都市圏では最近、駅のリニューアルがあちこちで行われています。古くて狭い駅のホームも、建て替えたり、駅そのものを作り替えたり。そんな変化の中、いつも見慣れていたホームに、変わったものが使われているのをご存知ですか?それは、使われなくなったレールなのです。
駅のホームは鉄骨で頑丈に作られています。支柱からアーチ状にホームの屋根を支えているのも、もちろん鉄骨です。その柱をよく見ると、古いレールを利用しているものが見つかります。鉄道を引退後、長い余生を柱として過ごしているのです。鉄道で使われた期間よりも、ホームで使われているほうが長くなってしまったものも多くあります。
太平洋戦争中の金属供出を免れ、国鉄の分割民営化を見守り、JRになって新しい車両や人々を見守ってきたホームの柱。雨の日も雪の日も、乗客が快適に乗り降りできるのは、この柱が駅を支えてくれるおかげでしょう。でも、それが もとはレールだなんて、気が付く人がどれだけいるでしょうか。
鉄は建材の中ではリサイクルの優等生ですが、溶かして再生するエネルギーが必要です。レールがそのまま柱、梁になるのはもっとも効率よいリサイクルです。維持さえしっかりすれば100年以上も使われているものもあり、老朽化とは無縁のようです。しかし、最近のレールは炭素含有量が増えてから簡単には曲がらなくなったこと、H型鋼のコストが下がったことなどから現在では作られることは無く、レールを使った新しい建造物は続々姿を消しています。
そんな消えゆくホームの柱や、レールの建造物を探してみることにしましょう。今回は都内でも比較的多くデザインが残されている総武線の浅草橋、御茶ノ水、東中野を巡ってみます。
まずは秋葉原のお隣、浅草橋駅。この駅は古い高架の上にある対向式のホームです。開業は1932年(昭和7年)。この駅の特徴は、ホームの間を支柱のようにレールを使ったアーチの柱があります。見てください、この曲線美。そうです、レールを使った作品にはデザイン性を意識したものが多いのが特徴です。
総武線では、似たようなデザインが水道橋駅にもありますが、林立するレール柱がいい味をだしています。すれ違う上りと下りの電車のあいだを、「仕切る」ように立ち並ぶレールたち。風景の印象が大きく変わる存在だと思いませんか。
続いて、東中野駅。大久保と中野の中間にあるこの駅は、都内でもマイナー駅の一つです。1906年(明治32年)開業ですから、非常に歴史のある駅です。
新宿と中野の間に位置している関係からか、駅の改修には殆ど手付かずです。それゆえ、ここにはまだレール柱が多く残っています。中でも、レールを多用した跨線橋。柱や補強材などにぶつ切りにされたレールが多く用いられています。跨線橋もレールが発見できる重要なポイントです。こちらも最近ではエスカレーター設置や、バリアフリー対応で次々に姿を消しています。
さらにこの駅では、ホームから屋根にのびる鋼材もあちこちにレールが!レール建造物マニアには見所満載の駅です。なにより、人が少ないことがありがたい。人の多い駅で天井に向けて写真を撮っていると、間違いなく変な目で見られます。そういう意味でも、この駅は初心者向けです。
もはや鉄道趣味というよりも、産業遺産・文化遺産にも登録していいくらいのレール建造物。建築のデザインとしても、いい味を出しています。ホームでの待ち時間、スマホもいいですが、たまには上を向いてみてはいかがでしょう?
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