ここらで現実の警察組織、特に刑事部門にかかわる階級に触れると、警視庁の刑事部長は既述の通り警視監。その他の道府県の刑事部長は大規模本部の場合が警視長、小規模だと警視正の場合もある様だ。
また警視庁刑事部の参事官の階級は通常は警視正で、刑事部では刑事部長に次ぐNo.2であり、各課長たちより上位者である。捜査一課などの課長の階級は警視正、理事官は課長を補佐する役割で階級は警視、その下の管理官(階級は警視)は係を複数指揮・管理して捜査に当たる。尚、現在は現実の警視庁捜一にも女性の管理官が存在するとのことだ。また、他の小規模の県警本部の場合は、捜査一課長の階級が警視ということもある。
道府県警察本部によっては、本部の刑事部や捜査課の幹部を次長・次席や調査官、指導官などと称したり、名称だけでなく役割や位置付けも大きく異なるので注意を要する。また刑事官については、地方の警察本部内で、主要警察署において署長を補佐して刑事警察および生活安全警察に係る事件捜査を総括するとされており、階級は警視。
さて警視庁刑事部捜査一課の場合は、課長の配下に上記の理事官2名(他に理事官と同クラスの特殊犯捜査等を管轄する対策官1名がいるとの資料もある)、その下に管理官が13名配置されている。管理官の指揮下には各係を率いる係長(警部)、その配下に主任(警部補)、刑事がいるが、ここでの刑事とは正式には「犯罪捜査に従事する巡査部長と巡査」のことである。即ち、警部補以上の階級の者は、厳密には「刑事」ではないのだ。また「部長刑事」は(「○○部長」と呼ばれるが)刑事部長とはまったくの別者、巡査部長の階級の刑事のことである。
因みにご存知の方も多いだろうが、巡査長(巡査の上位、巡査部長の下位にあたる)は巡査の階級にある者の内で一定期間の勤務を経験して優れた指導力を認められた者が選考を経て任命される階級的職位であり、警察法に定められた正式な階級ではない。巡査部長への昇進試験を通過せずとも、問題なく10年以上を務めあげると巡査長にはなれるようだが、逆に20代前半や半ばで巡査長の階級となっている察官(サッカン)には違和感があるのだが・・・ドラマでは多い。
※現役警察官によると、現実に警視庁には25歳の巡査長が存在しているとのことである。
尚、所轄警察署については、有力・大規模署の署長は警視正であり小規模署の署長は警視だ。副署長は警視(稀に警部)である。各課長は原則として警部(大規模署では警視の主要課長もいる)、係長は警部補であり主任は巡査部長、本部の捜査一課とは(通常は一階級づつ低く)異なるので注意が必要だ。
そして最近刑事ドラマにもよく顔を出す方面本部とは、警察本部の中で複数の警察署を管轄し方面毎に設置されている中間管理組織。警視庁の場合、第一から第十まであるが、その内、第一方面本部の本部長は警視長(警務部参事官兼任)であることが多い。その他の方面本部長は2~3名が警視長(警務部参事官兼任)で、それ以外の本部長は警視正である。
ドラマの世界で管理官等を主人公としたものには、テレビ朝日系列の『TEAM -警視庁特別犯罪捜査本部-』がある。主演は小澤征悦さん演じる捜一の管理官(警視)。冷徹ではあるが有能な管理官と部下たちが、軋轢を交えながらも難事件を解決していく物語だ。
女性管理官の活躍を描くのが、2013年から続くTBS系『捜査指揮官 水城さや』シリーズ。主演は小池栄子さん演じる水城さやで、彼女は警視庁刑事部捜査一課の管理官で階級は警視だ。第1作あたりでは固さの見えた小池さんも、近作(2015年・第3作)では随分とスムーズな演技となっている。ちなみに水城さやの上司、伊武雅刀さん演じる警視庁刑事部の捜査一課長の葉山和久は、階級は警視正であり、また菱沼伊知朗理事官(林泰文さん)も階級は警視で、役割と階級が正しくマッチしている。
同じく女性の管理官が主人公の刑事ドラマにテレビ朝日系『管理官 明石美和子』がある。明るく朗らかな内容であるが、刑事ドラマとしてのリアリティはほぼゼロである。この番組「(捜一課長の)14番目の女(管理官)」がキャッチフレーズ。たしかに現実には捜一管理官は13人(その上に理事官2名・対策官1名、更に刑事部には捜一課長の上位に参事官がいる)であるが、実在しない部署で自身(管理官)を含めた4名で難事件の捜査に従事し、おきまりながら彼女自ら現場で聞き込みを実施。ちなみにドラマ冒頭で明石警視の職務経歴書が(一瞬、小さく)映るが、これがヒドイ。色々と首を傾げたくなるが、特に「赤坂警察署の副所長」や「警務2課の少年係署長」といった職位を歴任したという点の記載は意味不明である。そこまで視聴者がチェックはしないという前提の手抜きなのだろうか‥‥。
テレビ朝日系列の『牟田刑事官事件ファイル』シリーズで、小林桂樹さんが演じているのが刑事官。原作小説では福岡県警の所属だが、テレビでは神奈川県警本部の所属。劇中では階級は不明だが警視の模様で、(架空の)山下署にて勤務しており、所轄署の刑事課を指導して捜査を実施。
同じくテレビ朝日の『アナザーフェイス刑事総務課・大友鉄』は、仲村トオルさん主演の刑事ドラマ。主人公に特命を与える上司に警視庁刑事部捜査一課統括官(宇崎竜童さん)が登場する。堂場瞬一さんの原作では指導官だが、ドラマでは統括官という謎の職制だ。尚、小説ではこの統括官の後任(主人公に特命を出す役割)が刑事部参事官に引き継がれている。
そして参事官といえば、『相棒』での 中園照生刑事部参事官(小野了さん)だろう。階級は警視正で、内村刑事部長の腰巾着的な存在で内村と同様に特命係を毛嫌いするが、時には捜査情報を与えたり事件解決の為に右京に協力したりすることもある。因みに片桐竜次さん演ずる内村完爾刑事部長も階級が警視長であり、既述の通り警視庁の刑事部長としては役不足の階級だ。
またこの『相棒』で人気が出た「トリオ・ザ・捜一」のひとり、三浦信輔さんが演じた大谷亮介捜査一課刑事だが、巡査部長から警部補に昇進して捜査一課7係長となる。ある事件で足に重傷を負った影響による後遺症で警視庁を依願退職したが、(所轄と本庁が混同されているのだろうが)ここにも警部補の捜一係長が存在していた。
ところで『相棒』のseason 15では、主人公の水谷豊さん演じる杉下右京警部の相棒である冠城亘(反町隆史さん)が、法務省キャリア官僚の立場を投げ打って警視庁警察学校に入校、巡査となり再び特命係に配属されるのだが、警視庁の場合は35歳未満が(警察官Ⅰ類の)入学資格となっているので、冠城の年齢はギリギリの34歳でもあったのだろうか。どう見ても30代後半か40代に見えるが‥‥。
※season 16の第5回目の放送で、小さなことだが制作上の確実なミスを発見。女性刑事(南沢奈央さん)の樋口真紀が、右京と冠城に自身の警察手帳を見せて自己紹介する場面があるが、画面にはハッキリと巡査部長の階級名が映っていた。しかしその後、右京が他の彼女を知る刑事(伊丹刑事と芹沢刑事)と会話をする場面で彼女のことをキッパリと巡査と呼ぶのだが、周囲の誰もがそのことを訂正をしない。つまりその後の番組の進行では、あたかも彼女は巡査である形のままスルーしてしまうのだ。あれだけの明晰な頭脳と鋭い観察眼を持っている杉下右京ともあろう者が、階級の上下が極めて重要視される警察社会に属する者としてこの様な初歩的な勘違い・ミスをするのはいささか納得がいかないが、この杉下のセリフの間違いは完全にドラマ制作スタッフの見落としによると思える。
さて上記『相棒』の主人公、杉下右京警部も天才肌の探偵だが、同様の探偵刑事といえばフジテレビ系で放送された『古畑任三郎』が有名。主演は田村正和さんで、物語は米国ABC系列の『刑事コロンボ』で知られる倒叙形式の推理ドラマである。警察組織の関与は極めて薄く、刑事ドラマとするよりも探偵推理ものと言った方が良いだろう。
尚、『刑事コロンボ』で主演のピーター・フォークさんが演じるコロンボ刑事の階級は警部補(lieutenant)だが、邦訳では警部となっていた。米国における警部(captain)は本部の課長や分署長クラスなので、(日本でも同様だが)現場の捜査に赴くことはあまり考えられない。ちなみに古畑は警部補なので、ドラマのように容疑者のもとへ頻繁に訪れても、さほど不思議ではない。
ところでコロンボ刑事は、名探偵の代名詞として広く視聴者に定着している様で、彼にあやかろうとしてか、本邦の刑事ドラマでも「〇○のコロンボ」と名付けられた作品は多い。
先ずは『信濃のコロンボ』および『信濃のコロンボ事件ファイル』を紹介すると、これは内田康夫さんの推理小説『信濃のコロンボシリーズ』を原作とした一連の作品群であるが、TV各局に跨って数多くのシリーズが放映されてきた。
古くはテレビ朝日系の2時間ドラマ『死者の木霊』(1982年)で、主人公の“信濃のコロンボ”こと竹村岩男を林隆三さんが演じていた。また協力して捜査に当たる警視庁刑事の岡部和雄には、中島久之さんが配役されていた。
1995年にTBS系の2時間ドラマとして放送された『戸隠伝説殺人事件』では布施博さんが主人公となり、その後の1998年から2000年まで放送されたフジテレビ系シリーズ(全3回)では、堺正章さんが竹村役、石黒賢さんが岡部役を担当した。
2001年から2009年まで放送されたテレビ東京系のシリーズ(全18回)では、主演の竹村は中村梅雀さん、岡部は松村雄基さんが演じた。尚、このシリーズは途中で番組タイトルに変更があり、第1作が『信濃のコロンボ事件帳』、第2作・第3作が 『信濃のコロンボ』であり、第4作以降は 『信濃のコロンボ事件ファイル』となっている。
そして2013年以降に放送されているTBS系の2時間ドラマシリーズでは、主人公の竹村岩男には寺脇康文さん、岡部和雄は高橋克典さんが演じている。現状のシリーズが配役から言っても、一番、刑事ドラマらしいのだが、岡部警部は犯行現場に靴カバーを付けづに乗りこんだり、容疑者逮捕に赴いた時にいきなり威嚇射撃(しかも犯人たちに向けて発砲)したりと、無茶なシーンに出くわすこともある‥。
しかもこの岡部警部を主人公とした同シリーズのスピンオフ作品『警視庁岡部班 ~倉敷殺人事件~』(内田康夫さん原作)では、警部だが係長ではない岡部が警視庁捜査一課に所属する自身を含めてわずか5名の岡部班を率いて殺人事件等の捜査にあたり、複数の関連性のある重大殺人が発生しているにも関わらず帳場も立たず、あくまで少人数の岡部班で事件を(倉敷では岡山県警が協力しているが)解決してしまう。更に、このドラマでの警視庁刑事部の宮島昌矢捜査一課長(近江谷太朗さん)の階級は警視(画面テロップで明示)であり、また係や係長に相当する部署や役職が見当たらず、とんでもないデタラメがまかり通ってしまうのだった。残念ながら、この様な誤りが原作によるものなのかは確認してはいないが、もう少し脚本の作成時に考慮して欲しいものだ。
ちなみに『信濃のコロンボ』の主人公の竹村岩男は、初めは長野県警の交番勤務巡査だったが、やがて飯田署の巡査部長を経て警部補に昇進する。その後、難事件を解決したことで長野県警刑事部捜査一課の警部補に抜擢され、現在は同捜査一課の警部の地位にある。同様に捜査協力を通して知り合った岡部和雄も、警視庁捜査一課の警部に昇進している。ふたりは長野と東京で発生した事件が関係性を有する場合、互いに捜査協力をして共に事件解決に向けて奔走していく‥。
さて、寺脇康文さん版の『信濃のコロンボ5〜「信濃の国」殺人事件〜』では、所轄警察署の署長(山田純大さん演じる長野西署々長・安岡警視正)が、殺人事件の捜査に関して県警本部の捜査一課の関与を否定、所轄だけで捜査を実施するという珍事が見られるが、これも原作故のストーリーなのだろうか。
ところで、竹村岩男は階級が警部であるのにも関わらず現場本位であり、若干名の部下はいるものの、明確に係長とか班長といった役職に就いている様子もない。だが彼の上司に関しては、階級は表明されておらす役職のみの明示に止まっており、間違いだらけの刑事ドラマにあっては、賢いやり方・演出かも知れない。
他には2014年から放送されているテレビ東京の2時間ドラマに、『金沢のコロンボ』シリーズがある。主人公の石川県警刑事部捜査一課に所属している前田勝利警部には、三宅裕司さんが配役されている。そして彼の相棒役は、何故か浅野ゆう子さん演じる警察庁の上野雅警視だが、第3作では警察庁広域特捜課? という組織に所属する形を取り、不自然な設定の言い訳に腐心している。そして当然だが、(不自然なことに)この二人組も現場にバンバン捜査に出かけるのだった。
更に第3作では、里見浩太朗さん演じる勝利の叔父、京都府警の前田利康警部が“京都のコロンボ”として登場するから、尚更ややこしい。
ところでコロンボとは無縁だが、上記のコロンボ系と似た作風のテレビ東京系『信州山岳刑事 道原伝吉』は、長野県警安曇野北警察署の道原伝吉警部補(松平健さん)を主人公とした北アルプスを舞台に繰り広げられるのんびりとした刑事ドラマで、雛形あきこさん演じる降旗節子巡査部長が相棒役。かの暴れん坊将軍様が意外に温厚な刑事であることにやや違和感ありだったりもするが(笑)。
さて、コロンボと同じく天才肌の刑事が登場するのがTBS系の阿部寛さん主演の『新参者』。所轄署の刑事である加賀恭一郎警部補の鋭敏な推理と捜査活動を描く秀作。原作は東野圭吾さん。『古畑任三郎』や本家『刑事コロンボ』も、またこの『新参者』なども、刑事ドラマ・警察ストーリーというよりはたまたま警察官を主人公とした本格推理ドラマということになり、あまり警察組織の設定に拘って観る番組ではないだろう…。
京都府警刑事部捜査一課を舞台にしたテレビ朝日系の『最強のふたり〜京都府警 特別捜査班〜』の橋爪功さん演じる東雲尋八刑事も名探偵ぶりが板についている。コンビを組む班長の夏木朝子警部(名取裕子さん)も案の定、現場に頻繁に出没。そして東雲刑事が定年退職後の嘱託刑事という設定が異色だが、これは橋爪さんのお歳を考えた苦肉の策かも知れない。また名取さん、京都でお仕事といえば地検の検事だったのでは…(笑)。
女性刑事の名探偵ものには、フジテレビ系『福家警部補の挨拶』がある。檀れいさんが主人公の福家警部補に扮し、また上司の石松警部役はSMAPの稲垣吾郎さんが演じた。倒叙形式の本格ミステリ作品であり、決して刑事ドラマとは言えないがここで紹介しておく。ちなみにNHKの永作博美さんバージョンも存在する。
また、他にも2時間ドラマでは警察官を主人公とした幾多の探偵ものがあるが、この稿では省くことにする(順次、加筆予定)。
更に第2回の最後に、まったくの余談としてサスペンス系2時間ドラマの“あるあるネタ”を披露すると、犯人は暖かい季節の場合は南方へと逃走、寒い季節の放送分では北へと逃げる脚本が多いが、これは観光シーズンの繁忙地を避けて制作費用を安価であげる為だそうだ。また昔は番組ラテ欄で3人目に掲載されていた俳優さんが犯人である場合(主役・準主役/主要脇役・ゲストの犯人役の順)が多かったとの都市伝説があったが、現在では主役を除き順不同の様である。更に結婚や出産を控えた女優さんは殺人犯の役などは断るという不文律もあったそうだ。そして特に刑事ドラマに限ったことではないが、冬場の制作で放映が春以降となる作品での屋外での撮影では、俳優さんたちは口の中に氷塊をいれて、息が白くならない様にしていると聞いたことがある‥。
-(3)に続く-
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