ところで、第2次世界大戦中、ナチスに略奪された美術品の多くがスイスを経由して取り引きされていたのだが、この問題は戦後の長い間(意図的に)忘れられていた。しかし、冷戦終結後の1990年代に入り再び世界的に注目を浴びるようになる。
歴史家トーマス・ブオンベルガー氏らによって、スイス人の画商たちが、ナチスによって略奪された美術品の国際的な売買の仲介を行っていたことが明らかにされ、これが大きな切っ掛けとなったのだ。(同時にスイスの銀行が、ナチスによって略奪された財産を処分していたという意外な新事実も明るみに出たのだが・・・)
まさしく鍵はスイスにあり、ということで、ナチスの略奪美術品についての返還促進の調査において、スイスの果たす役割は大きい。すなわち、当時行われた売買の記録が正確に残されていれば、正当な所有者を探し出す貴重な資料となるからだ。
しかし、画商たちやその後継者の口は重く、また、そのような記録は既にほとんど残っていないとしている。(また、法的にも調査の協力に対する強制力はない)
また、個人のコレクター以外にも、ヨーロッパの幾つかの美術館は略奪品であることが明確だったにもかかわらず、それらを多数買い込んでいたらしい。また米国の美術館の多く(10館はくだらない)が、美術品の出所を確かめることもなく、ここぞとばかりに購入に走ったという。
スイス連邦文化局が2010年に行った調査によると、スイスの美術館が1933年から1945年の間に購入した美術品の中で、本来の出所が分かっているものは、わずかに4分の1程度のようだ。
ところがこれらの美術館の、正当な所有者に関する調査の実施や該当美術品の返却に対する反対表明や抵抗活動も強くなって来ているという。
所有権が十分に証明されていない上に時間がたち過ぎている、また偉大な作品はいずれにしても一般市民に公開されるべきだ、というのが彼らの共通した姿勢だ。
その考えに沿って、米国の美術館などは返却への予防措置に乗り出した。所有権の正当性は不明確ながら、特定の美術品に関しては、現在所蔵している美術館が正しい所有者であることを裁判で勝ち取ろうというのだ。(既にいくつかの作品に関して、この提訴は成功している)
また、ニューヨーク近代美術館の広報担当者は、「美術館は公共に対して美術品を所有し続ける義務を負っている」という見解を公表したりもしている。
そして、略奪美術品を所蔵している可能性のある美術館は(公開請求があるにも係わらず)未公開美術品の保管内容を詳らかにはせず、画商たちも売買の記録文書は既に失われたと言う。
そこには、まるで徹底した引き伸ばし作戦で、正当な所有者の遺族たちが絶えることを待ち望んでいるかのような様子も見て取れるのだ。
以上のような状況からも、全てが時間との勝負となりつつあることは確かである。こうした中で、略奪美術品を見つけ出して正しい持ち主を特定し、それを関係者間で今後どのように扱うかを決めるのは、決して平坦な道程ではないと思われる。
グルリットの所蔵品以外でも、戦後、ナチスによる略奪品の返還は進められてはいた。しかし、ナチスの数々の犯罪行為の追及と懲罰や精算活動の中で、その優先順位はさほど高くはなく、上述の通り、その活動は1990年代までは概ね低調であったのだ。
元々の正当な所有者の側も、現在の所有者の側も、どちらも世代交代が進み、確かな情報が得られなくなってきたことによる危機感の高まりから、ここ20年ほど、やっと世界的にもこのナチス略奪品の返還問題がクローズアップされてきたのである。
その出所が明確ではない美術品等のコレクションは、米国やヨーロッパにおいては少なくない・・・。
その内のどれがナチスによる略奪品であるかという実態を把握する試みは現在も続いており、そのことは『モニュメンツ・メン』の活動が未だに終わりなきものであることを、全世界に示しているのだろう!!。
-終-
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