1020+モハ189-31.クハ183-1009+モハ188-31の2編成。

その他、目玉のひとつは模型鉄道ジオラマです。
1日に8回、運転があります。別料金はかかりません。座席は先着順です。所要時間は10分。ジオラマはとても凝っていて、照明で朝昼夕から夜と、時間の移り変わりを見せてくれます。保有車両数はなんと、約1200両(!)だそうで、鉄道をテーマとしたHOゲージでは日本最大級です。日によって混雑は違うと思いますが、午前中のジオラマは混みますので、午後を狙うのも一つの方法だと思います。何も考えずに、ボーッと見ているだけで、心が癒されます。

入口脇にはお土産やグッズ販売のミュージアムショップ。
お土産を買い求める人が多く、盛況でした。まだまだ、遊びつくせないてっぱくです。

開館時間 10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日 毎週火曜日、年末年始
入場料
一般:1,300円(団体:1,040円)
小中高生:600円(団体:480円)
幼児(3歳以上未就学児):300円(団体:150円)

講評】
保存車両の多さと展示物の種類の多さは圧巻。いつ行っても子供の姿が多く、にぎやかです。
ただ、本館のスペースは車両をぎゅうぎゅう詰めた感があります。正直、見学しづらいですし、写真も撮り難いです。あと館内が、薄暗い。特に白熱灯の木造車の車内は小さな子供は怖がります。
塗装も見直してほしいのが、キハ04・EF58。それぞれクリームと赤、青のほうが馴染みがあると思います。あとC51や101系の展示場所もなんとかしてほしい。時々、展示場所を入れ替えてみてほしいです。明治時代の国宝級の車輛たちは2階にあげて、各時代の列車を並べ、尾久に留置されている北斗星の生き残りを追加で保存展示したら、もっといいのにと思います。

【勝手に採点】  ※ 満点は☆が5つ
行きやすさ                ☆☆☆☆
車両の見やすさ              ☆☆☆
保存状態                 ☆☆☆☆
貴重な車両の多さ             ☆☆☆☆☆
鉄道知らない人でも楽しめる度       ☆☆☆☆☆
また行ってみたい度            ☆☆☆☆

 

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