軽羹は、山芋をすり下ろし、粗目の軽羹粉(うるち米粉)を合わせて練り混ぜ、白砂糖(白いザラメ)を適宜加えて、これを蒸籠で蒸したものです。また軽羹粉はうるち米の粉ですが、特に軽羹用に鹿児島県を中心として製粉されているもので、一般向けに市販もされています。
また軽羹は、見た目通り、まさしく白い軽石のようでフワフワと柔らかい食感や程よい湿りと淡白な甘味、そこに合わさったコクのある山芋の風味が好いお菓子です。
軽羹の材料である自然薯(じねんじょ)という天然の山芋は、山野に生育するヤマノイモ科ヤマノイモ属の植物で、7月~8月に小さな花をつけます。たんぱく質・ビタミン・ミネラルはもちろん消化酵素のアミラーゼも豊富で、特にアルギニン等の強壮作用のある酵素が多分に含まれていることで、スタミナ増進の作用があるともされています。
この自然薯は、冬の寒い時期に掘り起こしたものが一番美味しいとされますが、その収穫時期の自然薯を掘り起こして手に入れるのは容易ではありません。冬季は、自然薯の蔓はもとより周りの木々も枯れてしまうため、探して見分けるのが困難な上、地中に深く根を張った自然薯の掘り起こし作業は困難を極めます。尚、自然薯は「きんつっ」という専用の長い道具を使用して掘り起こします。
現在では冷凍保存の技術が確立された為に年中を通して手に入りますが、昔は季節感のある食材でした。そこで軽羹も、自然薯の収穫時期に影響される季節の菓子だったのです。
さて前述の通り、白砂糖は江戸時代までは重要な産物で極めて貴重な品物でした。その為、白砂糖を材料に使った軽羹も一般の家庭には明治期以降になってやっと普及しはじめ、冠婚葬祭や何らかの行事の時の進物として贈られる習慣が広まっていきます。
そして元来、軽羹は長方形・棹状に造って小口切りにして食する羊羹のような、棹物菓子の一つです。そして、これに小豆餡を仕込んで丸い型で蒸し上げると軽羹饅頭(かるかんまんじゅう)になりますが、近年では、この饅頭タイプの方がポピュラーとなりました。
饅頭であれば、わざわざ切らずに手軽に食べることができます。この饅頭の形になったことが、軽羹が広く普及し日常的な菓子へと姿を変えていくきっかけになったと考えられているのです。
現在では、鹿児島県内の多数の菓子店で作られています。また、宮崎県でも鹿児島県産の軽羹が広く販売されるだけではなく、製造もされています。更に大分県別府市の菓子店でも、1952年以来、軽羹が製造・販売されており、別府を代表する銘菓となっています。福岡県などにも軽羹を製造・販売しているメーカーがあり、最近は関東や関西でも生菓子の一種類として広まっています。
鹿児島県内では、多数の菓子店が軽羹や軽羹饅頭を製造・販売していますが、なかでも元祖の「明石屋」と、『かすたどん』で有名な「薩摩蒸気屋」が人気を二分していると聞きました。
微妙な差ですが、私は軽羹であれば明石家、饅頭ならば蒸気屋を選びますし、贈答用ならば明石家、自家用ならば蒸気屋という選択なのかも知れません。
軽羹を食べたイメージとしては、明石屋の方は総じて上品で、密度が高く肌理が細かい感じです。蒸気屋のものは、僅かの差ですがホンワカとしており、柔らかい食感です。
饅頭タイプを食べ比べてみると、その違いは餡子の甘みの差に思えます。明石屋のものは甘さ控えめですが、蒸気屋の方は餡自体が多くかなり甘く感じました。
たしかに「明石家」や「蒸気屋」のものならば間違いないでしょうが、実は私は「青柳製菓」とか「とらや」のものも好きです。
友人には「風月堂」の軽羹饅頭をイチオシという人もいますから、いろいろと食べ比べてみると楽しいでしょう。
軽羹は、米粉と山芋のコラボによる豊かな風味が印象的な伝統菓子です。鹿児島を代表するお土産として、また贈答用の菓子として、最高の逸品です。
個人的には、甘い餡入りの饅頭が好きで、毎日のお八つには最適の和菓子のひとつと思っています!!
-終-
【ニュース】
「かるかん」製造ピンチ…原料の自然薯不作で(2016年11月30日 読売ONLINEより)・・・はこちらから
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