これらの美術品等は2012年2月、当初、別件の脱税事件を捜査していたドイツ捜査当局がグルリットの自宅アパートで発見した。
グルリットは時々、所蔵品を売って、その売却益で生活を維持していたという。報道によると、大概の販売先はスイスのベルンの画商コルンフェルト(Kornfeld)だったらしいが、コルンフェルトは「画商コルンフェルトとコーネリウス・グルリットの間で最後の売買および個人的な連絡があったのは1990年だった」との声明を発表している。
しかし、このコルンフェルトが取引先かどうかは別として、どうも所蔵品の売買の後に、チューリヒからミュンヘンへ戻る途中の鉄道の税関検査で、グルリットが現金を9千ユーロ(約120万円)も所持していたことが不信がられ、その結果として家宅捜査が実施されて、この世紀の強奪美術品の発見につながったという。
その後、専門家による鑑定作業が続いているが、その作品群にはシャガールの未発表作品やムンクの作品などをはじめとして、ピカソ、セザンヌ、ロダン、ミレ、モネ、マネ、ルノワール、ドガ、マティス、ゴーギャンなどのフランスの作品が多い。その他にも、ティエポロ、レンブラント、デューラー、クラナッハなどの近代以前のものや、日本の浮世絵などもあり、大半が良好な状態で保管されていたという。
この件に関する報道の後、略奪被害者側のユダヤ人団体などから「正当な持ち主に返すべきだ」との指摘が上がっていた。
その後、当初は返還に難色を示したグルリットも今年(2014年)4月、本来の所有者が特定できた場合はその親族らに返還することに同意したが、その直後の5月7日に心臓疾患で81歳で死去し、これらの所蔵品をスイスのベルン美術館に寄贈するよう遺言した。
だがたとえ、元の所有者やその遺族が現われなかったとしても、ナチスが略奪した疑いの強い美術品等を、公共の美術館が受け入れ展示することには倫理的な問題もある。そのためスイス国内では受け取りに否定的な声も多い。またドイツ側にも、ベルン美術館への遺贈に懐疑的な意見がある。指定を受けた文化財を国外に持ち出すことを制限する法律に引っかかる可能性があるとするからだ。結局は、これらの作品がいつになったら寄贈されるかは不透明であるという。