日本人ほどバンドワゴン効果に弱い民族もいないのでは、とつくづく思います。
周りの様子をみて、取り敢えずバスに乗り遅れたくない人々。彼らは時流に乗りたいし、多勢に与(くみ)したいのです。そして勝ち馬には絶対乗りたいと考えています・・・。
アレ、これって皆、同じことですよネ??
米国の理論経済学者ハーヴェイ・ライベンシュタイン Harvey Leibenstein は、自身の論文『消費者需要理論におけるバンドワゴン効果、スノッブ効果、およびヴェブレン効果』(1950)の中で、バンドワゴン効果、スノッブ効果、ヴェブレン効果について言及しています。
バンドワゴン効果
バンドワゴン効果(Bandwagon Effect)は、同じ商品(製品)について自分以外の他者の消費量が多ければ多いほど全体の需要も増加し、自分がその商品(製品)を消費することの効用が高まるとする現象で、この背景には、個人の判断よりも集団の決定が正しい(数多くの人が購入・選択しているものは良いものに違いない)という思い込み要素があるとされています。
個人の判断よりも集団の決定に従うという群集心理における同調現象が影響することで、多数の人が選択しているものは良いものだ、という判断から具体的な購買行動に結びつき易い。そして、他者の所有や利用が増え、流行しているという判断がし易い状況であればあるほど、バンドワゴン効果は発生すると言われています。
言い換えると、ある選択が多数に受け入れられていたり、流行しているという情報が伝播することで、その選択への支持が一層強くなるということです。
また政治学においてのバンドワゴン効果とは、選挙の時などにマスメディアによる報道等が投票行動に影響を及ぼすことで、例えば事前に優勢だと報道された候補者により支持が集まる現象で、所謂(いわゆる)、雪崩現象などです。反対に少数の支持しか得られなかったが同情票などを得て、逆に支持を広げていく現象、つまり判官贔屓の様な投票行動となるのがアンダードッグ(underdog 負け犬)効果と言われます。そしてこの際のバンドワゴン効果とアンダードッグ効果を総称して、アナウンス効果と呼びます。
特定の候補者を支持していない場合は、どうせ投票するなら勝ち馬に乗ろうという心理が働き、バンドワゴン効果の影響を受け易くなります。逆に特定の候補者を強く支持している場合は、その候補者を是非にも当選させたいと考えるために、自分の支持する候補者が不利な場合はアンダードッグ効果の影響を受け易くなると言われています。
本来、バンドワゴンとは行列の先頭の楽隊の乗車した馬車のことであり、バンドワゴンに乗るとは、流行に乗るとか、多勢に与するといった意味でした。
スノッブ効果
スノッブ効果(Snob Effects)とは、バンドワゴン効果とは逆に他者の消費が増えるほど需要が減少する現象のこと。他人と同じものは消費したくない、他人とは異なるモノが欲しいという心理が作用し、入手困難であるほど需要が増加、一般化・大衆化してくるにつれ需要が減少していく効果のことです。
同じような商品(製品)が氾濫すると自分を他人から差別化するために希少性に対する欲求が高まる。そうなると、逆に多くの人の欲するものの価値が相対的に減少してしまう。そこで限定品や高級品など、誰もが簡単に手に入らないものに人気が集まるのが、この効果の例だと言えます。
また、スノッブ効果によって購買促進される商品(製品)やサービスは、全ての顧客に支持され、かつ好まれる必要は無いといえます。特別な価値の分かる購入者を対象としたマニアックな商品(製品)において大いに活用できる可能性があり、イノベーター理論における、イノベーター層に見られる消費傾向でもあります。
ヴェブレン効果
ヴェブレン効果(Veblen Effects)は、価格が高いほど消費が増加する現象です。購入する商品(製品)の価格が高まるほど商品(製品)の効用も高まるという効果で、米国の経済学者・社会学者であるソースティン・ヴェブレン Thorstein Veblen が自著『有閑階級の理論』(1899)の中で、米国の有閑階級に顕著にみられた「見せびらかし」の消費性向(顕示的消費)について言及したものです。
高額ブランド品を購入する際の消費者の購買心理の説明としてよく使われるものであり、自己顕示欲・誇示欲による他人への顕示消費、見栄を張るために消費する、といった消費傾向のことといえます。
この効果においての自己顕示・優越感の源泉は、購入した製品が高価である事であるため、値段が高いものが良いもの、という判断をする購入者に顕著な消費傾向です。その為、ヴェブレン効果が期待できる商品(製品)では、価格を下げることでむしろ需要を下げることになりかねないと言われています。
しかし最近では、商品(製品)やサービスの価格に大きな価値を見出す消費者が全般的に減ってきており、ヴェブレン効果の影響は小さくなってきたとされています。
三つの効果の相関関係
バンドワゴン効果、ヴェブレン効果、スノッブ効果が起こる背景には、ヴェブレンが言うように、消費者は自身にとっての効用だけでなく、第三者からどのように評価されているかという社会的な効用をも消費しているということがあります。そこで、これらの三つの効果は、高い相関関係を有し、豊かな現代社会の中心的な消費傾向を表すものだといえます。
つまり、他の商品(製品)やサービスよりも価格が高い限定品とかにヴェブレン効果とスノッブ効果が生じ、次いで一部の消費者の間でヒットが報道されることでバンドワゴン効果が起きます。この様にこれらの三つの効果は相反して作用するのではなく、多少の時間的なズレはあっても、ほぼ同時並行的に発生し互いに影響し合うこともあリ得るのです。
そして、現代マーケティングにおいては、この三つの効果にそれぞれ対応する「流行性」、「希少性・差別化」、「高級感・プレミアム感」といった要素を巧みにコントロールすることが、商品(製品)・サービスの販売における重要なポイントとなっています。
マーケティング活動におけるバンドワゴン効果の活用に関しては、例えばファッションの流行においては、流行色や流行アイテムを意図的にメーカーやファッションメディアが一斉に情報発信/プロモートするなどして、バンドワゴン効果を発生させています。
また、「売上No.1」や「人気No.1」、「満足度No.1」といった宣伝上のうたい文句も、バンドワゴン効果を生み出す要素としてマーケティングでは積極的に活用されています。
更に、「行列」という現象は、需要が集中している状況が誰の目にも具体的に見えるため、バンドワゴン効果を生み出す要因となり易いといえましょう。
バンドワゴン効果をうまく活用すれば、周りのたくさんの人々が選択している良い品物を、自分も得られるという安心感を創り出すことが可能です。
だからこそバンドワゴン効果は、周囲の影響を受けやすく他人の目を気にする日本人がハマり易いマーケティング手法だと言えるのです。
-終-
《スポンサードリンク》