篠原真理子の【超常現象】シリーズの二回目は、「サンチアゴ航空513便事件」を紹介します。
この事件の発端は、1989年10月12日、ブラジルのポルト・アレグレ空港に突然現れた一機の旅客機が、管制塔の指示を無視して強行着陸したところから始まります・・・。
事件の経緯
1989年10月12日、ブラジルのポルト・アレグレ空港の管制室はパニックに陥っていた。レーダーに一機の未確認航空機が映っており、刻々とアレグレ空港に向かって飛来していたのだ。
「おい、この機はどこから来たんだ!? 予定にまったくないぞ。」「勝手に着陸しようとしているな、これでは非常に危険だ!」
そこで管制官はその正体不明機に必死に交信を試みることにしたが・・・。
「こちら、ポルト・アレグレ空港管制塔、未確認機に告げます。当空港に着陸するには事前に許可が必要です。そちらのフライト情報を連絡願います。」
「・・・・・」
「未確認機、応答願います。至急、応答してください!」
「・・・・・」
管制官は何度も呼びかけを行ったが、まったく応答はない。やがて、その未確認機は、勝手に滑走路へのアプローチを開始し、ついには滑走路に着陸してしまった。これは一体、どういうことなのだろうか? 管制官や空港関係者はただただ困惑するばかりであった。
その後、気を取り直した空港関係者はすぐさま、この旅客機の乗員の救助と調査を開始した。
そして調査隊の隊員たちが、薄暗く埃っぽい機内に慎重に進入すると、そこには衝撃的な光景が広がっていたのだ・・・。
なんと、機内の乗客は全て死亡していたのだ。乗員乗客92名全員が、既に完全に白骨化した遺体となっていたのである。驚くべきことに、操縦席のパイロットまでもが骨だけの骸骨と化しており、生きている乗員は一人として発見されなかった。では、この機は一体どうやって着陸したのだろうか・・・疑問は絶えなかった。
早速、調査隊がフライト・レコーダーを調べてみると、更に驚くべき事実が判明する。
この旅客機は、35年前の1954年9月4日の早朝、ポルト・アレグレ空港へ向けて旧西ドイツのアーヘン国際空港を飛び立ったサンチアゴ航空の513便(機体はロッキード コンステレーション)だったのである。そしてその後、航路の途中、大西洋上のいずれかで忽然と消失した失踪機だったのだ。
過去の失踪機が突然現れて遺体ばかりを載せた状態で到着したので、当時のブラジルでは大きな騒動となり、政府の命令で様々な調査が行われたが、この機が35年もの間、どの様に飛行してきたのか、全く判らすに終わる・・・。
当初、ブラジルの航空当局は、なんらかの事故が原因だとして決着をつけたがっていたが、どの様にして513便が35年の時を経て目的地のポルト・アレグレ空港に現れたかの合理的な理由は解からずじまいであった。
しかしながら、国家機関が超常現象を正式に認める訳にもいかず、結局は、調査は原因不明として有耶無耶に終わることになる。
超常現象研究家のセルスー・アテロ博士によれば、サンチアゴ航空513便は、「ほぼ確実にタイムワープして次元の狭間を通り、35年後に再び現れたのであろう。他に説明できない」と述べた。
世界中で、この様な忽然と消息を絶ってから、ある程度の時間を経て突然現れる「逆バミューダ・トライアングル現象」ともいうべき超常現象が数多く報告されている。
サンチアゴ航空513便の場合は、その空白期間が35年という長い時間だった為、乗客たちは全員死亡することになってしまったのだろう。
この怪事件については、米国のタブロイド紙『ウィークリー・ワールド・ニュース』が、1989年11月14日号で15ページをさいて、「逆バミューダ・トライアングル現象」の一例として掲載して有名になった。また上記の事件のあらましも、『ウィークリー・ワールド・ニュース』紙がソースである。
事件の検証
『ウィークリー・ワールド・ニュース』紙によれば、サンチアゴ航空(Santiago Airlines)は1956年に廃業したとされているが、サンチアゴ航空は国際民間航空機関(ICAO)の資料には存在しない会社だ。
当然、ドイツのアーヘン空港からブラジルのポルト・アレグレ空港への路線も無く、サンチアゴ航空の513便も実在しないのだ。
また、米国のNPO法人Flight Safety FoundationによるAviation Safety Networkの航空事故一覧には、サンチアゴ航空513便が出発した1954年9月4日、及び到着した1989年10月12日に該当する航空機事故の記録は存在していない。
更に、これだけの怪事件が発生したのであれば、当然、大々的に報道されているはずだが、ブラジルでのこの事件を報じているマスコミは、地元新聞の『Zero Hora』を含めて、米国の『ウィークリー・ワールド・ニュース』紙以外は見当たらないのだ。
技術的な見地からも、自動操縦装置(オートパイロット)の実用化は1964年以降のことであり、1954年当時の(百歩譲って実在するとしても)サンチアゴ航空513便に搭載されていることはあり得ない。
事件の真相
上記検証の如く、サンチアゴ航空513便の存在自体が疑問であり、当然ながら事件も無かったものであろう。
つまり、タブロイド紙『ウィークリー・ワールド・ニュース』が、面白ネタとして創作したオリジナルのフィクション物語であると考えられるのだ。
また本来、『ウィークリー・ワールド・ニュース』紙のメイン記事はジョーク・ネタであったりパロディ物であることから、欧米ではその内容の真偽を真剣に問う様なことはないのだ。
という事で、この「サンチアゴ航空513便事件」も、全くのニセ超常現象でした。しかし、都市伝説の愛好家としては、タイムワープものは定番怪事件として絶対に外す訳にはいかない超常現象ですので、また類似のお話があれば是非ご紹介したいと思います・・・。
-終-
【参考】 ロッキード コンステレーション (Lockheed Constellation) は、アメリカの大手航空機メーカー、ロッキード社が開発・製造を担当した、与圧構造を持った大型4発プロペラ旅客機である。『コニー (Connie) 』のニックネームを与えられた高速旅客機で、レシプロエンジン機の歴史において有終の美を飾る著名な旅客機であった。
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