これも最近観たものだが、夫婦で刑事をしているという設定のTBS系列『刑事夫婦(でかふうふ)』シリーズだが、旦那は石黒賢さんが演じる所轄警察署の警部補で刑事(役職などは不明)。嫁さんは鈴木砂羽さんが演じる警視庁刑事部捜査一課の警部であるが、係長といった役職にはなく、ヒラの刑事として描かれている。その関係性は夫婦そろっての刑事であり、しかも奥さんの方が階級が上であることから生まれるホームコメディ的な状況を強調する為なのだが、随所でムリが生じていた。
警部の鈴木砂羽さんは現場でバンバン捜査を敢行。帳場でも幹部のひな壇には座らずに一般捜査員席にいるし、しまいには勝手に(いや命令されてだったかも)旦那と組んで捜査を開始。このドラマも、ごく普通に旦那が巡査部長で、嫁さんが警部補(主任)でいいと思うのだが・・・。
家族で捜査と云えば、テレビ朝日の『おかしな刑事』がある。このドラマで、伊東四朗さん演じる鴨志田新一警部補は警視庁東王子警察署刑事課の刑事。そして羽田美智子さん演じる岡崎真実は警察庁刑事局所属の警視だ。真実は鴨志田の前妻との間の娘であり、この二人は実の親子(父娘)で同居しているが、周囲にはそのことを隠している。
劇中では親子で組んで捜査に当たることが多いのだが、上記の『刑事夫婦(でかふうふ)』以上にデタラメな設定。まず警察官が親子であることを上司や同僚に隠して同居することがムリだし、それになんで警察庁刑事局所属の警視が現場で警察署の刑事と一緒になって犯罪捜査を行うのか?
サッチョウ(警察庁のこと)の刑事局は、警察法の定めにより警察庁の内部々局として全国の刑事警察を指導統括し、高度な政策的な職務を果たすのが役割である。当然乍ら、刑事局員は捜査執行などは行わない。警視庁の刑事部の管理官(警視)などでさえ、所轄の刑事とともに具体的な捜査活動を現場で実施することはないのだから、警察庁の警視が(たとえ親子でも)街中で聞き込みをするなど、もっての他である(笑)。
更にこのドラマでは、当初、岡崎真実の上司の刑事局長である上野忠明(矢島健一さん)の階級が警視正であったが、これも大きな誤りだ。この役は、途中から上杉祥三さん演じる田中孝典警視監に交代しているが、視聴者から何らかの指摘でもあったのだろうか・・・。警察庁の刑事局長は警察組織の中でも非常な要職であり、警視正クラスが務めることなど、絶対にないからだ。
しかしどうせシリーズ途中で修正を加えるのならば、せめて岡崎警視を警視庁の刑事部に異動させて欲しかったなぁ。勿論、それでもまだ変は変だけど。
ところで、警視庁刑事部の各課や各道府県の警察本部刑事部の捜査一課などに所属する刑事ばかりではなく、所轄の警察署の強行犯係等を舞台とした刑事ドラマも多い。そしてその何れもが何処かにほのぼのとしたファミリーな雰囲気を醸し出しているのは何故だろうか…。
代表的なものとしては、は、テレビ朝日系の2時間ドラマで2007年から放送されている刑事ドラマシリーズの『ショカツの女 新宿西署 刑事課強行犯係』などがあり、警視庁新宿西警察署・刑事課強行犯係の活躍を描くもの。水沢礼子(片平なぎささん)は刑事課強行犯三係水沢班の班長(係長格)で階級は警部補。彼女の上司には石丸謙二郎さん演じる畠山義信刑事課長、更に水沢班長の部下には南原清隆さん(ウッチャンナンチャン)演じる萩尾康弘巡査部長。但し近作では、主人公の家族の登場場面が大幅に減少し、ファミリー色は薄くなったとも。
『多摩南署たたき上げ刑事・近松丙吉』は、テレビ東京の2時間ドラマで2001年から放送されている刑事ドラマシリーズ。主演は『おかしな刑事』と同じく伊東四朗さんで、多摩南署刑事課主任の近松丙吉を演じている。角野卓造さん演じる村越実が近松の上司の多摩南署刑事課係長。まぁ、観るまでもなく伊東四朗さんのキャラ全開といったところか…。
前回で触れた船越英一郎さん主演の『所轄刑事』も、その名の通り警視庁御茶ノ水署(実在しない)の生活安全課が舞台で、斉木斉係長(船越英一郎さん)の相棒は梢田威演巡査長(的場浩司さん)である。
地方の所轄ものに、テレビ朝日系『越後純情刑事・早乙女真子』があった。比嘉愛未さん演じる新潟県警長岡中央警察署刑事課の巡査部長・早乙女真子が主人公。 チャーミングな比嘉さんの魅力だけで全編もたせた感が強いが、彼女の叔父が警察庁刑事局長の早乙女実(宇梶剛士さん)であり徐々にストーリーにも絡んでくるが、刑事ドラマではない推理サスペンス2時間ドラマに似た様なシチュエーションのものがあった様な‥‥「でも、当家の場合は兄ですが(浅見光彦 談)」。
所轄ものではないが、家族との交流場面が多く描かれているものに、テレビ東京の2時間ドラマ『刑事・吉永誠』シリーズがあり、これは黒川博行さんの原作で2004年から2016年まで放送された刑事ドラマ。タイトルは『熱血刑事・吉永誠一』(第1作) → 『刑事吉永誠一 涙の事件簿』(第2作 – season1) → 『新・刑事吉永誠一』(season2) → 『刑事 吉永誠一』(第13作) → 『刑事 吉永誠一 ファイナル』(第14作)と変遷している。
このシリーズで、『所轄刑事』と同じく船越英一郎さんが演じる吉永誠一は神奈川県警察刑事部捜査一課の刑事(原作は大阪府警が舞台)。階級はシリーズ途中で警部補から警部へと昇進。劇中では中山忍さんが演じる吉永の妻・照子や二人の子らとの共演シーンが微笑ましい。但しこの番組でも、連続殺人事件が発生しても帳場は立たず所轄の刑事部門は完全無視(登場さえしない)され、県警捜査一課の中の吉永率いる班員数名だけで捜査が進行していくのだった。尚、一部作品で小泉孝太郎さんが吉永誠一とコンビを組む鑑貴一刑事を演じている。
また、所轄のコンビものとしては、テレビ東京系で二人の女性刑事の活躍を描く『激突! アラフィフ熟女刑事の事件簿』があった。人情派刑事(所轄署の強行犯捜査係長)の桃山美以子(渡辺えりさん)とキャリア組の櫻井啓子(キムラ緑子さん)が図らずもコンビを組んで難事件を解決するものだが、櫻井の設定(キャリアの捜一管理官なのに階級は警部で、その後、本庁から所轄に左遷され刑事課長代理に就任する)も不自然であり、内容的にはいま一つ中途半端で配役を活かしたコミカルさを売りにするならばよりコメディ方向に作風を徹底した方が良かっただろう。尚、主役のひとり、渡辺えりさんも多くの警察ドラマに出演している女優さんだが、大抵はその体形に似合ったほのぼのとした人情派を演じている。
更にテレビ東京の2時間ドラマ『マザー・強行犯係の女~傍聞き~』でも、南果歩さんが主人公の所轄署・女性刑事羽角啓子(刑事課強行犯係に所属)を熱演。啓子の亡き夫も刑事だったが、逮捕した犯人に逆恨みをされて殺害された過去がある。また彼女の階級は不明だが「主任」と呼ばれていた…。原作は警察学校を舞台にした警察小説『教場』で有名な長岡弘樹さん。尚、主演の南果歩さんも最近は刑事役の多い女優さんで、既述の『スペシャリスト』の他にもテレビ朝日『再捜査刑事・片岡悠介』(主演は寺島進さん)でも捜一の警部補を演じているが、それにも増して寺島進さんもあちらこちらで刑事役(『富豪刑事』・『逃亡者 木島丈一郎』・『アンフェア』・『越境捜査』等々多数)に就いているのはご存知だろう・・・。
特に『マザー・強行犯係の女~傍聞き~』で感心したのは、犯行現場で主人公たち刑事が手袋・靴カバーに加えて、ちゃんとヘッドカバーにマスクをしていることだった。やっとお目にかかれた正しい姿だ。
ところで、同作では田中要次さん演じる所轄署の警務課長の階級が警視だった。舞台となる警察署(架空の杵坂警察署)が大規模署であり、主要警察署であれば警視の警務課長がいても不思議ではないが、但しその場合は署長が警視正、副署長は先任の警視といった形で整合性を整える必要があるだろう。(本作ではその辺は不明)
同じ放送枠(テレ東、水曜エンタ)の『ソタイ 組織犯罪対策課』シリーズは、六本木警察署組織犯罪対策課所属の強面刑事、二本松進警部補(遠藤憲一さん)の活躍を描く。現実には六本木署という警察署は存在しない架空の設定(麻布署が六本木地区を管轄)。ここでも平泉成さんが演じる所轄署の組織犯罪対策課の作田豊松課長の階級も警視。どうもこの放送枠では、所轄署でも課長は皆、警視のようだ。
他に遠藤憲一さんが出演している刑事ドラマには、テレビ東京系の『内田康夫サスペンス 多摩湖畔殺人事件』がある。東大和署の刑事課巡査部長・河内凪雄(遠藤憲一さん)と事件の被害者の娘・橋本千晶(緑友利恵さん)の交流と推理・活躍を描く。原作は内田康夫さんの推理小説だが、1987年には日本テレビ系で芦田伸介さんと伊藤つかささんでヴァージョン(『182566の死者』)が放送されており、更に1995年にフジテレビ系列では山崎努さんと中谷美紀さんの顔合わせで『多摩湖畔殺人事件』が放送された。
ちなみに刑事ドラマでは警察署名などが架空の場合が多いが、「○○中央署」とか、もしくは署名に東西南北等がつく時は、架空の名前の可能性が高い。もちろん本当に存在する場合もあるが・・・。
こうしてみると、多くの間違いの主な原因は、ドラマ制作者や脚本家が警察庁と警視庁の組織・役職を混同している場合、警視庁と他の道府県警察の違い、本部(本庁)と所轄の組織の違いなどをきっちりと把握していないことが多い。また警察官の階級とその役割をしっかりと理解していないこともある。
さてTBSの『隠蔽捜査』。主人公の警察庁長官官房総務課長(警視長) → 警視庁大森警察署長(警視長)に杉本哲太さん、彼と同期の福島県警刑事部長(警視長) → 警視庁刑事部長(警視長)に古田新太さん。このシリーズに関しても、階級と役職にミスマッチが多くあるのだが、その多くは今野敏さんの原作小説に由来する。尚、以前のテレビ朝日版では警察庁総務課長・大森署長(竜崎伸也)に陣内孝則さん、警視庁刑事部長(伊丹俊太郎)に柳葉敏郎さんというキャスティングだった。
とにかく主人公たちの階級が変、警視庁の刑事部長は警視監でしょ、また署長が警視長のハズはない(と思うが、こうした例外が現実にもあるのだろうか?)。原作の設定を引き継いでいるからテレビ制作サイドの責任ではないのだが、警視庁の刑事部長は他の地方自治体の警察本部の刑事部長等よりはグレードが高く、階級は警視監が普通。他の本部長は有力・大規模道府県の本部長が警視監だが、小規模県の本部長は警視長であるから、警視庁の刑事部長の方が小規模県警の刑事部長より階級は上である。
警察署長も、大規模で重要な警察署の署長が警視正、通常の警察署の署長は警視である。警視正よりも上位の警視長が署長となる原作の小説上の設定(大幅な降格人事とのストーリー)には、既述の様にいくらなんでもムリがあると考えられる。
更に主人公の降格人事について、他の(ほとんどの先輩・後輩の)キャリアたちが知らない設定となっていることや、警視庁内においても、例えば大森署を管轄している方面本部の管理官でさえ、初めはその階級(自分よりも二階級も上の警視長であること)を知らないのも妙である。
主人公が、実は現職にそぐわない高位の階級であることを「水戸黄門の印籠」的に演出しようという原作の意図は理解は出来るが、それでもここまでくると違和感を感じる。実際の警察組織なんて至って狭い社会なのだから・・・。筆者はこのドラマの原作である小説シリーズは決して嫌いではないのだが、もう少し登場人物の設定などについて考慮されていたならば、と残念である。
ちなみに、テレビ朝日版の陣内孝則さんの演技は酷かった(この人、真面目で淡々とした演技スタイルの方が評価出来るのに勿体無いと思う)が、更に刑事部長役は(古田新太さんよりも)柳葉敏郎さんの方がお似合いである。但し、ギバちゃんみたいに頻繁に帳場に赴く刑事部長はいない・・・。
キャリアの降格人事ものには、女性刑事二人が主役のテレビ東京系『特命刑事 カクホの女』があった。主人公の北条百合子(名取裕子さん)は警視庁警務部人事第一課長(警視または警視正)から警部に降格して神奈川県警に異動、刑事部捜査一課の“強行班係”と呼ばれる部署に無役で移る。そこの班長が麻生祐未さんが演じる三浦亜矢班長(たぶん警部補)で、この少々ダーティな面を持つ三浦班長を麻生さんが好演。
本作は各回毎の事件を解決する流れとは別に、連ドラ構成の中で初回冒頭の謎が徐々に解明されていき最終回で暴かれる点は良かったのだが、何せ強引な降格と異動の人事にムリがあり、しかも私的な潜入捜査という骨子に馴染めなかった。但し、高橋克典さん演じる警視庁の警務部長である如月光太郎の階級が、現実同様に警視監であったことは珍しく正しい考証。大抵の刑事ドラマでは警視長となっていることが多い。
それから、最近観たテレビ朝日『ストレンジャー〜バケモノが事件を暴く〜』(主演、香取慎吾さん)での小野武彦さん演じる内田署長が、捜査本部(帳場)で捜査員たちに大声で激を飛ばしていたのが奇異であった。あんなに警察署長(便宜上、捜査本部の副本部長となる)が殺人捜査の会議で出しゃばることは決してない。但し、この署長が喚く場面は捜査本部の会議ではない可能性はある。捜査一課の刑事たちは参加せずに所轄の刑事課や他の課の応援のみで捜査を進めているという設定だとしたらあり得るのかもしれないが、逆にあのドラマの様な連続殺人事件が特別捜査本部扱いとならないことの方が意外といえよう。