旧日本海軍潜水艦“伊58潜”と米海軍巡洋艦“インディアナポリス” 〈3JKI35〉

ここ数日来(2017年9月10日現在)、数多くのニュース等で報じられている長崎県五島列島沖の水深200mの海底で発見・撮影された潜水艦だが、既に本年(2017年)5月には、これが旧日本海軍の大型潜水艦 伊号-第58潜水艦(以下、“伊58潜”)である可能性が高いとの報道があった。

この潜水艦は終戦後(1946年)、米軍によって五島列島沖に他の鹵獲した20隻余りの潜水艦と共に沈められたものだが、北九州市に拠点を置く一般社団法人“ラ・プロンジェ深海工学会”の専門家チームがその調査探索、そして撮影に挑んでいた。

当該の専門家チームの会見(都内、7日)によると、今回の調査は下田市の海洋調査会社である“ウィンディーネットワーク”の協力を得て8月22日~26日に実施され、水深約200mの海底付近において有線の水中ロボットカメラ(ROV)を使用して行われた。

その際、海没処理された潜水艦の記録をもとにソナーで該当の海底付近を詳しく調べていたところこの潜水艦が艦尾を上に北東方向に約60度傾きながら艦首側の部分が海底に突き刺さる形で沈んでいたのを発見、後部は約60mほどの長さで立ち上がっていたという。そして“ラ・プロンジェ深海工学会としては、大きさや舵の形状、艦橋側面の排水用の穴の位置などから、これがほぼ“伊58潜”であると特定したと云う。

但し、付近の海域には同型艦が計4隻ほど沈んでおり、専門家チームは今後、水中ロボットによる探索で各々の艦名を判定する計画だそうだが、約6平方kmの同海域には当時世界最大規模の超大型潜水艦であった“伊402潜”とみられる全長が約120mの艦影を含めて残された記録通りの合計最大24隻(現状、“伊58潜”の他に確認されたのは“呂50潜”や“伊36潜”・“伊47潜”・“伊53潜”・“伊156潜”・“伊158潜”・“伊162潜”など7隻)の艦艇の残骸が存在する模様である。

更にこの“伊58潜”に関連しては、広島へ投下された原子爆弾の部品を運ぶ極秘任務の後に、多数の乗組員とともに同艦によって撃沈された米海軍の重巡洋艦“インディアナポリス”が、フィリピン沖の水深5,500mの海底で発見されたと先月に発表されたばかりである。

尚、調査の実施を担当した東京大学の名誉教授で“ラ・プロンジェ深海工学会”の代表理事でもある浦環(うら たまき)氏は、「奇しくも(“伊58潜”と“インディアナポリス”が)同時に見つかったことに因縁めいたものを感じる。潜水艦や戦艦を目にすることで戦争の歴史を知り平和な世界をつくることを考える機会にしてほしい」と述べ、また「(将来的には沈んだ潜水艦や部品を引き揚げて)記念碑として、平和な社会を考える礎にしたい」と語った。

 

伊号-第58潜水艦

旧日本海軍の大型潜水艦で、巡潜乙型最後の潜水艦である伊54型潜水艦の一隻である。同型艦は第54・第56と第58潜水艦の三隻で、また“伊58潜”はこの艦名を有する旧日本海軍の潜水艦としては2隻目であった。

昭和16(1941)年の昭和17年度計画(マル追計画)により横須賀海軍工廠で建造が開始され、翌年12月26日に起工して昭和17(1943年10月9日に進水、昭和19(1944年9月7日に竣工した。

【性能・要目】
基準排水量:2,140トン(水上)、3,688トン(水中)、全長:108.7m、最大幅:9.3m、吃水:5.19m、主機:艦本式22型10号ディーゼル機関 2機(2軸)4,700馬力(水上)、1,200馬力(水中)、 最大速力:17.7ノット(水上)、7ノット(水中)、航続距離:16ノットの速度で38,850km/21,000海里(水上)、3ノットの速度で194km/105海里(水中)、乗組員:約94名、兵装:25mm連装機銃 1基、53cm魚雷発射管6基、95式酸素魚雷19本、搭載航空機:水上偵察機1機


太平洋戦争の末期には、人間が魚雷に乗り込んで敵艦に体当たりする兵器“回天”を搭載し、特攻作戦にも従事した。また艦長の橋本以行少佐の指揮のもと「非理法権天」と「宇佐八幡大武神」の幟を掲げて出撃したことは、つとに有名である。

更に終戦直前の1945年7月に、広島と長崎に投下された原子爆弾の部品を、米国本土から太平洋のテニアン島に輸送した直後の米海軍重巡洋艦“インディアナポリス”(USS Indianapolis, CA-35)を撃沈したことでも知られているが、この戦果は旧日本海軍の潜水艦としては最後となる大型戦闘艦の撃沈であった。

終戦を迎えた“伊58潜”は、11月に入って佐世保に回航された後、翌1946年の4月1日、北緯32度37分 東経129度17分の五島列島沖で他の潜水艦23隻と共に実艦標的として海没処分とされた(『ローズエンド作戦』)。

2015年8月7日になり海上保安庁の測定船“海洋”が五島列島沖の海底で24隻の艦影を発見したと発表し、その後にラ・プロンジェ深海工学会によって行われた海底調査により凡その沈没地点が判明していた。

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