【江戸時代を学ぶ】 江戸時代を調べる第一歩 /先ずは基本的な史料・文献を知ろう!! 〈25JKI00〉

寛政期以降の大名家を調べる場合は、『藩史大辞典』(全8冊、有斐閣)が便利。この本には、各藩の概略史や歴代の藩主の名前、領地の状況や支藩の様子などの基本データが揃っている。旗本については、『江戸幕臣人名事典』(人物往来社、全4冊)がある。

また幕府の官吏一覧(職員録)ともいえる『武鑑』に関しては、『大武鑑』(名著刊行会、全3冊)や『編年江戸武鑑』(柏書房)があるが、武鑑は半年に一回の割合で改訂されていたので、全てを集めるのは大変だ。しかし、現在では多くの年次の『武鑑』を網羅した『江戸幕府役職武鑑編年集成』(東洋書林)が刊行されていて便利である。但し古書で、全36巻揃いのセットで40万円くらいから、美本だと60万円程度にはなる様子なので、普通は「図書館へGO!」のタイプであろう。

その他、徳川幕府の役職をより幅広く調査するには『古事類苑』(全51冊、吉川弘文館)があるが、初心者にはこれをもとに刊行された笹間良彦氏の『江戸幕府役職集成』(雄山閣)が手軽で良い。この本であれば2,000円以下でも手に入る。

徳川幕府の政治や官僚組織の基本的な枠組みを知る為には、当時の法令集を読むことも有益である。それには、幕府官撰の『御触書集成』(全5冊、岩波書店)や明治時代に司法省が編纂した『徳川禁令考』(全11冊、創文社)などが参考になる。尚、『徳川禁令考』の続編には大岡忠相らが編纂した「公事方御定書(くじかたおさだめがき)」が収録されている。

また『近世法制史料叢書』(全3冊、創文社)は、私撰の『武家厳制録』や『御当家令條』等の法令集を所収していて、手軽に当時の法制度を知ることが可能だ。更に各藩に関しては『藩法集』(全13冊、創文社)が良い。法令そのもの以外に通史編が、その藩史を知る上でかなり有益である。

影印本(原書を写真撮影して納めた本)の『内閣文庫所蔵史籍叢刊』(汲古書院)が面白い。これは活字本ではなく、原典を撮影した比較的やさしいくずし字で書かれた文書が収められており、幕府記録の『寛永録』や『元和日記』、『天保雑記』に『安政雑記』などの幕府関係の風聞集等を幅広く網羅・所収している。多少のくずし字の読解能力が求められるが、深く研究を継続する為にはこの点を乗り越える努力がいる。センスのある人ならば、古文書判読の解説本片手になんとかなるかも知れない・・・。根気と忍耐が必要で大変だが、まるで「気分は歴史学者」である。

将軍家の行動・事跡について調べたければ、林述斎や成島司直が編纂した前述の『徳川実紀』(全10冊、吉川弘文館)が必携であるが、寛政期以降は『続徳川実紀』を見る。編年体で書かれていて、各将軍毎の記述だ。

この『徳川実紀』の基となったものが、『江戸幕府日記』(『柳営日次記』とも)。幕府祐筆所が公式に作成した日記であり、江戸史の専門家は必ずこの文書を参照し引用する一次史料である。

江戸の街並み、風俗や地誌については『御府内備考』(全6冊、有斐閣)が基本史料であり、江戸市中の街や村の来歴や様子が細かく描かれている。経済に関しては、『日本財政経済史』がある。これは、明治になり大蔵省が編纂した財政や経済関係の法令を集めたもので、江戸時代の経済政策を知る上では欠かせない史料。

社会面では、『日本庶民生活史料集成』(全31冊・別巻1冊、三一書房)が参考になる。江戸時代の紀行文や各地の地誌、見聞録などを広く集めていて、当時の世相や風俗に関する調査研究の大きな助けとなる。

更に、『日本随筆大成』(全81冊、吉川弘文館)などは、数多くの随筆類を納めており、目次や解題を眺めるだけでも役立つ文献だ。しかしこのあたりの史料となると、さすがに図書館のお世話になるレベルと思えるが・・・。

さて最後に、少々変わり種ではあるが、先日、NHK(Eテレ)の番組でも取り上げていた『細川家史料』(大日本近世史料)が楽しい。江戸時代の初期、細川忠興と子の忠利との往復書簡を編纂したもので、当時の幕府内外の情報が多く含まれている。外様大名として生き延びる上で、幕閣内の人事や他の大名家の動静(というより噂話)に関して、事細かに情報収集をしてその内容を共有しては分析を試みている細川父子の様子が(興味深く、かつ微笑ましく)読み取れる。

 

さて昨今ではネット環境の充実で、これらの史料に関しても、歴史を研究する専門家でなくとも手軽に「検索」、しかも無料で閲覧出来るものが多くあり、大変、便利な世の中となった。

以前の様に頻繁に図書館や博物館を訪れ、または古書店を細かに巡り、多くの労力と金銭を費やして手に入れずとも、インターネットを介して貴重な情報を簡単に入手することが可能な、誠に有難い時代の到来である。

またここで歴史ファンの皆さんに理解して欲しいと思う事は、歴史的「史実」を知る上で重要なポイントとは、その「史実」がどの様な史料を典拠としたものかということであり、また「どの様な史料」を調べれば良いのかを知れば、あなたの調査・研究は大きく進展するだろう。そしてその様な(真偽や内容が確かで、言うなれば「氏素性の正しい」)史料の活用に果敢にも挑戦したいと考えている方々に、この稿が多少なりとも参考となれば幸いである。

しかし、まだまだ活字となっていない史料も多く、勇躍、一線を越えて古文書判読の世界に踏み込むかは「あなた次第」だろう。単に歴史小説を読むという趣味から、歴史史料を読み解くという域に達するかは、それなりの努力が必要とされるのだから・・・。

-終-

〈 注:文中の書籍の価格等は2016年6月現在の筆者調べであり、またその書籍の保存状態や書店毎に販売価格は大きく変動し、あくまで参考価格であることを了解頂き度く。〉

 

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