【ライバル対決】 独軍 キューベルワーゲン vs 米軍(連合軍) ジープ 〈3JKI07〉

両車の比較

キューベルワーゲンと独軍将兵たち

〈その目的の違い
キューベルワーゲンとその派生型ファミリー車種は、元々は民生用の“フォルクスワーゲン タイプ-1(Volkswagen Typ-1)”をベースにしている為に、また生産されたほとんどが後輪駆動車だったことから、不整地走行性能では間違いなくジープに軍配が上がるだろう。

即ちキューベルワーゲンとジープの最も大きな違いは、一般的にその駆動方式にあると思われがちだが、実際にはそれ以上に両車の開発コンセプトの相違が大きかった。

キューベルワーゲン“Typ-82”は、本来はあくまで将兵運搬用のスタッフカーとして作られた車両であり、人員以外の積載重量もそれ程は多くなく、両サイドには鋼製のドアが取り付けてありフル4座のシートを備えていた。両車の比較では、実際の乗り心地はキューベルワーゲンの方が良さそうだし、良道・整地を走らせた時の直進性や安定性はキューベルワーゲンが断然上と思われる。つまりキューベルワーゲンは乗用車を転用した乗用の為の軍用車と考えても良いのだ。

それに引換えジープは、一応は4人分のシートを備えてはいるが、後席部分はほぼ荷台と云っても差し支えない設計で、その実態は250kg積載の小型トラックという見方も出来るし、牽引能力でも物資や装備の運搬能力でも確実にキューベルワーゲンを凌駕していた。これは汎用・多用途性の高さに繋がり、更にジープの優位性にはその優れた耐久性能があった。

この様にジープは、ある意味、トラックから移行した汎用軍用車であった。制式名称にも“1/4-TON 4×4 TRUCK(WILLYS-OVERLAND MODEL MB and FORD MODEL GPW)”と謳われており、また“ジープの祖父”とも云われているマーモン・ヘリントン社(全輪駆動の大中型トラックを製造)の“0.5t 4×4 ”タイプの汎用軍用車両(1939年に陸軍へ納入開始)は、紛れもないトラックの姿をしており、悪路走破における全輪駆動の有効性を米陸軍に証明した車両ともされる。

トレーラーを牽引するジープ

だが、前者が民生車の“Typ-1を軍用車に応用することから開発が始まった経緯により、後輪駆動の乗用車志向が強いことは歴然だが、後者は本来、4輪駆動の小型偵察車の開発を目的としていたとされ、小型トラック的な運用も視野に入れた形となるのは開発途中、もしくは実戦の場でのあくまで副産物であるとの説もある

しかしながらジープの方が、牽引能力もあり多目的に使えることは間違いなく、戦闘で鹵獲したこのクルマを独軍も日本軍も大変重宝したと伝えられており、この戦場での万能性は重要で、偵察・先導などの任務や将兵の輸送だけではなく、砲(小型の対戦車砲/迫撃砲etc.)や物資/弾薬カーゴの牽引などにも有効なジープの方が最前線でつぶしが効くのは確かであったと云えよう。

さてこの様に、両車の原点である開発目的の違いから、そもそも比較することにムリがあるとの声も聞こえてきそうだが、それでは本稿の存在意義を否定する事となるので、引き続き敢えて対決姿勢を崩さないこととする。

 

ジープのエンジン部分

〈エンジン性能の比較〉
キューベルワーゲンのエンジンは、空冷の水平対向4気筒で排気量は985cc、23.5馬力を有した。この内容で定員4名+貨物の合計400kgを運搬したが、出力の小さな小型エンジンの為に事実上、牽引能力はなく、また全輪駆動でない弊害から(既述の通りエンジンのリア配置が貢献した点はあったにせよ)悪路での機動性は4輪駆動のジープに劣ったとされる。試作実験での最高速度は時速約83kmであり、これもジープの方が早かった(試作実験で“ウィリスMA”は時速119kmをマーク)。

一方でジープ(ウィルスMB)は、水冷直列4気筒エンジンで排気量は2,190cc、出力は54馬力であったが、2,000回転で最大トルク14.5kgmを発生し最大31度の登坂能力があった。定員4名+貨物250kgを問題なく運搬し、牽引でも250kgの貨物カーゴに充分対応している。この様にエンジンの能力に伴う走行性については、車輌重量のハンデ(キューベルの約1.5~1.8倍)を考慮しても強力なエンジンを搭載したジープに軍配が上がる

※キューベルワーゲン/ジープ共々、仕様に関する各種数値には異説が多数あることをご理解頂きたい。

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