形態と保存
棹物は蒸羊羮や煉羊羹に多く、棹状の一本型で大きなサイズを切り分けて食べるものが普通です。元来、高級な菓子であった羊羹は、細かく切り分けて食べる為にこうした棹物がほとんどでした。普及品の場合は、紙箱に竹皮を模した紙やアルミシート等で包まれた棹物が入っているタイプが多いのですが、高級品の場合は桐箱などに入っているものもあり、贈答用にも最適です。
しかし近年では、安価な菓子として小分けに包装された製品も多く出回っており、袋からそのまま食べることができる一口サイズのものまで、そのバリエーションは豊富です。
特殊なタイプとしては、ゴム風船の中に羊羹を詰めた玉羊羹があります。これは戦前、戦場の兵士に送る慰問袋用の菓子として、1937年に福島県二本松市の和菓子店“玉嶋屋”が陸軍からの命令により開発したものとされていますが、戦後も各菓子メーカーが模倣して製造販売を続けています。
※日持ちのよい煉羊羹は、戦時中の日本では軍隊の携行食としても普及していました。
また水羊羹は、本来、一枚ものとして大判サイズから始まりましたが、近年に入ってからは丸や四角のパッケージに個別に包装されているものも多く、複数のアイテムが化粧箱に収納されているギフト用のセットもの等が多く出回っていて、贈答や進物にもおススメです。
尚、大多数の羊羹は開封前であれば常温保存でOKですが、直射日光や高温多湿を避けた冷暗所で保存した方が良いでしょう。開封後は冷蔵庫で保管、餡は傷み易いのでなるべく早く食する様にしましょう。またラップで包み真空パックして冷凍保存すると2週間程度はもつ様ですが、事前に小分けに切っておくと後で食べ易く、更に解凍の方法は自然解凍が適しています。
また煉羊羹は、その製造工程(高温で炊き、時間をかけて煉り上げることで雑菌が死滅)の特徴と砂糖の含有量の多さ故に、腐り難い食品とされています。製品毎に差はありますがプレーンの煉羊羹の賞味期限は1年ほどであり、栗羊羹などのプレーンではないタイプの賞味期限は3週間から1か月ほどとされますが、練り込まれているものにより、大きくその賞味期限は変わってしまうとされます。
さてこの様に、長期間保存可能な煉羊羹や缶型パッケージの水羊羹は日持ちするので、まとめて購入しておくと非常時の食料(非常食)としても活用できます。
※煉羊羹には棹状に固められた一本物が多く、真空パックで包装されているタイプならば1年以上にわたり常温で保管することが可能です。また糖度や栄養価も高いことから、最長で5年間近く保存が可能な非常食用の食品として販売されている煉羊羹もあります。
皆さん、今回の《和菓子探訪》は如何でしたか。羊羹の成り立ちとその歴史をご理解頂けましたでしょうか‥‥。
ところで私などは、毎回、《和菓子探訪》を執筆している最中にその回で扱っているお菓子が無性に食べたくなっては、記事の投稿ページを開いたまま通販サイトへ移動しては、美味しそうなお取り寄せ品を探してカートにポンしています!! そして数日後にはカロリー過多な食生活が更に助長されるのでした(笑)。
さて次回の《和菓子探訪》では、おススメの羊羹をセレクトしてご紹介致しますので、ご期待ください!!
-終-
【参考-1】
中国でも天津土産として栗羊羹が有名。小豆に天津甘栗を混ぜた「羊羹 ヤンカン yánggēng」です。その他としては、中国独特のサンザシ・桃・リンゴなどを加えたフルーツ風味のものも多数製造されています。
【参考-2】
中国では、日本の“おくんち”に当たる9月9日に「重陽糕(ちょうようこう)」という餡入りの練り餅を食べるそうです。これは春節(旧正月)に食べることが多い「年糕(ニェンガオ)」などと同様の餅米食品の一種で、どちらかと言えば日本の外郎と似ていると聞きました。尚、節句期間中に各々決められた餅米食品を食べるのは、中国江南地域に共通している習俗の様です。
※9月9日の重陽の日を、“お九日(おくにち or おくんち)”と呼んで秋祭をする風習のことですが、九州地方では単に祭の意味にも使われています。
※中国の年糕は、日本でいうところの餅に相当する食品で、縁起の良い食べ物(「糖年糕」とも、御目出度い動物や品々などの色・形を模しているものもあります)です。一部の地方(中国南部)ではこの餅を春節に食べるそうですが、香港在住の知人から聞いたところでは、菓子店やケーキ屋さんでも販売されていますが、やはりそのまま食べるには硬く、一口サイズに薄く切って蒸して或いは炒めて食べるそうです。本場の食べ方は色々でしょうが、火が入ると柔らかくなり、溶き卵などを絡めて焼いて食したら大変な美味だったとの事でした。
【参考-3】
現代の中国では、直接的な(菓子ではない)羊羹に当てはまる料理を見つけることは出来ない様ですが、北京料理に「羊肉(ヤンロウ)」と呼ばれるものがあり、これがかつては羊肉と野菜などを入れたごった煮のスープだったとされ、現在では日本の「しゃぶしゃぶ」の様にして食べる鍋料理だそうです。
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