ATD-X(通称『心神』)とは、先進技術実証機(Advanced Technological Demonstrator-X)のことであり、次世代戦闘機の純国産・日本独自開発をめざす防衛省が開発中の実験機だ・・・。
ATD-X 『心神』について
現在、戦後初めてエンジンも含めた全ての部品を純国産で造るATD-X:先進技術実証機(通称『心神』)の開発が三菱重工業などを中心に進んでいる。来年の1月中旬には初飛行する見通しで、レーダーに映りにくいステルス形状や推力の方向を自在に操れる高機動性が特徴とされている。
また、掲載の写真は今夏に公開されたもので、あくまで実証機としての姿であり、カラーリングである。つまり、正規配備の戦闘機には程遠い実験用のモデル機であり、全体のサイズも小型(全長約14メートル、全幅約9メートル)で武器の搭載能力も無く、そのため、この様な派手な塗色も頷けるのだ。
このATD-X 『心神』は、現在の主力戦闘機であるF2の後継機となる予定の、第六世代ステルス戦闘機(I3 FIGHTER)開発の為の実証(テスト)機という位置づけのモデルであり、来年度(2015年度)に防衛省に引き渡された後、ステルス性能や飛行性能の調査・検証を実施し、2016年度まで各種データの収集を継続する予定だ。
遅くとも2018年度には、このモデル機をベースとして次世代機を開発・実用化するかどうかを決定すると云うが、順当にいけば、2030年代初めから半ば頃には実戦配備される計画だ。
「対中防衛」と主力戦闘機の国産化
1987年当時、我国はF2戦闘機を国産で開発する方針を掲げたが、軍事技術での圧倒的優位が崩れかねないことを危惧した米国の圧力もあり、エンジン技術に劣る日本は結局は日米共同開発を受け入れ、そして米国ゼネラル・エレクトリック(GE)社からエンジンを調達することになった。
また2000年代、我国は最新鋭のステルス戦闘機 F22 の供与を米国に要望したが、技術流出を恐れた米国に断られた経緯がある。
この様に、たとえ同盟国であっても日本が必要とする装備品を提供してくれる保証は無いのだ。これは防衛装備全般に言えることではあるが、特に戦闘機などの主力兵器は(開発可能であれば)純国産である方が有利な点が極めて多い。そしてこの問題についての、現状の最大の焦点が「対中防衛」に関連してと言われている。
冷戦時代の旧ソ連に代わって、現在では軍拡著しい中国が我国自衛隊の海空における最大の仮想敵国となっている。
この中国空軍の脅威を優先して考慮すると、戦闘機開発を米国などの他国に依存するのではなく、ある程度、独自の技術を培っておいた方が防衛力は高まるとされている。
独自技術での開発であれば、いちいち共同開発国の了解を得ずに日本周辺の安全保障環境の変化に合わせ、適宜、フレキシブルに改造・改良を施せるというメリットが大きく、急伸している中国軍の武器性能の向上などに対抗するには、適時、自由自在に改良出来ないと性能面で後れを取りかねないからだ。
また独自開発の対象は戦闘機本体以外でも、レーダー網を含んだ統合情報通信システムなどが挙げられる。従来はこれらも米国製であったが、現在、防衛省は独自開発を進めている模様で、そしてこれも当然ながら、システムのバージョンUPや追加構築などの自由度を獲得する為である。
戦闘(爆撃)機や搭乗員の数では圧倒的に有利な中国空軍に対抗する為にも、我国は、今後も搭載兵器や電子機器類の性能、更に通信システムなども含めた総合力での優位性を保たなければならない。その為にも、独自技術の自由度を確保していく必要があると考えられているのだ。
米国を中心に、第六世代以降の第一線戦闘(爆撃)機は無人機タイプが主体となるという予測もあり、有人機を取り巻く状況が一変する可能性はある。
膨大な費用と長い時間がかかる主力戦闘機開発は、その時々の経済状況や国際情勢との関連で行く末が大きく変わるだろう。コスト削減により方針が大幅に変更となることはよくあり、また折角開発した技術があっという間に陳腐化することもあり得る。
つまり、ATD-X 『心神』を基にした次世代の戦闘機(I3 FIGHTER)が、日本の空を守る日が来るのかどうかは不確定要素が多いと言わざるを得ない。
しかし、戦闘機技術の開発は日本の産業競争力にプラスになることは間違いなく、グローバル軍事ビジネスだけではなく、各種の産業にとって必ず意味のある挑戦だと思いたい!!
-終-
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