意外と選び方が判らないものが、和の小物だ。そこで、基本中の基本について易しく解説を試みる。正しい選択と使い方を学ぶことで初めて粋に使いこなせるハズだ。
扇子
もともとは扇(おうぎ)と呼ぶれていた。本来の用途は、当然ながら暑い時に扇ぎ風を送り涼をとるもの。礼儀作法として口もとを覆う、笑う時に口前を隠す、といった用途もある。贈答品としても有効で、最近では外国人に大変人気がある。また芸能・諸芸道における持ち物としても不可欠だ。更に、挨拶の際、結界を構成するために使用される。例えば茶会などでは扇子に自他の境をつくる結界としての役割を持たせているが、現実に開くことはない。
色や柄は好みで選択すると良いが、その時の着衣や場所との関係(T.P.O.)を考慮する必要がある。無難なのはやはり無地のタイプ。2本目からは柄物で、季節毎に合ったものを準備するとベスト。もちろん無地でも素材の違いで雰囲気も変わり季節感も表現できる。
最低限のマナーとして、上司や目上の人が話している時などは扇ぐのを控えよう。
風呂敷
風呂敷と呼ばれるようになったのは室町時代末期からだが、起源は奈良時代に遡ることができ、正倉院の宝物の中に風呂敷の原型らしきものが残っている。シンプルな布一枚で、様々の形や大きさのものを包み運ぶことができる為、広く普及した。
伝統的な素材は、絹と綿だ。また独特の肌触りを持ったちりめん、家紋などを入れた紬、夏用などには絽などの素材を使用したものもある。普段使いには汚れても簡単に洗濯のできる綿やレーヨン、ポリエステルなどの化学繊維が便利だ。しかし、お歳暮や贈答品などを所持してご挨拶などに訪れる時は、少々、値が張るが正絹のものが良い。
包む対象物の容積は、使用する風呂敷の対角線の1/3くらいが目安であり、また風呂敷の大きさは、大中小の3種類あると大変便利だ。大きいものは一片90cm以上のもので、着物や洋服が運べる。中サイズは贈答用の菓子箱などに使用、だいたい70cmクラス、そして小クラスは50cm以下で金封に使う。これは袱紗としての使い道であり、祝儀や香典を包むのだが、慶弔には正絹が望ましく、色味は弔事には灰色や紺色、紫は慶弔どちらにも使用可。慶事には鶴や亀などの芽出度い柄物などを使う。
贈答品を渡す際は、風呂敷に包んで持参するのが礼儀とされている。ほとんどの場合、手渡す際に風呂敷を解き贈答品のみを置いて風呂敷を持ち帰るのが、現代の主流の作法となっている。
風呂敷はどんな物も自由に包める融通性・自在性と、使い捨てではないエコなことが環境問題への配慮として近年見直されている。
懐紙
懐紙は茶道具の一つと思われがちだが、所持していると意外と幅広く利用できる「便利グッズ」だ。ティッシュやハンカチ、メモ用紙といったものの代用になるが、そこにある和のテイストが独特の「品格」を醸し出している。一般的なサイズは男性用が17.5cm×20.6cm程度、女性用が14.5cm×17.5cmくらい。この大きさのものは「本懐紙」と呼ばれる。男性用はほとんどが白無地であり、女性用には様々な色や柄ものが存在するが、これもT.P.O.を考えてチョイスすると良い。
茶道(茶席)では、供される菓子を取り分ける際の和菓子皿として懐紙を(二つ折りにして、折り目を手前側にして)使う。薄茶などでは、茶碗の飲み口を拭った指を清めたり、濃茶の時は直接飲み口を懐紙または「小茶巾」で拭う。もし茶会で菓子を食べ残す場合は、懐紙に包んで懐や袂にしまって持ち帰るようにする。
こういった茶会での利用はもちろん、他にはポチ袋や箸袋などを簡単に作ることも可能だ。事前に用意がない場合や敢えて手作り感を出してもてなしたいときに有用である。
当然、和服姿に似合うが、洋服時には「袱紗挟み(懐紙入れ)」に入れて、鞄/バッグかジャケットの内ポケットにでもしのばせておけば、同伴者などが困った急場になにげなく差し出すことで、使い手のスマートさが際立つこと、間違いなしである。
手ぬぐい
手ぬぐいは、通常は木綿の平織りの布で、現在は約90cm x 35cm程度の大きさが主流である。西洋渡来のハンカチと比較して、しっかりとした厚味とつくりで、ある程度の耐久性を持ち木綿ならではの肌触りと水分の吸収力が特徴だ。
用途としてオーソドックスなものは、手洗いや洗顔、入浴時のタオル代わり、汗を拭うことにも使用される。その他、食事の時の前掛けや暑さ寒さ除け、風や塵対策などにも使われ、変わったところでは神事・祭礼での装身具としても利用される。江戸時代には個性を表現するお洒落な小間物としての需要が大きく、個人が絵柄を創作して特別に発注した自身オリジナルの手ぬぐいを持ち寄り、「手拭合わせ」という品評会を催したりもして楽しんでいた。日本舞踊などに代表される文化・芸能の世界での使用、例えば落語などにおいても扇子とともに小道具として欠かせない。
ハンカチやタオルなどと異なり、手で簡単に裂けるように両端は裁ち切ったままとなっているが、これは本来、水切りを良くして早く乾くことで清潔を保つ為だが、かつては裂いた手ぬぐいの布片で切れた鼻緒の挿げ替えや、怪我をした時に傷口の手当てなどに使用していた。このように急場を凌ぐ使い方もあり、アイデア次第の典型なツールと言えよう。
最近では、伝統的なものから現代アート、創作デザインのものまで様々な色や絵柄が揃っている。更には、このところの手ぬぐいブ-ムの余波で、多種多様なオリジナル・デザインのキャラクターものなども多く出回っている。その結果、選択肢は非常に豊富だが、当然、T.P.O.を無視してはいけない。そんな中でいかに自分の個性を発揮するかが、持ち手のセンスのみせどころである。
手ぬぐいは日本古来の慣習として、祝儀や不祝儀、餞別、心付けなどとしても配られ、贈答品やイベントの記念品としての需要等も依然として大きいものがある。
お香
香とは、本来、材そのものに芳香を有する天然香木の香りのことだ。仏教伝来に伴い様々な仏教儀礼とともに大陸から伝来した。代表的なものとしては沈香、伽羅、白檀などがあり、香気や油質の違いにより分類される。
日常使いでは、直接火を付ける線香タイプが手軽に楽しみたい人には扱い易く、香炉の種類も豊富だ。線香には最もポピュラーなものとしてスティック(棒状)タイプがあり、室内線香、仏事線香など、目的によって色々な種類や長さがある。燃焼時間は長さに比例するが、長いものは折るなどして時間の調整ができ便利である。また、燃えている断面積が均一なので、香りも均一に広がる。次に円錐型だが、円錐の先端に火を点け、下に移るほど燃える面積が広くなるので、香りも徐々に強くなる。渦巻型は、渦を巻いているので燃焼時間が長く、広めの部屋や空気の流量の強い場所などに適している。
常温で香るタイプの代表は、匂袋。火を使わず室温で香るように調合されたお香で、最も手軽に楽しめる。匂い香(丁子・甘松・竜脳・白檀などの香料を刻んで調合したもの)が袋の中に入っている。衣服に芳香を移し、同時に防虫効果にも利する香嚢の一種。帯揚げに通したり、袂に落としたり、また洋服の時にはポケットに忍ばせたりと色々な方法で、他人とすれ違う瞬間にほのかに漂う香りは、西洋の香水とはまた違った奥ゆかしさを漂わせる。
文香とは彩り鮮やかな和紙や小袋で香を包んだコンパクトな匂袋だ。名刺入れに入れても良し、手紙にしのばせてもgood。大手文具店や和装身具の店で購入可能だ。
さて、肝心な香りのチョイスだが、初心者の場合は男性は鎮静効果が強い沈香を、女性ならば爽やかな甘い芳香の白檀を勧める。
香を嗅ぐかぐことで、気持ちが落ち着き心が癒される人は多い。ストレスに見舞われることの多い現代社会故に、是非、ライフスタイルに合ったお香を見つけて上手に寛ぎ楽しもう。但し、香を焚き燻らせる時は周囲に留意するのがマナーである。また、香りの好き嫌いは千差万別。となると、ほのかに漂う程度がベスト、決して鼻につく程の匂いとはならない様に・・・。
和の小物。粋な大人ごころを推し量りながら、使いこなしに思い切ってチャレンジしてみよう!!
-終-
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