カレーライスとライスカレー、その違いは何でしょうか? 長年、疑問に思ってきた人も多いハズです。
また、その違いによる好き嫌いが、あるのでしょうか?
今回の対決シリーズでは、今や代表的な日本料理ともいえるカレーを取り上げてみました・・・。
カレーライスとライスカレーの違いをご存知ですか?
エスビー(S&B)食品によると、カレーライスは『御飯とは別の容器にカレーが入って出てくるややハイカラなイメージのするもの』であり、ライスカレーは『御飯の上にカレーがかけてあり、それこそソースやしょう油をふって食べる大衆的な雰囲気のもの』とのことです。
ソースや醤油をかけることは個人の好みの問題ですから、本来、あまり関係ないと思いますが、つまり、カレーライスとライスカレーの違いは、 カレーライスは御飯とカレールーが別々になっており、カレー ライスは御飯とカレールーが同じ皿に盛られているもの、ということのようです。
ところで、レストランなどでは御飯とカレールーが別々に供される場合がありますが、それを一般の家庭で行うことは少ないでしょう。しかし、多くの人たちが御飯の上にカレーが盛られているカレーも、カレーライスと呼んでいますよネ・・・。
実際のところ、最近ではカレーライスもライスカレーも同じ料理を表す言葉になっているようです。前述のエスビー食品も、『しかしどちらの呼び方が正しいとは決められません』とことわっています。
さて、そろそろ結論を述べましょう。色々と調べた結果、私は日本におけるカレー料理の呼び方の違いは、時代による変遷と陸海軍の影響と考えています。
カレー料理が我が国に紹介された当時、呼び名はレシピ本や料理店などによって異なっていました。当初は、英国式にカリード・ウィズ・ライスという呼び方が多かった様です。その後、国民食として普及していった明治中頃から昭和初期の時代はライスカレーという名称が広く浸透しており、戦後の高度経済成長期以降は、一般的にカレーライスと呼ばれるようになった、という説が極めて有力です。
また、ライスカレーの呼称については、ホーイズ・ビィ・アンビシャス「少年よ、大志を抱け!」で有名な、札幌農学校のクラーク博士が名付け親だという説があります。彼が、日本の青年たちの体格があまりにも貧弱だったことを憂慮し、栄養状態が悪いのは米食のせいだと感じて、何とか肉食を勧めようとして『生徒は米飯を食すべからず。ただしらいすかれいはこの限りにあらず。』といった文章を寮規則に書き加えたことから、ライスカレーという名前が広がって行ったというのですが、真相は不明です。また、この話が日本の歴史上、最古の「ライスカレー」の記述だとも言われていますが、博士が来日する以前の1874年(明治6年)には陸軍幼年生徒隊の食堂でライスカレーがメニューに登場していますから、クラーク博士が最初の名付け親ではないようです。
ライスカレー優勢のもととなったとされる重要な事実を紹介すると、カレー料理は、戦前の日本軍では陸軍ではライスカレー(カレー汁掛飯)、海軍ではカレイライスと呼ばれていました。陸軍のレシピは出汁に関する記載はなく、ルーも小麦粉とカレー粉をラードで攪拌するとあります。海軍ではスープストックを用い、小麦粉を狐色になるまで炒めるとされています。海軍の本格的な洋食カレイライスに比べて、陸軍のライスカレーの方が色味も薄くあっさりとした味だったと想像できます。何だか陸海軍の違いが凝縮されている、この感じがたまりません。
戦前は、国民皆兵の中、圧倒的に陸軍経験者の数が多く陸軍式のライスカレーという呼び名が中心でしたが、戦後しばらくして高度経済成長期を迎える頃にはより本格的な料理である海軍式の呼び名であるカレーライスという呼称が広まってきた様です。特に東京オリンピックの開催(1964年)時期を境にカレーライスという名称が主流になったと推定されています。
戦後間もない貧困の時代とは異なり、高度経済成長期を迎えた頃には食生活も飛躍的に豊かになり、カレー料理も経済性を追及した(陸軍風の)食事から本格的な(海軍風の)料理へと変貌を遂げていきます。そんな食事情の変化に対応して、カレーライスと呼ばれるようになったのではと思います。
このカレーライスという名称についても、確実な命名者は不明です。昭和初期に東京新宿の中村屋がインド風のカレーを「カリーライス」として売り出したという記録は残っていますが、それが戦後に広まったカレーライスという呼び名に繋がったか否かは分かりません。その他にも帝国ホテルや風月堂が広めたという説もありますが、皆、不確かです。やはり、海軍式の呼称が引き継がれたとみるべきかも知れませんが、結局は、色々な「カレーライス」が混じり合って戦後のカレーライスという呼び名が定着したのでしょう・・・。
ライスカレーと呼ばれていた頃は、まだまだ日本も貧しく、カレー料理は汁かけ御飯の一種と理解されていたようで、安価で手軽な経済料理だったようです。私たちが、ライスカレーと聞くと気軽で大衆的なイメージを抱くのは、このような体験が根底にあるからなのでしょう・・・。
どちらかというと近頃では、ライスカレーと呼ぶ人は年配者が多く少数派の様ですが、ライスカレーという言葉自体に昔懐かしいノスタルジィーな雰囲気がしませんか・・・?
個人的にはライスカレーも捨てがたいのですが、現在は、カレーライスという呼び名が主流のようです。その呼び方にも様々な歴史的・文化的な背景があり、いみじくもカレー料理の奥深さを感じさせてくれます。
結局、どちらの呼び方が正しいとは決められないようです。やはり、好きになった方が、好みのタイプなのでは・・・なんのこっちゃ(笑)。
尚、一時期『ククレカレー』のTVCMで「ライスが多けりゃライスカレー、カレーが多けりゃカレーライス」というキャッチコピーが用いられていましたが、全く根拠のない説だそうです。
-終-