NHKのTV番組を観ていたら、典型的なゲシュタルト崩壊の事例に遭遇しました。古舘伊知郎さんが司会を務める『人名探究バラエティー 日本人のおなまえっ!』(2017年4月6日放送回)でのこと。今回は「斎藤」さんという苗字について取り上げていたのですが、そのまさしく「斎」の文字の色々なバリエーションの中で、「齋」に関してはゲシュタルト崩壊が起き易く、それが全国の戸籍における「斎藤」さんの数多くあるバージョン発生の大きな原因だそうな…。この「斎」のファミリー(どこかが違う)文字だけで85種類もの漢字が戸籍には採用されているそうです。
その理由は、代々にわたり苗字を引き継ぐ際に写し間違えた結果、別の文字になっていたり、それを少し前のご先祖さまが明治期にそのまま戸籍に登録してしまったり、もしくは単純に自分の苗字を戸籍に登録した時に間違えたり適当に書いたのがそのまま登録されたり、戸籍係の職員が読み間違えたり、と理由は色々ですが、この文字は本来的にゲシュタルト崩壊を起こし易い漢字なのだそうです。
確かに、上の「齋」をじ~っと長時間眺めていると、個別のパーツ部分が浮き上がってきて、ゲシュタルト崩壊が始まりそうに思いますね。そうか、だからこの時は覚えにくい漢字なのだな、としきりに納得。
ここで改めて『ゲシュタルト崩壊(Gestaltzerfall)』についておさらいをしておくと、普段、私たちが文字や図形などをちらっと見た時に、それが何の文字であるのか、または何の図形であるかは一瞬で判断可能ですよね。
つまり漢字で云えば通常は、その字を構成する線や点とかの本数やハネ・ハライの位置などを個別に全て確認しなくとも、ぱっと見ただけでその漢字を読み取ることが出来ますし、更にその漢字が傾いていたりフォントが変わっていても、ほとんどの場合は簡単に認識可能なのです。
もっと言えば、線が一本少なかったりしても、いちいち気にせずにその漢字を読み取ることが出来るハズです。これは、細かい部分の違いよりも全体的な枠組みが優先されて認識される結果なのです。この「全体的な枠組み/形態」をドイツ語でゲシュタルトと呼び、特に適切な訳語がないので、日本でもそのままゲシュタルトとして呼称しているそうです。
そしてゲシュタルト崩壊とは、この「全体的な枠組み/形態」が崩壊し、個々の部分に認知の対象が指向している状態のことなんですって。より詳しく説明すると、対象物の全体性が失われてしまい全体的な形態の印象やその認知度が大きく低下、個々を構成する部分にバラバラに切り離して再認識するので、全体としての意味が為されなくなります。
このゲシュタルト崩壊が発生するのは、対象物を持続的に注視し続けることや、例えば漢字などでは何度も書き続けたりすることで起きるとされていて、やがてその漢字の各部分がバラバラに見え始め、もともとその漢字が何という文字だったかが解らなくなります。但しゲシュタルト崩壊を起こし易い漢字とそうでもない漢字があるので、何でもかんでもずっと見続ければ崩壊が起こる訳ではありません。
この現象は始めの頃、失認症の症例として報告されていましたが、後に健常な人たちにも同様の現象が起こることが確認されたのでした。また、聴覚や皮膚感覚においても発生し得るそうです。
意外なところではネット上でのアスキーアートなども、それぞれの部分は個別の文字でありながら、ぱっと見て全体が人の顔などの絵になっていると認識することが出来ますよね。実はこれもゲシュタルトに関する考察によって説明がつくのだそうです。
しかし、ゲシュタルト崩壊の発生原因については、静止網膜像のように消失が起きないことなどから感覚器の疲労や順応によるものではないことは判明していますが、未だに未解明な部分が多い心理学的な現象とされているのです…。
あぁ~、それから因みに「斎藤」さんという苗字のルーツは、斎王に仕えた伊勢神宮の斎宮頭(さいぐうのかみ)であった藤原利仁の子の藤原叙用(のぶもち)が「斎藤」姓を名乗ったのが始まりだそうです。番組では、“PPAP”に擬えて斎宮頭の「斎」+ 藤原の「藤」の合体だ、と説明していましたが…(笑)。
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