中医学に学ぶ、の第2回。今回は「食養生」について簡単に解説する。
バランスの取れた栄養豊富な食材を、四季おりおりに合わせて、過不足なく食することで命を養うのが「食養生」。
私たちに、食材という自然の恵みを大切にしながら、日々、健康に過ごすための食事法を教えてくれるものだ。
中医学における食養生(しょくようじょう)とは?
中医学では、ある意味で病気の治療以上に予防が重要とされている。生活習慣に乱れが続くと、身体の免疫力や自然治癒力が落ちてきて、「未病」の状態に陥りやすい。未病とならないためには日常の正しい生活による予防が必要であり、このことを「養生」という。 ちなみに、未病とは特に目立った症状が無くとも、人が「元気がない、活力がない」と感じる状態は、もう病気の初期段階に入っていると考えることだ。中医学では、何らかの原因・理由があってこそ、人はそういった状態になるのであり、まだ病気ではないがいずれ病気に移行するかもしれないこの未病を的確にとらえて、積極的に予防に当たろうとする。
さて、養生の中でも、最も身近なものの一つは「食事」に関することだ。毎日の食事に含まれる食材には、人の体を構成する基本的な物質「気、血、水」の循環を補い強化する働きがある。この3つが過不足なくバランスよく保たれることで、健康な身体に必要な生体機能が維持されると考えられている。そこで、規則正しい適切な食生活を摂るように心掛けて養生することが大変重要だ。そしてこの様な、食事に関する養生を「食養生」という。
食養生の基本となる考え方とは?
◆医食同源(いしょくどうげん)
「日常の食事こそが最良の薬」ということを日本では「医食同源」という。これは比較的近年に日本で新に造語されたもの。中国では「薬食同源」といい、薬と食物とは一体のものという意味である。古代からの長い伝統で、食べやすく日常的に食事に供するものを普通の食物とし、大きく身体に変化をきたすものは薬物として利用してきた、との考えから確立された。つまり、普通の食物と病気を治す薬とは、本来根源を同じくするものであり、日々の食事を摂ることも病気を治療するのも、どちらも同じく命を養い健康を保つために欠かすことができない行為だということである。
日々、身体にとって良い食材を選んで正しく調理し、バランスよく食していけば、特に薬など必要とせずとも健康を保てると考える医食同源の思想では、食物には、身体の不調をただす薬効があると考えられている。この薬効を利用して、「元気がない、活力がない」「なんだか疲れがとれない」といった未病の状態を改善し、本来の病気を予防することができるのだ。
◆身土不二(しんどふに/しんどふじ)
本来は仏教用語で、「身」(今までの行為の結果=正報)と、「土」(身がよりどころにしている環境=依報)は切り離せない、という意味だが、食養生における身土不二は、仏典の教えとは少々意味が異なるが、自身が生まれ育った地元の食物が身体には良い、という考え方だ。
人は先祖代々暮らしてきた土地とはきっても切れない関係にあり、生まれ育った土地でとれる食物を食べる事が健康を保つためには最も良いということである。また、人が新たな環境になじむには、その土地柄や気候風土、その時の季節などに合った食材を選び、食することが大切ということになる。
解りやすく説明すると、例えば、熱帯の果物や夏の野菜には、人が暑さに順応しやすいように体を冷やす作用があり、反対に、寒冷な地域で育つ作物には、体を温める作用がある。人間は一定の体温維持のために、熱帯地域の住人と寒冷地域の居住者とでは、発熱量や発汗量が異なり、寒冷地域の人が暑い地域でとれた特産品ばかりを食べていると、体を冷やしてしまう。また、寒冷地でなくとも、寒い冬などに熱帯産の果物(バナナやパイナップル)を多く食べたり、夏野菜のトマトやキュウリをたくさん食べたりすると、身体が冷えて体調を崩してしまう。
つまり、身体と環境とは密接な関係にあるので、食物も生活する環境に合致した適切な選択をしなければ、身体は環境に適応することができないのだ。
また、この身土不二の考えによれば、食材・食物と限らずその土地のものは、そこに住む人を助け補う力を持っている、ともいえよう。
◆一物全食(いちぶつぜんしょく)
一物全食とは、食材をまるごと全部食べることで、摂取の総量を減らしながら栄養のバランスも向上し、未病の予防や健康増進が可能になってくる、という考え方だ。
生物が生きていけるのはその全体が保てればこそであり、全体の中に生命を司る色々な要素がバランス良く配置されている。食物についても同じことが言えるはずで、そこで、その全体バランスのまま全てを摂取することが、人体内の栄養バランスを保つには望ましい。
例えば、普段は捨てているような野菜の皮や根、魚の内臓などにも栄養素がたくさん含まれている。穀物の皮や胚、野菜の皮には、それ以外のところには少ないビタミンやミネラルが多く含まれている。また皮や芯などの部分は、かつては栄養は少なく消化され難いとされていたが、最近では食物繊維が豊富なため、整腸に役立つことがわかってきた。他にも、きっといろいろな食物には、近代栄養学でも解明されていない、人体に役に立つ働きをしてくれて部位があるに違いない。
だから、食養生では人が食物を食する際には、その一部を部分的に食用にするのではなく、できるだけ全てを丸ごと食べるのが健康には良いとして、近代栄養学では不要として破棄していた部分も、可能な限り食用として利用するのだ。
体内で総合的に働くことを考えると、食物を、まとまりのあるそれひとつを丸ごと摂取することで、一度にバランス良く色々な栄養素が完結して摂取でき、そこには何か特別の働きが期待できるといえよう。
◆天人合一(てんじんごういつ)
天人合一とは、天と人は対立・対向するものではなく、本来それは一体のものであるとする中国の思想。そして、その一体性の実現を目ざす修養、または一体となった境地を「天人合一」と呼んでいる。
また、自然界を大宇宙とし人を小宇宙として、自然界の出来事も人の生理・生体・疾病の発生なども同じ法則で成り立っているとし、人は自然界に存在する他の動植物と同様に自然界の構成要因の一つであり、自然の大きな循環の中で生かされている、との考え方だ。
中医学では、人は、天すなわち自然界の理(法則)に従って生きるのが健康維持に欠かせないとし、人の気の流れも自然の気の流れと同じで、バランスを欠いてはいけないとする。更に、自然界の変化(例えば、四季の変化など)は、気・血・水などにも影響を与えるとされている。
食物には必ず五つの味があり、また同じく五つの性質がある。次回はこの五味・五性について解説する。
-終-
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