ミルトン・フリードマンとシカゴ学派経済学者たち
シカゴ学派は、シカゴ大学の経済学部教授陣を中心として生まれ、経済学界では「新古典派経済学」とも呼ばれている。この学派はケインズ経済学派の主張する「政府による介入」に反対し、(中央銀行による通貨供給を除いては)凡そ市場に対する多くの規制を否定している。
このシカゴ学派経済学者の中心人物であったミルトン・フリードマンの新自由主義的な学説は、新古典派の価格理論やリバタリアニズム(libertarianism)に大きな影響を与え、ケインズ経済学派の考え方を否定してマネタリズム(monetarism)を構築した。
リバタリアニズムとは、個人の完全な自由・自治を主張し、究極としては国家や政府というものの廃止を理想とする政治的な思想(完全自由主義・自由至上主義)であり、これらの考えを持つ人々のことをリバタリアンと呼ぶ。経済学的には、市場で起きる諸問題は国家や政府の規制や介入により引き起こされているという観点から、経済市場への国家や政府の介入を一切拒絶する自由放任主義を唱える。
またマネタリズムとは、フリードマンが提唱した「新貨幣数量説(neo-quantity theory of money)」に基づく通貨政策重視の考え方のことで、これを支持する経済学者たちのことをマネタリスト(monetarist)と呼ぶ。またマネタリストの理論および主張の全体をマネタリズムと言う。
経済学に馴染みのない読者には少々難解かも知れないが、新貨幣数量説とは、貨幣の所得流通速度は一定ではないが経験的に安定しており、長期的には伸縮的な価格メカニズムによって完全雇用が達成されるということを基盤として、貨幣供給量が名目国民所得の唯一の決定要因であると主張する説で、「名目所得の貨幣理論」とも呼ばれる。
言い換えれば、実質国民所得は技術進歩や労働供給などの実質的要因により決定されるとし、その成長率に合わせて貨幣の増減量を一定の割合に設定して物価の安定を保つべきとした経済理論だ。そしてフリードマンの「経済生産より早いペースで貨幣供給量が増えることによってのみ生まれ得るという意味で、インフレーションとはいついかなる場合も貨幣的現象である」という言葉は有名である。
またフリードマンは、彼の唱える新自由主義の信奉者は結果的なリバタリアンでもあるとした。それは政治思想面からではなくて、あくまで実利的な経済活動の結果に関して、経済における政府の関与や干渉の最小化が正しいとする考え方からとされている。
更にフリードマンらの唱える古典的な新自由主義は、歴史的な経緯や伝統を重んじた保守的な態度を装いながら、文化・文明の進歩の為には実用優先で冷徹な合理主義的アプローチを採用していた。
ちなみに彼は、麻薬政策について麻薬禁止法の非倫理性を説いている。1972年からアメリカ合衆国で始まったドラッグ戦争(麻薬の取り締り)に関しては、「ドラッグ戦争の結果として腐臭政治、暴力、法の尊厳の喪失、他国との軋轢などが起こると指摘したのだが、懸念した通りになった」と語り、彼は大麻の合法化を訴えていた。また別の主張では、大麻に限らずヘロインなども含めた麻薬全般の合法化を主張していたという。
尚、彼がノーベル経済学賞を受賞した時、(チリ独裁政権への協力等を理由に)ノーベル賞受賞者から多くの反対の声が沸き起こった。またスウェーデンでは数千人規模の抗議デモが行われ、事態制圧に多数の警察官が動員された。