【刑事ドラマ大全】の連載第二回目は、テレビ朝日の『警視庁 捜査一課長』から始めよう。内藤剛志さん演じる警視庁刑事部捜査一課長大岩純一(警視正)の活躍を描く刑事ドラマ。今までの不定期スペシャル(2時間)番組から、今春より連続ドラマとなってお目見えしたが・・・。
先ず最初にこの番組の一番おかしなところは、捜査一課長がガチガチの現場主義な点だ。前述の通り、警部の係長でさえ現場で具体的な捜査活動はしないぞ。しかしこの課長はどんどん犯人捜しを実施、自ら識鑑(後述)に出向くのだ。絶対あり得ない展開にびっくり。また部下の管理官等も、現場で証拠探しなどの捜査活動に従事する。
しかし金田明夫さん演じる警視庁捜査一課の小山田大介 庶務担当管理官の存在はGOOD。また斉藤由貴さんの「大福」こと平井真琴 現場資料班主任(警部補)の活躍も良い。尚、余談だが、金田明夫さんはこちらも長寿シリーズの『科捜研の女』最新シリーズでは、主人公・榊マリコと敵対する刑事部長役の藤倉甚一警視正を演じている。
※但し、諸般の事情(笑)から最新シリーズ(シーズン3)では斉藤由貴さん演じる「大福」こと平井警部補は、警察庁へ出向という形で姿を消している(代わりに、安達祐実さん演じる谷中萌奈佳警視が登場)。更にシーズン3では、台詞棒読みの刑事が増えただけではなく、以前から挙動が不審だった本田博太郎さん演じる笹川健志刑事部長(警視監)に加え、奇妙な発言をする登場人物、例えば丹羽竹代捜一2係長(菜葉菜さん)などが目立つ様になり残念である。また2018年7月15日放送のスペシャル回では、谷中警視不在の代打役に宮崎美子さん演じる巣鴨中央警察署の刑事課長・高井智代子(いつもチョコレートを持っている為に大岩から「チョコ」と綽名される)が登場、小山田管理官との名コンビ役を務めたが、即ち、女性ヒロイン?役の名はいずれも菓子類が由来である。
現実には、事件の一報を通信指令室からの同報電話で受ける捜査一課の部署は、庶務担当管理官(警視)が指揮を執る第1強行犯捜査担当の強行犯捜査2係所属の現場資料班であり、そしてこの現場資料班のもとへ各種の捜査の進捗状況や情報が集約されてくるのだ。そして同管理官の下に実際は捜一の庶務係である強行犯捜査1係や科学捜査係・ハイテク犯罪捜査班などもある。更に強行犯捜査2係には初動捜査班が組織されている。また庶務担当管理官は捜査一課の最古参の筆頭管理官で、多くの庶務担当管理官がその後に捜一課長に就任している。
警視庁の場合では、殺人などの事件性が高い現場に(捜一で)最初に赴くのはこの庶務担当管理官とされている。実際に現場資料班の主任(警部補)は庶務担当管理官に同行して、管理官の業務や判断を補佐するのだ。そこで事件性が高いとなると、課長や理事官に報告が為されて彼らの臨場となる。そしていよいよ捜査本部(帳場)の設置が捜一課長から刑事部長に要請され、捜査一課の刑事たちの出番となるのだ。
この辺の流れを『警視庁 捜査一課長』はうまく伝えているし、比較的、現実の状況に近いだろう。
尚、最新(2018年7月15日)の同作スペシャルを観てみると、相変わらず一課長本人を筆頭に、管理官や所轄署の刑事課長が単独や互いにペアを組んで聞き込みや遺留品の捜査に当たっているが、現実にはあり得ない事だが、もうこれは仕方がない、としか言いようがないなぁ‥‥。
でもストーリーの途中で、港区浜崎橋(テロップ表示あり)の事件関係者の仕事場(屋形船運行業者)を大岩課長が訪問する場面で、何故か両国橋のたもとの神田川が隅田川と合流する浅草橋付近の隅田川テラスを舞台としてロケが行われていたが、敢えて場所を違えたその理由が解らない。確かに浜崎橋にも浅草橋にも屋形船事業者の事務所と発着所が存在しており、ある意味どちらでも構わないのだが、だったら初めから浜崎橋ではなく浅草橋としておけば良いだけの話である。
これは筆者の推測だが、たぶんに絵面(含む背景)や出演者の都合・スケジュールなどの何らかのロケ撮影の制約などが反映しての結果、この様な形となったと思うのだが、東京の風景に詳しい者が観ると、その制作ご都合主義が気になるところであり、こういう点にも矛盾を作らないのが一流の刑事ドラマだと思う視聴者がいることを、改めて気に留めて丁寧な作品作りを行って欲しいものだ。クドイ様だが、他の作品でも結構こういった手抜き的な作りが見受けられる。当該作品では謎解きの部分にはまったく関係がない場面であったので問題はないのだが、刑事ドラマが犯人探しのミステリー作品である限りは、現実の場所と不一致、もしくは筋立てとの整合性がとれないロケーションでの番組進行は(架空な設定等を除き可能な限り)控えて欲しいものである。
ところで余談だが、あちらこちらで刑事(時には検察事務官)の職についている内藤さんだが、演技を離れても自分が刑事のような気分にはならないのかなぁ・・・(笑)。また、渡瀬恒彦さんも同様に多くの刑事役に挑戦されているが、因みに元刑事のタクシー運転手である主人公夜明日出夫(渡瀬恒彦さん)の推理を描く『タクシードライバーの推理日誌』に登場する神谷雅昭(主人公の同期で元部下)も、警部の階級で捜査一課の課長を務めている謎の人物だ。
尚、同じく警察本部の捜査課長を描いたものでは、TBSの『(第三の時効ほかの)横山秀夫サスペンス』シリーズが秀逸。本作の主人公は山梨県警本部の田畑捜査一課長(橋爪功さん)で、部下の刑事たちも各班長(係長)に渡辺謙さん、伊武雅刀さん、段田安則さん、三班の主任に石橋凌さんと 隆大介さん、刑事部長の寺田農さんなどの大物や渋い役者が揃う。但しこの物語でも、一部に係と班という名称が混同(係長は班長と呼ばれている)して使用されていて、極めて分かり難い。しかし田畑課長は番記者の夜討ち朝駆けには対処しても、大岩課長のように捜査の最前線には出かけない。
近作では、TBS系の『小さな巨人』が警視庁刑事部の捜査一課長が重要な役どころで登場しキーマンとなる番組であり、「日曜劇場」枠で2017年4月16日から6月18日まで放送された連続刑事ドラマ。長谷川博己さん演じる警視庁刑事部捜査一課の殺人犯捜査第1係長(階級は警部)の香坂真一郎が所轄に左遷された後、本庁と所轄の確執の中、最期には元上司で捜査一課長である小野田義信警視正(香川照之さん)との対決を通して警察幹部・同OBの不正を暴くというもの。また主な共演者には、岡田将生さん、安田顕さん、敵役・犯罪者側も豪華な役者揃いで、桂文枝さん、吉田羊さん、 梅沢富美男さん、 和田アキ子さん、高橋英樹さん等。
2013年に大ヒットしたドラマ『半沢直樹』を模したどんでん返しの連続を取り入れたスタイルの番組だが、(『半沢直樹』でも敵キャラを演じた)香川照之さんの演技がクドイ・大袈裟すぎるとの批評も…。但し、香川照之さんありきのドラマだったとの擁護派も多い。
さてちなみに、平成7年の組織改革以降、人員を強化された警視庁の捜査一課では、従来の「強行犯捜査係」の名称を「殺人犯捜査係」へと変更したと云う。少し前(平成20年頃)の状況で恐縮だが、捜一の殺人事件を扱う部署は、「ナンバー係」と呼ばれる殺人犯捜査1係から12係までと特別捜査1係、特殊犯捜査4係の合計14の係である。現実には特別捜査1係も特殊犯捜査4係も実質は他の殺人犯捜査係と同様の任務に就いているとされるが、本来、厳密には重要未解決事件の捜査や強行犯に関わる特命捜査などを分掌と規定されている。尚、他には強盗犯捜査や性犯捜査、火災犯捜査などの係が存在している。
ちなみに上記『小さな巨人』に関するTBSの公式HPでの解説において、香坂警部を警視庁捜査一課「強行班1係長」と記載していることは誤りで、本稿の通り「殺人犯捜査第1係長」とすべき。また殺人事件捜査の一線で活躍していたのならば、「強行犯捜査1係長」でもおかしい。既に述べた通り、そこは庶務担当の係である。