その後、反時計周りにサボ島の沖合を北上していた『鳥海』は、23時50分頃、左舷前方に敵巡洋艦3隻・駆逐艦2隻を発見する。そして距離3,000メートルから7,000メートルで敵の艦艇を捕捉した(三川)突入艦隊の各艦は探照灯を照射しながら、先ずは米重巡『アストリア』に砲撃を集中した。しかも、艦隊が前半の重巡4隻と後半の3隻に分離した結果、米軍部隊がこの中間に挟まる形となり、図らずも左右から挟撃する態勢となっていた。
この時の戦闘は、まさしく近距離での乱戦であり、互いに主砲はあたりまえとして高角砲や対空機銃までも使用して撃ち合ったという。
結果、『アストリア』は数多く被弾し、操舵不能となって激しく燃えながら漂流する。(9日10時15分頃、沈没)『アストリア』の前を航行していた重巡『クインシー』にも、多くの砲弾が飛来した。砲塔全てが被弾、艦橋も破壊された。また艦尾には魚雷が命中し、9日00時35分頃に沈没する。そして先頭を航行していた重巡『ヴィンセンズ』も、砲撃により最初に艦載の水上機に火災が発生し、『鳥海』の雷撃した魚雷3本が立て続けに命中。加えて『夕張』もしくは『古鷹』からの魚雷も命中し大火災に包まれた。(9日00時50分、沈没)尚、この二回目の戦闘は『アストリア』との交戦開始から、わずか20分間の出来事であった。
9日00時23分には、三川司令長官は「全軍引き揚げ」を発令。同01時20分には分離していた『鳥海』他の重巡と『古鷹』以下の軽巡が合流して進路を北西に向けて急速に戦場からの離脱を図った。
こうして8月8日夜半から翌9日早朝にかけて、『鳥海』は(三川)突入艦隊の旗艦として激烈な夜戦に参加した。結果、艦隊は敵重巡洋艦4隻(『キャンベラ』、『ヴィンセンス』、『クインシー』、『アストリア』)を撃沈し、重巡『シカゴ』と駆逐艦『ラルフ・タルボット』、『パターソン』に損害を与えるという大戦果を挙げた・・・。(「第一次ソロモン海戦」)
だが『鳥海』も『クインシー』、『アストリア』の砲撃により艦橋後部(作戦室)や第一砲塔等に被弾し、20㎝砲弾6発、高角砲弾4発が命中するも貫通弾ばかりで爆発したものはなかったが、『鳥海』乗組員からは戦死が34名、戦傷32名(戦死35、戦傷51とも)が出た。
更に艦隊は、8月10日朝にカビエンに向けて帰投中に米潜水艦『S-44』の雷撃により、第六戦隊の『加古』が撃沈され貴重な重巡を喪失してしまうが、作戦終盤、乗組員の疲労もあり、対潜警戒を緩めたのが原因ともされている。
ちなみに本海戦が一段落した際、『鳥海』の艦長であった早川幹夫大佐(後に第二水雷戦隊司令官としてオルモック湾海戦にて旗艦『島風』と共に戦没。戦死後に中将)は、再度突入して上陸完了前の米輸送船団を叩く事を意見具申(第八艦隊司令部に対して「(まさかこのまま)引き揚げるのですか? 」と質問したと云われる)したが、(三川)突入艦隊は米軍機動部隊(空母『サラトガ』、同『エンタープライズ』、同『ワスプ』)に襲撃されることを極度に警戒して、米輸送船団を攻撃せずに離脱を決定した。
この時、敵輸送船団撃滅を実行せずに反転したことに多くの批判があるが、連合艦隊司令部は三川司令長官に対して作戦目標の優先順位が輸送船団攻撃であるとは明確に指示してはおらず、友軍航空機の上空援護のない状態での危険性を懸念した三川の判断が、後に海軍部内で譴責されることはなかった。確かに仮に輸送船団を攻撃した場合、(三川)突入艦隊は米空母群に捕捉され大打撃を受けた可能性もあるからだ。
但し、これによって米軍は兵員・物資の陸揚げにある程度成功して、以後のガダルカナル島での戦闘において日本軍に多大の犠牲を強いる事となる。当時の日本海軍は、ある意味、本来の作戦の戦略的な目的を見失い、表面上の戦勝に酔い痴れたとも云えよう。
しかし米軍の実態も、兵員の揚陸こそ完了したが、輸送船団は物資の全てを陸揚げ出来ずに退避した。その為、暫くの間、ガダルカナル島とツラギ島に上陸した米海兵隊1万6,000名は食糧不足に陥りつつ、鹵獲した日本軍の器材をも活用しながら滑走路の整備を進めたとされる。
また尚、本海戦に参加した各艦には海軍報道班員(新聞社の記者やカメラマン)が分乗しており、『鳥海』に乗艦していた丹羽文雄(文化勲章受章の小説家で、代表作に『鮎』・『蛇と鳩』・『一路』・『親鸞』・『蓮如』など多数)はこの海戦の体験をもとに『海戦』という小説を発表した。だがこの時、『鳥海』の水雷長は乗艦していた丹波記者に、「とても生還できない戦いだから艦を下りた方が良い」と勧めたという。
-前編- はここまで。第一次ソロモン海戦で殊勲を挙げた『鳥海』だが、以降は他の日本軍共々、苦戦が続く。そして -後編- は、彼女が奮戦空しくレイテ沖に没するまでを描く。
-終-
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