皆さん、『インダストリー4.0(Industrie 4.0)』という言葉をご存知ですか? 聞いたことが無い、という方も多いに違いありません。私もつい最近までは知りませんでした。しかし、この聞き慣れない言葉には、人類の新たな発展の可能性が秘められていると言われています・・・。
現在、ドイツでは、ロボット技術やコンピューターなどの人工知能、またインターネットやデジタル・IT技術などを組み合わせて、より高次元の進化したモノ創りを目指す「第4の産業革命」が急速に進んでいるそうです。
産業革命の進捗に関してドイツでは、18~19世紀にかけて英国で始まった水力機関や蒸気機関の発明で、工場などに人力を代替する機械が数多く導入されたことを第1次産業革命と言います。その後、20世紀初頭に始まった、電力を活用した大量生産が本格化した労働集約型産業の勃興を第2次産業革命とし、そして1970年代以降、コンピューターなどの電子技術の導入による、生産工程の自動化が進んだ時代を第3次産業革命と位置づけています。
そして上述の最新のロボットやデジタル・ネットワーク技術などを活用した革新を「第4の産業革命」と呼んでいるのです。
産業全般のデジタル・ネットワーク化の進捗で、特に昨今の製造業を中心とした工業の仕組みや様相は根本的な変革を迎え、製造コスト等を大幅に削減出来る可能が高まってきました。
ドイツ政府は産業界や学界とともに、国の総力を挙げて『インダストリー4.0』と呼ばれるメガ・プロジェクトを進めることにより、製造業の高コスト体質の一掃に挑戦しているのです。
工業・製造業のデジタル・ネットワーク化というと、我国日本でも工業用ロボットなどによる生産工程の自動化は進み、インターネットの活用による工場間のデータ転送などは日常茶飯事である、と思われる方が多いでしょう。
しかし最近、ドイツにおいて官民一体で進められているこのプロジェクトは、従来の生産工程の自動化などでは表されないほどにその規模は巨大で、深く広範なものになるといいます。
つまり『インダストリー4.0』は、生産工程のデジタル・ネットワーク化や自動化、工場間の連携強化、そしてバーチャル化のレベルを現状よりも大幅に向上させることで、かかるコストの極小化を目指しているのです。
中でも、特に単なる自動化ではなく、工場が自ら考えて行動する自律化=スマート工場(自ら考える工場)の開発が急務とされています。
このスマート工場は、生産施設をネットで結んだ生産システムの塊であり、『インダストリー4.0』においては、製造に携わる企業は物理的に近距離にある必要はなく、ネットによって接合されたバーチャル・クラスターを形成しています。また従来、自動車工業で言えばこの様なクラスターとは、各種の自動車部品メーカーの工場と自動車本体の組立工場などが特定の地域に集中する場合を指していました。
しかし『インダストリー4.0』が進めば、その必要性はありません。スマート工場はインターネットの最大の特徴であるリアルタイム(即時)性を活かして、生産拠点や企業間の相互連携・反応性を飛躍的に高めるのです。
具体的には、製造に関わる各工場が、ネットワークを介して伝達される情報に反応して、材料・部品の供給活動やそれらに基づいた生産行為を極めて敏速で自律的に行うのです。
例えば、製品の最終組み立て工場において、ある部品の在庫量が一定の基準を下回ると、その情報が自動的に別の部品工場に伝わり、その部品工場では自動的に該当する部品を製造し組み立て工場に供給します。また部品工場でも同様のことが行われ、部品を作る為の原材料の在庫が一定量を下回ると自動的に発注され、いつでも部品を製造可能な水準を維持するのです。
各々の取引に関する決済等も自動的にITシステムが記録、処理をしていきます。一連の作業にはマンパワーが関与する必要はなく、いちいち人間が下請けの企業などに電話やメールなどで注文をする必要はありません。
またスマート工場では、生産稼働状況を高水準に維持する為に、設備のあらゆる場所に設置された各種センサーが、機械の異常や性能の低下などを感知して、メンテナンス・システムがこれに対応して自動的に問題箇所を補修・修理するのです。
つまりスマート(お利口な)工場は、人間が関与しなくても、機械がネットワークを通じて必要な情報を互いに伝達し、設計・デザインから始まり、材料や部品の調達、生産や製造のパフォーマンス調整までを自ら最適化するのです。そのことで、各企業は人間の関与を劇的に削減することが可能となり、作業ミスを減らし、また大幅に人件費を減額することが出来るのです。
更に「第4の産業革命」が進めば、コンピューター(人工知能)が工場内の各々の機械設備に対して最適な指示をし、工場全体の生産効率を大幅に高めるので、同一製品の大量生産のみならず、多種多様のニーズに合わせたオーダーメードの少量製品でも、その生産について自動化が可能となるといいます。
現状のドイツは、時間当たりの労働コストが他の中東欧諸国やアジアの国々に比べると非常に高い状況にあります。そこでドイツでは、こうした製造業の革新に成功すれば、国際的な価格競争力を今以上に高めることが可能だと考えており、挙国一致でこの『インダストリー4.0』プロジェクトに注力しているのです。
現在、ドイツの自動車メーカーや電子機器メーカー、IT関連会社、通信関係の企業などが必死に取り組んでいるのが、この『インダストリー4.0』です。
日本ではあまり知られていないこの巨大プロジェクトですが、世界的にドイツと同様の工業製品の製造大国で貿易立国でもある日本が、手を拱き見過ごしていて良いものなのでしょうか?
ところが日本の新聞やテレビなどのマスコミは、この新たな産業革命の実情を詳しく伝えているとは思えません。しかしこの「第4の産業革命」は我国産業界にとっても、もっと大きな興味・関心を持つべき分野であり、仮にドイツの成功に日本の産業界が乗り遅れた場合には、その影響は計り知れないと考えられますが、如何でしょうか・・・。
しかし「第4の産業革命」は決して良い事だけではありません。プロジェクトの進行と共に、別途に多数の(人間ならではの)雇用を創造する手立てを並行して考えないと、製造業で大幅に人手が要らなくなることが懸念され、極めて大きな雇用不振を生み出してしまいます。
そこで、その光と影については充分な考慮と対策が必要となると考えられています・・・。
-終-
《スポンサードリンク》