お若い皆さんは、NHKの『プロジェクト-X』は視た事があっても、内橋克人さんの『匠の時代』を読んだことがあるヨ、という人は少ないのでは・・・。筆者にとっては、大変懐かしく、昭和の薫りのする「モノづくり日本の熱気」を思い出させてくれる作品です。
(講談社文庫「新版 匠の時代 第1巻」表紙より→)
【著者:内橋克人さんについて】
内橋克人さんは1932年に兵庫県神戸市に生まれました。神戸商科大学を卒業後、神戸新聞の記者を経て1967年よりフリーのルポライター・作家、そして経済評論家となります。戦後日本の急激な経済発展のもとで、技術立国日本の成り立ちや社会の変革をその著作に描くとともに、社会の歪や種々の課題を浮き彫りにしてきました。特に、我が国の高度成長期の現場技術者達ちの新製品開発に向けた苦闘を描いた『匠の時代』が脚光を浴び、一躍時代の寵児となった観があります。しかしその後は一転して、没個性で画一化した日本型製造業の弱点を指摘し、一般の技術評論家や経済評論家の語る「世界に冠たる技術立国日本」の楽観論を批判した活動を展開されてきました。代表作品には「匠の時代」「幻想の技術一流国ニッポン」「共生の大地」「不安社会を生きる」などがあります。
【作品の紹介】
『匠の時代』は、当時の世界が驚愕した日本企業の目まぐるしい技術革新を支えた技術者・社員の汗と涙の結晶と、その彼らの奮闘ぶりを鮮やかに描いたドキュメンタリーとして大ベストセラーとなった名著で、高度成長期において為された日本の飛躍的な技術進歩はなぜ可能だったのか.その驚くべき開発に隠された秘話を語り多くの読者に感動を与えました。実は筆者の場合、(講談社文庫 旧版)第2巻の内容のほんの一部にですが、自分の職歴・体験が関わるものですから感慨もひとしおです・・・。
筆者の手元にあるのは、講談社文庫(旧版)の第1巻(昭和57年2月 第1刷)から第9巻(昭和59年4月 第1刷)です。値段も340円~480円と、現在では考えられない価格です。講談社文庫の「旧版」は、たしか第12巻くらいまで発表されていたハズです。
一部の巻の内容を簡単に紹介してみましょう。
第1巻
ふとん乾燥機は、寒さ凌ぎにドライヤーを布団の中に持ち込んだ独身社員の体験から生まれた・・・当時の日本の先端技術開発の状況を、三菱電機「クリンヒーター」、小西六「自動焦点カメラ」、東レ「エクセーヌ」の開発などを紹介しながら、企業と技術者個人の熱い挑戦をドラマチックに再現していきます。
第2巻
オメガ恐るるに足りず・・・東洋のスイスを夢見た長野県上諏訪の工場で世界で初めて完成されたセイコーの水晶時計。小型軽量・超薄型への挑戦、そしてコスト競争と互いに死力を振り絞って戦いを続けたシャープとカシオの「電卓戦争」など、精密機械・機器開発を通して技術者達ちの哲学と人生を、また壁に立ち向かう執念を描きます。
第4巻
東海道新幹線を成功に導いた技術とは?戦時下の弾丸列車構想に遡る国家巨大プロジェクトの展開を軸に、青函トンネル、ATCの開発など、速さと安全の実現に奔走する国鉄技術陣の挑戦を紹介します。
第6巻
難病患者を救う為には医療技術の革新が必要!人工補助肝臓の開発に成功した倉敷中央病院とクラレ、人工透析装置に関する東京女子医大と東レのチャレンジ、東大胸部外科医師の執念の人工血管の開発など、患者と医師と技術者の「生命を守る」ことへの苦闘を描きます。
第8巻
海外で文化の違いを乗り越えて奮闘する企業。三洋電機、本田技研、竹中工務店などのビジネスマンたちの活躍を克明に描きます。今に通ずる、技術的な制約や法制度の違い、現地従業員との考え方の違いなどの克服法は大変参考になります。
・・・といった感じです。
何度か再発売されるうちに、巻数や内容の組み合わせが変更されている様です。岩波現代文庫の第1巻の内容は、「第 I 章 セイコークオーツの世界、 第 II 章 電卓戦争の軌跡 」となっています。
「日本の再生」・「モノづくり日本の復権」を模索している今だからこそ、『「現場の技能が技術を進め,鍛えられた技術が科学を進める」という時代が再び蘇ってほしい、「匠たちよ,再び」』という著者内橋氏の強い叫び(「岩波現代文庫 緒言」から)が聞こえて来るようです。そして、かつての匠たちの苦闘から学ぶべきことが『匠の時代』には多く存在していると思います。
今改めて読むと、少々古臭い表現や時代背景の違いが気になるかも知れませんが、是非、まだ未読の方、(技術者にかかわらず)お読み頂ければ「モノづくりに対する情熱」「昭和のパッション」を感じられると思います。
-終-
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