この本の奥付を見ると平成11年(1999年)11月10日の初版となっています。つまり、出版から15年を経ている訳ですが、改めて手に取ってみると、これがなかなか面白い。
現在、米国版リメイク映画の公開などで、またまたゴジラの人気が再燃していますが、真剣にゴジラを迎え撃つ、現実(当時)の自衛隊の戦力と要撃作戦を調査分析・検討したマニュアル本です!!
本書は、怪獣ゴジラの来襲を日本国防衛の要(かなめ)である自衛隊が、いかに迎え撃つかをシュミレーションした仮想防衛戦略の解説書です。
自衛隊の仮想敵国は、東西冷戦時代にはソ連と言われていましたが、現在は「北」といわれる彼(か)の国、もしくは黄砂の発信源、同じく一党独裁の例の超大国なのでしょうか?
しかし、昔から我が国の銀幕にはより身近な仮想敵がいました。そうです、怪獣たちです。その中でも王者たる風格の持ち主が、ゴジラです。実質、宇宙からの外来種? を除くと、まさしく王(キング)だと思うんですが、いかがでしょうか。(勿論、ガメラ最強説・人類の味方説も承知していますが・・・敢えて、ここでは忘れておきます。)
その最大・最強の仮想敵を迎撃する1999年当時の自衛隊の戦略と戦力を論じたのが、この本、『ゴジラ対自衛隊』なのです。
【目次】
- 第1章 発見
- 第2章 報道
- 第3章 海上戦
- 第4章 上陸阻止作戦
- 第5章 調査・索敵
- 第6章 避難誘導
- 第7章 陸上戦
- 第8章 撃滅後の処理
- 巻末付録 ゴジラ蹂躙の歴史
主な内容では、ゴジラが実際に出現した場合を想定した、その対処・対応に当たる行政機関や自衛隊の、(当時の)法的整備や装備状況を踏まえた仮想戦略の解説を詳しく繰り広げて行きます。
既出の『ウルトラマン研究序説』などに比べると、具体的な迎撃戦術や作戦、そして使用する装備のスペック(仕様)などを細かく説明したものであり、概念的なアプローチが省略されていて、それが却って分かり易く、読み物として誰にでも馴染み易くなっています。
特に「発見」「調査・索敵」「撃滅後の処理」などの章は、非常に興味深いところであり、(当たり前ですが)他の文献にはあまりない記述となっています。
また、(当時の)自衛隊や海保の実際の装備で可能なゴジラ迎撃の戦法を探る中で、周辺の被害を考慮すると上陸後の攻撃は現実性が少なく、あくまでも海・空自衛隊の戦力をフルに発揮し、いかに海上もしくは海中で防ぐか、というところに勝敗の分かれ目があるようです。
後半の、陸地である首都東京での戦いに関しては、ゴジラよりも対バラゴン戦に紙面を割いており、ゴジラとは異なった地底怪獣という性質をもつバラゴンをいかに封じ込めるかは、大地震対策とオーバーラップしているようです。
つまりゴジラやバラゴンという怪獣と、どの様にして戦うかという主題の水面下には、広域の大災害にいかに向き合うかという命題が隠されており、この本の本来の主旨は架空の敵=怪獣の迎撃ではなく、現実に起こり得る敵=自然災害との戦いなのでは、と思われます。
当然ながら、現実の仮想敵国もあり、また対テロの意味合いも否定は出来ません。そういった一般の日本国民の生命と財産を脅かすもの全てをひっくるめて、ゴジラと呼んで良いのではないでしょうか? このことに関連して、本書の「あとがき」にも、怪獣(映画)は戦争や災害のメタファである、と記されています。
さて、本書のもとになった単行本が刊行されたのは1993年であり、文庫本となった99年とは6年もの隔たりがあります。更に現在から遡ると20年以上となり、その視点にはやや古さが感じられることは否めません。
初版当時には斬新だったものが、ごく普通の発想となっている点が多々あるでしょう。しかし、当時なりの防災のケーススタディーとしては立派な内容と評価できる部分もあり、初版時は阪神大震災発災の前であることから、かなりの先見の明があった書籍と言えます。
文庫本化の時点では、阪神大震災やオウム事件などを加味した加筆修正が行われている様ですが、それでも9.11以降の世界的なテロ活動や3.11東日本大震災は予見されるハズもなく、残念ながら現在からみた乖離部分は多く存在しています。
しかし、ゴジラ・ブーム再燃の今、たとえ元本が20年以上前の刊行であっても、リアル志向の怪獣ファンには必読の書であることは間違いありません・・・。
有事法制の整備には、怪獣出現を対象としたものも加えておいてはいかがでしょうか? やはりムダ、不要でしょうかネ(笑)。
でも太古の御代には恐竜もいたことですし、怪獣の出現が絶対にないという保証はないでしょ…!?
-終-
《広告》