スーパーあずさE351系乗車記 〈17/38TFU03〉

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新宿駅で発車を待つE351系「スーパーあずさ」

スーパーあずさE351系。今年、ついに新型車両も登場し、いよいよ置き換えも始まります。登場から22年。カウントダウンが始まるその走りをお届けします。

 

2015年12月9日、新宿駅14時00分発の「スーパーあずさ19号」松本行きは定刻どおりに発車しました。停車駅は八王子、甲府、茅野、上諏訪のみ。終点まで2時間26分の旅です。車内は一車両に10名程度で、空席が目立ちます。
平日の午後、観光シーズンでもない時期のためでしょうか。乗客も一人客のサラリーマンばかり。いたって静かな車内です。発車してすぐのアナウンスは、女性車掌の明るい声。電子的なアナウンスの前に、温かみのある案内放送でした。電車は中野を過ぎたあたりから急に減速しました。そこで車内を探検。

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車内はかなり老朽化が進んでいます。天井も黄ばみ、シートもよく見ればシミもあります。私の座ったシートも着座面がかなりくたびれており、クッションの反発が感じられません。
azusaete-buluデッキに出てみると、壁には無数の傷。かつてカード式電話が設置されていた場所も、ぽっかりと空いた無駄な空間でわびしく見えました。洗面所に行ってみると、水石鹸の出が悪く、何度もプッシュしてやっと出てくる状態。床には補修テープが貼られていました。引退の時期が近付いているとはいえ、もう少しなんとかならないものかなと感じました。シートに戻って周囲を見ると、蛍光灯にスリットのカバーをかけただけの、今では冷たい感じのする天井灯。電源ジャックのないシート。灰皿をふさいだ跡。携帯電話を置いたら、いっぱいになってしまう小さな小さなテーブルなど。今の時代では、不便を感じざるをえない、内装の数々でした。
高尾を過ぎたあたりから、右手に中央高速の姿がぐんと近づきます。圏央道とのジャンクションが空に渦を描くように見えると、トンネルの連続に続きます。

azusainntaカーブが連続してやってきて、振り子電車の本領を発揮。スピードを落とすことなく、車体ギリギリのトンネルに突入、明るくなったかと思うと再びトンネル。そんな光景になります。しかし、それに伴って車体の揺れが増加。車内販売は男性でしたが、大いに歩きづらそうです。トイレに立った前のシートの初老の男性も大きくよろめきながら歩いています。
azusasiroato大月が近付くと、車窓右手に岩殿山が大きく迫ります。城跡の看板も目に入ります。その大月では富士急行の元京王5000系の2両の赤い電車が一瞬、窓をよぎります。大月を過ぎ、笹子トンネル(4,656メートル)を抜けると、車窓左手前方に南アルプスが見え始めます。ブドウの収穫を終え、棚だけになった畑をぬけて甲府盆地へ。甲府盆地にさしかかると、車窓左手には富士山が頭の方を見せます。

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東海道新幹線から見る富士山は全体の姿を見ることが出来ますが、ここでは山並みの間に富士山が垣間見えるようなイメージです。しかし、南アルプスの存在も薄くなるくらいその美しさは別格です。
甲府城の櫓の白壁、石垣が見えてくると甲府。乗客の半数が下車してしまいます。発車してすぐの側線には、ハイブリッドDLが見えました。韮崎のあたりにくると、富士山は南アルプスの山々が左手の車窓に広がります。観音岳の両脇に地蔵岳、薬師岳。

komagatakleこの鳳凰三山と、岩山の甲斐駒ケ岳が迫力をもって望めます。スーパーあずさは再びカーブの連続する区間を快調に飛ばします。鳳凰と駒ケ岳の背後に、北岳の頂が見えるころには、山の風景はクライマックスを迎えます。右手に八ヶ岳が大きくなってきます。

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そして、小淵沢をややスピードを落として通過。冬枯れの光景が見えてきて、カラマツの林を抜けて諏訪盆地へ。車窓右手には蓼科高原の山々が見えてきます。先程までの荒々しい山にくらべると、穏やかな表情。茅野、上諏訪と残り少ないビジネスマンが下車し、私の乗った車両は私を含めて3人になってしまいました。下諏訪のあたりで、なぜか停車。案内放送もありませんでした。

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その時間に、トイレに立ちました。トイレも洗面所も手洗い場付近に水が飛散していましたが、あれだけのカーブ区間を猛スピードで走り抜けた証でもあります。車端の列車シールは、盗まれてしまったのか、テプラになっていたのも、余計にわびしさを感じました。
周囲がすっかり薄暗くなりかけた頃、車窓右手前方には雪をかぶった白馬の山々が遠く見えてきます。左手に松本電車区の211系の電車群が見えてきました。そして、列車は5分遅れで終点松本に到着。冷たい風に迎えられて、16時31分、松本駅のホームに降り立ちました。
azusalogoE351系。流麗な外観とは違って、残念ながら古さを感じさせた車内、乗り心地の悪さでした。しかし、パープルのボディカラーは中央本線の風景にすっかり溶け込み、あの色が徐々に風景から消えていくのかと思うと寂しさを感じました。もしかしたら、これが最後の乗車記になってしまうかもしれない。そう思いながら、松本駅で走り終えた姿をしばらく眺めていました。お疲れ様、E351系。

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