今日の思い出の1枚 C62ニセコの独り言 〈17/38TFU03〉

1995年10月
SLニセコ号は、小樽駅を発車し、猛烈な勢いで山を魅えて、ニセコ駅に到着しました。完全に止まるやいなや客車に乗っていた乗客は一斉にC62関車の周りに群がります。

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ニセコ駅で方向転換を終えたC623

やがてC62はこの機関車の為に作られたターンテーブルに乗りゆっくりと方向を替え、ホームの側線をゆっくりと走りました。まるで一挙手一投足たりとも見逃すまいと待ち受けるように、何か小さな動きが有るとそれに敏感に反応して群衆から次々とシヤッター音がします。

そして下りホームにゆっくりとバック運転で入ってきたC62は連結を終えるとしばらく、その姿のままでホームに佇んでいました。

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さまざまなメカニカルノイズが聞こえる。生きた蒸気の証しのようでした。

思ったより、長時間にわたってC62の姿が見られたため、次第にカメラを向ける人も少なくなり機関車がまるで独り言を言っているようにメカニカルな音がホームに流れていました。「ドン、ドン」これは機関車のボイラ内部に、水を送る給水ポンプの音。ポンプの周囲からはポタポタとしずくが流れ落ちて線路の周囲の砂利の隙間に浸み込んで行きます。機関車に近づくとぴかぴかに磨かれたボディに、なんと周囲の風景が映り込んでいました。

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C62の大きな輝くボディには、周囲の風景が映り込んでいました。

機関車は黒いもの、煤けたものというイメージしかなかった私は、驚きの目をもって鏡面のように輝くボディに近づきました。ボイラから発する熱は、11月だというのに真夏のアスファルト路面のようにむせかえるような熱さでした。全身に蒸気を送り込まれた生きている証です。

私は、少し離れて再び機関車を眺めることにしました。車体のあちこちから他にも様々な音がすることも興味深い出来事でした。「ピーン」という規則的な音は、ATS発電機で蒸気の力で羽を回している音。ガチヤン、ガチヤンと規則的な音は、複式コンプレッサーでピストンが上下している音。
腹の底に響くようなような「ドン、ドン」というような音はボイラに水を送る給水ポンプの音。

「カチヤ、カチヤ、カチヤ』というなにか歯車がかみ合うような音が、車体の下の方からも聞こえます。他にもロッドや動輪から立ち上る油のにおい。石炭の匂い。機関室にいる機関士も安心しきったような表情で機器の周囲についた砲金製のバルブハンドルを、時折拭いたりしていました。

職員の方々もキヤブを覗き込むお客さんの賢問にも気さくに答え、子供を抱いて記念撮影にやわらかい表情で対応していました.

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発車時刻が近づくと、C62の顔も徐々に引き締まっていくように感じました

C62はゆったりと身を休めながらそんな人々の姿を見守っているようでした。
この秋の日のニセコ駅は、薄量りの空の下、遠くの紅葉の山から吹いてくる冷たい風を感じながら、C62とのんびりと昼下がりの時間が流れていました。

奇跡の復活運転を行っていたC62 3はこの翌月には再び、火を落としてしまい、今は札幌で長い眠りについています。またこの日のような光景に出会える日は、来るのでしょうか。

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