ところで星の爆発が起きるのは、一つの銀河において、せいぜい100年に1回くらいの割合とされます。私たちの太陽系がある「銀河系(天の川銀河)」でも、望遠鏡を使わずに肉眼で見えたのはこれまでの歴史(有史)で数回(7回とも)が記録されている程度です。
日本では藤原定家が著わした日記 『明月記』に、「後冷泉院の天喜2年(1054年)4月[5月]中旬以後の丑の時、客星觜(し)・参(しん)の度に出づ。東方に見わる。天関星に孛(はい)す。大きさ歳星の如し。(1054年に、おうし座の方角に木星くらいの明るい星が出現した)」という、星の爆発(超新星爆発)とみられる記述があります。
※1054年に出現した超新星(SN 1054)の雲状の残骸は「かに星雲」として知られ、地球からの距離はおよそ7,000光年です。
※「SN」は「超新星」を意味する “super-nova” の略です。
※藤原定家が自分自身で観察したのではなく、安倍泰俊(陰陽寮の漏刻博士)から過去の記録を聞いたものとされます。
※『明月記』の定家自筆原本は国宝に指定されています。またこの文献には世界で唯一、超新星爆発に関しての記載が三つ(SN 1054以外は、一条院・寛弘三年(1006年)のおおかみ座のSN 1006の超新星爆発と高倉院・治承五年(1181年)のSN 1181の超新星爆発)もあり、現代天文学の研究にも大いに役に立っているとされます。
実際にその方角には拡散しつつある天体の残骸=星雲があり、現在でも「かに星雲」と呼ばれてガスや塵が毎秒1,300キロの猛スピードで宇宙空間を広がっているのです。この星雲の移動の状況を逆算すると約900年あまり前にある一点に集まりますが、そこが爆発前の元の星のあった位置と推定されます。
肉眼で見える超新星爆発は、1987年に大マゼラン雲で起きていますが、私たちの銀河で最後に肉眼で爆発が観測されたのは1604年なので、もう400年以上にわたり観測されていません。
※SN 1987Aが1987年2月に大マゼラン雲で発生。ちなみにこの超新星が小柴昌俊東大名誉教授がノーベル物理学賞を受賞するきっかけとなったニュートリノ検出に成功した天体です。ちなみに、地球からの距離は約16.4万光年。
※SN 1604は、1604年10月にドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーが発見した、へびつかい座に出現した私たちの銀河系内の超新星です。
さて実際にベテルギウスが爆爆発したらどうなるのでしょうか。一説には満月の100倍近い明るさに輝き、昼間でもはっきり見えるとされます。この状態が3~4ケ月ほど続き、その後は次第に暗くなって4年後には肉眼では見えなくなってしまう様です。
東京大学の野本特任教授のグループによると、爆発の瞬間は温度が急上昇して星の色が赤から青へ変化し、1時間後には他のどの星よりも明るく輝くそうです。そして3時間後に明るさは更に増し、満月に近いまぶしさで輝きます。昼間でも明るく煌めき、この状態は3~4ケ月くらいは続くといいます。やがて温度が下がって暗くなり始め、色も青白色から赤色へと変化し、前述のように4年程度を経ると急速に減光して地球からは肉眼では見えなくなるとされています。
尚、星の爆発ではガンマ線(γ線)が大量に放出されることが分かっていて、このガンマ線が地球を直撃することによりオゾン層に穴が空くか消滅し、地球及びそこで生活する生命体に対して極めて有害な宇宙線が直接・大量に降り注ぐ危険があるとされています。
しかし近年の研究では、超新星爆発の時のガンマ線の放出は恒星の自転軸から2度の範囲内とされています。そして幸いなことにNASAのハッブル宇宙望遠鏡での観察によると、ベテルギウスの場合はその自転軸が地球に対して20度ずれていることが分かりましたので、爆発の際のガンマ線バーストが地球を直撃する心配は無く、私たちには大きな影響はないと考えられているのです。
但し、超新星が爆発した時の大きな質量変動とそれに伴う自転軸の変化については、現在の天文学ではその詳細な予測が出来ないことや、ガンマ線の放出に関する(自転軸から2度の範囲内という)指向性の理論の不確実性を鑑みて、直撃の可能性が皆無であるとは言い切れないという学説もあるのです。
という訳で、明日にもベテルギウスの爆発を目の当たりにする機会が訪れるかも知れません。そうなると、もう二度とオリオン座や冬の大三角形が見られなくなるのは寂しいことですが、この世紀(否、数千万年に一度)の天体ショーを見逃すことは出来ませんネ。皆さんも、是非、天空に浮かぶ「二つの太陽」を創造してみてください!!
-終-
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