読者の皆さん、「スーパーPAC」という言葉をご存知ですか? 知らない方も多いですよネ。私も最近まで何のことかあまり詳しくは知りませんでした。「PAC」を超えるスーパーなもののことなんでしょうけれど・・・。
それではPACって何の意味だ? ということで、いつもの通りホイホイと調べてみましたので、ずずい~と、ご報告まで!!
PACとスーパーPAC、そしてメガ・ドナー
さて「PAC」とは何でしょうか? それは政治活動委員会(political action committee、略称PAC)のことで、アメリカ合衆国(以下、合衆国)の選挙において活動する政治資金管理団体を指す言葉です。
合衆国では、企業や団体、組合などが政党や政治家に直接献金を行うことは禁止されているために、政治献金の受け皿となるPACを設立して、そこが資金を一旦受け入れて、支持する政治家の選挙運動への支援・援助などを行ってきました。まぁ、手っ取り早く言えば、迂回献金のシステムですけれどネ・・・。
元来、この国では選挙資金に関する規制は少なく、また個人献金制度が資金集めの主流であり、社会的に地位が高く富裕な人々の個人献金などで、そのほぼ100%が占められていました。
PACそれ自体は以前から存在していましたが、通常の個人献金に比べると極めて比重は低く重要度はありませんでした。また、企業や労働組合からの政治家への直接献金は禁じられていたのです。
しかし、2010年1月の市民連合(シチズンズ・ユナイテッド)対 連邦選挙委員会(Federal Election commission、略称FEC) 裁判における合衆国最高裁判所(以下、最高裁)の判決やその他の同様裁判の判例で、言論の自由を認める合衆国憲法/権利章典修正第1条の立場から、支持する候補者や政党と直接的な協力関係にない政治活動に関する場合の献金額には限度を設けてはならない、との判決が下されたのです。政治的な言論を規制することは出来ないとした最高裁は、自分たちが選挙の為の寄付金の額を制限するのは間違っているという考えなのでした・・・。
またこの判決の主旨に対抗する、公的な選挙資金を受ける権利を有する候補者にはそれに見合う公的な財源を供給するというアリゾナ州の法律を、最高裁は2011年6月の裁判で否決しました。そしてその後の2012年6月には、最高裁は2010年の市民連合 対 連邦選挙委員会の裁判の再審議の申し立てを却下したのです。
従来のPACでは献金額について、1人もしくは1団体当たり年間5,000ドルまでという上限が定められていましたが、この2010年の最高裁判決で上限なく献金を集めることが可能となり、以後この様なPACは「スーパー(Super)PAC」(特別政治活動委員会)と呼ばれるようになりました。当然、スーパーPACは、従来のPACと同様に特定候補者の支持者たちが自発的に設立した外部の支援団体であり、建前としては政党や候補者からは独立して存在しています。
つまりスーパーPACは、応援する候補者の選挙運動に対してただそのまま資金を提供したり、その候補者と直接連携して行動することは許されませんが、候補者の選挙運動とはあくまで別途に、スーパーPAC自らの方針に沿った独自の活動として、集めた資金を例えばマスメディアを利用した広告宣伝に投入し、支持する候補者の援護射撃や支援となる活動を実施するのです。
そして、このようなスーパーPACに多額の献金を行う人々が、「メガ・ドナー」(Mega-Donor)と呼ばれる超大口個人献金者(例えば100万ドル以上の献金者)たちです。彼らは主に大企業のオーナーや経営者、そして大口の個人投資家などの富豪で、全米の長者番付の上位に名を連ねている人たちです。
もちろん、アメリカ合衆国の選挙においては、選挙資金を集める方法はいくつかあります。従来ながらの直接的な(上限ありの)大口個人献金を集める方法や自己資金を中心に選挙資金を拠出する方法、そして上記のスーパーPACとメガ・ドナーを活用する方法の他にも、現在ではインターネットやSNSを利用して小口の献金をキメ細かく集める手法など、様々な方法が併存しています。
しかし上記判決以降、選挙に出馬する政治家たちの多くがスーパーPACへの依存を深めていきました。スーパーPACは、自らが支持する候補者とは直接結びついてはならないという条件がありますが、選挙に出馬する政治家にとっては巨額の資金を短期間で集められる新たな方法となったのです。
2012年の大統領選挙以降、合衆国の選挙においては巨額の献金を集め、候補者から独立した形で選挙の宣伝広告を行うスーパーPACと、そのスーパーPACに数百万ドルを超える資金を提供しているメガ・ドナーが選挙戦のカギを握るようになってきました。
そしてスーパーPACは巨額の資金にものをいわせて、支持する政治家の対立候補への誹謗・中傷を実施するネガティブ・キャンペーンをテレビCM等を通して大規模に展開し、選挙結果に大きな影響を及ぼしていきます。
また現状のスーパーPACは、支持・推薦する候補者の宣伝活動や前述の様な対立候補へのネガティブ広告の投下だけではなく、本来、選挙陣営の重要な役割である有権者の組織化活動(有権者の登録支援や投票参加促進運動など)までをも行い、その存在の重要性と影響力は日増しに増しているようです。