昔からチキータやしゃがみ込みサーブはあった
高校生の頃、県大会の予選に参加した筆者にとって、4回戦以降の対戦相手になると(シェークハンドの)バックの台上ドライブは勿論のこと、現在のチキータに似た技を身に付けていた選手も存在しており、まったく歯が立たなかったことを強く覚えている。
自校の先輩にしゃがみ込みサーブの名手がいて、強烈な右回転の(しかも)今で云うロングサーブを得意とする人の練習相手をすることでこのタイプのサーブの対応はある程度出来ていたが、強豪チームの有力選手には逆向き回転や上下・斜め回転を交えたサーブを自在に操る選手がいて、このレベルと対戦するとまったく相手にならない状態で、ただひたすら「スコンク負け」(1点も取れずにゲームに敗れること)だけは逃れようと必死だった。
また投げ上げサービスについては、普段の練習でよく遊び程度にチャレンジをしていたが、その効果のほどは不明だった。トスの技術も不安定なことに加え、相手よりも自分の眼が投げ上げたボールについていけずに打ち損ねて失敗してしまうことが多かったし、たまたま上手くいっても意図した回転を与えることは難しかった。
チキータについて
チェコの卓球選手ピーター・コルベル(Petr Korbel)が生み出した打法で、手首を大きく曲げてからその反動を利用して打つ変則的な横回転系のバックフリック技だが、ボールに強烈な横回転がかかって「チキータバナナ」(バナナのブランド名で、日本ではユニフルーティー ジャパン社が販売)の様に曲がることから、この名が付いたとされる。また、この打法を応用したドライブ打法もあり、基本的にシェークハンドを用いた選手が使用するものだが、ペンフォルダーでも裏面を使用した打法として存在している。更に、このチキータのスイングから打球する逆横回転系の打法は「逆チキータ」と呼ばれている。
チキータはボールに回転をかけながら払うフリックだが、ドライブのように攻撃的なボールを繰り出すことが可能な打法である。様々な回転のサーブに対して有効な受け手でもあり、短いサーブに対するレシーブ技術としても有用だが、相手のサーブが浮いた場合は2球目攻撃として使われることが多い。そしてこの打法は、その強烈な回転の向きにより相手の返球方向が推測し易く、次の4球目を狙い撃ちが可能という利点もあるのだ。更にチキータは、サーブと限らず相手のかけた回転の影響を自分のかけた強い回転で相殺して返球する技術でもあることから、バック側への回転系球種に対する反撃力が高く、またスピンをかけることでその打球そのものも安定する。
しゃがみ込みサーブについて
しゃがみ込みサーブというのは、その名の通りサービスを出す際に、脚(特に膝)を曲げてしゃがみ込みながら繰り出すサーブのことだ。強い回転をかけることが可能だが、サービス後に体勢に崩れたりすると、レシーブ側の返球に対して反応が遅くなる欠点もある。
また通常、このサーブを打つとレシーブ側から見て右側にボールが曲がり(カーヴ回転し)ながら流れるが、上級者の一部になると、しゃがみ込みサーブのバリエーションの一つである王子サーブ等を身に付けており、これは球を数mの高さに放り投げて、素早く膝を下へ屈伸しながらラケットを縦に振り下ろしてラケットの裏面、つまりバック側で球を切って逆回転(シュート回転)をかけるサーブで、レシーブ側から見て左方向に曲がるタイプのサーブである。
王子サーブは強い回転がかかりスピードも速く、更にラケットの角度に変化をつけ易く同一のフォームから色々な回転が繰り出せる為に、この技を習得すれば試合を有利に運ぶことが出来た。
ちなみにこのサーブの名の由来は、大阪市阿倍野区王子町の王子卓球センターの経営者・作馬六郎が考案したサーブであることから、その卓球センターの名称から王子サーブと名付けられたとされる。
また投げ上げ(ハイトス)サーブは、トスをする際にボールを高く投げ上げて打ち出すサーブのことだから、王子サーブなどもこのサーブの一種であり、より厳密には投げ上げてからしゃがみ込んで打つサーブということになろう。だが充分に慣れないと落ちてくるボールを確実に捉える事が出来ずにミスも出易く、競技場の天井にある天窓や照明の光がサーブを打つ側の視線も邪魔をするので、サービス前に天井の具合を確認する必要があった。尚、世界レベルでは、7~8mもの高いトスを上げる選手もいると云うから驚きだ。
中学・高校ともに卓球強豪校には程遠く、“なんちゃって”卓球部員として適当に部活動をこなしていた筆者だったが、当時、神奈川県藤沢市に在住していた為に、今振り返ればその頃体験した卓球人生は、まさしく漫画『ピンポン』で描かれた世界観を髣髴とさせるものだったと勝手に思っていたりもする。
卓球に真剣に取り組んでいた訳でもない万年3回戦ボーイにとっては、他校選手との試合は試練の場であり、ひ弱で未熟な筆者からみると『ピンポン』で描かれていた様なモンスター級選手が跋扈する恐ろしい世界に映った。そして高校当時(1970年代半ば)の神奈川県大会上位者は既に、強烈なしゃがみ込みサーブやチキータもどきを楽々と使いこなしていたのだった…。
-終-
【余談-1】映画版の『ピンポン』も大ヒット作。ペコ役は窪塚洋介、またドラゴン役を中村獅童が怪演して注目された。そしてこのドラゴンやチャイナみたいな怪物の様な選手が本当にいた(と若き筆者は思っていた)のだった(笑)。
【余談-2】「スコンク負け」は可哀想だから1点あげる、なんていう話は聞いたことがない。最近の大きな大会では本当のことなのだろうか?
【余談-3】筆者が高校生の頃は、フリックとかブロックといった表現はなかった。フリックの様な打法は叩く(はたく)とか払う(はらう)と言っていたと思う。また現在のブロックとストップの違いも、筆者にはいまひとつ解らない。
【余談-4】筆者は、下切りサーブからの3球目攻撃が難しい時はツッツキを続けて、機会を捉えては(出来るだけ廻り込んで)フォアのドライブでコースを狙うという戦法だけで戦っていたので、それ以上というか、それ以外の技術を身に付けるレベルには達しなかった。
【余談-5】最近の試合を観ていると、相手のロブでの返球に対してスマッシュを打つ時、随分と高い打点で(まるでジャンプをしながら)叩き付ける様に打っているが、筆者の頃は、自陣の台上でバウンドしたボールが充分低いところまで落ちて来たのを良く見て、コンパクトな振りで相手の逆を取った側のコースへ打ち抜くのが正しいとされていたと記憶している。またこれは先日の世界選手権で大活躍を見せた張本選手も苦戦していた通り、背の低い選手が高く跳ねた球を打つことが意外に難しいことと関係しているのだ。
【余談-5】現在、伊藤美誠(いとう みま)選手が時折見せるフォアの変形スマッシュ“みまパンチ”の様な、テークバックをあまりとらずにラケットを縦気味にして前方に叩き付ける様に打つスマッシュのことを、筆者たちは“蠅叩き(ハエタタキ)”と呼んでいた。これは打球が相手コートに向かって不規則な軌道を描きバウンドしてからも受け手から逃げていくような飛び方を見せる打法で、チキータもどきと同じく昔からある技術であったが、打ち出した側からも極めて狙いが難しく、当時は指導の先生や先輩からはスマッシュフォームに変な癖がつくからやめろと言われていた(笑)。
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