リンカーンと幽霊
この事件は単なる暗殺事件としても有名であるが、「幽霊」との関連話でも世間には広く知れ渡っている。つまりホワイトハウスに出現する幽霊として、歴史上、最も著名な人物がリンカーンなのである。そして彼の幽霊は、ホワイトハウスの建物の中で、多くの合衆国の政府要人や有名人たちによって目撃されているのだ。
ベンジャミン・ハリソン大統領のボディガードをしていたジョン・ケニーという人物は、「リンカーン大統領が廊下を歩いて足音をさせたり、扉のドアをノックしたりする」と語り、リンカーンの幽霊には随分と悩まされていたようである。
またオランダのウィルヘルミナ女王がホワイトハウスに滞在中、部屋のドアをノックされたので開けてみると、外にリンカーンが立っており、驚きのあまり悲鳴を上げたという。
セオドア・ルーズベルト大統領もリンカーンを何度も見たと言い、「リンカーン大統領は深いシワの寄った顔で親しげに私の方を見ながら、ホワイトハウスの中を往来していた」と述べている。
1934年(フランクリン・ルーズベルト大統領の頃)、ホワイトハウス職員のメアリー・イーベンが2階の寝室に入ろうとドアを開けると、古そうなコートを着た男がベッドの横に座ってブーツを履いている場面に遭遇した。そして男はドアの音にびっくりしてメアリーの方を振り向いた。するとその顔は、まさしくリンカーンの肖像画そのものであったという。メアリーが悲鳴を上げるとその姿は瞬く間に薄くなって、やがて完全に消え去った。
リンカーンは、第二次世界大戦中もホワイトハウス内でたびたび目撃され、戦後にはドワイト・D・アイゼンハウワー将軍も、大統領在任中にリンカーン大統領の(幽霊の)存在を身近に感じたと述べている。
しかしどのリンカーンの幽霊も、ただ出現するだけの良いオバケで、どちらかというとアメリカ合衆国に国難が降りかかるような時に現れては、ホワイトハウスの住人たちを鼓舞するかのように振る舞っている。きっと合衆国の行く末が気に掛って仕方がないのだろう・・・。
エイブラハム・リンカーンとジョン・F・ケネディとの共通点
都市伝説界においては、エイブラハム・リンカーン大統領とジョン・F・ケネディ大統領との共通点も注目されている。この二人には色々と共通する事柄(後述)が多いのだ。
アメリカ合衆国では、「テカムセの呪い(Tecumseh’s curse)」とか「ケネディ家の呪い(Kennedy Curse)」などと関連して語られることの多い話題であり、都市伝説/オカルト系の映画やテレビ番組もしくは書籍等で題材として取り上げられる場合が多い 。
※「テカムセの呪い(Tecumseh’s curse)」とは、1811年にインディアナ準州の知事ウィリアム・ヘンリー・ハリソン(後に第9代アメリカ合衆国大統領となる)に敗れ、陸軍士官リチャード・メンター・ジョンソン(後の副大統領)に殺されたインディアンの部族ショーニー族の酋長テカムセによる呪いで、20年ごとに選ばれる合衆国大統領の死を呪ったものとされる。実際に、1840年から1960年までの間に20で割り切れる年に選出された合衆国の大統領はすべて在任中に死去しているという、恐ろしい話。
この類似点に関する話題が頻繁に取り上げられるようになった背景には、ケネディ大統領暗殺事件以降、事件に関する各種の憶測や様々な陰謀説の氾濫や、マルコムXやキング牧師、またジョンの弟ロバート・ケネディ司法長官の暗殺事件などが頻発した当時の社会不安があると考えられている。
これらの社会不安と歴代大統領の中でも人気の高い二人が結び付くことで、この合衆国の歴史に名高い都市伝説が醸成されていった。