【超入門】Jazz名盤この1枚、ウエス・モンゴメリー(Wes Montgomery)の『フルハウス(Full House)』 〈12JKI00〉

5. Come Rain or Come Shine  テイク-2

5曲目は、「降っても晴れても」という邦題でお馴染みのスタンダード・ナンバー。ジョニー・マーサー(Johnny Mercer)とハロルド・アレン(Harold Arlen)が1946年のミュージカル『セントルイスの女たち(St. Louis Woman)』の為に書き下ろした楽曲である。

この曲も軽快なテンポのアレンジで、全員がリラックスしてスインギーなプレイに終始。クインテットの演奏レベルの高さを改めて感じさせてくれる一曲であり、全員がまとまっていてまさに息がピッタリ。特にリズム・セクションががっちりと安定したリズムを紡ぎ出し、その上でウエスのギターとグリフィンのサックスが楽しげに踊っている様だ。

さて先ずはグリフィンのソロ、相変わらずリズムへのノリ方が巧いと思う。しかし、ここでのグリフィンはある意味、如何にも彼らしい演奏であり、(他曲でもそうだが)グリフィンの特色である限界ギリギリで踏み止まる良さは、このアドリブを聴けば一発で理解出来る。だがほんの僅かな微妙な線を超えてしまうと、それはやり過ぎで大失敗となってしまうのだが‥‥。

続いてウェス。意思のあるインプロヴィゼーションというよりも、自然と沸き立ってくるメロディを次から次へとフレットの上で再現した様なソロ演奏で、この瞬間、彼には創造の女神が舞い降りたのだろうが、シングル・トーンから特技オクターブ奏法、そして豪華なコード・プレイへと、ウェスのギターテクが全部出揃って躍動している。

ソロのトリはケリーのピアノ。コブとチェンバースによる堅実で安定したリズムの上を、彼のピアノが跳ね廻る様にして進む。その転がるような音と飛び跳ねるタッチがスイング感を増幅するのだが、決してメロディアスさを失わない。ちなみに、この曲は、ケリー本人名義でヴィー・ジェイ レーベルに吹き込んだ『枯葉(Wynton Kelly)』(Vee Jay 3022)というアルバムでも聴かれるが、そちらはミディアム・バウンスだったのに対して、こちらはアップテンポなので、いささか表情が異なる。

 

6. S.O.S. テイク-3

LP時代の収録ラスト曲が、ウェスのオリジナル“エスオーエス(S.O.S.)”である。実はこの曲はなかなか緻密な構成・アレンジで、且つアップテンポな楽曲なのだ。

各自のソロ演奏中に印象的なリフレイン(“ダン・ダン・ダン・ダーン”というところ)が挟まる部分が超カッコイイこの曲だが、グリフィンのソロから始まる。次いでウェス、そしてケリーへとバトンタッチ。バース交換を経て短いドラムソロを交えてエンディングに突入していく名演中の名演。

入れ替わり立ち代わりバトルを繰り返すソロ奏者の姿に、歌ものにはないインスト特有のドライブ感を嫌と言うほど味わえる。スリル満点の躍動感が、これほどに表現されている演奏はなかなかないだろう。

 

7. Come Rain or Come Shine  テイク-1 CDボーナス・トラック

7曲目は “Come Rain or Come Shine”のテイク-1。ウェスに関しては、テイク-2(オリジナル)の方がGood!!。このテイクでは少したどたどしさが感じられる。ケリーもオリジナル・テイクのほうがイイ。グリフィンに関してはこちらのテイクが落ち着きがあって、まとまりが良いかも知れない。

 

8. S.O.S. テイク-2 CDボーナス・トラック

“S.O.S”のテイク-2。このテイクでは、グリフィンの合いの手が多少大人(おとな)しく感じられる。最後の方で「ヒャーオ!」と2回ほど嘶くが、テイク3と比較するとブロウが足りない? 印象から、やや盛り上がりに欠けると思えてしまう。だが、ケリーの演奏はこちらの方がキレがあるやも知れず、コブの弾む様なドラミングも素晴らしい。

 

9. Born To Be Blue CDボーナス・トラック

9曲目の “ボーン・トゥ・ビー・ブルー(Born to Be Blue)”の邦題は「ブルーに生まれついて」。1946年にメル・トーメ(Mel Torme)とロバート・ウェルズ(Robert Wells)のコンビが作曲したバラード曲で、ここではグリフィン抜きのパフォーマンスだが原曲の甘さや古めかしさは感じられない。

ウェスのソロは、途中でダブルタイム・フィーリングを挟むところがあるが、全体的にシングルトーン中心でゆったりとしたホーン・ライクな演奏をしている。滑らかな指使いが目立つが、豪快さと云うよりはリリカルで細やかな、常のウェスとは違った姿を垣間見た気がするのは気のせいか‥‥。

技術的には、プリング・オンや絶妙のグリッサンドで音を繋いでいき、ケリーのやや抑えたソロを挟んで得意技のオクターブ奏法に移るが、大袈裟なダイナミズムは見せない味わいのある名演とも云えよう。途中でちらりとチャーリー・クリスチャンのフレーズが引用されているのが聴ける。

 

この作品は、間違いなくギターが主役のJazz実況録音盤の中でも最高峰の一枚だ。だがリーダーのウェスのみならず参加のプレイヤー各人が惚れ惚れするフレーズを連発し、当夜の演奏メンバーの抜群の相性が最高に引き出され、ライブならではのエキサイティングな熱気と興奮を大いに感じるレコード記録)となった。

ちなみにカードゲーム(ポーカー)の“フルハウス”には、3,744通りの組み合わせがあるが、ランダムに選んだ5枚のカードでこの役ができる確率はわずかに0.14%である。そう、このメンバーがこの夜、5人揃ったことでまさしく最強の“フルハウス=切り札”が完成したのだ!! 

-終-

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