【ライバル対決】の2回目は、これまた第二次世界大戦・欧州戦線における代表的なライバル、独軍キューベルワーゲンと米軍(連合軍)のジープに関して取り上げてみたい。
どちらの車両も、ありとあらゆる任務において各種部隊で大活躍した軽車両であり、彼(か)の大戦における代表的な軍用車両となったばかりか、特にジープは戦後における4輪駆動車(4WD)の原型的な存在として長年にわたりヘビーデューティ&オフロード・カーの世界に君臨した有名なクルマである。
キューベルワーゲン(Kübelwagen もしくは Kübelsitzwagen)とは、第二次世界大戦中にドイツで生産された小型軍用車輌である。正式名称は極めて長く“不整地走行形軽乗用自動車 K1(4輪、2輪駆動)フォルクスワーゲン タイプ-82(Leichter geländegängiger Personenkraftwagen K1 (4×2) Volkswagen Typ-82”(以下、キューベルワーゲン もしくは“Typ-82”)となる。
※独語では“wagen”は「ヴァーゲン」と読まれるが、本稿では我国における慣例に従い「ワーゲン」と表記する。
その基本的な構造は、既に生産計画が進行していたフェルディナント・ポルシェ博士らが設計した高性能小型大衆車(KdF)“フォルクスワーゲン タイプ-1(Volkswagen Typ-1)”(以下、“Typ-1”)をほぼ踏襲したものであったが、軽量でコンパクト・低重心な“タイプ-1”の特性を活かしながらも、不整地走行性能の向上を求めて可能な限り最低地上高を上げる様に再設計されたと云う。
※ヒトラーは、高性能な小型大衆車である『国民車』を、“KdF-Wagen”と命名した。この“KdF(カー・デー・エフ)”とは「喜びを通じて力を(Kraft durch Freude)」という“ドイツ労働戦線(DAF)”のスローガンの頭文字を取ったものである。
※“フォルクスワーゲン タイプ-1(“Volkswagen Type 1”、独語では“Typ-1:テュープ アインス”)”は、ドイツの自動車メーカーであるフォルクスワーゲンによって製造された小型自動車のこと。フェルディナント・ポルシェ博士によって設計され1938年に量産型のプロトタイプが完成したが、第二次世界大戦中はそのコンポーネンツは軍用車輌の生産に利用された。戦後、高性能小型大衆車として本格生産を開始し、四輪乗用車の歴史における単一モデルの最多量産記録(2,152万9,464台)を打ち立てた。「ビートル(Beetle)」 や「カブトムシ」の通称でも知られる。
小型軍用車輌の大量配備を計画していた独陸軍兵器局が、1938年1月にポルシェ設計事務所に対して提示した(国防軍仕様の)設計要件は、次ぎの通りであった。1. オープントップであること、2. 総重量950 kgで、その内の車輌自重が550 kg、積載量(乗員3名と貨物の合計)が400 kgであること、3. 生産性が高く大量生産が可能であること、4. 軍用車輌だが、民間用にも簡単に転用できること、等とされた。
この要件に沿った最初の試作車は、1938年11月の終わり頃に完成したとされる。この角形車体の試作品は“Typ-62”と名付けられた。試作された数十輌で試運転が繰り返され、路面への追従性改善やエンジントルクの増大などの改良が加えられた。
この“Typ-62”の評価試験の結果、更に改良が施された型式“Typ-82”が制式採用とされた。その主要諸元は、乗員4名、トーションバースプリングによる4輪独立懸架、軽量モノコックボディの幌付きオープントップ形式で出力23.5馬力の空冷式4気筒・排気量 985ccのリヤーエンジン搭載、前進4段後退1段で最高速度は約80km/hであった。そして量産活動は1940年から KdFワーゲン市(「歓喜力行団車市」の意。現在のヴォルフスブルク市)のフォルクスワーゲン製造会社で開始され、当初10万台の製造目標が指示されたと伝わる。
制式採用となった量産型の“Typ-82”は、“Typ-1”のシャーシはそのままにして車軸の取り付け位置を極力高くしたことで最低地上高が嵩上げされ、リア・アクスル(後輪の車軸全般のこと)のハブ内に減速ギア(ハブリダクションギア)を装着して駆動力を高めると共に、このクルマは全輪(4輪)駆動でこそ無かったが、後輪駆動の形式に加え車体後部にエンジンが配置(RR車)された事で駆動輪に大きな荷重が掛かり、更に本来が軽量である事とその最低地上高の高さや優れたサスペンションにより不整地走行性能も比較的良好であった。
リア・エンジン・後輪駆動のキューベルワーゲンでは、駆動輪への動力伝達の為のプロペラシャフトなどが無く(シフトリンケージ程度)、車体底部のアンダーフロアは極めて平板(フラット)であり、シンプルな様相である。フロントサスペンションは“Typ-1”に同じくツインチューブによるトーションビームを採用、ステアリングロッドなどはアンダーパネルの内側、トーションビームの後方に配置されていた。
※ハブリダクション (Hub reduction)とは、自動車のドライブトレインに用いられる減速方式の一つである。通常のレイアウトに比べ、ホイールハブ中心の上方に車軸(アクスルチューブ)とデフケースを配置することが可能で、より高い最低地上高を獲得することを可能にする技術。
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