【江戸時代を学ぶ】 江戸時代を調べる第一歩 /先ずは基本的な史料・文献を知ろう!! 〈25JKI00〉

寛政102 31CWwCYUZzL._SX298_BO1,204,203,200_今回は少々趣向を変えて、【江戸時代を学ぶ】上で必要な、初心者向けでごく基本的な史料・文献等を幾つか紹介したいと思う。他者の著わした書物をただ読むのみから一歩踏み出して、自ら「史実」を調べようとした時に役立ってくれる史料である。

 

まず最初は、江戸時代の人物について調べる上で最も基礎的な資料ともいえる『寛政重修諸家譜(かんせい ちょうしゅう しょかふ)』から。 この書物は、江戸幕府が寛政年間(1789年~1801年)に編纂した大名家や旗本などの家譜を集めたもので、要するに江戸時代の主な武家の人名事典みたいなものである。

若年寄の堀田正敦(ほった まさあつ)の建言で編纂が始められたが、寛政11年(1799年)にその堀田が編集総裁に任じられてから14年間を費やして、文化9年(1812年)11月にやっと完成したという。「目録」、「序」、「凡例」の10巻を含む全部で1,530巻。

当初は3代将軍家光の頃の『寛永諸家系図伝』以降を書き継ぐ予定だったが、諸家から新たな資料が提出されたのを受けて、『寛永諸家系図伝』を書き改める形での一大編纂事業となった。

また、この家譜集成は『寛永諸家系図伝』の続集にあたるだけではなく、『藩翰譜続編』の編纂事業を引き継ぐ位置づけにもあったとされ、徳川家の家臣の中で御目見以上の家格の武家について、寛政10年(1798年)までの事跡を記してある。また、武士以外にも医師や同朋、茶人等合わせて1,114氏、2,132家が記載されている。

その索引は「姓」、「諱(いみな)」、「呼称」、「官名」、「国名」の順に編纂されており、例えば享保期の江戸町奉行で有名な大岡忠相を探す場合であれば、先ず国名で越前を引き、大岡で越前守を名乗った者を探すと、忠相ら4名が見つかる。そして索引の指示に従い第16巻307~309頁を参照すると、彼の詳しい履歴が分かるという寸法であり、極めて目的の人物を探し易いのだ。

更に、該当する人物の経歴、生没年などの他にも、その祖先や子孫までが記載されていて大いに便利なことも特徴の一つ。そして、江戸時代を通じて最大規模の家譜集成であり、そこに網羅されている武家たちの経歴は詳細であり、『徳川実紀』と共に江戸時代を研究する上では大変重要な資料である。

活字本としては、戦前(1917年~1920年)に栄進舎出版部が出版したものの復刻版を、続群書類従完成会が刊行(家紋付、全27冊)しているが、実物を手に入れるには古書店で探すことになるが比較的高価(状態によりセットで42,000円~86,000円くらい)である。そこで一般には、堀田正敦編の国立国会図書館デジタルコレクション 『寛政重修諸家譜』の利用を薦める。

但し、徳川宗家とその御連枝や一門は除外されているので、彼らについて知りたければ同じ続群書類従完成会の『徳川諸家系譜(とくがわ しょか けいふ)』(全4冊)を調べることとなる。この『徳川諸家系譜』が徳川家の系図集であり、御三家、御三卿はもちろん徳川家本支流に関する調査には、これが根本的な史料となる。

特に「松平」姓を名乗る人物を調べる時が大変だ。支藩・分家や家臣の場合もあり、「松平」の姓を与えられた他家の場合もあるからだ。また譜代大名の中で特に許されて「松平」を名乗る者(榊原康政や松井康重など)がおり、『寛政重修諸家譜』や『徳川諸家系譜』の索引からは見つからない。

尚、こちらは古書店で四巻揃いで状態次第だが、12,000円~24,000円くらいで見つかる。

公家についての調査には、『公卿諸家系図』(続群書類従完成会)や『諸家伝』(全2冊、自治日報社)と『地下家伝』(全3冊、自治日報社)が三種の神器だが、ここら辺は個人的には詳しくない領域だ。

次に、徳川幕府の役職名から人物を調べる場合は、『柳営補任(りゅうえいぶにん)』を使う。この書物は私撰(個人編纂)の幕府の諸役人の任免記録であり、前職や異動年月日や加増石高も記載されている。他の類書に比較して多くの役職を網羅し、江戸時代を通して幕末までの記録もある為、通覧にも便利で非常に貴重な史料とされている。尚、編者は幕臣の根岸衛奮(ねぎし もりいさむ)だが、彼の曾祖父は勘定奉行や南町奉行を歴任した根岸鎮衛(ねぎし しずもり / やすもり)で、怪異譚や珍談・奇談・巷説などを収録した『耳嚢』の編者としても有名。

同様の文献で公的な記録が残っていない為、この書物の重要度は高いが、誤写・誤字や不正確な記述もあり、更に寛永年間(1624年~1645年)以前の内容は精度が低いとされる。しかし、時々この文献を見ていると意外な(と言うより不思議な)人物を発見出来たりして、実に面白い。

またこの史料は、『大日本近世史料』(東京大学出版会/史料編纂所刊行)シリーズの中に、全6冊・索引2冊の合計8冊で収録されている。古書店では全8冊揃いで54,000円~65,000円程度で手に入る。

将軍御目見以下の御家人に関しては、『御家人分限帳』(近藤出版社、全1冊)なる史料があり、正徳2年から享保10年(1712年~1725年)頃の幕臣が網羅されている。徳川家の下級武士の戸籍の様なもの。ちなみに、この本は古書店で2,500円~4,000円くらいで見かける。

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