おっとりとしていて豪放磊落な“殿様”、直情径行で正義感の強い“千石”、そしてひょうきんでお調子者の“タコ”の三人組が巻き起こすロードムービー・タイプの痛快時代劇の決定版、それが『三匹が斬る!』だった。
1987年から1995年まで都合7シリーズ(第6シリーズからは“千石”が“千両/若殿”に替わる)がテレビ朝日系で放送され、2002年には配役をがらりと変更したリニューアル版が放送された。
また、時代考証にはそれほど拘らずに登場人物の言葉遣いも現代調であり、ギャグ的な要素を含んだ明るい娯楽作品として人気が高い作品であった…。
『三匹が斬る!』は、主役である三人の浪人が別々に旅をしながら行く先々で異なる経緯から出会った人々の為に尽力する内に、毎回、最後は協力して同じ悪党の黒幕を成敗するという1話完結型の痛快時代劇で、最高視聴率20%を超える大ヒット作品であった。そしてこの時代劇のコンセプトは、「時代劇らしくない面白い時代劇を目指した」(プロデューサー田中憲吾氏)というものであったとされる。
つまりこのドラマがヒットした理由は、難しい台詞回しや時代劇の決め事に制限されずに、とにかく判り易くて面白いドラマを狙った作りが、若い視聴者も含めた幅広い層にウケた事であると云えよう。そして何よりもこのシリーズの魅力は、主人公たち“三匹”の個性的なキャラクター創造に依る所が大きい。
高橋英樹さん演じる正統派二枚目で正義を守るキャラの“殿様”、役所広司さんが演じる二枚目半でワイルドなキャラの“千石”、そして春風亭小朝さん扮するお調子者キャラの“タコ”、また途中から役所さんからバトンタッチされた近藤真彦さん演じる、どこか不器用で生真面目なキャラの“千両/若殿”のの“三匹”の掛け合いが、この物語の面白さの原点だった。
しかし勧善懲悪型ではあってもこの作品の各回の中でのヒーロー性には濃淡があり、きっと不幸な弱者が主人公たちに救われるとは限らなかった。民衆が危機に陥っていても、必ず暴れん坊の将軍様や黄門さまを名乗るご老公が助けに来る訳ではなく、主人公の“三匹”の活躍が遅きに失することも多々あった点がこの物語の特徴なのである。
尚、最初の『三匹が斬る!』で話の先が読めない意外な展開により人気を獲得、『続・三匹が斬る!』以降で徐々にシリーズの定番パターンを確立していった。そして役所“千石”が抜ける『ニュー・三匹が斬る!』では、新たなメンバーを加えた大幅なリニューアルを企図したが、それまでのファンからはなかなか受け入れられなかった様である。
製作裏話としては、役所広司さんと春風亭小朝さんはその演じるキャラクターに合わせて、取り敢えずの事前打ち合わせは行っても、本番においてはアドリブでのセリフ中心で互いに生の掛け合いをするというスタイルであったとされ、撮影現場でも常にスタッフ一同笑いの連続であったと云う。
また、多くのファンから不評であった役所さんから近藤真彦さんへの主役交代劇に関しては、役所さんが映画『Shall We Dance?』撮影の為に半年間休むことになったが、『三匹が斬る!』があまりに高視聴率番組であった為に続編の休止が難しく、人気キャラクターであった“千石”の代わの主人公を探して、急遽ジャニーズ事務所に所属していた近藤真彦(マッチ)さんにオファーをしたとされている。
当初、時代劇経験がなく、カツラも初めてならば着物を着て立ち回るのも初めてであった近藤さんからは、まったく演技に自信がないとのことで出演については断るとの回答だったが、ジャニーズ事務所の説得もあって何とか出演に漕ぎ着けることが出来た。そしてこのマッチの危惧に配慮して、“千両/若殿”の髪型は丁髷ではなくポニーテールとし、衣装も殺陣(たて)のシーンで乱れないように着流しの着物姿ではなく袴姿に変更するなどの工夫がされている。
ちなみに、小林亜星さんの軽快な音楽も大変テンポがよく、物語に軽快さを加えていた。また脚本は完全オリジナルなストーリーだが、実は1話毎に脚本家は異なり、毎回、担当の脚本家に加え、テレビ朝日や東映のプロデューサーが複数集まってネタを考えては、制作に臨んでいたとされる。
《スポンサードリンク》