『てよだわ言葉』の女性たち 〈410JKI27〉

ところでこの『てよだわ言葉』は、今日の感覚からすれば丁寧な上品な言葉遣いに思えますが、当初はその様には受け止められていませんでした。むしろ下品と云うか、軽薄で奇異な言葉遣いとされており、少なくとも従前からの道徳観に根差した良き妻や賢しこい母といった女性が使用するべき言葉ではないとされていましたし、間違いなく正しく正式な話し方ではないとされていたのです。

即ち『てよだわ言葉』は、女子学生たちが使う(当時の)新興で今風な言葉として社会に認識されており、しかもそこには性的な意味合い/セクシュアリティな傾向が影を落としていました。つまり『てよだわ言葉』を使う女子学生は、既成にはない新たなタイプの女性像を表わす、しかも世の男性たちからは性に奔放な一種のエロティックな対象として観られていたというのです。

それ故に、明治・大正期から戦前の文芸作品では女性の官能的な面を表わす場合において、この『てよだわ言葉』を使用しているものが多く見受けられましたし、戦後もこの風潮は暫く続きました。また現代において、アニメや漫画などのサブカルチャーにおける『てよだわ言葉』の使われ方も、“オネエ言葉”に取り込まれたこの言葉遣いも、(全てではありませんが)どことなく性的な意味合いが含まれていることは否めません。

 

最期に個人的な感想としては、上記の性的な意味合いとの関連があるのでしょうが(サブカル繋がりで云えば)“ツンデレ”な女性が使う言葉遣いは、この『てよだわ言葉』であることが圧倒的に多いと感じます。

尚、今更説明の要はないと思いますが、“ツンデレ”とは特定の人間関係において敵対的な態度(ツンツン)と過度に好意的な態度(デレデレ)の二つの性質を持つ様子、又はそうした人物を指します。元々はギャルゲーの登場キャラクターの形容に用いられる用語でしたが、2005年頃からは一般の人々の間でも使われるようになったと云われています。また更に、「ツンツンしている面」と「デレデレしている面」の二面性をあわせもつ人物の、その二面性のギャップが当人の魅力を効果的に引き立てている場合に、その様子を“ツンデレ”と呼ぶと説明されることが多い様です。

 

言葉”というものは、(ファッションなどと同様に)時代に応じて変化を遂げる最たる文化的事象ですが、自身の母親や祖母がその様な言葉遣いをしていたのを観たこともなく、また周囲にその様な話し方をする女性もいなかった私にとって、『てよだわ言葉』が本当に過去において一般的に使用されていたのかが疑問であり、現在の使われ方から想像すると不思議でもありました。(但し、戦前や昭和30年代くらいまでを舞台とした小説を読んだり邦画などを観ると、この『てよだわ言葉』が氾濫していますが…)

しかし、色々と調べていくと、現実の世界でもこの様な話し方が存在したことは事実らしく、本稿で示した通りの変遷を経て現代に至っている様です。と云う事は、この『てよだわ言葉』が今後更に変化を遂げて日本語のひとつとして生き残っていくこともあり得るのでしょうか? また、それ以外の特徴的な話し方も意味合いを変えながら時代を超えて存在し続けるのでしょうか? 私にとってこうした点は、興味の尽きないところではありますが…。

-終-

 

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