《一口の科学》倍加時間/ダブリングタイム(doubling time)とは何だ? 〈1647JKI52〉

ダブリング11ダウンロードあくまで素人が調べた簡単なレポートですが、《一口(ひとくち)の科学》シリーズとして、聞き慣れない科学用語を毎回簡潔に解説させて頂きます。さて初回は医学・生物学の領域から『倍加時間/ダブリングタイム』をご紹介します…。

 

医学や生物学において、細胞1個が2つに分裂、またはある細胞の集団(腫瘍などの体積)が2倍の規模になるまでの平均時間のことを『倍加時間/ダブリングタイム(doubling time)』(以下、ダブリングタイムに統一)と言います。そしてこの『ダブリングタイム』は対象の細胞の種類により異なります。また特に、癌(ガン)細胞の分裂速度に関してよく使われる用語のようです。

 

例えばインフルエンザウイルスの場合では、8時間経過すると最初に1個だったウイルスが100~150個になり、24時間後にはそれの100万倍~200万倍に増加、48時間を経ると1兆倍~数兆倍に増殖するとされています。

大腸菌であれば増加速度は更に早く、同じ8時間後には1億倍となり、16時間経つとなんと1京倍になります。

 

癌(ガン)細胞に関しては、『ダブリングタイム』が早いほど、癌の増殖速度が早いことになります。代表的な癌(ガン)の『ダブリングタイム』は、1~3ヶ月程度と言われますが、腫瘍の種類や原発巣か転移巣かの違いによって大きく異なり、通常は転移腫瘍の方が速度が速いと言われています。

一般的には、『ダブリングタイム』が2年よりも短い場合は要注意であるとされています。この場合は、外科手術や放射線・抗ガン剤治療など具体的な治療行為が求められます。癌(ガン)の悪性度は、その発育の速度が速いほど悪性度が強いと判断されるのです。

『ダブリングタイム』は、乳ガンの場合だと100日前後(但し、原発巣か転移巣かで異なる)のものが多いと言われており、癌(ガン)検診で見つかる程度の大きさである約1センチ(細胞数約10億個)になるまでには、『ダブリング』の回数が約30回は必要です。仮に『ダブリングタイム』を100日とすると、100日×30回=8.2年となり、最初の癌(ガン)細胞が発生してから最短で約8年少々のちには1センチ程度となります。

癌(ガン)腫瘍は、発生した体内の部位やその人の体質・健康状態により成長速度は異なると言われますが、約1センチ程度にまで成長するには通常は凡そ10~15年位はかかるとされています。

 

上記の通り、X線やCT検査などの検診で発見可能な癌(ガン)の大きさは約1センチとされ、細胞の数では約10億個となっています。

この段階で発見出来れば「早期発見」となりますが、前述のように実際にはこの癌(ガン)細胞は生まれてから10年以上の時間を経ている可能性が高いのです。

 

ところで、理論的な癌(ガン)細胞の『ダブリングタイム』は、4.2日~20日と極めて短く、腫瘍は急速に増大すると考えられています。しかし、現実の『ダブリングタイム』はそこまでは早くはありません。

では何故、理論値と実際の進行が異なるのでしょうか。現在、推測されるていることとして、人体の中では癌(ガン)細胞が「アポトーシス」や「ネクローシス」によって消滅する率が意外に高いことが挙げられています。この為、癌(ガン)細胞の中でも実際に細胞分裂を繰り返して増殖している細胞数は限られており、途中で分裂活動を停止したりするものが多いのではないかと考えられているのです。当然ながら、この性質を癌(ガン)治療に役立てようとの研究が進められています。

また、腫瘍を構成する癌(ガン)細胞の内で活動性がある細胞は、その分裂や増殖の為に多くのエネルギーを必要としますが、そのエネルギーは血流より獲得しなければなりません。しかし、癌(ガン)細胞はもともとから体にあった訳ではないので、新しく血管網を作る必要があるのです。こうして出来るのが、癌(ガン)細胞へと血流を供給する「新生血管」と呼ばれるものですが、この血管の構築がスムーズに進まないと癌(ガン)細胞の『ダブリングタイム』は遅くなるのです。そこで、この血管が新生されるのを防ぐことで癌(ガン)細胞の成長を防止する癌(ガン)治療も試みられています。

 

この様に『ダブリングタイム』のわずかな違いが、最終的な結果に大きな違いを与えるのです。

特に細菌やウイルスが原因の病気などの場合は、如何に原因細胞の分裂が少ない内に対処するか、また如何にして増殖速度を抑えるかが治療に関して大事なのです。

癌(ガン)も同様で、『ダブリングタイム』が遅ければ生存確率は高くなり、また「早期発見」が如何に生存確率を高めるかもご理解頂けると思います…。

-終-

 

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